「ふるさとづくり2003」掲載
<集団の部>ふるさとづくり賞 振興奨励賞

大きく広げよう地域ぐるみの子育て支援の輪
大分県佐伯市  放課後児童クラブ「つるおか子どもの家」
地域の概況と子どもの現状

 私たちの住んでいる佐伯市は、大分県南部の宮崎県に近いところに位置し、人口は約5万です。その市内12校区の一つである鶴岡は、人口1万400人、3300戸、大きな児童公園はありませんが、近くには山あり川ありのまだ自然がたくさんある商農業中心の地域です。しかし、最近は米を作る農家が少なくなり田んぼも住宅地へと変わりつつあります。地域の様子も社会環境も私たちが子どもの頃や自分の子どもを育てる頃にくらべて変わってきたと思うのは次のようなことです。

・核家族が多くなり、乳幼児を育てるのに近くにアドバイスや相談をする人がいない。
・少子化で近所に一緒に遊ぶ子どもが少ない。
・塾に行く子が多い。
・母子または父子家庭の増加や母親の就労で子どもが幼稚園や学校から帰っても家に誰もいない。
・自然のなかでの遊びを見つけるより、家でテレビゲームをすることに興味を示す。

 こうしたことは、時代の流れと社会の変化に伴ってのことだと思うのですが、子どもにとってこのままでいいのかとの疑問を感じざるを得ません。そこで私たちが取り組んでいることを通して地域のあり方や地域の教育力を考えてみたいと思います。


活動の動機

 今から13年ほど前、たまたま小学校のPTA仲間の母親たち数人がある願いを持って立ち上げました。それは、家に帰っても誰もいないため「ただいま」と言っても「お帰り」との返事をもらえない子どもたちが一緒になって遊んだり話したりする場所を作ることでした。あちこちとお願いに行き2年かかって、やっと放課後児童クラブ(学童保育の場)を設けることができました。これは、旧公民館の使用許可を市からもらって市内では一番最初に開設され、名称を「つるおか子どもの家」としました。


地域の子は地域ぐるみで育てよう

 「つるおか子どもの家」は、小学校と公立幼稚園のすぐ隣にあるので、小学校と幼稚園の許可を受け、スポーツ少年団の野球や陸上の練習に邪魔にならないようにしてグラウンドや滑り台などの遊具の利用ができます。場所的には恵まれてはいますが、建物が老朽化していることや雨の日には全員の子どもを収容するには狭すぎるといった難点があります。設立して今年で11年目を迎えた現在、幼稚園から小学校5年生までの90人が入所しています。毎日学校がひけると「ただいま」とあたかも自分の家に帰ってきたように元気な声で集まってきます。3時のおやつのあと、それぞれがグラウンドや中庭で遊んだり建物の一階の和室で読書や折り紙、工作などをしたりして、5時前後に家の人が迎えにくるまでの時間を好きな場所でおばちゃんたちと一緒になって過ごしています。
 子どもの世話をしている指導員は11名で、元小学校や養護、幼稚園の先生もいますが資格に関係なくボランティアで加わっている子どもが好きな地区の主婦です。年々入所希望者が増え選考が大変ですが、判断がしにくい時は運営委員会に相談し、母子または父子家庭で保護者が一生懸命働いており、家に帰っても誰もいない幼稚園児や1年生の子をまず優先的に支援することを考えて選考するようにしています。
 「子どもの家」は、地区の社会福祉協議会が運営母体で民生委員や主任児童委員のほか自治連合会、老人クラブ連合会、PTAなど校区の団体の協力により運営されています。また、現在「子どもの家」の登録ボランティアは41名いますがこうした団体やボランティアの仲間によって地域の人々との交流や老人クラブやハンデを持つ子どもたちとの交流も進めています。中学校の生徒会は、歳末助け合い募金活動をおこないカーペットや掃除機などをしてくれ大変助かっています。「こどもの家」でボランティアを受けて育った子どものなかには、中学生さらに高校生になってボランティアをする立場で参加する姿を見ると嬉しく頼もしく感じます。指導員なればこそ中学生や高校生にボランティアの心が自然に育っていることを実感として受け喜びあえると思います。
 「子どもの家」は単に入所している子どもの遊びの場としてだけでなく、地域福祉活動の拠点にしたいと考え、子育て支援の一つとして乳幼児を持つ若い親との交流を「トトロの広場」と名付けておこなっています。これは週1回、幼稚園入園前の0〜4歳までの子どもとその母親、ときにはおばあちゃんを対象に指導員と一緒にリズムや読み聞かせ、パネルシアターを観たりして親同士の友だちづくりや憩いの場にしています。また、介護教室や手話、点字学習会、盲導犬による体験学習を社協と一緒に進めています。子どもたちは喜んで参加するなかでいろんなことを学んでいますが、とくに手話を覚える早さには驚きを感じます。


年間の大きな地域ぐるみの行事

ア.家族キャンプ(8月)
 子ども、父母、指導員、ボランティアと一緒に1泊のキャンプ。ボランティア参加の中・高校生がリーダーを務める。参加者数約200名

イ.トトロの広場運動会(10月)
 80組ほどの乳幼児母子や祖父母と校区の老人クラブ、民生委員が参加して走ったりリズムをしたりゲーム遊びをする。参加者数約200名

ウ.子どもの家クリスマス会(12月)
 老人クラブの方々を招待して、歌や寸劇、ゲームをする。ケーキも用意される。ボランティアの中・高校生も出し物を見せてくれる。参加者数約150名

エ.シルバーと子どものつどい(3月)
 入所以外の子どもも加わり中・高校生ボランティア、老人クラブ、地区社協の方々と餅つき、骨細工で作った竹馬乗り、コマ回し、お手玉作りをする。ぜんざいも用意。こしらえたお餅は、民生委員が手分けして校区内の70歳以上の一人暮らしの200名ほどの高齢者に配布する。参加者数約200名


今後の展望

 今の子どもたちに自分が育っている地域と育ててくれる地域の人たちを知ってもらうことがやがては地域や地域の人たちを大切にする人になっていくと思いますし、そうなってほしいと願っています。そのためには、大人がある程度その地域に合った世代間交流や地域の人々とのふれあいの場を設けていくことが必要ではないかと思います。しかし、働きかけをする場合、子どもにとって楽しいと感じ取れるようにすることが大事です。押しつけであっては子どもは負担を覚えることになりかねません。子どもが伸び伸びとし、感動を持てるような活動を考えた活動を展開していきたいものです。地域といったものが、子どもにとって何が入っているのか何が出てくるかわくわくするような「おもちゃ箱」であり、その「おもちゃ箱」で育っているとの想いの募るふるさとであって欲しいと願っています。「子どもの家」の指導員とその仲間たちは、「いつでも、どこでも子どもが真ん中」を合い言葉に、笑顔と瞳の輝く子どもが育つ地域、こころの通い合うふるさとづくり「子どもの家」から大きな輪を広げていきたいと思っています。