「ふるさとづくり2001」掲載
<市町村の部>ふるさとづくり賞 内閣官房長官賞

自然と人情育んだ民話で村おこし
新潟県 赤泊村
6つの柱を建てて

 赤泊村は佐渡の南部に位置する人口約3300の小さな村です。産業は農林水産業が中心で、これといった観光資源や歴史的遺産はありません。しかし、美しい自然と素朴な人情、古い歴史と風土から生まれ、今日まで語り継がれてきた数多くの民話があります。民話は単に懐古的な昔語りでなく、長い時間をかけて工夫してきた村の暮らしや生きていくための戒めなど、先人の知恵を代弁してくれるものがあります。住民共有の精神文化遺産でもあります。また、民話は子どもの心を豊かにし、郷土愛を培い、そしてふるさとを語る人間に育てるのに役立つ有効な素材です。
 これに着目し、昭和63年からスタートした「ふるさと創生事業」のソフト部門で、村民のアイデアから生まれたのがこの「民話の里づくり」でした。特色ある一連の事業としては、次の6つに大別されます。
 1.民話絵本づくり、2.民話の像の建立、3.民話の語り部教室と語り部、4.演劇研究会の結成と民話劇公演、5.御番所太鼓の会の結成と民話創作、太鼓、6.ママさんコーラス「リトルかたつむり」と民話創作曲


絵本づくり

 ひとつめの「民話の絵本づくり」を手掛けた理由は、いくつかのユニークな民話がありながら、親しみの持てる絵本がなかったことです。そして、子どもたちの絵本は郷土の者が作ることで、初めて郷土の文化を共有することにつながることがあげられます。
 平成2年度から6年度までに7冊の絵本と、一般向け読み物「赤泊の民話」1冊を発刊し、いずれも絵は赤泊村出身者(このうち4人は村内在住のアマチュア画家)が担当しました。文は当時の中学校に在籍していた先生が出筆し、それぞれ英訳を地元の高校教諭が付けてくれました。
 7冊の絵本は「八専三郎・土用五郎」「爪の沢蝶ねえ」「悲しい佐渡牛」「天狗塚の天狗」「東光寺の禅達」「腰細の犬」で各2000部発行し、村内の全戸へ無償配布するとともに、一部は有償頒布されています。


民話の像建立

 2つめの民話の像をなぜ建てるのかといいますと、小さな村でありますが、そこに伝わる民話はそれぞれの地域と密接なつながりを持っているのが普通だと思います。そこに、民話の主人公の像などができれば、より理解と親しみが深まり、未来にわたって郷土の自然や風土に溶け込み、住民の心の糧となり、語り継がれていくことが期待できます。また村のキャッチフレーズにも通じ、佐渡観光のテーマパークとしての位置付けにもなります。
 これまでに、建立した民話の像は4か所で、八専三郎・土用五郎の像をみなと史跡公園に、爪の沢蝶ねえを爪の沢キャンプ場内に、泳来母牛(悲しい佐渡牛)の像と騎馬武者(腰細の犬)の像を関係する地にそれぞれ建立し、地域のシンボルとして広く住民に親しまれています。
 平成3年度から6年度にかけての建立にかかった総事業費は1億6200万円になっています。また「川茂の太郎杉」の民話が発展し、現地を調査したところ、太郎杉(古株)が現存することが分かり、その保存館と周辺整備事業に7200万円を投じて公園を整備し、森の生態を今に伝えています。


語り部を育成

 3つめの「かたりベ」の存在は、こうした民話の里づくり事業を進めている中で、平成3年から公民館活動の一環として「語り部教室」を開催したことが発端です。
 絵本を見て楽しむだけでなく「むかし」を語る「語り部」を養成しようというもので、現在30話以上の初段者が3人、2段が2人います。
 いずれも佐渡民話の会に所属し、高段位を目指し修業に努めるとともに「出前語り部」を行うなど民話の伝承に日々奮闘しています。段位制度には初段、2段、3段、100話語りの4段位。2段は60話語れる準師範、3段は90話で師範。最高位の100話語りは最高師範格となっています。こうした活動によって、貴重な民話がひとつまたひとつ掘り起こされ、後世に伝えられています。


