「ふるさとづくり2003」掲載
<集団の部>ふるさとづくり賞 主催者賞

ふるさとの川は新たなコミュニティステージ
岩手県水沢市 大深沢水園委員会
地域の概要

 大深沢は、胆沢扇状地の肥沃な田園地帯、国道4号線を挟んで広がる農村集落(93世帯)で、水沢市の南玄関でもある。当地は、集落の地名ともなっている川と深いかかわりのなかで存在してきた。
 何代にも続いてきた集落の人々は、住んでいる者も、他所へ出た者も共通して水遊びや木立などの心象風景が心に焼きついている。集落全世帯で組織する大深沢町内会は、古くからの地域慣習を大事に伝承しながら、毎年正月に「新婚さん・年祝い・新転入者」を招待し、新年交流会や市内著名人を講師に「新春文化講演会」の開催、2月のふれあい文化祭(作品展やバザー等)、子どもたちも参加の囲碁将棋大会、土曜寺子屋。また、21世紀のカウントダウンには真冬の花火大会も実施した。運動会はじめスポーツ行事にも地区総参加で楽しむなど、活発なコミュニティ活動を展開している。


川はふるさとの財産

 平成2年、県、土地改良区から灌漑排水事業でコンクリート水路の改修計画が示された。一部の住民は「農業後継者もいないので、管理しやすいコンクリートでいい」と発言した。しかし、多くの住民は「この自然豊かな川を守ろう。草刈りや清掃は農家だけでなくみんなでやろう」とコンクリート派をなだめた。
 地元がおこなう管理の心配は年配者が多く自然派は若手で、激しい議論もあったが、何度かの夜更けに及ぶ話し合いで、「心に刻まれた川を次の世代に残そう。それが大深沢の財産なんだ」と意見の一致を見ることができた。
 一頃の夕は、ほとんどの農家が牛の「川冷やし」に集まり、人と牛のひとときの憩いの場であり、子どもは毎日ざっこ捕りに明け暮れた。
 農業や水環境が大きく変わり、かつての川の風情は少なくなったが、川が醸し出す潤いと郷愁を想わせる音は昔も今も変わらない。
 この環境をふるさとの財産とすることに地域は頑なにこだわりつづけることを選んだ。


対案として地元案を提案

 「反対だけでは、後ろ向きだ、対案を出そう」と専門知識も技術もない素人の手作り設計が始まった。流れ、瀬と渕、水生生物の生息域、橋や渡り石そして滝の創出などさまざまな案が白紙に落とされた。しかし、灌漑排水事業としての基準からは相反するものとなり、起業者からはまったく相手にされなかった。「目的が違う」「流れの力学に反する」「金がかかりすぎる。第一そんな構造に予算などつかない」などと一蹴され続けた。
 しかし、「ここは正念場。今引き下がったら後世に申し訳ないものを残すことになる。事業期間はまだ十分ある。きっと河川環境への理解は広がる」と、自信のない期待を持って、起業者には一方的に工事を強行しないことを約束させて長期戦の腹を固めた。


実った願い「生命溢れる川づくり」

 灌漑排水事業の終期が迫ったことから、平成9年に協議再開の申し入れがあった。しかし、依然として変わらない姿勢があったことから「地元から工事をしてほしいと言ってるのではないので、提案がダメならそのままにしていてほしい」と工事計画の白紙撤回を主張した。
 起業者は、計画した事業を取りやめできない事情があったことから、急転して地元案を受け入れることとなり、足掛け11年にわたる問題が解決することになった。この間、住民の乱れはひとつもなくそれらが息の長い戦いの力になっていたことを確信した。
 その後、近隣の河川改修計画に、当地区の活動を活かしたいと委員に招聘されるなど、点から起きた活動が波紋のように大きな広がりとなっている。
 平成13年7月、自然に親しめる「大深沢水園」が完成し、喜びの竣工を迎えた。故郷大深沢川約300mにわたる両岸の芝生、石畳風の遊歩道・憩いの空間、魚巣ができる水路工法等々。運動を始めて10年余。未来に引き継ぐ地域のあり方について、真剣な議論を重ね智恵を出し合い創意工夫をこらし、地域提案型の川づくりは、住民自らが学び、行政との協働のふるさとづくりともなった。


