「ふるさとづくり2000」掲載
<個人の部>ふるさとづくり賞 内閣官房長官賞

グランドワークで環境保全をめざして
鳥取県米子市 向井哲朗
 「グランドワーク」とは、地域社会の構成員である住民・行政・企業の3者が一体となって身近な環境を見直し、自らが汗を流して地域の環境を改善し美しく住み良い街づくりをする活動です。「グランド」という生活の場、身近な環境を対象として「ワーク」(創造活動)する、汗を流すということで、生活の最も基本的な要素である自然環境や地域社会を整備・改善していく活動です。
 これまでの地域づくり活動においては、住民や行政・企業などの地域構成員それぞれの要求が対立しがちであり、そのために地域づくりの円滑な推進はややもすると妨げられる傾向にありました。こうしたこれまでの構図を変え、効率的かつ継続的な地域づくりシステムの構築を目指すのが「グランドワーク」です。


使用済み割り箸を製紙原料に

 私たちの究極目標であるゼロミッション社会、その具現化がほど遠い今日にあって、リサイクルを厳守し、出さない工夫と努力することが重要なコンセプトとなります。このような現況の中、私が問題提起したちょっとの心くばり、気くばりできる「環境に優しい暮らし方‐リサイクル生活」を住民と企業(私が勤務する工場)行政が一体となって、これまでの消費習慣を改革しつつあります。
 捨てればゴミ、活かせば資源。1992年7月使用済み割り箸を製紙原料にすることでゴミ減らしを提案。会社のトップの理解があって社員食堂で分別回収することから始めました。地元、皆生温泉の女将さんの協力を得、地域に広がりました。誰でも手短にできるゴミ減らしと、資源を大切にする両面を具備していたことで、学校、自治会、婦人会、各種ボランティア団体、飲食店、ホテル旅館、行政企業など小学生から80歳代の年配の方まで、老若男女を問わずさまざまな人が加わり、この運動の輪が広がりました。使用済み割り箸3膳がA4判コピー用紙または葉書1枚に生まれ変わって日本中旅ができます。
 新聞やテレビ、ラジオ等で大きく取り上げられたこともあって、鳥取県米子発の「旅物語」の主人公「割り箸」は点から線へ、線から面へと紙再生のドラマを演じているような感じがします。使い捨てていた割り箸が紙になって再び役に立つというイメージが大きな反響を呼び、私の手元にはこれまで約1,500通の便りが寄せられています。中でも次代を担う子どもたちから「割り箸回収運動に参加して物を大切にすることを学んだ」「環境に優しい気くばりができるようになった」等心強い便りを数多く頂き大変うれしく思っています。当初、月300キロほど送られてきた箸が今では30〜40倍の10〜12トンに増えました。集めた割り箸の半分が紙になりますので、月5〜6トンが紙に生まれ変わって旅をしています。紙にならない樹脂、松脂、リグニンなど残りの木質は発電用ボイラーの燃料に利用する完璧なリサイクルになっています。
 このような現況の中で、今年8月20日、21日の両日、割り箸運動の発祥の地、鳥取県米子市で「全国割り箸サミット」の開催を企画しました。入場料は使用済み割り箸3膳、割り箸回収活動の事例発表及びパネルディスカッション、ポスターセッション、割り箸入りの紙の原料を使用した手すき体験、工場見学などこの運動に参画している全国各地の皆さんが一堂に会し、資源保全、環境保全について、学び、考え、交流し、割り箸回収運動をさらにステップアップさせ、皆さんに喜んでもらえるサミットにしたいと考えています。


破れたパンストを使って水の浄化

 また川や湖を汚す台所排水を、使い古しのパンストを利用しての水の浄化方法を提案し町民の皆さんに実践していただいています。破れてはけなくなったパンストの両脚部分を15〜20センチに輪切りにし、一方の端を強く縛る。縛った部分を下にして流し台のゴミ籠にかぶせます。腰の部分は股下約5センチに切って縛り、同様に三角コーナーにかぶせ台所の調理くずの流出防止や水の浄化を図ります。自治会や婦人会、学校などに出向き、実際の台所排水で手づくりの浄化実験装置を使って実験し、自分の目でその効果のほどを確認してもらい実践に結びつけています。
 台所の食べかす、調理くず等の生ゴミは肥料として還元し、ゴミの減量化を図っています。飲み残しアルコール、牛乳、ビール、お酒、ジュース等飲んだ後の洗い水やお米のとぎ汁はバケツに一端回収、庭木にまき肥料として還元、そのことにより台所から汚水を流さないように工夫しています。


廃油は回収して発電用ボイラーの燃料に

 廃天ぷら油は、下水に捨てれば汚濁の元凶ですが重油の代替になることに着目。町内の公民館や集会所、学校、旅館等にロート付きのポリタンクを常備、それぞれの地区の皆様の協力を得て廃天ぷら油を回収、私の工場に運び発電用ボイラー(製紙工場の薬液回収型発電ボイラーの燃料噴霧口の口径は15〜30ミリで、通常の重油ボイラーのそれは1.5〜2ミリと約10倍の口径で、燃料が燃焼中に天ぷら粕等で噴霧口がつまってボイラーが断火するようなことはない)の燃料にしています。廃天ぷら油には硫黄分が含まれていませんので、燃やした時の排ガスがクリーンで、水の浄化への寄与、重油の代替等を含めると一石三鳥にもなります。


広報誌「中海」で町民啓発

 私は、1989年11月から町民の環境保全に関する意識啓発を図るために手づくりの広報紙環境新聞「中海」(B4判両面)を毎月1回発行し全戸配布していますが、この広報紙の中でも、また各地に出向いてお話しをさせていただきます講演会の中でも上述したこれらの問題を「環境保全のシートベルトを締める」という位置付けで繰り返し説明させていただき、確実に実践できるようになりました。そしてこれらの取り組みを企業がバックアップしてくれ、行政も応援してくれるようになりました。
 住民・企業・行政の3者が手を携えて自分たちの地域を自ら汗を流してよりよくする地域再生のグランドワーク運動を、私たちの手で確実なものとしたいと思っています。環境をよくするのも、悪くするのも私たちの腕次第だから。