「ふるさとづくり2003」掲載
<集団の部>ふるさとづくり賞 振興奨励賞

自然を生かした市民の憩いの場
静岡県磐田市 ひょうたん池自然を考えよう会
地域の概観

 平成元年、まだバブル期が絶頂にあった頃、磐田市東部工業団地の工場群は好景気に乗ってフル稼動していた。
 工業団地の西側と市街地の谷間に「ひょうたん池」が、草に埋もれて取り残されていた。面積にして1314.4m2の正真正銘の「ひょうたん型」である。
 いったん大雨が降ると、この地域は琵琶湖が移転したかと思われるほどで、大型農家もトラクターがめりこんで入れないので横を向いてしまうほどの湿地帯である。周辺の水田は零細農家がこつこつと自家用の米を作っている程度である。
 水面全体にカナダ藻が覆い尽くして、昔からの住人でなければ、池があることすら分からない状況だった。もちろん、水を好む動植物や昆虫・野鳥の宝庫だったことなど取り上げられることすらなかった。
 この「ひょうたん池」を取り囲むように、西貝・安久路・城之崎・西之島・上南田の5部落が、わが西貝地区である。もちろん、住人の大半は会社員。純粋農家は10本の指にも余る程度である。


誕生までの経緯

 平成元年に竹下内閣での「ふるさと創生事業」が成立した。磐田市は、その1億円を基金として、市内の公民館地区単位での希望地区に年間100万円の「ふるさと創生事業委託料」を設定することを議決した。
 わが西貝公民館でもこれを受けて、「西貝ふるさとづくり計画」を2年間をかけて完成させ、実施に向けての検討に入っていた。
 一方、平成6年度西貝公民館恒例の『地区ウォーキング大会(「地区内のことを学ぼう」がテーマ)』で実施したおりの昼食懇談会の中で、日に日に減少する自然を守る必要が強調され、「西貝ふるさとづくり計画」の話題に取り上げられ、この計画の方向が決定した。
 「西貝ふるさとづくり計画」を実施に移すのは、まず自然だ。それも安久路のひょうたん池周辺に残された自然だ。実施に移す人は、会員のボランティア組織で長期間活動できることが肝要だ、と快調に「西貝ふるさとづくり計画」が進展し、平成6年12月には募集した会員80余人と役員組織の原案が決まった。
 翌平成7年1月に第1回『ひょうたん池自然を考えよう会(初代会長=後藤栄司氏)』の総会を開催する運びとなった。
 「西貝ふるさとづくり計画」は、『ひょうたん池自然を考えよう会』と変身した。


確認事項と提案事項

 第1回総会では次のことが活動方針として決定した。
(1)地域のひょうたん池の豊かで良質な湧水と周辺に残っている自然を守る活動
(2)この地域を市民憩いの場とする活動
(3)会員の手づくりで、自然資材を使う活動
(4)「ふるさと創生事業委託料」を主とした活動資金とする
(5)会員の継続的な努力と活動内容を示すことにより、行政・各種団体・企業等の理解と協力を求めていく
 この総会で、『安久路地域のひょうたん池とその周辺を自然を活かした市民憩いの場とする請願』を磐田市議会に提出することまで可決した。そしてその3月、年度最終の市議会に、4889の署名を添付して提出。可決された。


楽しい全員作業

 本会は、大きな仕事は全員作業、細かい仕事は役員作業と区分けしている。
 毎年、6〜7回の全員作業を会員にお願いしている。
 この全員作業のやり方がユニークだ。まず、作業は朝8時から12時まで。参加会員に疲れを残さないことへの配慮と昼食時の楽しい会話がある。
 池面の藻取りの作業で、ボートから落ちてずぶ濡れになった事件も楽しい会話の一つになってしまう。毎回、30〜40の会員が賑やかに参加してくれるのも嬉しい。
 この昼食時と年に1回の総会(3月)での懇親会が会員のコミュニケーションに大変役立っている。


