「ふるさとづくり2004」掲載
<集団の部>ふるさとづくり賞 主催者賞

この街に 新たな緑を 育て隊! 伝え隊!
兵庫県宝塚市  雲雀丘山手緑化推進委員会
雲雀丘山手の概要

 雲雀丘山手地区は長尾山系の山並みを背景とした緑豊かな東南斜面に位置し、大正から昭和初期にかけて阪神間郊外住宅地の先駆けとして自然との調和を考え開発された歴史ある住宅地です。開発にあたっては自然地形や自然樹木を極力残すなど自然や景観に配慮した美しい住宅地景観と大正モダニズム邸宅を創り出しました。
 “季節毎に移り変わる木々の緑や花の色と香り”、“自然の心地よい風”、“春を告げるウグイスやメジロのさえずり”、“木々の隙間からは大阪湾や生駒山、金剛山まで見晴らせ、夜には大阪平野の夜景が一望できる眺望”、“地形に沿ってやわらかい曲線で緩やかな傾斜を維持しながら蛇行しその沿道には生垣や自然石の擁壁、桜並木がしつらえ庭園路のような風情を醸し出す幹線道路”、斜面に馴染んだ自然の落ち着いた環境……がここに暮らす人々に安らぎをあたえてくれます。


活動のきっかけ

 大阪都心まで電車で約25分、高速道路や国道にも近く、駅前には公共公益施設、店舗等が立地するなど、交通利便、生活利便な立地条件にあることから、二次開発が相次いで行なわれるようになりました。時代とともに社会環境や生活スタイルは変化し、世代交代等により住民も入れ替わることは当然ですが、特にバブル崩壊や建築基準法改正後の開発は、雲雀丘山手の自然環境や景観を支えてきた屋敷内の樹木をすべて伐採し、斜面地をコンクリート擁壁で造成し大きく地形を改変したものが多くみられるようになり、その影響により、大雨時の鉄砲水による土砂崩れや浸水、車の増加による交通事故や路上駐車の増加など、街の自然や景観の破壊にとどまらず地域での生活の安全への問題が発生するようになりました。
 雲雀丘山手の自然環境と景観は地域の大きな財産であり、この財産を維持し将来へ継承していくことが今ここに住む私たちの役目だと考え、「わが街の自然・文化・人を守り育む」活動を展開し、進化・発展させてゆきました。


街の歴史を振り返り未来へ伝承するための「宝塚雲雀丘・花屋敷物語」の出版

 平成9年、地区内在住大学生が雲雀丘山手の住宅地開発の歴史を修士論文としてまとめるための調査を実施することになり、地元の古参、新参の住民や行政関係者も協力し、歴史的に貴重な資料が数多く発掘されてゆきました。その後、せっかく発掘された資料であり、広く地域住民や一般に公開し、雲雀丘地区をよく知ってもらおうと、地元有志のボランティアを中心に「宝塚雲雀丘・花屋敷物語」編集委員会が発足し、平成12年に「宝塚雲雀丘・花屋敷物語」の発刊に至りました。(発行部数…4000部)


行政との協働による「まちづくりルール」の確立

 「宝塚雲雀丘・花屋敷物語」の出版をきっかけに、住民の地域の緑を守るという気運が高まり、行政と協働で「まちづくりルール」策定への取り組みがはじまりました。“共生(自然との共生、古き良きものと新しい社会環境との共生)”、“安全(自然災害から守る、安心できる暮らし)”、“景観保全(自然と歴史の継承)”を目標に八つのルールが定められました。住民合意を得るために自治会のもとに「地区計画等推進委員会」を立ち上げ(平成12年9月)、全住民・地区外在住権利者を対象に2度のアンケート、3度の説明会・意見交換会、7度のニュース発行を行ない、圧倒的多数の住民・権利者の合意に至りました。これらのルールは最終的に都市計画法にもとづく地区計画の決定、市景観条例にもとづく都市景観形成地域の指定に至っています。(平成14年4月)

縁を育てる活動のスタート〈縁化推進委員会の設立〉

 まちづくりルール策定後は、地区計画等推進委員会を発展させて緑化推進委員会を立ち上げ(平成13年)、ボランティアを募り、具体的な緑の保全・育成に向けた本格的で手作りの地道な活動が展開されてゆきました。その主な活動を紹介します。
○雲雀丘山手公園の管理
・定期的清掃活動(有志ボランティアによりほぼ毎日…昨年度は累計1300名参加)
・宿根草コーナーを新設し、花の植栽(平成6年公園竣工時より年2回(春・秋)、地区住民・子どもを中心に毎回多数参加…昨年度は累計280名が作業)
○苗木配布による民家、空き地への樹木植栽(森林生態学的専門知識に裏付けられた緑化創造)
・平成13年秋約200本、平成14年秋約300本、平成15年春秋約500本を植栽etc
○緑の勉強会(子どものみどりの勉強会、緑の木陰の勉強会)
・雲雀丘山手公園花植えにあわせて年2回実施
○「緑のかわら版」の発行(年2回、自治会を通して全戸に配布・掲示板掲示)
○手づくりの調査研究
 緑の調査マップ作成(平成13年)/桜の定点観測(平成14年より)/飛来野鳥の定点観測(平成9年より)/民家・既設屋根への屋根緑化の実験/地域の文化歴史の伝承(随時)etc
○桜並木復活プロジェクト(平成15年12月)
 かつての雲雀丘山手には美しい桜並木がありました。朽ちた老木や開発により伐採された桜を蘇らせ、街の歴史・文化を伝承する桜並木を復活させようと「桜並木復活プロジェクト」を「夢のまち応援団(伊丹市)」の支援も得て立ち上げました。(合計27本の桜を植栽)
・県・市・警察の協力を得て公道や公園に桜苗木を補植(公園には当地ゆかりの「荘川桜」を植栽)
・私有地の提供を得て道路沿敷地に桜並木を新設…etc


