「ふるさとづくり2004」掲載
<集団の部>ふるさとづくり賞 振興奨励賞

三世代の交流で豊かな地域づくりを
和歌山県和歌山市  特定非営利活動法人WACわかやま
活動の動機

 会の設立は平成10年6月、はじめは高齢化に加え少子化が進む社会の中で、自分たちにできることを社会貢献活動として見いだし自己実現をはかりたいと思った人たちの集まりだった。
 「少子高齢化社会を豊かに」を活動の柱にし、高齢者疑似体験を行う事業をメインに活動していたが、もう一歩踏み込んだ社会貢献を考える時期がすぐにやってきた。
 特別なキャリアを積んだわけでもない女性たちが、「社会貢献を」と言ってもなかなか思い浮かべることができず、結局家庭の中で日々当たり前のようにやっていた子育て、食事作りのはなしに終始する。
 だがこの会は、それを事業にした。しかも、熱いハートで、それぞれの思いを大切に。


活動の内容

 子育て支援は、活動開始から1年ほど経った平成11年の初夏から始まった。
 育児について同じ悩みを話し合おうという若い母親たちが集まった日に、同伴した子どもたちの一時預かりをする、ということが事業としてとりかかるきっかけとなった。
 私たちの一時預かりのスタンスとルールの基本は、この時にある程度決まったように思う。つまり、@子どもを預かってほしい家庭にできるだけより添う、しかしお互いに社会の一員としての責任を持ち、子どもの幸せのために実施しよう。Aお互い様の緊張感を大切にするため、継続と安心のルールを作り団体として責任の持てる事業としよう。この二つの思いを実現するためWACわかやまの有償保育サービスが始まった。


有償保育サービスの考え方

 自分の命より大切な子どもを他の人に預ける行為も、そんな大切なよその子を預かる行為も、安易にできるものではない。
 また、ある家庭のニーズに応えようとすれば、組織的に、継続して、高いサポーターの質と多くの温かい手が必要だ。
 そのためのスキルアップ、人材の育成、サポーター同士の連携、心のケアなどを含め、組織として取り組むメリットは、計り知れないものがある。
 組織的な活動を維持し、運営していくための有償化は、(にしては厳しい設定ではあるが)1人の市民として社会貢献を願うメンバーの思いとのせめぎ合いの中で決めてきたように思う。


社会の動きと私たちの子育て支援

 これまで、子どもの世話、高齢者の世話は、家族たちの当然の義務であり、そのほとんどが女性たちの無償の役割として受け入れられてきた。しかし、核家族の増加、働く女性の増加、祖父母たちの自由な生き方の選択、少子化の中で親世代そのものが育児を学ぶ機会がないまま親になるなど、子育て環境は、大きく変化している。
 少子化は今、子育ての社会化をより一層進めることを示唆しているのではないだろうか。
 少子高齢社会を豊かに、という視点での活動は、社会の変化や動き、そして未来をある程度見据えながら進めていかなければならない。
 WACわかやまが平成12、13年度と県の男女共生社会推進センター“りぃぶる”の委託を受けて実施した「保育者育成事業」は今日の私たちの子育て支援事業を大きく推進させるきっかけになった。
 私たちの生き甲斐活動、社会貢献活動としての子育て支援に、ジェンダーの視点を大切にした子育てという、当然とはいえ新しい子育ての概念が加えられた。
 人材の育成にとどまらず、子育ての社会化を進めるに当たって、こうした意識変革を考慮に入れた保育者が誕生したことは、大きな意義があった。


NPO法人の認証と意識

 平成13年11月、和歌山県で25番目のNPO法人として認証された。
 法人格を持つとはどういうことなのか、私たちのミッション(社会的使命)は何なのか、メンバーの意思の疎通を図ることは難しく、1年余りの時間を必要とした。
 NPOがこれだけ話題になる時代を迎え、その中で活動を支える1人になっている自分をそれぞれが意識していることは素晴らしいことだと思っている。


