「ふるさとづくり2002」掲載
<集団の部>ふるさとづくり賞 振興奨励賞

泳げる中海を取り戻すには
鳥取県米子市 彦名地区チビッ子環境パトロール隊
はじめに

 私たちが幼い頃生活の現場であった「中海」が富栄養という成人病に苦しんでいる。放っておけば合併症にかかり、やがては死に至る。この汚濁の最大原因になっている生活雑排水について、汚濁原因者であり加害者である私たちが水環境の保全に一層関心を持って水質浄化実践活動を行うことが重要である。


活動の目的

 私たち中海湖岸流域の住民は、生まれてから今日までずっと中海の近くに住んでいる。昭和20年代末までは、この中海で夏には毎日真っ黒になって泳ぎ、青竹の釣り竿でセイゴ、メバルなどが面白いほど釣れ、海草や貝もたくさんとれた。しかし、このような中海も昭和30年代の初期の頃までで、それ以降は水が少しずつ汚れてきて水泳も出来なくなり魚介類や海草類も少なくなって40年代には汚れが一層進み、50年代には赤潮が多発、汚濁がさらに悪化した中海になってしまった。
 社会経済の発展、生活文化の向上は、私たちが想像もしなかった短い期間で先祖から受け継いできた貴重な財産である天然汽水湖中海を蝕み続け、知らず知らずのうちに汚してしまった。改めて私たちはこの湖の大切さを知らされ、今や中海の水質浄化、水質保全は、この流域住民全ての願いとなっている。このような現況にあって、私はこれまで誰でもちょっとした気配りと工夫で出来ることを単に問題提起だけで終わらせてしまいがちであった反省から、具体的な実践活動としての「泳げる中海を取り戻すには」の運動を次代を担う子どもたちと行動を始めた。


活動の概要

 次代を担う子どもたちと「泳げる中海を取り戻すためには」をキーワードにしてチビッ子環境パトロール隊を編成、町内の環境パトロール、生活雑排水浄化に関する親子勉強会、中海湖上観測、メダカ探検等の各種実践活動を行いその結果を手作りの環境に関する広報誌「中海」等で紹介。地域住民と一体となって環境を基軸にした地域活性化の取り組みを展開してきている。
 以下に示す事項についてチビッ子環境パトロール隊として問題提起をし、行政・企業・住民の多くの皆様の協力を得て実践中。

1.チビッ子環境パトロール隊の編成(町内の環境美化清掃パトロール…春、夏、冬休みの日曜日実施)
 平成2年より町内の環境問題に関心のある小学校5〜6年生10名前後のメンバーを編成、町内の生活排水路、農業用水路、道路、側溝、中海沿岸等について「空き缶、空き瓶等のポイ捨てはないか」「魚は泳いでいるか」「小川にヘドロの堆積はないか」など20のチェック項目について1項目5点(合計100点満点)で採点。パトロール結果を自治会の皆さんに発表報告、水環境の改善を呼びかけている。サポーターとして指導している。毎年5月メンバーを新規編成。以下のことを行っている。
(1)生活雑排水浄化実験学習・勉強会
 生活雑排水の浄化、実践活動を出来る限り多くの家庭で行ってもらうためには、実際に台所排水を使用し、手軽にできる浄化方法を実験を通し視覚で確認理解していただくことが重要。この観点から台所排水浄化実験装置を試作、汚れた食器の拭き取り、パンストによる台所排水の浄化効果など学習会や講演会などの出前講座を開催し、親子勉強会を通し家庭ぐるみで実践している。
(2)エコクッキング教室への参加
 だしを取った煎り干し、大根の葉っぱ等これまで捨てていたものを使って料理を作ってゴミの発生を少なくする。と同時に料理を通して環境の問題を考えてみる。
(3)中海の湖上観測・水質調査
 中海の汚濁状況を船上より五感で体感し現状を把握する。
(4)メダカ探検隊の編成
 絶滅危惧種メダカの生息調査。