新しいコミュニティステージと愛称

 豊かだった川の自然は、上流での流水の制御や流入する支川、堰の水路化により水量がめっきり減ったことや、汚水の流入等により魚類など水環境に生息する生き物が少なくなっていることなどから、地域の人々の意識も次第に薄くなっていた。
 しかし、この改修事業により、忘れかけていた地域環境のことを改めて考えるきっかけになった。
 川を考えるグループが立ち上がり、声かけ一つで、ほとんどの世帯から清掃や植栽作業あるいは地域行事に出るようになった。
 地域に新しい動きが出てきたことから川の愛称を広く募った。一般、小学生から95点の応募があり、小学生の作品「大深沢水園」を採用し、活動グループの名称ともした。


自然再生、憩いの場に

 「ホタルは清流が大切、再びホタルの住める川にしよう」とホタルの餌のカワニナ、源氏ホタルの幼虫100匹も放流された。6月、大深沢川沿いは、夜になると無数のホタルが飛び交い幻想的な光に包まれる。町内会のホタルパトロールもでき、「ホタルを見る会」も開催された。ふるさとの川の再現を願い、ホタルとともに子どもたちでコイ(130匹)も放流した。住民の笑顔が輝き懐かしの話題が盛り上がり、親子で遊べる川になった。


「大人になったときの思い出に」と記念植樹

 地域型「ふるさと川」の完成と自分たちが大切に守るふるさとの川の象徴として13年7月、大深沢川遊歩道に桜の苗木を記念植樹。子どもたちも一緒に作業に汗を流し、大人になったときの思い出に、そして、ふるさととのつながりをいつまでも大切にしてほしいと願った。


川魚のつかみ捕りに歓声

 秋、10月大深沢水園は、子どもたちの歓声で賑わった。水路をせき止めニジマスつかみ捕りをおこなった。台風6号の被害箇所を補修・土砂清掃後につかみ捕りを開催。ニジマスを追う子どもたち、見守る親たちの応援の声かけと地区の真ん中を流れる川は地区のコミュニティガーデンともなった。


住民の語り合い、交流のステージ

 手づくりの「大深沢水園」には、住民が個々に持ちよったアヤメが川原を飾り、中央には花壇もでき、水沢市の花壇コンクールにも参加するなど美化運動にもつながった。川原の草刈り、花壇の植栽、除草作業など町内みんなが集い汗を流し、語り合い、交流のステージにもなった。
 川の上流地域との関わりもでてきた。行政区域を越えて汚水処理やゴミ問題など上流・下流の協調・協働を強めていくことも話題となっている。


児童の環境学習等にも一役

 地元小学校児童が自然・川の観察に訪れ、水底生物の観察記録もしている。また、保育園児の散歩コースとなり、安全な造り・草地の感触・水とのふれあいなど幼児の心と身体の発達に最適と喜ばれ利用されている。


新たなコミュニティ創出の大深沢水園

 せせらぎコミュニティ公園「大深沢水園」は、住民の心を一つにし、コミュニティの絆が一層強まった。春の花壇づくり、草刈りボランティア。夏はホタル狩り、川端談議、ミニビヤガーデンとなる。秋は、トンボ飛び交う中でざっことりや塩焼き。
 子どもたちは外に出るようになった。子どもたちの歓声が響き、学校の学習、環境保全、住民のふれあいステージとして川にこんなにも強烈なインパクトがあることを改めて知ることとなった。また他地区からの視察も増えるなど、新たなコミュニティ創出の大深沢水園として地区民は熱い思いに輝いている。