「ふるさとづくり2002」掲載
<集団の部>ふるさとづくり賞 振興奨励賞

都市・農村の交流による地域の活性化
京都府大江町 棚田農業体験ツアー実行委員会
はじめに

 京都府北部4市に囲まれた人口約6000、面積96・8km2、北に「♪むかし丹波の大江山鬼ども多くこもりて…♪♪♪」と小学唱歌に唄われた鬼伝説で名を馳せた大江山連邦をいただき、町の中心を由良川が還流し若狭湾へと注ぐ。高齢化率は34%を超えているこの町が大江町。この町は昭和57年から開催の「大江山酒呑童子祭り」に始まり、「日本鬼学会」の発足、日本の鬼の交流博物館、駅前の鬼瓦公園等々の整備を行い、鬼伝説を活かした個性ある町づくりで町の活性化を図ってきている。この大江山連邦の麓にある戸数14、人口40、高齢化率が40%を超える小さな集落が毛原である。今、この集落が起業誘致と『棚田』の地域資源を活かし大きく変革しようとしています。


経 過

 毛原地区は古くから米作りを中心に生計を立ててきており、標高約100mから200mにかけて等高線状に広がる棚田が1000枚近くあり、山の尾根近くまで水田が耕作されていました。このため、灌漑用水が不足し水利権をめぐって幾度となく騒動が起こったと言い伝えられています。また、保水性がある土質できれいな谷水と気象条件がよく合い味の良い米が生産され、寿司米として取り引きされた経過があり、美味しい米の伝統は今も引き継がれています。
 しかし、棚田での米作りは農家の重労働により支えられてきたものであり、昭和40年代の国の減反政策と農家の高齢化が進むなか、この20数年間で水田は保全管理という名の農地の荒廃化が著しく進行しています。
 こうしたなかで、地元では今のままでは農業が出来なくなり、集落の存続さえ困難になるとの危機感から、農地の基盤整備をして省力化を図ろうと幾度も会合を開いて協議を重ねるが、地理的条件が悪く事業コスト高、灌漑用水の不足、換地の問題等々多くの困難な課題を抱えるなか合意に至らず、逆に区民の間での確執が深まり、基盤整備事業は断念せざるを得なくなりました。


活動の展開

 年号が昭和から平成に変わってから間もなく、国の農業関連の政策が従来の行政主導の事業から地域の特色を生かした個性ある住民主体の事業への支援へと転換されてきました。

◇将来構想の提起
 平成8年に町行政が「毛原地区の農業・農村活性化について」の将来構想を提起しました。その内容は、農村の原風景である『棚田』を活かした将来構想で、
1.新しい農村文化の構築。
2.棚田の農村景観の保全。
3.農家所得の向上。

◇実行委員会の設立
 これを受けて毛原区では、幾度も協議を繰り返えすなかで決断したことはハード事業で「ふるさと水と土ふれあい事業」による農作業の省力化と農村原風景保全、ソフト事業で「棚田農業体験ツアー」「棚田オーナー制度」の実施による都市農村の交流事業の実施による集落の活性化であります。
 この取り組みについては、毛原区の集落規模、内容から判断して実行委員会方式とし、地元『毛原区』、『緑と伝説の大江塾』、『大江で地酒を造る会』、事務局として『町行政』が担当することにし、地元は受け入れ態勢と農作業の指導、緑と伝説の大江塾は交流会の運営、大江で地酒を造る会は酒米づくり、町行政は事務局として情報発信にと参加した各団体の持ち味を生かした取り組みをしています。

◇棚田農業体験ツアー始まる!
 平成9年に第1回棚田農業体験ツアーを開催。5月の田植えには、会員28組(約50人)、国際交流の12人、実行委員会30人、加えて大学生のワークショップ12人合わせて100人を超える参加のもと、毛原区始まって以来の大イベントとなり、田植え、サツマイモの苗さし、餅つき、棚田散策、究極は地酒『大鬼』、山菜料理を食べながら交流を深めました。
 9月の稲刈りは、あいにくの雨降りとなりずぶぬれになりながらの稲刈り、稲架け作業となりましたが、最後までみんなで協力してやり遂げました。参加者はこの作業を通じて農業の難しさ、大変さを感じました。また、10月の運動会ではスポーツ、レクリエーションを通じて楽しく交流を深めました。
 この1年間の交流のなかで参加者からは、「棚田を是非とも守っていこう!」、「毛原の棚田で米作りをしたい」との要望があり、地元で受け入れを協議することになりました。

