「ふるさとづくり2003」掲載
<集団の部>ふるさとづくり賞 振興奨励賞

配食サービス活動を通した作業所の子どもたちと地域高齢者のふれあい
大阪府吹田市  小規模作業所「遊ゆうかぼちゃのお家」
はじめに

 千里ニュータウン内で活動する作業所『遊ゆう かぼちゃのお家』(以下、かぼちゃのお家)のメンバーと地域住民の活動を紹介します。
 はじめに千里ニュータウンの概要を示します。全国初の大規模ニュータウンである大阪の千里ニュータウンは、2001年にまちびらきから40周年を迎えました。
 1975年には12万9000人を超えた人口も、現在では9万5000人まで減少しています。さらに、少子高齢化が進み、2001年10月の高齢化率は20.1%を迎えました。その他にも、住宅や地域施設の老朽化など、さまざまな問題が生じており、こうした現状への早急な対応策が、望まれています。
 このような状況のなか、住民たちが合意をし、近隣センター(注1)の建替えがおこなわれている地区もあります。しかし、経済的な理由からも、現在整備されている店舗などの地域施設群を、有効に活用することを考慮すべきであるという考え方が出てきました。
 また、全国的にコミュニティビジネスの動きが広まり、単に、ボランティア活動の延長上にあるまちづくり活動については、長期性や採算性の面からも疑問視されています。
 以上の諸問題への取り組みの一つとして、今回は、千里ニュータウン内の近隣センターの空き店舗を作業所として、地域で配食サービスなどを中心に活動している『かぼちゃのお家』の取り組みを紹介します。


作業所紹介

 1999年4月より、千里ニュータウン内の近隣センターの空き店舗で活動している。作業所『かぼちゃのお家』では、「掃除・洗濯・昼食づくり・洗い物など、日々の積み重ねによって、日常生活に必要な力を養い、自立すること」や、「地域の人々や他の作業所との交流などに積極的に取り組み、豊かな人生を築くこと」を目指しています。
 仕事として、クッキーの製造・販売や宅配給食サービスをおこなっています。
 学習活動として、ペン習字、パンづくり、パソコン教室、木工教室、クラフト教室などを地域のボランティア先生の指導を受けておこなっています。
 2年ほど前から、粘土づくりを教える先生は、「最初は障害があるからおとなしいだろうと思っていたら、自己主張ができる楽しい子どもたちだと分かりました。ケンカしながらもお互いを認め合っているところが良いです。道端で遠くから、先生〜!と叫ばれるのは恥ずかしいけど」と嬉しそうに語ります。
 パンづくりの先生は、「何か自分が手伝えることをと思い、パン教室をしています。指導員のご協力もありますが、メンバーの腕が少しずつ上達しているので、やって良かったとつくづく思います。つくったパンが美味しいと言ってもらえるように、これからも頑張って欲しいです」と、素直な心を持つメンバーたちに教える喜びを感じています。


配食サービス事業について

 同じ近隣センターで電気屋を営む安井哲夫さんの提案により、『かぼちゃのお家』では、配食サービスに取り組むようになりました。
 日頃より、電化製品の配達や修理のために、顧客宅を訪問する安井さんが、高齢化する住民が部屋の電球交換も難しくなっている状況を目の当たりにし、自力での調理さえままならぬ地域住民をなんとか支援したいという思いが、この事業開始のきっかけです。
 折しも、旧厚生省が開始した介護予防・生活支援事業(注2)を受けて、『かぼちゃのお家』の立地する吹田市が配食サービス事業の委託先を探していました。そこで、半年間の準備期間を経て、2002年4月より配食サービス事業を開始することになりました。
 調理作業は、近隣に住むボランティアの方々を中心に、作業所内の厨房でおこなっています。できあがった弁当の配達は、配達ボランティアの方々と作業所メンバーによっておこないます。
 日〜土曜日の毎日、一日平均50食を調理し配達します。登録ボランティア数は40名以上に増えました。安定した事業を長くしていくために、ボランティアの方には有償で(十分な額ではありませんが)来てもらっています。市より認定された高齢者の方への配食には、市からの補助があります。


ボランティアとのふれあい

 配食サービス事業開始より1年以上経過し、地域の方々の協力を得て、軌道に乗り始めてきました。意思疎通が苦手だったメンバーたちも、配達先の高齢者や調理ボランティアと毎日ふれあうなかで、挨拶ができるようになり、仕事に対する自信を得る等の成長が顕著に見られるようになりました。
 50〜60歳代が中心のボランティアさんと10歳代のメンバーの年齢差は大きいですが、飼っている犬の話題や、野球の話題でよく盛り上がります。活動の合間に、メンバーたちと話すことを楽しみにしているボランティアの方も多くおられます。
 知り合いの勧めで、何気なく作業所に通うようになった調理ボランティアAさんも、「やりがいを感じて、作業所に来るのが楽しい」と言われます。
 「外に出たい、働きたいと意志があっても、そのような場所がなかったり、きっかけがなかったりすることが多いけれど、作業所はそれを満たしてくれた」と、調理ボランティアBさん。今では、ボランティアの方々同士で親しくなり、遊びに出かけるようにもなりました。
 以前までは、メンバーとその家族、作業所指導員のみで行っていた旅行にも、ボランティアの方々が参加されるようになり、さらに賑やかな行事となっています。