緑の活動拠点〈雲雀丘YAMATE倶楽部〉

 活動の拠点として雲雀丘山手公園の存在は欠かせません。この公園は土地を地元の所有者が提供し市が整備(平成6年)したもので、「自然を残し地域の子どもたちに開放する目的で雲雀丘山手自治会員の全面的協力によって開園された」公園です。地元で管理するために「雲雀丘YAMATE倶楽部」が設立され(平成6年)、地域の憩い、安らぎ、人々のふれあい、緑の育成の継続した活動拠点となっています。


視察の受け入れ、各種賞の受賞

 こうした活動に各地から視察に訪れていただいたり、県、市から大変光栄な賞をいただきました。これらを励みにさらに活動を発展・進化させたいと考えています。
[視察等]
平成15年11月 兵庫県地区計画等推進協議会視察
平成15年12月 ひょうごまちづくりセンター現地セミナー
平成16年1月 大阪府箕面市桜ケ丘地区まちづくり協議会視察
平成16年3月 兵庫県東条町まちづくり協議会視察etc
[受賞等]
平成16年1月 兵庫県第5回人間サイズのまちづくり賞まちづくり活動部門受賞
平成16年3月 宝塚市第6回宝塚まちなみデザイン賞まちづくり活動部門受賞
平成16年9月 宝塚市市制50周年記念受賞
[その他]
平成15年度・16年度 兵庫県地域団体活動パワーアップ事業認定
平成16年度 小学校教科書・副読本(宝塚市)に活動内容掲載


「“緑を育てる人”を育てる」新たな展開

 「地域の緑を守ろう」からスタートした活動は、「地域に新たな緑を増やそう」という活動に進化してきました。今後は、「緑を育てる人を育てよう」に重点をおいて展開してゆきたいと考えています。幼少時から何でも自分の意のままになる社会で育ってきた青少年が増え、最近は年少者の犯罪が目につくようになりました。地域のあちこちに森を創り、例えば「木登りのできる樹」を育て、森の中での楽しみを伝えよう。自然と直接向き合っていると虫に刺されたり、木に登っていて怪我をしたり…、自分の意のままにならないことが多いため、自然を大切にする作法を心身で覚え、他人や地域を大切にする。そんな『次世代を担うたくましい子どもたち』を育てよう、癒し(リラックス)効果、リハビリ効果のある緑や土いじりを老若男女で楽しみながら健全な地域を育てよう、そうして「わが街・雲雀丘山手をみんなのふるさとにしよう!」そんな思いで今後の活動を展開してゆこうと考えています。
 つぎに現在検討している新たな活動を紹介します。
(1)縁の木陰の音楽会
 田植えの蔡には「お田植え歌」がつきもののように、地域の植樹や緑の手入れの際には「花植え歌」として口ずさむ歌が考えられます。地域の新しい文化として定着させ、成長させたいと考えて緑のイベントに関連した地域コンサート「緑の木陰の音楽会」を定期的に開催する計画を検討しています。(今回は兵庫県からの助成もいただいて、関西学院大学グリークラブとの子ラボによる「緑の木陰の音楽会」を11月に開催)
(2)福祉施設との連携
 緑や土いじりの持つ癒し(リラックス)効果やリハビリ効果は科学的にも検証されています。私たちのこれらの活動を近隣の社会福祉施設、養護老人ホームなどと連携した取り組みに進化させてゆきたいと企画中です。
(3)他地域との連携
 現在、「荒牧夢のまち応援団(伊丹市)」と活動面でコラボレートしており、その効果は絶大です。さらに各方面の団体と連携し、市域、圏域、世代域を超えた幅広い「この街に新たな緑を育て隊!伝え隊!」活動に取り組みたいと考えています。
(4)元気印シニアパワーの拡大
 私たちの日常活動は企業人OBをはじめとするシニアパワーがリードしていますが、その豊かな知識や経験を発揮しながらさらに地域貢献していただく輪を広げるための情報提供方法を工夫し拡大してまいります。
(5)落ち葉・落ち技REUSEの試み
 最近では緑化活動で発生した植物廃棄物を大地に返す工夫をしていますが、さらに拡大展開して循環型社会形成思想を普及してまいります。