「ふるさとづくり2003」掲載
<市町村の部>ふるさとづくり賞 振興奨励賞

地域・学校・家庭一体の健全育成
大分県 前津江村
小さな村の大きな大会

 子どもたちの輝く瞳と、地域婦人団体の皆さんに支えられた「第1回全国子どもをほめよう研究大会」(子ほめフォーラムin前津江)は「キラット光る小さな芽、みんなで探して育てよう」をテーマに3月8日(土)、9日(日)、前津江村立大野小学校で全国60自治体から延べ850人の参加のもと盛大に開催することができました。
 思えば昨年の5月、村議会で開催の決定が下され地域アニメーターのメンバーを中心に実行委員会を立ち上げ、生活改善グループ、高校生ボランティアなどの協力のもと無事開催するに至りました。
 1人の力ではわずかなものですが、今回ほど村民の強い団結力と村づくりに対する強い期待が寄せられた大会は今までにはなかったように思います。それぞれの持ち場持ち場においても同様、参加者からはとくに「子どもたちの伸び伸びとした姿を見て感動した。元気をもらった」という意見がたくさん寄せられ、参加者以上に主催者側も目頭が熱くなり、やって良かったという充実感でいっぱいでした。
 前津江村は、大分県の西端に位置し人口1700の小さな山村です。当然、近年の市町村合併の波にもまれて近隣の日田市郡の合併論議が盛んにおこなわれています。こうしたなか、この大会の開催は、これからの村づくりが住民参画のなかでつくりあげていけるものと改めて確認でき、意義深いものとなりました。


「子ほめ」条例との出会い

 前津江村の「子ほめ」条例には「子どもたちは村の宝」「前津江村の子どもとして育ち、将来前津江村を誇りにし自信を持って、生きていける子どもたちに育てたい」という願いが込められています。条例制定の平成11年は青少年の犯罪事件が多発していた頃でした。ご承知のようにバスジャック事件、金属バット殴打事件、高校生殺傷事件など子どもを持つ親として非常に心配した時期でもありました。事件をおこさない、おこさせない「地域や、家庭がしっかり見守ることが大切」をモットーに全国先進市町村の調査から始まり、村にマッチした条例制定となりました。平成12年10月、「前津江村児童生徒の表彰に関する条例」が施行となり、これまで270名あまりの児童を表彰しています。
 村長、教育長が直接学校に出向き表彰しますが、子どもたちのニコッとした笑顔が忘れられないと表彰式での様子を語ります。


