「ふるさとづくり2002」掲載
<集団の部>ふるさとづくり賞 内閣官房長官賞

実践してみよう!地域と世界をつなぐボランティア活動を
栃木県栃木市  栃工高国際ボランティアネットワーク
地域活動の中で培われた国際化

 本校は、工業高校の特色を活かした活動を、地域とともに「学社連携」の中で展開してきている。その間、県立栃木養護学校や地域の福祉施設、老人ホームを始め、小学校や中学校などとの交流活動及び工業高校の特色を活かした、福祉機器製作活動を推進し、養護学校や地域の福祉施設に多くの介護自助具を製作してきた。これらの活動は、同窓会、PTAなどの支援のもと市社会福祉協議会、栃木西ロータリークラブ、国際ソロプチミスト栃木、「ウエルフェア会」(OB会)、「アジアの問題を考える会」(代表・泉田スジンダさん)など、地域の福祉関係団体や個人支援ボランティアの方々の支援を受け、「学社連携」の中で展開されてきた。
 また、関東甲信越の病院や福祉施設、各市の社会福祉協議会、個人の方々などから寄贈された中古の車椅子を、工業高校の特色を活かした技術をもって修理し、タイ、フィリピン、スリランカ、台湾、韓国などの東南アジアを中心とした国々や、ケニア、ザンビア、ボツワナ、ウガンダなどのアフリカの国々へ寄贈する活動を展開している。この活動を、日本のNGOが航空会社の協力をえて寄贈先の国々のNGOに届けてもらうので「空飛ぶ車椅子」と名付けている。2001年6月現在までの寄贈台数が19か国1200台に達している。この中古車椅子の修理活動はリサイクル運動とも結びつき、平成10年度に全国リサイクル協会より、「リサイクル協会賞」を受賞している。これらの生徒たちの活動は、前述の支援団体を始め、生徒たちの技術指導に当たってくれている個人支援ボランティアの方々などが、継続的に支援してくれていることによって成り立っている。まさに、本校の活動は、長年にわたる「学社連携」の中で継続されていると言える。以下、その実践的活動について述べていきたいと思う。

(1)手をつなぎ共に生きる社会

 わが国における国際化にあわせ、高齢化、地域で私たちと生活をともにする、外国の人々の、就労や住居、結婚などにおいて人権に関わる様々な問題が起こっている。また、高齢の「独居老人」の数が増加しており、これからの社会では、介護や、社会における生活などの問題も多くなってきている。これらの人々と「思いやり」の気持ちをもって交流「手をつなぎともに生きる社会」の構築が求められている。
 つまり、その中で私たちに求められているものは、国籍や文化の違いを越え前向きに外国の人々の持つ文化や多様性を受け入れるとともに、高齢者の方々も含めて、私たち一人ひとりが「相手への思いやり」を忘れずに、隣人として助け合いながら生活していくということを認識し、さらに互いに畏敬の念を持って交流することが求められている。
 このような理念を実現するためにも、学校と地域が密接に連携を取り合う「学社連携」を基盤とした活動を展開することや、その活動が地域だけに止まらず、活動を通して世界を見つめていけるような広がりをもつ「内なる国際化」を育成することが必要である。このことからも、本校のタイボランティア活動が、最適のものであると考えられる。

(2)本校のボランティア活動

 本校の国際交流活動としての「タイボランティア活動」は、一地方都市の何のネットワークも持たない状況下で、本校の創立30周年記念事業の一環として始められた。それまで地域の福祉施設や、養護学校、ロータリークラブ、ソロプチミスト等の協力を得て7年間にわたって培ってきた「学社連携」の輪を広げ、社会福祉法人全国社会福祉協議会国際部が企画している「アジア社会福祉従事者研修者(タイ、フィリピン、スリランカなどアジアの5〜6か国から留学生が来日し、1年間日本の福祉施設で研修する制度)」の協力を得ることとした。さらに、活動内容はタイ王国の障害者施設で工業高校生が身につけた技術を活かし、壊れた車椅子の修理活動を行うこととして開始された。
 活動開始当初、高校生の国際交流研修地としては欧米訪問研修という風潮が強く、協力依頼に訪れた国際協力事業団や青年海外協力隊事務所訪問では、本校の計画に概ね賛同は得られたものの、世相として中東における湾岸戦争の危機もあり、全面的な支援、協力を得られるまでには至らなかった。このような状況は、協力依頼に訪れたどの機関でも同じであった。まさに、東南アジア諸国は国際交流並びにボランティア活動として訪問するのには、近くて遠い国の一つであった。
 しかし、地域の協力団体やPTA・同窓会・タイのNGOの協力により、第1回を1991年2月(滞在日程8日間)に開始してから、2002年の活動で、13回(13年目)を迎えた。この間、地域にあっては「学社連携」の輪の広がりを推進し、国際的にはタイのNGOの協力により、東南アジア諸国にネットワークの輪を広げることができた。生徒たちの心に「内なる国際化」を育成する上で大きな役割を果たしている。
 現在、本校のOB、市社会福祉協議会を始め、ロータリークラブ、ソロプチミスト、養護学校、福祉施設などや、日本国内のNGOを始め、東南アジア(タイ、フィリピン、スリランカ、他)やアフリカ(ケニア、ウガンダ、ザンビア)などにネットワークを持ち、市教育委員会や地域の支援団体の協力を得て、市内の小、中学校に、生徒たちの体験を、報告会や交流会を通して体験談を伝えるとともに、小中高合同で東南アジアへ車椅子やジャージや運動靴を送る運動を展開しており、「栃工高国際ボランティアネットワーク」の活動の輪は、さらに大きな広がりの輪を見せている。
 生徒たちは、これらの活動の中から「互いを思いやり、理解し合うことの大切さ」や、「手をつなぎ、ともに生きることの大切さ」を身につけるとともに、地域の人たちのさまざまな支援活動があってこそ成り立つ活動であることを、体験を通して学んでいくのである。
 まさに、「学社連携」の大切さをこの活動の中に見ることができる。