民話劇づくり

 4つめの「演劇研究会の結成と民話劇公演」は、民話の里あかどまり事業を推進するうえにおいて、重要な役割を担っています。
 この会が結成されたのは、平成4年2月、県内の地域づくり会議を本村で開催することになり、そこで民話劇を発表したのがきっかけとなっています。同年3月の「蝶の舞」(爪の沢蝶ねえ)を初演に、以降毎年春は「赤泊の民話」を、秋は名作シリーズを題材とした創作民話劇を発表しています。また、民話発祥地の子どもたちが毎回主役として登場し、既に200人余りになり、小・中学校の生活発表会などでの演劇では中心的役割を果たしています。
 特に演劇を体験した子どもたちのほとんどが地元の高校に進学し、郷土の伝統文化を教育に取り入れた郷土芸能クラブに所属し、平成11年度全国高等学校総合文化祭の郷土芸能部門で最優秀賞に輝くなど、6年連続新潟県代表として出場しています。演劇を通した文化活動は、特色ある学校づくりにもつながっています。
 演劇研究会が今まで発表したものは「天狗塚の天狗」「泳来母牛」「八専三郎・土用五郎」「東光寺の禅達むじな」「川茂の太郎杉」「腰細の犬」「ひの木山越え」「浅生の里」の他、木下順二の名作「夕鶴」「彦市ばなし」や「修禅寺物語」などがあります。
 会員は、高校を卒業したばかりの青年から60歳代と年齢層も厚く、また職業は農業・漁業者、会社員、公務員など多彩な顔ぶれが特色で、まさに異業種交流の場となり正会員は50人ほどです。
 この会の旗印は「演劇で村起こし」。村に伝わる民話をキーワードに心豊かな村づくりを目指しています。特に平成7年春の発表は、出演者、スタッフ総勢350人(村の1割)が参加して「春・村人つどいて、民話劇の夜」のタイトルで、NHK衛星放送で全国に放映されました。
 平成5年度と平成11年度には、新潟県異業種活性化センターの「地域活性化大賞奨励賞」を受賞するとともに、平成10年度地域づくり団体部門で「地域づくり自治大臣表彰」に輝きました。
 5つめと6つめに記述した「御番所太鼓の会」(創作和太鼓集団15人)や「リトルかたつむり」(ママさんコーラス16人)も率先して伝統文化の創作活動に取り組むとともに、劇中では効果音やオリジナル曲を発表するなど、佐渡島内外で意欲的に活動しています。


小さな村の発信

 わが村でいろいろな活動の主役は住民です。村民1人ひとりが何らかの形で「民話の里づくり」に携わっています。住民からのアイデアを行政は拾い上げ、それを体系付けて必要な予算を計上するのです。特に子どもから老人会までが参加している「赤泊演劇研究会」を始め村内の自主グループは、新しいものによるものではなく、昔から村にある素材を見つめ直すことからスタートしました。手探りの中、全国の演劇仲間や民話グループヘの先進地視察は、村のふるさと創生人材育成補助事業による財政支援制度の樹立など、住民のアイデアが行政をリードしています。
 小さな村の素人たちでも、自分たちのふるさとを見つめ直し、先人が築いた知恵を活用し、自ら費用の負担もし、実践しています。その活動は佐渡島内へも波及し他市町村の演劇グループの誕生にも大きな影響を与えました。肩肘張らずに、地域づくりを楽しみながら取り組んで目的を実現している住民1人ひとりは、村の宝物のひとつです。
 「物足り過ぎて心足らず」と言われる現代社会ですが、民話の里づくりは行政主導、あるいは住民活動のみによるものでなく、総合計画等のマクロ施策やハード整備については行政、ソフト部門については住民といった両者が対等なパートナーとして役割分担し、協働参画した村づくりは「村を愛する心。人が好き、出会いが好き。楽しむ心、ゆとりの心。小さな成功を重ねる。小さな感動を持つ。互いに元気づける。相手を恐れない少しばかりの勇気。次の世代へつなげる。たまには立ち止まる」をモットーに、地域の将来を見据えた住民活動から新しい構想が生まれてくるものと確信し、新しい郷土文化の創造に向かって、小さな村の発信はこれからも続きます。
 最後に赤泊村長(石塚英夫・7期)の村づくりに対する信条を紹介します。
 「過疎を嘆くだけでは何も生まれない。生まれ住む土地に真に惚れ込み、歩き始める者のみ明るい未来は拓ける」