「ふるさとづくり2002」掲載 |
<集団の部>ふるさとづくり賞 振興奨励賞 |
市民が育てる緑の釧路 |
北海道釧路市 「緑いっぱい市民運動」世話人会 |
冷涼で樹木が育たないといわれている釧路市を緑豊かな街にしようと市民が立ち上がり「緑いっぱい市民運動」世話人会が発足して今年で32年になりました。この間多くの市民がこの運動にたずさわり緑の街づくりに果してきた経緯を振り返り、これからの運動の展望を考えてみたいと思います。 「緑いっぱい市民運動」世話人会の発足 北海道東部、東経144度22分、北緯42度58分に位置する北の都市釧路。この街で今から32年前に、緑を育て豊かな街にしようという人々の情熱が大きなうねりとなって市民運動に発展していきました。 戦後の経済高度成長期に釧路でも街の都市化が進み、丘陵地の樹木も多くが伐採され、宅地や工場に変わっていきました。全国的な都市化の波は釧路にも例外なくやってきたのです。一度壊れた自然はなかなかもとには戻りません。 そして、釧路の気侯は、寒流の影響で夏でも気温が低く寒冷湿潤であり、冬も降雪が少なく、平地は泥炭地であり、緑を育てるのに困難な状況にあります。そのため、釧路は「緑のないまち、緑の育たないまち」と言われるほどでした。 そうしたなかで、それまで釧路に緑を取り戻そうと活動をされていた方々が、釧路に緑化運動を立ち上げ、それも市民自らの手による運動として継続しようと立ち上がりました。これに、市の関係者も加わり官民一体となった全市的な運動に発展していくことになったのです。 昭和46年2月に市民有志のもとに、企業、官庁も加わり「緑いっぱい市民運動」世話人会が結成されました。そして、同年4月市中心部商店街の広場で市民が集まり「緑化宣言」が行われ、「市民が育てる緑の釧路」のテーマスローガンのもとこの運動の100年継続を力強く決意しました。 運動の名称に「市民運動」とか「世話人会」を取り入れたのは全国的にもユニークなものでした。この緑化運動を市民自らの手で推進しているんだという意識を持ってもらい、世話人会はそのお手伝いをするという考えでした。 運動をより強力に推進することを目的に四つの部会を設けました。 ・総務部会―行事及び事業など運動全般に関すること。 ・企画部会―緑化に関する長期ビジョンに関すること。 ・調査研究部会―郷土に適する樹種、花の調査及び技術的研究に関すること。 ・啓蒙事業―緑化思想の啓蒙宣伝並びに事業活動のPRに関すること。 次に掲げる世話人会設立趣旨には当時の市民の願いがよくあらわれています。 「緑いっぱい市民運動」世話人会設立趣旨 釧路市は「緑のないまちです、緑の育たないまち」とも言われています。本当にそうでしょうか。往昔の写真などを見ると、山の手の高台から春採湖畔、緑ヶ岡一帯にかけてはうっそうとした豊かな森林におおわれていたことが、はっきりわかります。 近年の急激な都市化のなかで、徐々に緑が失われていったに違いありません。しかし、生活環境の回復と自然との調和は、公害問題一般への強い関心とともに現代の急務といえます。その最も重要な部門に、都市の緑化をあげることができるでしょう。緑の豊かな街づくりを通して、私たちは次代への市民としての誇りを引き継ぐ責任があります。 このような考え方にたって、いま私たちは、「緑いっぱい市民運動」を展開することにしました。時間のかかる、根気のいる、そして情熱を必要とするこの運動を通して、5年後、10年後、100年後の釧路市を、すばらしい、住み良いまちに仕上げようというものです。 多くの市民の積極的な参加とご協力を願って止みません。 「緑いっぱい市民運動」の展開 この運動に多くの市民が参加してもらえるよう緑のパレードを実施したり積極的にPRする一方多くの市民、学校、団体、企業の参加があり、市民運動として大きく拡がっていきました。 活動の内容 ・市民の花の公募による選定(キンレンカ)・運動のマスコットソングの作成・NHKの園芸講習会・会誌の発行・移動園芸市・「釧路の園芸」発行・様々な植樹活動(モデル学校緑化、モデル地域緑化、職場みどり宣言、釧路駅前の「風雪の木」イチイの植樹など)・植樹祭(年2回、市民、学校、団体、企業など幅広く参加)・フラワー通りづくり(花の種子の無料配付)・コスモス街道づくり・チューリップいっぱい運動など このように様々な活動を実施していくなかで、釧路の春を告げる鶴ヶ岱公園のチューリップフェアや秋のコスモスフェアヘと発展していったものもあり、緑の街づくりが故郷の街おこしへとつながっていきました。 運動の草創期の集大成として発足10周年記念事業で、ぬさまい公園の斜面に当時日本一といわれた直径10mの花時計が建設されました。これは、世話人会が中心となり市民からの多くの寄附と市の協力を得て実現したもので、今も、釧路駅前の北大通りから幣舞橋の向こうに見ることができる、釧路のシンボルとして、春から秋への街に彩りと潤いを与えています。 平成2年には20周年を迎え、柳町公園に釧路八重ザクラ、エゾヤマザクラ720本を記念植樹し、多くの市民が集い式典を行いました。 一昨年の平成12年には30周年を迎え、鳥取ドームで「グリーンフェスタ」を開催し、講演、展示会、フリーマーケットなどの催しに多くの市民が参加しました。また、市民や団体で作った花壇を紹介するフラワーマップと緑化活動を行っている市民・団体を紹介するカイドブックを製作発行しました。 「緑いっぱい市民運動」の現状と展望 世話人会の発足以来30年余りを経て、釧路の街並みにも見違えるほど緑が増えました。多くの市民や団体が毎年根気強く緑化活動をしてきた成果です。植樹祭、フラワー通りづくり、花壇コンクール、チューリップフェアなども毎年開催され、市民の行事として定着してきました。また、植樹活動や花壇づくりを行っている市民・団体の数も発足当初よりもかなり増え、それぞれの家庭、職場、地域で活躍されています。しかし、一方ではまだ本州方面から釧路を訪れる人から見れば本州の都市に比べ緑が少ないと映るのも現実です。また、花や緑の愛好家が多くなり、生活環境の中の花や緑に対する関わり方が多様化してきているとともに、都市化された生活に対して自然とのふれあいの大切さが再認識されてきています。 今後、当世話人会は緑化団体・個人のネットワークづくりを通して活動の輪を拡げるとともに、花や緑に対するニーズが多様化してきている現状に対応する新たな事業の展開と組織の見直しも必要になってきています。 釧路にも春採湖畔や武佐のようにうっそうとした森が残っています。30年の年月は緑化の大きな流れの中ではまだ始まったばかりというべきかもしれません。市民の緑を守り育てる願いを結集し「緑いっぱい市民運動」をさらに拡げていくことによって、寒冷地の釧路も緑豊かな都市といわれる日が来ることを願って止みません。
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