2.環境新聞「中海」の発行(毎月1回発行)
 平成元年11月初刊(平成13年11月現在170号)「中海の水質浄化は台所から」をモットーに中海の水質浄化問題を重点に置いた水環境に関する手づくりの広報誌。小学生から年配の方まで気軽に参加出来、読めるように写真やイラストをたくさん入れて工夫、特に次代を担う小学生の活動を多く紹介している。B4判両面印刷、1回/月1500部発行、町内全戸配布している。

3.廃パンストによる微細食べ粕の流出防止作戦の展開。(各家庭で実践中)
 破れてはけなくなった廃パンストの腰の部分を股下5cm位に切って結ぶ。結んだ部分を下にして台所の三角コーナーに被せる。また、足の部分は10〜15cmに輪切りにし、その片方を結び、結んだ部分を下にして流し台の総合排水口のバスケットに覆い被せ微細食べ粕の流出防止を行い水質浄化を図る。レジュメを作成して全戸に配布、実践していただいている。


活動の必要性

 先祖代々の人、私たちの先人や先輩が何百年、何千年も守り続けて来た天然汽水湖「中海」を私たちは、たったの30年から40年ほどで今それを台無しにしようとしている。私たちは昔のような「きれいで泳げる中海」「魚介類がたくさんとれる中海」「水辺がきれいで親しめる中海」すなわち、「中海の昔の原風景」を取り戻し私たちの子孫に引き継いでいく責務がある。それには中海の湖岸流域に住む全ての人が参画して手軽に出来る台所等から排出される生活雑排水の浄化実践活動に取り組むことが最重要。


活動の効果・社会への波及効果

(1)チビッ子環境パトロール隊編成後中海の水質浄化実践活動、意識啓発活動を通じ各種問題提起を行ってきた。地域住民は「中海」が固有の財産であること、従って水質浄化の実践活動が重要であること等「中海」に畏敬の念を持って対処する人が増えてきたと思う。行政の施策と相俟って汚れの進行に歯止めが出来たと考える。
(2)水質浄化に関する手作りの広報誌「中海」の発行、環境問題に関する学習会を通じ環境に関し加害者意識を持つ、やさしい心配りを持って対処する人が増え環境を基軸に地域の活性化につながった。


活動を実施する上での留意点

(1)子どもを巻き込む…メダカ探検隊、チビッ子環境パトロール隊等次代を担う子どもたちを巻き込んだ中海湖上観測、水生生物観察、水環境保全の取り組みは、お父さんお母さん、地域の人も一緒になって真剣な眼差しで環境問題に取り組むことが出来る。
→家庭や地域の活性化につながる。
→パートナーシップの取り組みが出来る。
(2)五感による取り組み…「中海が汚れている」といっても外から眺めていただけでは何もわからない。しかし、たとえば船で中海に出て各地点(ポイント)の水を深さ方向、広がり方向で採水して色、味、臭いの観察をしたり、海底のヘドロを採泥、同様の観察をして水の汚れの状況を知る。
→その結果何をなすべきか改善の方向につながる。また、台所排水の浄化実践活動は、試作した排水浄化実験装置でその効果を視覚で確認し、理解をしていただき実践をすることにより改善につながる。
(3)広報誌「中海」の活用…町内外の全ての階層に登場していただき水質浄化の取り組み等の意見を述べていただき環境改善の意識啓発を図る。


活動の今後の計画

 (1)メダカの楽園整備…環境庁が絶滅危惧種に指定したメダカについて米子市内の遊休地を利用して市民・行政・企業の三者がそれぞれ得意技を出し合って市内にメダカの住める環境整備(メダカ1号池)を行いたい。幼い子どもたちからお年を召された方まで気軽に足を踏み入れることの出来るメダカの楽園の整備を図る。
 環境教育・学習の場として活用できるようにしたい。


おわりに

 21世紀は、私たちの時代である。『継続は力なり』をモットーに「泳げる中海を取り戻す」ために次のことを実践していく。
1.資源を大切にし、環境問題に関心を持ってリサイクル運動に協力する。
2.環境に対して加害者意識を持ち、やさしい気配り、心配りをする。
3.環境に良いことは自分だけにとどめず友だち、近所の人、親戚の人等に呼びかけ協力してもらい運動の輪を広げていく。環境をよくするのも、悪くするのも私たちの腕次第だから。