「ふるさとづくり2004」掲載
<市町村の部>ふるさとづくり賞 振興奨励賞

地域に「希望」と「輝き」
鹿児島県 宮之城町

 大方の農村地域(市町村)で、過疎化・少子高齢化の急速な進行と、あわせて、社会構造の変革の中で、これまで地域を支えてきた自治コミュニティ組織が弱体化し、組織の運営やコミュニティ活動に支障が生じてきている。しかし、ただ嘆いていても、過疎化・少子高齢化等の社会構造は改善する兆しがあるわけではない。


宮之城町の自治(公民館)組織の現状

 本町では、自治組織として、各種活動の基本となる区公民館(概ね小学校区、13区公民館)と、その下部組織の公民会(85公民会)で組織されている。いずれも、加入世帯からの負担金と、まちからの運営補助金を財源として活動がなされている。しかし、高齢化から役員の確保が困難な状態にあり、また、活動も停滞しつつあった。


地域活動促進事業創設
 そこで本町では.平成8年度、町の活性化への取り組みとして「地域が自ら考え自ら行なう活動を積極的に応援」する『地域活動促進事業(現・地域活動支援事業)』に取り組んだ。「地域の活性化がなければ町の活性化はあり得ない」し「町はそこに住む人以上の町にはなり得ない」ことに着眼したものである。
 各地域の現状分析を行ない、今後どうあるべきか、今何をすべきか、住民が主体的に行動することで“自分たちの住む地域は、自分たちで創る”といった自覚と誇りが芽生え、そのことが良きリーダーと地域の再生・活性化を育むと期待した。
 事業の創設に伴い、一定予算を毎年計上し、各地域の計画事業に応じて補助金を交付して予算面の支援を行なうとともに、人的支援として各地域に「地域窓口職員」2名から6名を配置した。これは、それぞれの地域出身の職員を各地域に割り当てたもので、勤務時間内外を問わず地域活動に協力できる(する)体制を整えたものである。


事業をリード 泊野区公民館の挑戦

 この事業に先駆けて地道な活性化事業を展開していた泊野地区。町内で最も過疎化率・高齢化率の高い地域のひとつで中心部から北部へ最も離れた山間部の小集落である。予算がないため、住民総出ですべて手作りの事業を展開していた。「何かを始めなければ、何も変わらない。」小さな村の積極的な取り組みは、注目されつつあった。
 泊野地区の取り組みは、まず、大型看板の設置から始まった。地域を紹介する大型看板を町の中心部から地区につながる国道入り口に設置した。プロがいるわけではない。とりあえず、できることから始めようと、素人集団の作業は毎晩遅くまで続いた。「情報発信」に向けた取り組み例である。
 悩みの種であった予算面を当事業で克服できたことから、堰を切ったように各種の事業が展開、充実していった。
 交流人口を増やすための『観光たけのこ園』では、鹿児島市内をターゲットにバス会社とタイアップ。観光バスツアーの参加者を中心に広く呼び掛け、たけのこ掘り体験で汗を流し、昼食には地元婦人グループによるたけのこづくしの料理で舌鼓。昼食に使用する食器類は地元民の手作りによる竹製食器と竹にこだわった。
 青少年育成事業として、親子交流キャンプやふるさと史跡めぐり、公園等の美化活動など季節ごとに様々な事業に取り組まれた。小規模校の泊野地区は、全世帯がPTA会員であり、教育にはことさら熱心である。また、青少年育成事業の実施に当たっては、地元小学校の協力も欠かせない。
 青少年の育成と学校との協力・協調関係から、学校の活性化を図った事業として、『きららの里山村留学』制度も発足。先進事例を研修しながら、手探りでの挑戦。毎年度の確保には至っていないが、まだまだ桃戦は続く。