全国の大人の目を釘付けにした「子ほめフォーラムin前津江」

 この大会では、主役はもちろん子どもたち。オープニングでは日常、小中学校で取り組んでいる総合学習の紹介をしました。前津江中学校では「ふるさと」を思う合唱と詩を披露しました。生徒自らが作詞したふるさとの紹介です。ふるさとに住む温かい人たちへの感謝の気持ちを込めて詩にしたものです。
 次に、柚木小学校は「アイガモづくり・地域の人に学ぶ」と題して地域の人情と素材を活かした総合学習の成果を発表し、米の販売代金はユニセフに募金した内容でした。
 赤石小学校は、ふるさとを思う心を「ベストフレンド」「ふるさと」の曲に込めての発表でした。また、高学年は朝鮮半島の民族音楽サムヌノリの演奏もしました。この学校では国際理解教育の一環として隣国の文化を学んでいることから、以前からサムヌノリの演奏に取り組んでいます。
 出野小学校は、ロックソーランとキツネ踊りを披露しました。ロックソーラン、高学年の子どもたちが地域の太鼓グループ(浦和太鼓)の皆さんから教わったもの。軽快な身のこなし、元気さをステージ一杯に全面に出したすばらしい踊りでした。
 大野小学校では大野楽を発表しました。800年からの伝統を持つ楽の由来や演技の内容などを調べ、昨年の秋に開催された祭り同様に会場一杯練習の成果を披露しました。ハツラツとした掛け声、演技は参加者に感動を与え「子ほめ」条例のある村を印象づけました。
 主催者の吉田恒光実行委員長が「子どもは自ら伸ばす力を持っている。家庭・学校・地域が一体となり長所を認めることが自信と意欲につながる、自由闊達な討論で今後の指針にしたい」とあいさつ。
 長谷部公明村長が「子ほめ」条例について基調報告、全国生涯学習まちづくり協会理事長の福留強・聖徳大学教授が基調提言をしました。福留教授は「ほめることは相手の能力を高めること。また、ほめる人のいい考えを相手に定着させるので教育そのものだ、子どもを支える大人が、しっかりすることが大事」と話された。
 子ほめ表彰式では、長谷部村長が各学校の代表者1人ずつ6名に賞状を手渡した。この後、三つの分科会に分かれ討議しました。
 第1分科会では、「子ほめ条例のまちに学ぶ」をテーマに岡山県鏡町(地域で育むかがみのっ子ペスタロッチ賞表彰)、鹿児島県東町(又 日に 新たなり〜あずまの子表彰から〜)、栃木県国分寺町(国分寺児童生徒表彰に関する条例)、大分県前津江村(すごいねえ ひとこともらったほめ言葉)から、それぞれ活動事例を発表した。「子どもの教育は社会全体の責任である。どの賞も同じ価値があり、自分が一番いい賞、納得のいく賞であることが必要である、子どもたちの目が生き生きすれば大人も変わる」とまとめられた。
 第2分科会では「子ほめで地域の教育力を高める」をテーマに横浜市T―GAL(海外で知った豊かなほめ言葉)、山口県錦町(地域ぐるみで子育てを)、大分県朝地町では(高校生、小学生が表彰されたこと、通学合宿の体験)、大分県前津江村(ほめて伸びよう 子どもも大人も)と題して発表した。
 発表者からは「タイムリーにほめることも大切、継続的にみてほめることも大切」、「子どものよさを伸ばすというが子どもにはわからない、大人が発見していくことが大事」、「子どもは宝、でも甘えないでがんばってね」という社会全体で育てるという意識が大事、「大人が自信を持って子どもに声をかけることが大事」等の活動事例を発表した。
 第3分科会では、「青少年の健全育成のまちづくり」をテーマに岐阜県美濃加茂市(愛のひと声かけ運動・チャレランみのかも・チャレンジみのかもinゆら)、山形県金山町(子どもの学びを支援する活動の実践から)、鹿児島県志布志町(すべてが前津江村から始まる)、大分県前津江村(文化をおこす「子ほめ」の風)から発表した。助言者から、老若男女すべてが子育てに参加しなければならない。地域の皆さんのお世話があり子どもが育っていくのであり、大人一人一人が「地上の星」になっていくことが大切である。また、司会者から「大分大学と前津江村の今後の連携が必要」と結ばれた。
 夜の交流会では、村内の地域婦人会等によるたくさんの手作り料理を前にして、多少疲れ気味の参加者もいつの間にか料理に夢中になり顎が落ちそうだと郷土料理に舌鼓を打ちました。そんな交流会の様子を見ながら受け入れ側の私たちも1日の緊張がほぐれていくのを感じました。
 私たち実行委員も地域の皆さんが、これほどまでに協力してくれるとは思ってもいませんでした。涙が出るのを我慢しながらお礼を言った次第です。本当に嬉しかったです。
 大会参加者のなかで最北端から来られた旭川市の皆さん、日頃忘れかけていた地域文化、歴史や特産物を前津江編にアレンジした相撲甚句で唄った鹿児島県の美嶋孝志郎さん等々……交流会の盛り上がりは言い尽くせません。
 さらに翌日のトークショーに出演する「辰巳琢郎」さんも応援に駆け付けていただき、辰巳さんの気さくな人柄に会場の参加者からも大変喜ばれ好評でした。最後の太鼓の共演ではリズムもテンポも抜群で最高潮に達し宴を閉じることができました。
 このように本大会には、県内はもとより北は北海道、南は鹿児島県などからの熱心な参加もあり意見交換や交流を通じ、全国大会である故に運営に苦心した反面、多大な成果もありました。
 「村づくりは人づくり、人づくりは教育から」という村是のもと「いつでも、どこでも、誰でも」が気軽に学べる生涯学習の確立を目指して、本大会の成果を活気ある村づくりに発展させていきたいと思います。
 地域アニメーターの第1回生が初めての地域おこしとして取り組み、素朴な子どもたちの姿や本音が聞けた楽しい大会を開催することができたと思います。