NPOと行政との協働と課題

 非営利の社会活動団体と協働する行政は、はじめは大きな冒険であっただろうと思う。私たちが委託を受けた保育者育成事業は、色々な意味で両者の学びのチャンスとなり、またそれぞれの持ち分で協力しあえたこと、それぞれの持ち分を逸脱することなく、予想を超える良い結果も出せたこと、そのことが、WACわかやまのチャレンジ精神を育ててくれたと権信している。
 また、この事業で育成講座を受講した人たちが立ち上げた自主グループは県内15か所に及び(平成16年6月現在16か所目が準備中)、県がこうした形で子育て支援を意識づけたことも、子育て中の親を始め、祖父母世代、働く世代が子育ての社会化を一層理解するために大いに役立ったと思っている。
 今後はNPOとの協働がより進むことになるだろう。そうした動きが活発化することによって、まだまだ未熟な両者の関係の問題点も見えてくるだろう。NPOが行政の信頼を得る努力もたゆまず続けなければならないが、行政もそれを行う一人ひとりが、協働の深い意味を理解する努力をさらにしていただきたいものである。


WACわかやまの活動と子育て支援の素敵な関係

 WACわかやまは、いくつかの事業を行なっている。
 80歳の体を擬似的に体験する「うらしま太郎」高齢者疑似体験がある。これは高齢者の身になって考えてもらう体験で、会の発足以来約4000人の和歌山県民に実際に目・耳・足首・膝・肘などにサポーターを装着し日常の動作を体験してもらった。2年前に小学生のための体験グッズ「つくし君」が開発され、体験希望の多かった小学校での体験授業の要請などが増え、私たちの活動の輪が広がった。
 大人世代や中高年世代のインストラクターが、子どもたちの体験をサポートする。身近なお年寄りの日常の生活の様子を体験し、はじめはゲーム感覚で参加した子どもたちも、いつの間にか神妙な面持ちになりお年寄りの身になって考える。うっすらと涙ぐむ子どもに接した時など、この事業を続けていて良かったと心から思う。
 食事作りを事業にした配食サービスでは、高齢者や働く家庭、職場に週1回夕食を作って配達している。日本の食事は世界に誇る食文化。WACわかやまのメンバーの中には親世代からしっかりと和歌山の伝統食を受け継いだ者も多い。金山寺みそ、桜の花の塩漬け、梅やキンカンの甘露炊きなどを添え季節感を大切にしている。雨の日も風の日も待っていてくださる方たちの笑顔を思い浮かべながら配達する。
 メンバーは、どの活動に参加しても良い。保育者としてだけでも良い。
 しかし私たちの子育て支援は人材派遺事業を行なっているわけではない。スキルアップ、保育者育成講座、親と子と保育者の交流会など様々な機会を設けて参加を促しているし、自分たちで企画したり、運営したりする人たちも出てきた。まだまだ一部の人たちではあるが、一人ひとりが自分の持ち味を出してもらえるようになってきている。
 わらべうた、手作りおもちゃ、おやつ作り、絵本の読み聞かせ、ブラックシアター、みんなメンバーが講師を務め、地域の若い親子とともに大いに楽しんでいる。しかも幼児の一時預かりを同時にするというサービスに、子育て中の若いファミリーは思いっきり楽しんでくれる。


あしたの和歌山を見つめて

 また、高齢者の啓発活動や配食サービスは、それだけが独立した事業として存在するのではなく、子ども、働く世代との交流の大切さも際立たせ、保育者たちの意識がより深く広く変化し始めていることがわかる。
 平成15年12月、65歳以上の人たちと小学校低学年の子どもたちとの「食育イベント」を開催した。それは和歌山の伝統料理「こけら寿司」を囲んでの交流会であった。
 配食グループ“スマイル”がお寿司を作り、託児グループ“ポピンズ”が遊びを担当した。理事たちは、わかりやすいWACわかやまの話、食育ってなーんだ、こけら寿司の話、などで頑張って、最後に旗揚げアンケートが終わる頃には、みんなすっかりうち解けて、素敵な雰囲気になっていた。
 子どもの感想、「テレビに出てくる皺がいっぱいあるおじいちゃんたちに逢えて良かった」
 高齢者の感想「なんだか懐かしく、久しぶりに子どもに返った気持ちでした」
 メンバーの感想「私たちがこれからやるべきことが少し見えたような気がした」であった。

 こうした経験を積みながら、私たちの活動が社会を変える小さな一歩になることができればと、思っている。