「ふるさとづくり2004」掲載
<集団の部>ふるさとづくり賞 振興奨励賞

農業の労力補完や農業技術向上、若妻の悩み相談で互いの成長を目指す
長崎県北有馬町  ミセスファーマーズ
農家のハリキリかあちゃんのグループだ!

 みかん、メロンなどの産地として、知られている北有馬町。この町に専業農家の女性たちが作ったグループがある。その名は「ミセスファーマーズ」。
 仕事と遊びを巧みにこなす農家のハリキリかあちゃんのグループだ!
 メンバーは主にいちご、アスパラガス、きゅうりといった施設園芸に取り組む専業農家の奥さんたち。しかし、ほとんどが農家出身ではなく、中には宮城県から親の反対を押し切って嫁いできた人もいる。グループ結成当時は農家や若妻の癒しの場であったが、今は経営を協議する場に成長。ハウス組み立て等の共同作業・農繁期の労働補完・病気時の労力提供等を実施し、互いの作業の進捗状況の確認や情報交換の場ができることで、品質が向上し、各生産部会でトップクラスの成績を維持している。
 “強くたくましく”の意味を込めて作ったひまわり色の団旗を掲げ、お揃いのジャンパーを着た「ミセスファーマーズ」のメンバーは、バレーボールやソフトボールといったスポーツ活動から、簿記の勉強会に至るまで、幅広い活動を展開してきた。
 これからの活動の原点となっていたのが、毎年恒例となっている町民運動会やチャリティーショーでの仮装行列、オリジナルの踊りの披露だ。「私たちは町のイベントへの参加が決まるたびに、新しい踊りに挑戦します。町民の期待も次第に高まっているだけに、その練習には仕事以上に熱が入りますね。でも、どんなに練習がきつくても、それをやり遂げた時の充実感は何よりも変えがたいものがあるんですよ」と前リーダーの竹市さん。
 今では、北有馬町のイベントに欠かせない存在となっており、町民からの人気も上々。チャンスがあれば、いつでも、どこでも登場する。そんなハリキリグループである。
 町イベント出演5年目に、夏祭り実行委員会に依頼され「よさこい踊り隊」を結成。現在は、町外から加入するなど100人規模の組織にまで育て上げ、現在もミセスファーマーズが母体となり牽引している。近年の活動は県下さらに県外へと広がり、10歳から60歳までの隊員は年間20公演をこなしている。一度、その公演を見た人は圧倒され、元気をもらう。舞踏のレベルの高さ、衣装の見事さ、迫力に。あの群舞の中に農婦の一団が入っていることを誰が気づくだろうか? 毎年、新作に挑み、衣装を一新する、スポンサーもないままに資金繰りから、週2回の練習の世話、公演のプロデュースなどすごいパワーと能力だ!。
 現在、「よさこい踊り隊」は北有馬町のシンボルとなっている。この活動は、町はもちろん、県下各地から地域活性化の核として高い評価を受けている。


ミセスファーマーズの紹介

@会員の条件…農業専業の若妻(結成当初、平均年齢35歳)。
A結成動機…「3Kを解消し、暗い農村のイメージチェンジをしたい」「農村女性への偏見をなくしたい」「私たちが今、どう生きるかで、今後、農業後継者に嫁が来るか否か決まる」「同じ生きていくならみんなと楽しく過ごそう」
 自分たちが輝くための活動をするグループを自主的に結成。


活動の特色(主な内容)

@当初より補助・支援を受けず、組織に属さず、自主的に活動。
A発足当初は、農業簿記記帳会を実施、現在はパソコン簿記会。
B町内イベントでのオリジナルダンスの披露、毎年出演。
Cイベント出演が重なり、5年目に100人の踊り隊を再結成。
Dメンバー同士で農業技術の習得支援、農作業の労力補完、共同作業の実施。
E各自の農村女性の能力向上、個々が、地元の地域リーダーとして活躍。


発展過程

平成6年度…町農業委員会の女性事務局長の声かけで結成(会員19人)。簿記記帳会開始。町イベントで、創作踊り(米作りの1年等)、仮装行列(北有馬の農作物)を披露。
平成7年度…グリーンライフアドバイザー(GLA)に認定(1人)。
平成8年度…「九州農山漁村女性サミット」長崎県代表として出場。
平成10年度…長崎県農業経営者協会の女性理事選出。
平成11年度…パソコン簿記記帳会発足(月2回)。GLA(1人)が認定。NHK‐TV「北有馬の元気な農村女性紹介」出演。
平成12年度…夏祭り実行委員会の依頼により、よさこい踊り隊を核にミセスファーマーズの家族、知人を加えた40名で「きたありま夢組」を結成(平成15年には100名)。NBC‐TV出演。
平成13年度…NBC‐TV出演、家族経営協定講演実施。
平成14年度…県内外へ出前講座開始(県北生活研究グループ連絡会・JA熊本女性部)。NHK‐TV「おーい日本」出演、NHKラジオコメンテーター開始(年8回)。
平成15年度…出前講座(JAいちご部会・佐賀県)。NHKラジオコメンテーター継続(年8回)


