「ふるさとづくり2005」掲載
<集団の部>ふるさとづくり賞 振興奨励賞

里海里浜 豊葦原中津国―身近な自然の再発見と中津干潟の保全―
大分県中津市 水辺に遊ぶ会
設立趣旨

 1999年春、潮の引いた中津の海辺で小さなカブトガニの幼生を見つけました。「こんなところにこんな生き物が」という驚きとともに辺りを見回すと、無数の小さな生き物たちのつぶやきが一斉に耳に飛び込んできました。自分たちが住んでいる町の片隅に、こんなに豊かな自然が残っていることに感動するとともに、かつては夕飯のおかずをとりに、竈の焚き付けを拾いに、そして学校の楽しい思い出の場所として、多くの人々に親しまれてきた中津の海や浜が社会から忘れられた存在になっていることに気づきました。このすばらしい自然を多くの人々に伝えたい、自然の中で遊ぶことの喜びを子どもたちと分かち合いたい、そして地域の自然環境に目を向け考えてもらいたい。そんな思いを込めて活動を始めました。遠のいてしまった「海と人の心の距離」をもう一度近づけること、そして少し前まで当たり前だった浜の光景を取り戻すこと。「里海里浜 豊葦原中津国」をテーマに活動は7年目に入ろうとしています。


設立以来毎年行なっているおもな活動内容(年間稼働日数・約100日)

1.干潟の生物観察会・海辺の自然観察会:年5〜6回開催 当会活動のメイン。参加者は多いときで200名、年間延べ500名程度。夏休みの干潟観察会は毎年中津市と共催もしくは後援。
2.映画上映会や自然観察指導者講習会などイベントの主催:年1〜2回実施 環境に関わる内容をテーマに実施。
3.市民ボランティアによる中津干潟学術調査:年間延べ30〜40日程度 過去に学術機関の調査の手が入っていないため、各方面の研究者の指導を受けながら市民の手で実施。幼稚園からお年寄りまでが参加。
4.地域の環境学習のサポート:随時 中津市内外、福岡県等の小中学校の環境学習や総合的学習の時間に干潟観察指導やゲストティーチャーとしてサポート。高齢者教室、女性学級等の講師、地域の理科教員との連携ほか。
5.ビーチクリーン・漂着物調査:年4〜5回実施 大新田海岸の定期的な海岸清掃と海岸漂着物(ゴミ)の定期的な調査を実施。年間の参加者は約500〜600名。地元中・高校生の積極的な参加が多い。調査指導・JEAN(全国クリーンアップ事務局)。
6.中津の海と浜の郷土史の調査と記録:随時 失われつつある郷土史や漁業史をお年寄りからヒアリングして記録。古い写真や漁具の収集など。
7.沿岸漁業との協力:本年度より開始・イベント2回(延べ8回程度) 漁業体験や見学を通じて漁民と市民のふれあいの場づくり。衰退傾向にある地元沿岸漁業の今後や新しい形態の漁業を考える。平成17年度4〜5月「作っちゃおう食べちゃおう〜古代人になって中津干潟でたこつぼ漁に挑戦だ〜」、10〜12月「作っちゃおう食べちゃおう のりノリで、のりまき〜中津干潟でドッキリのりづくり体験〜」実施。
8.自然に関する情報発信 会報誌「ガタガタ通信」(季刊)発行 ホームページの維持管理、建物のない博物館「水辺に遊ぶ会MUSEUM」のネット上での展開、報告書等の発行。
9.地域住民・学識研究者・行政による合意形成会議の事務局 中津の海と浜を考える協議会事務局・中津港大新田地区環境整備懇談会および協議会出席。