地域の人々とのふれあい

 配達先の高齢者の方々も、メンバーが訪れるのを楽しみにしておられ、玄関先でメンバーの到着を待っている方もおられます。
 開始直後は、落ち着きのないメンバーの言動を不審がる利用者が多くおられましたが、回数を重ねるたびに、緊張していたメンバーも、挨拶や簡単な会話ができるようになりました。お互いに慣れてきますと、固かった利用者の表情も和やかになり、「ありがとう」といった会話を、メンバーにきちんと伝わるように、しっかり話そうと努力される方が増えてきました。メンバーとの会話が、一日で人と話をする唯一の機会という利用者もおられ、メンバーが初めて話した「お元気ですか?」という言葉に涙されたことがありました。
 先日は、亡くなられた利用者の娘さんが、食券の返却に来られ、「母に会うと、いつも『かぼちゃ』の子どもたちの話をしていました」と御礼を述べられました。
 一方、配達サービス事業の陰に隠れつつある、クッキー事業ですが、定期購入して下さる住民の方々に支えられながら続けています。
 メンバーが製造したクッキーは、地域バザーや、近所の特別養護老人ホームで、メンバー自身が販売をおこないます。クッキーを購入する人への対応は、金銭の計算が難しかったり、挨拶が恥ずかしかったりする時もありますが、目の前でクッキーが売れるのを見るのは、とても嬉しいことです。自分たちのクッキーが売れたことで、一生懸命作ろうという気力が湧いてくるようです。


メンバーが地域で活動することの意味


 毎日メンバーと接する指導員は、以下のように話します。
 「年々、福祉の活動が増えてきており、世の中に浸透しつつあります。しかしながら、一般の人にとって、日常生活のなかで、障害者と関わることは、まだまだ特別なこと、もしくは何か重い感じのすることではないでしょうか。
 ましてや、知的障害者は自分で障害のことを説明できないことが多いです。残念ながら、見た目で分からない障害ほど、理解されにくいのが現状です。私たちが“障害者を理解して欲しい”と心から願っていても、道を歩く人々、皆さんに説明するわけにもいきません。
 『かぼちゃのお家』における地域での活動は、ダウン症とか自閉症という障害を地域の人々に知ってもらうのではなく、その子自身を知ってもらうための活動だと思います。
 以前、メンバーの一人が、自転車で人とぶつかったことがありました。ぶつかった相手はいい人で、「大丈夫?」と聞いて下さったらしいのですが、本人が驚いて、どうしたらよいか分からなくなったようです。その時、ちょうど作業所で、クラフトを教えて頂いている先生が通りかかり、「あ、この子、かぼちゃのお家の子ですよ」と、作業所に連絡してくれました。
 地域で活動していけば、何かトラブルが起こった時に、本人が説明できなくて困っても、知的障害について何の知識も持たない人でも、「あの人見たことある」と、声をかけてくれるかもしれない。そうなれば、親亡き後も、地域で生きていけるのではないでしょうか」


さいごに

 「配食サービスを始めるまでは、同じ場所で喫茶店を運営していました。しかし、利用者は限られており、この作業所が、なかなか地域に認められる存在にはなりませんでした。
 配食サービスをきっかけに、調理ボランティアの方々が毎日手伝いに作業所へ訪れ、メンバーと配達ボランティアが、地域の利用高齢者宅へ繰り出すようになりました。
 この活動をはじめてから、地域住民の『かぼちゃのお家』への理解も深まったと感じるようになりました」と嶋村代表は語ります。
 1か所で待つのではなく、自分たちから地域に働きかけることで、『かぼちゃのお家』の活動に賛同し、協力して下さる地域住民の方々が増えてきました。
 配食サービス活動を通して、いつも「ありがとう」を言う側であったメンバーが、利用高齢者より「ありがとう」の言葉をもらい、仕事に対する自信を得ました。福祉サービスを受けることに抵抗を感じていた高齢者の方が、配達に来る子どもたちと接するうちに、何とか彼らの労をねぎらいたいと振る舞います。
 福祉活動というと、何かをしてあげる側とされる側に分けられる傾向にあります。しかし、できないことはしてもらっても、自分ができることは誰かにしてあげられる環境が、とても重要ではないでしょうか。そして、相手のために何かをすることによって、自分を必要とする人がいることを知ることは、とても大切なことと考えます。それが地域で生きる活力になっていくのではないでしようか。


注1 近隣センターとは、「近隣住区」ごとに配置されたセンターである。日常生活に必要なサービスと商品を販売する商店を集め、ほかに集会所、交番、郵便局などの公共のサービス機関がある。しかしながら、計画時の予想とは異なり、多くの近隣センターの商業施設は寂れているのが現状である。

注2 介護予防・生活支援事業とは、介護保険の対象とならないサービスや介護保険の対象外となったものに対して、地域の実状に応じてサービスが実施できるように支援していくために、厚生省が2000年度に創設した事業である。そのメニュー例には、配食サービス、外出支援サービス、寝具洗濯乾燥消毒サービス、軽度生活援助サービスなどがある。(厚生省:「厚生白書」平成12年版、ぎょうせい、P96より)