◇棚田オーナー制度始まる!
 平成10年に第1回棚田オーナー制度を実施。休耕で荒廃化が進んでいる不在地主の水田を借用し、5組を募集した結果ツアー参加者の4組と他1組に決定。
 地元役員とオーナーがスケジュール調整をしながら、荒耕し、代掻き、田植え、草刈、除草、稲刈、もみすりなど一連の農作業をオーナーが主体的に行い、地元は農機具の準備、農作業の技術指導を行うものです。
 しかし、休耕水田の復元、週末農業、天候、猪害などの悪条件のなかでの農業は、思うようにはかどらず、収穫は目標を大幅に切る減収となってしまいました。反省会ではオーナーからは不満の声もありましたが、試行錯誤のなかこの厳しい現実、試練を乗り越えて、電気柵の設置、灌漑用水路の整備、作業技術の習得など一歩一歩目標に近づいており、現在は5〜6組のオーナーを受け入れて実施しています。

◇企業誘致の取り組み
 平成8年に近隣の起業者から「イタリアンレストラン・結婚式場を建設したいが良い場所がないか」との照会があり、これを受けて休耕水田、荒廃地の活用が出来、集落が活性化するのならと、地元では前向きに協議を進めることにしました。しかし、地元外から風俗関係では? ホテルで風紀が乱れるとか憶測が乱れ飛び混乱しました。その後、数回に及ぶ起業者等との話し合いの末受け入れを決定しました。また土地の確保、契約等について地元役員が調整にあたりました。
 平成9年10月にイタリアンレストランOZ(オズ)・結婚式場がオープンし、自然豊かな農村空間にマッチした施設が好評で京阪神からの利用者で賑わい、多くの新婚カップルが誕生しています。

◇整備構想の策定
 地元企業(レストランOZ)、地元区民、京都府・町行政の三者が中心となりグラウンドワーク事業を取り組み、毛原区の地域資源の再発見と将来構想についてのワークショップを実施し、将来構想とマップを作成しています。
○スローガン『みんなで考え・みんなで守ろう―毛原の棚田―』
1.棚田の農村景観の保全(ビオトープ池、散策路、展望台の建設)
2.美しい村づくり(花いっぱい運動、草刈)
3.交流事業の発展(農業体験ツアー、オーナー制度の取り組み)
4.生産事業等(地域特産物の生産、販売、起業家の誘致)

◇ビオトープ池の建設
 まず、整備構想の実現にむけて、平成13年から休耕水田4aを借り受けてビオトープ池の建設に取り組んでいます。事業費は約50万円で材料は出来るだけ安く調達し、区民のボランティアによる手造りで実施しています。完成一歩手前で水漏れがあり手直しで苦闘しましたが、何とか春には完成させました。本年の5月12日の体験ツアーに参加した子どもたち40人が魚釣りを楽しみました。今後はトンボ、メダカ、タニシ、蛍などの生態が直に観察でき、子どもたちの交流の場として一層活用できるものと期待しています。

◇棚田写真コンテストの開催
 平成13年に農業体験ツアー5周年を記念して、毛原の棚田、イベント、農作業など写真をとおして広く情報発信をしようと『毛原の棚田写真コンテスト』を開催することになり、本年2月末まで募集したところ、カメラマンの視点から捉えた素晴らしい作品約203点が寄せられました。これらの作品は展示会の開催とあわせて今回新たに作成した毛原地区の紹介パンフレットやHP、広報チラシ等に活用し積極的にPRしていきたいと考えています。


活動成果と到達

◇継続5か年の総括
 手探りのなか右往左往しながらの5年間でしたが、これらの取り組みは関係団体、ツアー、オーナーの皆さんのあたたかい励まし、支えがあってこそ継続できたと確信しています。これら一連の取り組みのなかで平成12年に新規就農者(定住)1家族を迎え、また本年新たに1家族が就農予定であり、毛原区は着実に活性化しつつあります。区民の意識も大きく変化し、以前と比べて地域に誇りが持てるようになり確実に元気になっています。
 体験ツアー、オーナー制度の取り組みは、区民のなかにはマンネリ化の声もありますが、マンネリ化を克服し、継続することの重要性を認識していくことが本当の"力"になると確信しています。
 今後も毛原区は地元企業とも連携し「整備構想」実現に向けて一丸となって取り組んでいきたいと考えています。
 しかし、1年1年高齢化により労働力の確保が困難になってきていることから、減反問題の解決、オーナーの自立、新規定住者、ボランティアの受け入れ等が大きな課題となってきています。京都府・町行政の支援をいただくなか、実行委員会を中心とした組織の拡充とHPの開設等による都市住民への情報発信と応援団の広がりを作っていきたいと思います。