活動の成果

1.「中津干潟」に対する地域の認知度の上昇
 「中津干潟」という言葉は当会活動開始時に作った言葉であるが、今現在、中津市内および県内で普通に使われる言葉になりつつあることが、何よりも認知度が上がっていることを証明する。また、行政各機関内でも「干潟保全」の方向で理解や協力が得られつつある。
2.環境保全に対する啓発効果
 市内の全小中学校では環境デーに「干潟」をテーマに学習を実施。市内の半数の小学校で総合的学習の時間に干潟学習を選択するなど、飛躍的な勢いで「干潟保全」ヘの認識が高まっている。また、海岸清掃への高校生や中学生の自主的参加、また、行政機関や地元企業などの参加も増えている。海岸の不法投棄や持ち込みゴミも6年間で徐々に減少しつつある。当会が独自に制作した環境学習用パネルや教材についても、各方面から評価をいただき、様々な場で活用されている。
3.干潟生物および環境の解明
 カブトガニ・ナメクジウオ・スナメリ・ミドリシャミセンガイなど国内でもトップクラスの希少種の生息を次々確認。また、当会調査により確認(研究者による正式同定がすんだもの)した生物だけで約500種、内4割が絶滅危惧種であり、中津干潟が国内屈指の自然環境を保持することの証明となった。市民ボランティア中心の活動でありながら、そのレベルの高さは研究者や調査機関、行政から高い評価を得ている。また、調査結果や標本など、本来は地域の博物館や研究機関が管理するものであるが、中津市周辺にその機能を持つ機関が不在のことから「水辺に遊ぶ会MUSEUM」を設置。当会および国内研究者により、中津干潟の生物の標本や記録などの蓄積を行なっている。これらの調査結果を掲載した「中津干潟レポート2003」を発行。
4.市民参加型事業の展開
 平成12年より大分県、中津市とともに行なってきた市民参加による合意形成会議により、「中津干潟の保全と賢い利用」に関する提案を大分県に提出。続いて大新田地区舞手川河口のカブトガニの産卵地および希少な遠征湿地の保全と背後地の高潮対策の機能を併せ持つセットバック護岸の設置など、全国に例を見ない住民参加型事業を展開している。


新しいこころみに挑戦〜沿岸漁業との連携〜

 干潟保全を目的に活動を継続してきたが、沿岸海域の環境保全には「山・川・海の水系全体の総合的な管理」と「沿岸漁業の改革」の必要性を感じるようになった。そのためには漁業者の理解が不可欠であり、本年度は漁業との関係性を作ることを活動の一つに加えた。本年度初めに実施した「作っちゃおう・食べちゃおう〜古代人になって中津干潟でたこつぼ漁に挑戦だ〜」は、1200年前より中津沿岸で行なわれてきたたこつぼ漁を再現した。参加者は親子約80名。県立博物館の学芸員の指導のもと、遺跡より出土したたこつぼを見学、実際に粘土でたこつぼを制作、昔ながらの方法で野焼きを行ない、地元漁業者と漁協、行政の協力を得て5月5日に6艘のたこつぼ漁を実施。下船後は漁師料理や魚料理を食べながら参加者と漁業者の交流会を行なった。「単なる体験漁業にとどまらず、地域の歴史や科学的見地を伴う体験型学習」として参加者はじめ多くの方々から良好な評価を得た。冬には、やはり他所の体験漁業とは違った切り口での「ノリ体験漁」を現在計画中である。地元漁業や漁業者への子どもや市民の理解が深まったことはもちろん、地元漁業者の中には、この活動をブルーツーリズムヘの取り組みを考えるきっかけ作りととらえる者も現れている。何より、高齢化、後継者不足、数年続くアサリ不漁などで元気のない漁業者が意欲的に取り組んでくれたことが大きな収穫である。


今後の課題

 環境保全という活動は、地に足をつけて息長く続けることが大切である。従来より継続してきた活動を、今後もしっかりと継続していくことが基本である。加えて、沿岸漁業との連携、漁業者との相互理解を深める活動、さらには山国川から中津干潟へと続く大きな水循環で将来的な保全を考え、取り組んでいくことが大切であると考える。