「ふるさとづくり2005」掲載
<集団の部>ふるさとづくり賞 振興奨励賞

シナイモツゴ保護と生態系復元
宮城県鹿島台町 特定非営利活動法人シナイモツゴ郷の会
はじめに

 シナイモツゴは、1916年に旧品井沼で採捕された淡水魚でコイ科に属し、1930年に京都大学の宮地傅三郎博士によって新種登録された。1930年代には東北地方で広範囲に確認されたが、宮城県においては1935年以降正式な採捕記録がなく、鹿島台を含めた宮城県では絶滅したものと考えられていた。
 1993年に約60年の歳月を経て当会副理事長の高橋清孝博士によって再発見された。鹿島台町では町天然記念物に指定し、保護対策を取ることとなった。1991年に環境省はシナイモツゴをレットデーターブックに希少種として登録、1999年には「絶滅危惧種TB類」に分類。さらに環境省は2001年に鹿島台町内の生息池3か所を「旧品井池周辺ため池群」として「日本重要湿地500」に指定した。


「シナイモツゴ郷の会」の発足

 宮城県内水面水産試験場が2001年に町内のため池の魚類調査を実施したところ、シナイモツゴ生息池の一つから魚食性であるオオクチバスの侵入が確認され、シナイモツゴは絶滅の危機に瀕した。シナイモツゴを守り後世に残すため町内の有志が集まり、2002年3月にシナイモツゴ郷の会が発足した。生息池への侵入を防止するため、生息池へ入る道の封鎖と監視パトロールを実施するなど、早速4月から活動を開始した。しかし、その後に調査をすると周辺の多くのため池にオオクチバスが生息していることがわかり、密放流を防ぐための監視を強化したり、小中学生へ釣ったブラックバスを再放流しないように呼びかけを行なった。
 また、地域住民にも参加を呼びかけ、オオクチバスが侵入したため池を池干しすることによりシナイモツゴを救出するとともに貴重なメダカ、ギバチなども保護できた。


バス・バスターズ

 野鳥の飛来地として有名な伊豆沼では、オオクチバスによる影響は魚類だけではなく魚食性の鳥類にまで及び生態系が崩壊しつつある。本町においてもブラックバスが繁殖したため池では同じような状況にあるため、ブラックバスの駆除を会の活動として行なうこととなった。
 2002年には地域住民130名が参加して町内ため池の池干しを実施してオオクチバスを駆除し、シナイモツゴなど在来魚を間一髪で保護することができた。一方、地域住民が主体となって保全管理のため定期的に、ため池堤防の草刈を行なっているが刈り払い機に釣り糸がからみついて故障するなど苦労が絶えなかった。ため池には釣り人が捨てていったと見られる空き缶、食べ残しなど、ごみが散乱する始末で、この清掃活動にも取り組んだ。2003年は7月に震度6弱という宮城県の北部を震源とする連続地震が発生、大きな被害を受けた。このため、計画していた池干し作業は中止となったが、シナイモツゴ生息池での魚類調査を実施し、オオクチバスの侵入がないことを確認し一安心することとなった。
 2004年にはオオクチバスが繁殖して稚魚の供給源となっているため池の池干しをすることとなった。町の子ども会育成会と連携し、地曳網体験事業として地域の子どもたち、町内外から多くの方々の参加により330匹のバス駆除を行なうことができた。
 また、シナイモツゴなど在来魚の宿敵であるブラックバスを駆除するため、宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団などが企画する「伊豆沼・内沼ゼニタナゴ復元プロジェクト」のバス・バスターズに郷の会の会員10名が登録し、当会の高橋博士が開発したバス駆除の仕掛けと方法をもって参加することとなった。
 今回、「特定外来生物被害防止法」にオオクチバスも指定されることになり、マスコミ等でも大きく取り上げられ報道された。バスの食害により在来種が激減して、町内でもこれを活用し駆除事業に貢献し、大きな成果を上げている。


シナイモツゴの人工繁殖と飼育

 宮城県内水面水産試験場においてすでに1994年にシナイモツゴの人工繁殖を実施、孵化に成功している。本会もこの方法を取り入れ人工繁殖を試みた。シナイモツゴの習性を利用して、産卵床として塩ビ管を水中に沈めこれに産卵させる手段を講じたが、水底で泥が付着し、2〜3割に産卵する程度であった。その後、産卵試験を繰り返し水面に浮くプラスチックの植木鉢を産卵床としたところ、100%産卵させることに成功した。時期を見てこの産卵床を移して学校池やビオトープ等で孵化させることができた。稚魚の飼育管理は難しく容易ではなかったが、鹿島台小学校と連携し総合学習の中で取り組み子どもたちに自然観察の絶好の機会を提供することができた。子どもたちに観察を通じ自然の大切さを理解してもらえたことは会としても大きな喜びであった。


シナイモツゴの里親


 鹿島台小学校が里親となったのは2002年で、それ以来、常に郷の会会員が赴き飼育の指導にあたっている。鹿島台小学校では4年生の総合学習の中でシナイモツゴをテーマとして飼育と人工繁殖に取り組んでいる。近隣の農家から休耕田を借り受け、実習するためのビオトープを設置することになり郷の会会員と本校4年生が、一緒に作業を行なった。さらに、多くの子どもたちにシナイモツゴを知ってもらおうと、自然の大切さをマスコミを通じて、呼びかけながら、荒廃した水環境と生態系の復元を目指し活動している。
 また、シナイモツゴは絶滅が危惧されていることから、生息域の拡大と復元を図る活動に取り組んでいる。マスコミ等を通じシナイモツゴの里親を募集したところ、県内外から大きな反響があったが、遺伝子のかく乱を防ぐため、里親は県内に限って募集することとした。このような方式が、水辺の生態系復元モデルとして活用できるようにするため、地道な活動を続けている。


おわりに

 本会は平成14年春に発足、平成16年9月にNPOの法人の認定を受け、同年11月に全国の著名な研究者や保護の活動家を招いてNPO法人設立記念シンポジウム「生態系保全とブラックバス対策」を開催し水辺の生態系復元の理論と実践例を全国に発信した。新聞テレビ等でも取り組みを取り上げ広報していただき、一般の方々にも理解を図り参加してもらいながら実践することを前提に活動している。シナイモツゴの里親制度を立ち上げ、シナイモツゴを卵から育てることは、子どもたちの豊かな心の醸成と郷土愛を育み、自然に触れ親しむことで生態系を守るための気持ちを養うことができる。是非一般の多くの方々にも積極的な参加を希望する。
 壊れた生態系を復元するためには大変なエネルギーが必要である。どのようにして復元するかは全国的な課題となっている。そのため会員だけではなく一般の人々にも事業への参加を呼びかけシナイモツゴを育て生息区域を拡大することが、自然環境を守り強いては地球全体の環境を健全な状態に保全することにつながると考えている。この大きな目標達成のため、各々が実行可能な役割を分担することで主体的に参加できる体制をつくり一つひとつ課題に取り組んでいきたいと考えている。