「ふるさとづくり2000」掲載
<個人の部>ふるさとづくり振興奨励賞

ふるさと賛歌の継承
群馬県千代田町 吉永正一
 吉永正一さんは、小学校の青年教師時代から校長や、教職を退職した後は地域老人会会長などを通して、地域で学童・生徒や高齢者たちとともに、“ふるさと”を劇化上演したり、子どもたちの異年齢集団化や高齢者のふれあい活動を企画・実践し、郷土芸能の復活を働きかけるなど、一貫して『ふるさとの種まき』を続けてきた。


ふるさと「先生劇団」を旗揚げして

 「先生劇団」は、ふるさとを感動的に伝える民話や伝説、人物などを劇化して、子どもたちの前で教師が演じるのである。観客は卒業生を含む全校生で開演を今か今かと待ち受け、出番を待つ教師も緊張の面持ちを隠せない。
 この先生劇団のふるさと劇は、子どもたちと教師や親たちの距離をぐっと縮め、定期公演の形で12年間、吉永さんが退職するまで続けられた。
 「ふれあい活動」もいろいろ企画し、実践してきた。「手作り遊具の集い」では、親子の協同作業で、竹馬や竹とんぼなどをつくり、「子供ふるさと祭り」では、地域で祭りなどが姿を消す中で、各地の祭りを学校に迎え入れるのである。地域ごとに古老から手ほどきを受けた子どもたちが、当日校庭いっぱいに「祭り」を繰り広げて、父母や住民を感激させた。
 各地で持たれている「お年寄りに学ぶ集い」もふれあい活動の一環だ。公民館などで、お年寄りを先生にして、しめ縄や竹細工、お手玉などの作り方と遊び方などを学ぶのである。また子どもたちが、通学班単位の異年齢集団で畑を借りて、苗植えから水やり、除草、施肥までして収穫し「ジャンボかぼちゃコンテスト」などを実施する。近年すっかり姿を消した年齢の違う子ども同士が協同で活動するところに大きな意味がある。


「郷土芸能復活」と「ふるさと野外劇」

 小学校の運動会に、全児童が出演する野外劇を導入した。大事な稲作をテーマに、獅子舞で害虫や風水害から稲穂を守ったという伝説をもとに、豊作祈願と感謝の行事を村人も応援して演じるのである。これをきっかけに、地域の獅子舞が復活し、中・高校生に伝承されている。
 県民文化大学で、「地域の文豪田山花袋を学ぶ」をテーマにして、花袋の作品「田舎教師」の劇化と上演を提案した。中央講師の代わりに、市民で組織する劇団を結成し、花袋作品の上演で講師役をつとめようという企画だ。こうした企画は、吉永さんが青年教師時代からアマチュア劇団に参加していて、そこでの「ふるさと劇」を演じた経験もあったからだ。また、同大学公開講座の市民劇では、吉永さんの学校のふるさと劇「水と緑の物語・大谷休泊」を基にした市民劇第2作で、「次の時代のために、大谷休泊」も上演された。
 定年退職後は、地域の高齢者と現職時代の経験や技術を生かして活動している。ふるさとゆかりの人物を自作自演でビデオ化するのである。「ふるさとのよさを次世代に引き継ぐのは先人の努め」という思いからだ。「亀田鵬齋の影絵劇」のビデオ制作は、すべて老人クラブの会員が出演・分担して完成した。15分の作品は、地域の福祉大会や夏祭りなどで上映されて喜ばれているなど、老人たちは『一郷一学』に励んでいる。