「ふるさとづくり2005」掲載
<集団の部>ふるさとづくり賞 振興奨励賞

地域力を活用した子育て支援による親育ての活動
千葉県松戸市 矢切地区社会福祉協議会、子育て支援「みんなといっしょ」

 千葉県では今年、5か年計画で「次世代育成支援行動計画」を策定した。このように最近になって国も県も、子育て支援の重要性をさかんに叫びはじめ、各地で子育てサロンなどの活動が行なわれるようになったが、松戸市矢切地域ではそれ以前から「みんなといっしょ」という子育て支援を行ない、今年で6年目を迎える。


延べ1万2000人の親子が参加

 民生委員・主任児童委員の活動をしてきた中で、親の無知による子への虐待・養育放棄などの事例を多数扱った経験から、10名の委員が「みんなといっしょに地域に根ざした子育てを支援しよう」と立ち上がり、「みんなといっしょ」という母親たちが集える場を開設した。当初は試行として平成11年11月から翌年3月までの間に3回実施し、母親たちの声を聞いたところ、「このような場所がほしかった」、「もっと回数を増やしてほしい」との声が多数寄せられた。今でこそ行政の後押しがあり、簡単に開設できるようだが、当時は場所の確保や保険料、おもちゃの購入など費用の捻出が大変困難であった。しかし、活動を矢切地区社会福祉協議会に移行することにより予算がいただけ、場所の確保も可能となった。そこで、地域の同年代の方に一般ボランティアを呼びかけ、平成12年4月から矢切地区社会福祉協議会の活動として毎週水曜日に本格的に運営できるようになった。
 スタッフは50〜60歳代の育児経験者である主任児童委員2名・民生委員8名・一般ボランティア18名、計28名が交代でサポートしている。2か月に1度スタッフが集まり、反省会と次の当番を決めている。反省会では気になる親子はいないか、危険なことはなかったかなどの情報交換を行なっている。これまで(平成17年3月まで)に251回実施し1回あたりの平均参加人数は50・7人(親24・3人、子ども26・2人)、延べ1万2726人の親子が「みんなといっしょ」に参加したことになる。もちろん参加費は無料で、母親に連れて来られる子どもの年齢は生後1か月から3歳程度と幅が広い。しばらく1か所での活動が続いたが、地域の中にもっと多くの需要があることがわかり、昨年3月にはもう1か所開設し、今では2か所で運営している。さらに近い将来3か所目を開設する方向で地域の町内会などと場所や時間などについて調整中である。「みんなといっしょ」には父親やおばあちゃんが子どもを連れてくることもあり、このように多くの人に利用していただくことによって開設時の苦労も報われた気がした。この活動を始めて以来、矢切地区では虐待の報告は聞かれなくなっている。今では同様の活動が市内5か所に広がり、さらに私たちの活動をモデルに開設準備を進めている地域が多数ある。


子育てだけでなく親育ての場として

 現在の社会では核家族化により姑と同居する若者が減った。たとえ近くにいても親が仕事を持っていたりして忙しく、また、人間関係の摩擦を心配するあまり日常生活や子育てに口を挟まない、何も言わない姑や実父母が増えている。これらの現象は、家庭内での育児において母親1人の負担が増えると同時に、子育て中の母親の孤立化や、育児やしつけに関する世代間伝達が途絶えるなど、悪い影響を与えている。さらには子どもを見守る目が少なくなり、子どもに対する凶悪犯罪や子どもの非行・犯罪の質の変化、子どものキレやすさなどがマスコミをにぎわせるようになった。このように、いわゆる「親育ての親」の存在がなくなった現在、子どもと親が健全に発達していくためには、誰の手によるどのような支援が必要なのだろうかと考えた時、子育てが一段落した地域のおせっかいおばさんが子育ての経験者として、初めての子育てにとまどっている若いお母さんの相談相手になるということが考えられるのではないだろうか。ただ単に友だちづくりや情報交換の場だけでなく、「親育て」の場として「幼い時から悪いことは悪いと、わかるまで根気強くしつけること。中途半端な怒り方はダメだよ」などと様々なアドバイスを、押しつけるのではなく楽しい会話の中に取り入れている。これが今求められている私たちの大きな役目と思い、スタッフ一同実践している。


