「ふるさとづくり2004」掲載
<市町村の部>ふるさとづくり賞 振興奨励賞

出生前からはじまる保健部門の子育て支援
埼玉県 戸田市
はじめに

 子どもたちの健やかな成長を見守る子育て支援は何よりの「ふるさとづくり」であると考えられます。埼玉県戸田市は県南に位置し、荒川をへだてて東京都にも隣接しています。昭和60年の埼京線の開通に伴って市内に3駅が設置され、東京との交通の便もよくなりました。人口も増加の一途をたどっており、平成16年1月1日現在11万2866人となっていますが、なによりの特徴は子どもが多いことで、平成15年には1507人が出生、出生率(人口1000人当たり)も13・4とわが国でも最も高いほうになっています。このように子どもの多く生まれる状況は最近10年間多少の増減はあるものの続いております。子どもたちが多いということは子育てへの需要が多く、特に健康をめぐってはさまざまな要望が市民の方からも寄せられています。戸田市ではライフサイクルに沿った保健を提唱しており、子育ても子どもが生まれてからではなく、生まれる前から始め、乳幼児期を過ぎて小中学生になっても戸田市独自の事業で子育てを支えるようにしています。


子どもが生まれるまでの子育て支援

 子どもが生まれる前の子育て支援は妊娠の届けを出して母子健康手帳を受け取るときからはじまります。提出していただく妊娠届けには、困っていることや悩んでいることなどを記入していただき、必要に応じてきめこまかく電話連絡や訪問を行なっています。
 教育活動としては母親学級(4回1コース+出産後の同窓会、働いている妊婦さんのための1日コースのダイジェスト版もあります)、両親学級(年6回土曜日午後)、ワーキングプレママクラス(働いている妊婦さんのためのコース)、妊婦歯科健診&歯みがき教室があります。母親学級の内容は妊娠の経過や栄養、沐浴実習など一般的なものですが、住所別に班を編成して友だちづくりに役立つよう配慮しているほか、妊婦体操など実技を多く取り入れ、参加者から大変好評を得ています。両親学級は平成6年の開始当初は人が集まらず苦労しましたが、現在では毎回キャンセル待ちが出る状況で、最初のお子さんを持つご夫婦の25〜30%の方が受講されています。最初の小児科医師の講演では親子のアタッチメントや赤ちゃんにしてはいけないことを具体的に説明しています。参加者のアンケートからは印象に残っている様子がうかがえます。沐浴実習は男性に行なってもらいますが、「大変だ」という感想が多く寄せられています。ワーキングプレママクラスは土曜日に年3回行なっており、全国的にも調べた限りでは戸田市のみで行なっております。保育園についての情報は保育園の一日をビデオで紹介し、保育園の園長が解説をしていますが、関心が高く夫婦で参加される方も多くなっています。妊娠中の歯の問題が大きいことから実施している妊婦歯科健診&歯みがき教室は従来別々に行なっていた事業をまとめて実施しています。単なる歯科健診、歯みがき指導ではなく、自分の口の中の細菌を顕微鏡で確認してもらうことにより、歯の衛生についての認識がとても強くなるようです。このように訪問や相談から学級にいたるまでさまざまな事業を展開して、子どもが生まれるまでの子育て支援を行なっています。


子どもが生まれてから・・・乳児期まで

 子どもが生まれてから最初のサービスは産婦・新生児訪問です。出生届の時にあわせて出していただく「お誕生連絡票」や電話での連絡に基づいて行なっています。法的には生後28日までの新生児期での実施ですが、里帰り出産をされる方も多いことから戸田市ではおおむね生後2か月ころまで実施しています。このため都市部では一般的には訪問率は30%程度ですが、毎年60〜70%の高い訪問率となり、市民からも喜ばれています。乳幼児健診は4か月児健診が最初です。ここでは健診に加えて図書館がブックスタート事業も行なっています。健診は日時を指定して行なっていますが、自由な相談として電話相談(年間1000件以上)や「戸田っ子相談」も市内4会場で実施し、幼児を含めて年間2000人を超える来所児がいます。


子どもが生まれてから・・・幼児期

 幼児期の健診は法定では1歳6か月ころと3歳児健診ですが、戸田市ではこれに加えて1歳児健診、4歳6か月児健診を実施しています。1歳児健診では歯のチェックも行なっており、歯科保健の面でも役に立ち市民からも好評です。3歳児健診、4歳6か月児健診では視聴覚健診に力を入れており、耳鼻科医師による診察なども取り入れて疾患の早期発見に努めています。先に述べた戸田っ子相談にも多くの幼児が相談に訪れ、リピーターも増加しています。歯科保健については3歳までの子どもを対象とした歯科相談も小児歯科医師の診察を含めて行なっており、多くの市民が来所しています。歯科保健事業の充実により、3歳児の「う歯(虫歯)」の保有率も最近10年間で5%以上低下してきています。
 最近では児童虐待が大きな問題となっています。乳幼児健診や相談の場でもスタッフは気をつけていますが、実際に危険性の高い子どもたちはこのような場に出てくるとは限りません。そこで乳幼児健診を受診しなかった子どもたちを対象として郵送で問い合わせを出し、返信がない場合には電話をかけ、それでも連絡がつかなければ訪問し、さらに連絡がつかなければ民生委員にお願いするなどの方法で行なっており、児童虐待の疑い例の早期発見につながっています。
 子どもは普通に発達するとは限りません。発達の遅れた子どもたちにも対応が必要です。戸田市では発達相談員、小児神経専門医、小児リハビリテーション専門医、言語聴覚士などの専門職による発達の相談や、対応、治療も行なっており、保護者の不安にも応えられるようなシステムを構築しています。重度の障害を抱えて在宅で生活しているお子さんに対しても保健・医療・福祉を通じた支援会議を設けて少しでも役に立つように努力しています。


子どもが生まれてから・・・小中学生に


 小中学生にとって核家族化が進んでいる今日、赤ちゃんにふれあう機会が少なくなっています。全国的にも赤ちゃんふれあい体験事業は行なわれていますが、高校生の女子を対象として実施しているところが多いようです。戸田市では小学校6年生を対象として男女ともに実施しており、実施前後のアンケートからは子どもたちが赤ちゃんに親しみややさしさを感じるようになることが見て取れます。思春期は不登校や摂食障害など多くの問題が起きる時期です。戸田市では平成6年から市町村としては初めて専門職による思春期の対面相談の窓口を作りました。当初は不登校の相談が多く見られましたが、最近では注意欠陥・多動性障害や中学生女子のリストカットの相談が増加しています。子どもたちと同じ目線で考え、話をしてゆくことにより多くの子どもたちの症状に改善が見られています。また最近若年妊娠が増加しています。戸田市も例外ではありません。中学生に対する性教育は重要な問題であり、中学生の妊娠を防ぐためには性交渉の低年齢化を防ぐ以外にはありません。戸田市では小冊子を作成し、プレゼンテーションのあと中学校3年生全員に配布しています。
出生前からはじまる保健部門の子育て支援、問題点と今後
 戸田市ではさまざまな母子保健事業、子育て支援事業を行なっていますが、まだまだ十分とは言えません。民間の子育て団体の育成や、団体との連携、インターネットなどを用いた市民との双方向の情報交換など、これからの問題もあります。人口の流出入が多いため、転入市民への情報提供が十分ではないという問題もあります。これらの問題に対しても今後積極的に取り組みます。


戸田市は子育てに対してがんばっています

 いつでも胸を張ってそう言えるように努力を続けるとともに、スタッフもそのようなプライドを持って仕事をしてゆきたいと考えています。