まず隗より始めよ

 事業の開始当初は困惑気味であった各地域も、次第に特色ある事業の展開に取り組まれた。活性化等の成功事例の多くは、過疎地域などの比較的恵まれない地域、危機感のある地域に多い。そして逆転の発想も多い。決してめぐまれない地域の成功例があるからこそ、「あそこでできるなら、自分たちにもできるはず」という勇気が湧いてくる。本町の事例もまた然り。地域おこしには、大きな仕掛けはいらないようだ。少しのやる気と行動する人がいれば、やがて大きな力に育つ。


おはんが一番 久富木大賞

 町の南端に位置する久富木地区。しかし、逆転の発想「南のはずれではあるが、県都鹿児島市に最も近い。」都市との交流事業が生まれる。町内でも水田面積の多い地域であることに着目。米作りを通した交流の誕生。『メダカの田んぼオーナー制度』である。減農薬・有機栽培による米作りを、田植え・稲刈りを中心に体験し、収穫後に契約米として送られる。
 「10年後に桜を見る会」は夢が広がる事業例。桜オーナー(1口1000円)を募集し、1口1本の桜を地域内の幹線道路沿線に植栽した。目標1000本は4年足らずでクリア。10年待たずとも桜は花を携え始めた。地区出身者からの応募も多く「こんなことでしか地元に協力できません、ごめんなさい。」応援のメッセージも多く、住民の大きな励みになっている。
 地域住民に着目して発足したのが「おはんが一番 久富木大賞」である。身近なナンバーワンを見つけ、認め、人材発掘につなげようというものである。仲人件数、魚のつかみ捕り、元気なあいさつ、79歳の現役マラソンランナーなどなど。第1回認定は35件にのぼった。認定証を受けた住民の喜びは、パロディであるにもかかわらず、想像以上であった。


金太郎飴の活性化事業

 何気なく生活してきた地元でのこうした取り組みは、そこに住むこと・生活できることに大きな喜びや楽しみを与え、地元に誇りを感じ、活力を生み出している。
 各地域での取り組みは、それぞれ地域の特性を活かした特色ある事業の実践につながっており、さしずめ地域活性化という名の金太郎飴の完成である。ついでに他の2〜3の例も紹介すると……
 二渡地区のホタル観光は、川舟を連結して作成した屋形船を川に浮かべてのゆったりホタル観光。乗船場までの道端には、鑑賞の光害にならぬよう、竹製の灯篭を手作り。小さなろうそくが中でゆらめき、かすかに道路を照らし、独特の雰囲気をかもし出している。
 柊野地区の彼岸花まつりでは、地域の史跡や見所を、地元小学生がガイド役でお供する。かわいいガイド役は、黄金のじゅうたんを敷き詰めた水田と、真っ赤に咲き誇る彼岸花の美しさをいっそう引き立てる。
 これまでの活動を通して感じていること、それは、住民の意識が確実に変わってきたことだ。
 以前は、何か新しいことに取り組もうとすると、問題点のみが指摘・協議され、いっこうに前に進まないことが目立っていた。
 しかし、今、新しいものや斬新なものを進めようとすると、実現可能にするための実施方法論が主流であり、そのため奇抜なアイデアやある意味ばかげたことまで、みんなで取り組もうとする意識が確実に芽生えている。


地域活動支援事業のこれから

 事業は、今、次のステップへと展開されつつある。つまり、点から線、面への広がりである。複数のイベントをひとつの事業でつなぐ宿泊・体験型観光等の導入である。地域イベントへの参加、観光農園、竹細工などの体験、地元温泉での宿泊など、地域と地域を結んでの広がりある取り組みである。
 いま、市町村合併に向けての調整が進められている。本町も17年3月には、鶴田町・薩摩町との3町合併により新町が誕生する。自治組織(区公民館)も13から20へと増える。自治組織や活動は3町ともまちまちで、統一となると若干の時間を要すると考える。
 しかし、私は合併が待ち遠しくてたまらない。
 地域活動支援事業は継続される方向で調整がなされており、地域の特色ある活動はさらに続けられる。そこで、これまで事業のなかった7地区からも奇抜なアイデアや取り組みが十分期待できるからだ。
 それを考えると、わくわくしてならない。