新たなスタート

 この全国大会を振り返り、前津江流の歓迎で全国の皆さんをお迎えし成功裡に終わることができた喜びでいっぱいですが、と同時に前津江村での「子ほめ」はスタートしたばかりです。子どもの成長は早いものですぐ親元から巣立ちます。離れてからでは親子の抱擁はできません。側にいるうちに子どもを力強く抱きしめてほしい。子育ては忙しいと思っているお母さんお父さん! 子育ては今しかできません。悔いのない子育てを一生懸命やってほしいと思います。
 5年後、10年後の子どもたちの成長を夢見て、これからも地域全体で温かく見守り「前津江村は子ほめ里」と言われるように取り組んでいきたいと思います。


うれしかった子どもたちの感想

家族賞 赤石小学校4年生
 家族賞をもらったときの気持ちはとてもうれしくて、私がえらばれるとは思っていませんでした。メダルとしょうじょうを、もらってうれしかったです。わたしが家に帰ってお父さんとお母さんに「家族賞をもらったよ」といいました。そうしたら、お父さんが「あんたのが一番かちのある賞」と言いました。わたしは、あたりまえのことをしたのに表彰されたのでおどろきました。これからも留守のときは弟の世話をしたいです。

奉仕賞 赤石小学校4年生
 村長さんからメダルをかけてもらったとき、とてもうれしかったです。家に帰ってお母さんに見せたら「えらかったね」と言って、たなにかざってくれました。
 しゅうじの先生もほめてくれました。村長さんからほめられたので、ちょっときんちょうしました。メダルとしょうじょうをもらえたので、うれしかったです。メダルは、なかなかもらえないので大切にしたいです。

努力賞 前津江中学校3年生
 わたしは前津江中学校にきて、友だちもいなくて不安でした。でも、中学校のみんなが笑顔であいさつをしてくれて感動してうれしかったです。だからわたしもみんながわたしを大切にしてくれるように、わたしも、みんなを大切にしていきたいと思いました。そして自分も3年間がんばろうと思いました。できないことも多かったけど今回、ほめてもらったことを励みに、これから自分なりに強く自分の意志をもって生きていきたいです。


今なぜ「子ほめ」なのか

 聖徳大学教授、福留先生は「日本人はほめるのも、ほめられるのも下手」簡単なようで難しいのが「子ほめ」だと言います。また、前津江村教育長、花田紀子先生は「昨年度から学校週5日制が完全実施され、これからは今まで以上に家庭、地域の教育力が問われる時代になっていく。"子どもは地域や家庭にとって宝物"これは誰もが知っていること、前津江村の子どもたちは地域の人たちが、ちゃんと自分たちを見守ってくれているんだ、という大人への信頼感や安心感を改めて感じはじめていると思う。この子どもたちが思いやりのある大人になってほしい。メダルには大人たちの願いも込められている」と言います。さらに「青少年健全育成も家庭教育も地域おこしも、共通することは子どもたちに『背中』を見せられる大人がいること。これが基本ではないでしょうか。前津江には信頼され尊敬される大人の人がいっぱいいます。信頼されるような大人になろうと努めている人がいっぱいいます。この事実は何ものにもかえがたいものである」とこれまでの成果をこう述べています。
 このように、家庭や地域の教育力を高めるには、背中を見せられる大人の存在が不可欠です。お父さんのようになりたい、お母さんみたいな人が好き、と言われれば、私たち大人も嬉しいと感じるでしょう。子どもたちも親から、大人から、地域の人から認められたいと感じています。
 追いつけ、追い越せの高度成長のなか、取り残されてきたお互いの存在を認めあうこと、やさしい関係、ゆっくりした生活を取り戻すためにも今、「子ほめ」をすることで私たち大人が変わろうとしているのです。大人の見る目が変われば、子どもたちは伸びていきます。だから今、「子ほめ」が必要だと強く感じます。