活動の自主性

@組織に所属せず、自主的な活動、運営体制も自然にできあがった。
A「もとめない、ことわらない」で依頼された案件はすべて受諾し、もっているすべての力を注いで対応する。この姿勢が「彼女らに頼めば大丈夫」という厚い信頼になって、今や町の活性化の要となっている。


組織運営

@定例日…パソコン簿記月2回、踊り隊練習週2回(火・金)
A活動体制…会長‐会計‐会員
会長:会の運営、メンバーの取りまとめ、外部との交渉、調整。会計:会の経理。顧問:相談役、メンバー間の暖和剤として支援。代表は50歳で定年
B会の方針…「各自ができることを気付いた時にやる」精神。「リーダーの指示は絶対」との統率力。「メンバーの家族の強力なバックアップ」を得るためのメンバー同士労力補完。
C経費…必要時に自己負担。講師、TV出演謝礼等は活動費として活用。
D活動上の配慮…専業のため農作業のピーク時に活動への不参加が出やすい。解決策として互いの農作業の手伝いを始めた。


ミセスファーマーズによる新たな農村の創世

 踊り隊は、グループのメンバーが牽引して成り立っている。今の若者は個々での活動が多く、集団活動が弱い傾向がみえる。メンバーは活動を通じて世代間交流をし、客観的に人物を見て、声のかけ方、人のまとめ方ができるようになっており、このプロデュース力を生かして、各地区で農村の女性や若者の連帯を強める役割を担っている。
 彼女たちの頑張りは、これだけではない。メンバーから、長崎県農業経営者協会の女性理事、長崎県グリーンライフアドバイザーなどに選出され、「九州農山漁村女性サミット」に長崎県の代表として16名参加し、意見発表や九州各地の農村女性たちと交流を行なうなど、農村女性の地位向上や、地域農業の発展にも大きな役割を果たしてきている。
 近年では3人セットで出前講座に取り組んでおり、県内外から声がかかっている。自分たちの活動紹介、農村女性として生きてきた歩みを語り、交流し、参加者に元気を与えている。
 そんな活発な活動に取り組んでいる女性たちにとっても、地域での後継者不足は深刻な問題となっている。「昔は長男が親の後を継ぐのが当たり前。私の主人も長男ということで仕方なく就農したわけですが、そのことをいまでも引きずっているみたいなんです。だから私は息子から農業をしたいと言わない限り、この仕事を押し付けたくはないんです」と語っていたのは現リーダーの中岡さん。しかし彼女の長男は昨年、就農し親子3人でいちご作りに励んでいる。次男も踊り隊のメンバーである。
 この問題解決の手段として、女性たちが今、最も注目しているのが家族経営協定だ。これは家族間で経営上の役割分担、休日や報酬などを決め、それを文書化することによって、若者にとって魅力のある農業を実現しようというものである。
 家族経営協定を結んでいる竹市さんはこう語る。「初めて家族経営協定を知った時、若い人には必要かもしれないが、私には関係ないと思っていたんです。しかし、実際協定を結んでみると休日も報酬もしっかりともらえるようになる。これから農家に嫁ぐ女性にはぜひ必要ですね。協定を結んで一番嬉しかったことは、自分の名義の通帳を持てること。自分の名前でお金を引き出せるので、まるで経営者になったような気分ですよ。」つまり、家族経営協定は、これからの農業経営のキーワードになるというのが竹市さんの意見だ。彼女は地域で研修会に参加し、協定の推進役となっている。
 同じ職業で、同じ世代という共通項で結ばれた結束力、組織ならではの行動力が、まさに今日の活動を大きく支えてきた。そんな「ミセスファーマーズ」の合い言葉は、“やるときはやろうもん”。これは昔みたいに農作業に追われるだけでは今の農業はやっていけない。仕事の時は真面目に仕事に取り組み、遊ぶ時は思いっきり遊ぶ。そういった仕事と遊びのメリハリをつけることが、これからの農業経営にも必要だという意味が込められているという。
 地域の中に広がる彼女たちの活動は、まさに21世紀の北有馬町の農業を支える大きな原動力となっている。そして、その活動が近隣の町や県内全体へ広がり、彼女たちに賛同する「ミセスファーマーズ」が各地に誕生するとき、女性による新たな農業の時代が始まる。