OBたちとの交流活動

 本校在学中にタイのボランティア活動を経験したOBたちが卒業後、市内のボランティアグループ「わたげ」に所属し、活発に活動していた。しかし、自分たちの技術を活かし、障碍者の方たちに役立つ「物作り」がしたいとの目的から「栃工高ウエルフェア会」(OB会)を結成し、今年で8年目になる。彼らは、生徒たちでは技術が不足して取り組めない福祉機器の製作や、海外に寄贈する電動車椅子の修理活動を行う傍ら、後輩たちの指導をしている。
 彼らが1年半をかけて修理し、マレーシアのペナン島にある身体障害者施設のアンさん(20代女性)に電動車椅子を寄贈し、その車椅子が故障した際、たまたまグループの一人が結婚することになった。そこで、新婚旅行の行き先を奥さんの協力を得てペナン島に変更し、車椅子を修理してきた。アンさんや家族に大変喜ばれたという微笑ましいエピソードもある。
 OBたちは、機会があればグループでもう一度、東南アジアの諸国に出かけ、ボランティア活動が出来ることを夢見ている。
 このOBたちと生徒たちとの交流活動は、これから学校を巣立っていく生徒達に単なる技術の伝授だけでなく、人生の生き方についても多くの教訓を与えている。


今後の栃工高が目指すもの

 これまでの栃工高の活動は、市内の小中高とのつながりを始めとして、地域の人々や、卒業生、PTA、同窓会とのつながり、そして異国のNGOの人たちとつながりの中で展開しており、文字どおり「草の根」の試みと実践活動の連続であった。
 これらの活動は、「学社連携」の言葉が示すように、上述してきた支援団体が生徒たちと直接、間接に手弁当で支援、交流を図ってくれている多くの人々の協力の上に成り立っている。具体的には、社会福祉協議会やロータリークラブ、ソロプチミスト、養護学校や地域の福祉施設、ウエルフェア会やPTA・同窓会、車椅子を本校に運んできてくれる「アジアの問題を考える会」・国内の支援機関・社会福祉法人全国社会福祉協議会・財団法人日本社会福祉弘済会・アジア、アフリカ諸国のNGO・本校の13年目に入るタイボランティア活動を手弁当で支えてくれているNGOの人たちなどである。
 この18年間「草の根」で築いてきた「栃工高国際ボランティアネットワーク」は、まさに生徒たちとそれを支えてくれる多くの協力団体や個人ボランティアの方々の上に成り立っている活動である。
 従って、「継続は力なり」の言葉をさらに現実のものとしていくためには、次のようなことが大切になる。第一に、活動への参加が日常生活の中で生徒の一人ひとりが、ボランティア活動に積極的に参加し、自分に合った方法を見つけていくこと。第二に、生徒会長を中心に生徒会活動を活発化し、生徒たち自らが指導者の先生と協力し、全校生徒に活動の発信を行い、後輩たちに繋いでいくこと。第三に、地域の多くの人々の協力により、指導者自身がこの活動が「学社連携」の上に成り立つ活動であることを心に止めておくこと。第四に、地域での活動が海外でのボランティア活動の源となること。これらのことを充分認識した上で「見つめよう 地域から 世界を」を合い言葉に「栃工高国際ボランティアネットワーク」を構築していくことが、これからの栃工高が目指す方向である。