活動の内容

 池面を覆う外来種の藻(オオカナダ藻が主)の除去作業は大変。ボートに乗った人が船の藻の錨を藻の塊に投げて千切り、長柄の鍬を引っ掛けて、ボートにつないだワイヤーでボートごと岸に引ぎ上げる。力の要る仕事だ。全員作業では毎回のことだ。
 周辺の除草作業は会員の草刈り機と会所有の草刈り機が使用される。東側の安久路川の堤防も含めて範囲は広いので、人数が必要となる。
 案内標識や看板は看板屋の会員がいる。船着き場や安全施設は大工さんの会員がいる。土木関連の力仕事には、関係本職の超小型ユンボがうなりを上げる。これらはすべて謝礼程度の金額で奉仕してくれている。本当に感謝しなければいけない。
 周囲のベンチは磐田ライオンズクラブ、周囲の柳は磐田南ライオンズクラブが設置植樹してくれたものだ。北隣の駐車場の四阿(あづまや)は、公民館に隣接する県立の大工さんの訓練校の生徒さんの卒業製作だ。また、湧水量調査には市役所の流量測定器具を貸与していただいている。
 湧水の流出水路に玉石を敷きつめて、安全な子どもの水遊び場に整備して、若い子ども連れ家族の憩いの場として人影が絶えないのも、嬉しい。
 年1回(8月下旬)の「ひょうたん祭り」は地区全体に呼びかけての賑わいを見せる。バーベキューと軽いアルコールで大人、スイカ割りとかき氷で歓声をあげる子どもたち。地区住民の楽しみの一つになっている。


有意義だった平成13年のワークショップ

 平成13年度静岡県環境部『故郷の湧水保全モデル事業』に指定され、3回のワークショップにより一般地区住民と本会との意見交換がてきた。
 この中で、最も有意義だったのは、全参加者が意思表示をして完成させた「ひょうたん池の未来像」だ。
 これは、本会の活動が地区住民と一体になっているとの安心できるものとして、活動の方向に自信を持つことができた大きな収穫だったといえる。
 「ひょうたん池の未来像」の内容は、今のひょうたん池は純粋の自然保護地域として管理保護し、この地域に生活する生き物は、隣接地にビオトープや観察棟を設置して学習に供することにする。
 また、「市民憩いの場」はひょうたん池南に広がる地域に県が計画している農業用の湛水防除池(平成17年度着工予定=県担当者談)に組み入れる。これは、豪雨での非常時は巨大なプールになるが、平時には、ひょうたん池の湧水を引いて小川を通して水遊びや小舟を浮かべることもできる。湛水防池の中には小島もつくる。
 空き地には芝生を張って広い自由な遊び場があり、池を取り囲む堤には小鳥が集まる雑木を植えて巨大なビオトープの「市民憩いの場」とするのだ。
 この「ひょうたん池の未来像」の実現への本会の思いは、すでに県本事業担当者と話し合う中で図面とともに伝えて好感触を得ているこの事業の完成した姿を見るのが楽しみだ。


夢の計画ホタルの自然発生

 かつてこの地域にも夏になるとホタルが飛び交う光景が10数年前までは見られたが、今は完全に絶滅した。
 ホタルは豊かな自然のシンボルであり、この復活は本会が目指す方向の正しかったことの証ともなるものだ。一度絶滅したホタルを復活させた事例があるのだろうか。
 本会は、この難題に5年前から挑戦している。とくにカワニナ・タニシの自然繁殖が難題だ。ホタルの幼虫の食物となるカワニナやタニシがこの地域一帯に自然繁殖をしない限りホタルの自然発生は期待できない。
 本会役員の大谷氏を中心に手づくりの飼育小屋が完成し、会員全体で取り組んでいる。
 どなたか参考になる情報を提供していただきたいものだ。


周辺からの理解と協力

 こうした本会の活動が進展するに従って、遠州鉄道のバス停に「ひょうたん池」停留所が設置された。磐田市ウォーキング大会ではひょうたん池もチェックポイント指定され、当日は役員を中心にして池の駐車場で参加者への甘酒接待とともに写真パネルとひょうたん池の説明にも当たっている。もちろん、ホタルの説明は大谷氏が担当だ。おかげで、このウォーキング大会を契機として「ひょうたん池自然を考えよう会」に入会してくれた地区外の会員も多数ある。
 本会の活動が認められた証拠に、市立東部小・東部幼稚園・城山中学の総合学習の場と活用され、その都度、都合のつく役員が説明を引き受けている。
 また、行政の推薦で各種団体の研修会における題材として本会の活動の発表も要請されることが多くなった。
 県コミュニティ活動賞受賞と平成13年度県コミュニティ活動集団に指定される。また、第14回県都市景観賞の受賞も活動の内容と継続性が評価されてのことと理解している。


終わりに

 本会の活動が広く認められてくるにつれて責任も重くなる。夢を膨らませるにつれて困難も増える。後継者もままならない。
 しかし私たちは、第1回総会の確認事項を見失わないよう、足元を固めつつ、さらなる夢を地域住民の幸せとともに追い続けていきたいと念じている。