「虐待をせずにすんだ」と母親から手紙

 昨年暮れご主人の仕事の都合で、3人の子どもを連れてニューヨークへ行った母親から手紙が来た。開設当初、1歳の長男を連れて「みんなといっしょ」に来ていた母親は、その後2人目を出産するといってしばらく休んでいた。ある時それを思い出し電話をしてみたところ、母親はなんと2歳になった長男に6か月の双子の姉妹を抱えパニック状態であった。見逃していたら母親は育児ノイローゼになり虐待につながっていたかもしれなかった。この親子にスタッフ5人が交替で子どものお風呂入れ介助、母親の悩み相談などを約1年半続けた結果、母親が「『みんなといっしょ』に行っていたから皆さんに助けられ、子どもを虐待せずにすんだ」と笑顔を取り戻し、ゆとりを持って子育てができるようになった事例である。また、年賀状もたくさんいただく。私たちスタッフを母親のように慕ってくれ、顔が見たい、話を聞いてほしいと毎週やってくる親子もいる。たとえ台風で風雨が強くても、親子でいるよりおばさんたちと一緒の方が安心するといって、数組の親子は誘い合って車でやってくる。さらに、2人目を出産した母親が多数見られるようになり、私たちもお祝いとねぎらいの言葉を電話で伝えるが、ほとんどの母親から喜びの声とともに上の子どもが赤ちゃん返りをして母親から離れないという悩みを聞かされる。そのような親には「みんなといっしょ」に来るように勧め、その日は赤ちゃんをスタッフが預かりお母さんは上の子にかかりきりになれるように配慮している。わずかな時間だが、母親にとっても子どもにとっても大事な時間だと喜ばれている。昔であれば家庭の中で母と子以外の人がいた。双子が産まれようが上の子が赤ちゃん返りしようが、そのような時の関わりやしつけについて母親以外の人が家庭の中でサポートしてきたはずである。しかし現代社会においては、このように地域の力によって親子の関係についての様々なことをサポートしていく必要があると考えている。
 また、3歳くらいになると子どもの動きも激しくなり、狭い部屋の中では危険になるが、今までにたくさんのグルーブが、親同士相談の上で近くの公園に集まり子どもを遊ばせるようになった。また、お互いの家を行き来しているようである。さらに、常に1か月に5〜6組は新しい親子が顔を見せるが、初めて来た親には同じくらいの月齢の子どもがいる親を紹介し、輪の中に入れるように見守っている。少子化により同年代の子どもと遊ばせられる環境が少なくなって以来、公園デビューなどの問題がクローズアップされているが、このようにサポートすることで親も子も地域の中で安心して人間関係をつくっていけることができるのであり、子どもたちが自然な発達環境の中で様々な対人関係を体験的に学び、社会性を育んでいけるのである。


地域への根づきを感じる

 さらに、開設当時に「みんなといっしょ」に来ていた子どもたちはすでに小学生となり、入学式がちょうど水曜日だった昨年は、わざわざピカピカの1年生の姿を見せに来てくれた。その子たちは夏休みにかわいいエプロン姿で「みんなといっしょ」のお手伝いに来てくれた。赤ちゃんを抱いたり、ヨチヨチ歩きの幼児の手を引きながらかいがいしく遊んでいる姿を見て、「あなたたちも、ついこの間までこんなに小さかったのよ」と言うと、恥ずかしがりながらもうれしそうな表情を見せてくれる。思いやりと命の大切さを学んでくれていると感じると同時に、地域に根ざしているからこそできる関わりであると感じる一面である。このようなことは、活動場面以外の場でも感じられるようになった。たとえば街へ出掛けたときや近所へ買い物に出掛けたときなど、見覚えのある親子連れに出会うことが多くなった。どちらともなく声をかけ、近況を話し合う。子どももニコニコして近寄ってきたり、バイバイしてくれる。まさに私たちを、自分たちを見守ってくれる地域のおばあちゃん役と認め、私たちを媒介としながらも地域にとけ込んだと思う瞬間である。
 このように、私たちおばあちゃん世代のスタッフ一同が思いを一つにして活動している子育て支援「みんなといっしょ」は、他に見られるような単なる子育て支援ということだけでなく、親育ての場としても、さらには今失われつつある地域の力を取り戻すためにも、矢切地域になくてはならない広場となっている。