「ふるさとづくり2003」掲載
<市町村の部>ふるさとづくり賞 振興奨励賞

ジゲで子どもを育むモデル事業
島根県 海士町
地域の子どもの名前が分からない!?

 本町は、平成に入ってから少年教育に重点を置いた事業をおこなっています。その理由は、大自然に囲まれた田舎の子どもたちの生活スタイルが都会の子どもと大差がないのではないかという実態に気付き、このまま大きくなった子どもたちは、「将来ふるさとを懐かしむであろうか」「この島に帰って来たいと思うだろうか」というさまざまな疑問が生じ始めたからです。
 そのようななか、ある地区公民館でおこなわれた「食ing塾」というおやつ作りの講習会の時のことです。10名ほどの子どもたちとお母さん、地域の方々とでおやつ作りをし、いざ試食ということでゲーム感覚でお互いの名前の当てっこをしてみました。子どもたちには「この人はどこの人かな?」、地域の人には「この子はどこの子ですか?」と。驚いたことに、子どもたちは地域の人の名前が分からない。また、子どもたち程でないにしろ地域の人たちもあやしくなってきている。これ程までとは思っていなかった結果に、大変ショックを受けました(この地区は、住民の出入りが少なく、地区公民館活動が盛んであり、集落のまとまりもよいとされている地域)。このような状態なら、町営住宅等がある町内でも大きいとされる地域ではどうなのか等いろいろ考えさせられました。田舎の強みは地域の人がお互いの顔と名前を知っているところにあり、子どもたちにとってはそれが大きな教育力と考えていた私たちにとっては、「安心しておれんぞ」という思いにかられました。互いの顔の見えないふるさとに、将来子どもたちが懐かしんだり、帰ってきたいという思いにかられるのだろうか…。
 このような思いから取り組んだのが「ジゲで子どもを育むモデル事業」です。この事業のねらいは、"地域の中でお互いの顔や名前を知り合う(地域連帯)さまざまな活動を通して、地域全体で子どもを育てていこうとする土壌を高める"ことです。そして、実際の活動は、地区子ども会と老人クラブを中心とした世代間交流事業としました。2年間一つの地区(ジゲ)をモデル指定期間とし、期間中はどちらかといえば中央公民館主導でおこない、地区公民館長さんや老人クラブ会長さん等と一緒に活動しながら、活動の計画のあり方や交流の方法等を学んでもらい、3年目からは、自分たちでできる範囲で継続して取り組んでもらうという方法でおこなうこととしました。


実際の取り組み

■中里地区の取り組み(平成10・11年度)
 第1期のモデル指定を受けたのが、中里地区というところで、本町では、町の中心部にあたる地域でした。ここでは、無理をして新たな活動を作るのではなく、各団体で従来実施している花づくりや敬老会行事、クリスマス会といった活動のなかに、世代間の交流の要素をプラスしていくことを考えました。活動内容としては、従来大人だけでやっていた敬老会に手作りのプレゼントを持って子どもたちが参加。また、クリスマス会では、子どもたちとお年寄りが一緒になってクリスマスツリーの飾り付けをおこないました。この事業のねらいである「地域のなかでお互いの顔と名前を知る」ということについては、当初は全く接点のなかった子どもたちとお年寄りでしたが、集まるたびに名前当てゲームや子どもの名札はお年寄りが配り、お年寄りの名札は子どもが配るなどの工夫をしました。いつも以上に楽しんで活動するお年寄りや子ともたちを見て、このような場を作っていく大切さを改めて感じました。館長さんのアイデアで地区の青壮年会や母親クラブといった親の年代にあたる団体に参加してもらいましたが、そのなかで、地域の交流が少ないのは子どもとお年寄りばかりでなく、子どもの親の世代との交流ができていないことも分かりました。現在は、2年間のモデル指定を終え、好評であった合同クリスマス会を中心に子ども会、老人クラブ、母親クラブ等が連携した活動が継続されています。

■菱浦地区の取り組み(平成12・13年度)
 ここでは、やる気はあるけど、何をどうしてよいか分からないとおっしゃる新人地区公民館長さんのもと、民生児童委員さんをはじめいろいろな大人の方たちが協力して、ひな祭りを合同でおこなうなど、独自の活動が展開されました。子どもと地域の大人たちが一緒に遊ぶなかで、大人たちは不器用な子どもたちに気づき、「ナイフの使い方教室」を親子を対象に実施するなど活動を広げていきました。また、子どもたちは、大人を交えてのゲームの計画や進行表を任されたことにより、お客様として与えられるだけでなく、子どもなりの役割を楽しそうに果たすようになりました。今では、子どもたちは自分たちだけでやっていたクリスマス会等の活動に、いろいろな地域の人が来て、ふれあうことに喜びを感じている様子です。また、モデル事業を契機に地区の合同遠足を積極的におこなう等、盛んな交流活動がおこなわれています。

■東地区の取り組み(平成14・15年度)
 東地区では、従来の子ども会や老人クラブの事業であるクリスマス会での交流に加え、地区の恒例行事に子どもを取り込み、継続した活動にしていくことを考えました。そこで、思いついたのが地区盆踊り大会です。子どもを「箱入りの宝」とするのではなく、地域の働き手に鍛えよう、とくに「中学生の顔がもっと地域に見られるように」という願いから中学生が青壮年会等と協力して盆踊りの準備、トウモロコシとジュースの出店をおこない「ふれあい盆踊り大会」として実施しました。準備や出店での販売を通して、中学生と地域の人たちとのふれあいが広がり、例年以上に盆踊りもにぎやかなものとなりました。地域の大人が中学生となるとどのような関わりをしてよいのか分からない場面も見られ、子どもを使いこなせない大人の教育力に問題がると、ここで気づかされました。より充実した子どもと地域の大人との交流をめざして、具体的な場面を設定した細かな計画や援助を2年目は大切にしていきたいと思います。今年度は、老人クラブと子ども会が連携し、お年寄りが小学生を踊り手に鍛える合同練習をおこない、より活気づく盆踊りを計画中です。


まとめ


 ひょんなことから思いついたような事業ですが、地区をまわりながら継続していろんなことに気づかされました。

・中里地区では、交流が不足しているのは子どもとお年寄り世代だけの問題ではないこと。
・菱浦地区では、子どもたちのために一生懸命になろうとする大人たちがいること。
・東地区では、今の大人たちは、子どものために何かしてやる気持ちはもっているが、使いこなせる力が弱っているのではないかということ。

 まだ、始めて5年足らずのモデル事業ですが、地区(ジゲ)にみんなが集まって何かをやるということは、育まれるのが子どもだけでなく、集まった人みんな、そして大げさに言えば、その広報を読む地域の人みんなが育まれるかもしれないという思いがしつつあります。
「ジゲで子どもを育むモデル事業」を通して、まずお互いの名前と顔を知り合ことから始めることで、将来子どもたちが懐かしむ、そして帰って来たいと思えるふるさとづくりに今後も取り組んでいきたいと思います。