「ふるさとづくり2000」掲載
<市町村の部>ふるさとづくり賞 内閣官房長官賞

市民とともに都市の空間づくり-市民参加型都市デザインの推進-
島根県 松江市
 東部は中海に面し、西部に宍道湖を抱く松江市は、「水の都」と称せられ、両湖を結ぶ大橋川を挟んで南北に発展してきました。古くは出雲文化発祥の地として、江戸期以降は、城下町として栄えてきました。城を中心に堀川を巡らせ、周辺に侍町や商人町を配した伝統的な街並みは戦禍を逃れ、今日まで続いています。


地域独自の個性を見出すため

 社会が成熟し、地方分権の推進など個性的で自立した地方都市の形成が求められる中、松江市においても、地域の個性を生かした魅力的なまちづくりを目指し、都市の個性や伝統など現代都市に再現し、誰もが心地よい都市空間の創出を図る都市デザインの推進に取り組んでいます。
 人々の営みの結果として都市の環境は形成され、その環境の影響を受けながら暮らしが営まれていくことを考えると、都市の個性は、互いに相関関係のある人間と環境によって形づくられるものといえます。画一的になりがちな都市づくりの中で、松江市固有の歴史や文化、自然などに培われた個性を生かすため、本市では、平成9年度より、住民参加型都市デザインの推進に取り組みました。都市づくりに市民の参加を得るのは、互いの意見を共有しながら検討を重ねることの中から、地域独自の個性を見出すことができ、たとえ相反する考えであっても、本質的な部分での共通点へと昇華させ、合意形成を図ることができると考えたからです。


県の協力を得て県道の環境デザインにも取り組む

 都市の空間は、公共空間と民有空間からなりますが、本市の場合、空間に与える影響が大きいものは、公共事業によるものが圧倒的に多く、公共事業のデザインを先導することによって民有空間のデザインの誘導を図ることとし、公共事業の整備計画を対象に、都市デザイン的に検討を行うこととしました。
 計画決定の枠組みは、はじめに「事業計画者」が事業計画を市民参加による「市民デザインワーキング」にかけ、そこでの市民意見を反映し修正を加えたものを、都市デザインの専門家からなる「松江市デザイン委員会」へ諮り、そこで得た提案を当該計画へ生かしていくフローをとっています。まちで暮らす多くの市民の意見を得ることによって、まちの個性が明らかになり、誰もが居心地がよい空間づくりへと計画が練り直されていきます。
 当初は松江市が主体となる公共事業を取り扱ってきましたが、市民参加型都市デザインの推進について、平成10年度より、島根県の理解と協力をいただき、県市一体となって市民とともに、県道の環境デザインについて、計画づくりに取り組むようになったのは大きな成果と考えております。


「植木鉢の置ける道路を」の声を取り入れ

 具体的な事例として2つ紹介いたします。
 はじめに、松江市が事業主体として行った「コミュニティゾーン形成事業」について紹介します。この事業は、交通安全対策として歩行者優先の道路づくりを行うものです。松江市では、中心市街地の密集住宅街の小路をこれにより整備することとしました。施行区域は寺院郡と密集住宅街からなる寺町の中です。
 事業者である松江市は、基本設計の段階で、当該計画を市民デザインワーキングにかけました。この通りは幅員約5メートル、城下町特有の鉤型の形状をもった通りで、通過交通も少なく、道沿いの住民の生活道路として親しまれてきました。沿道住民は道路上に植木鉢などを置いて、通りに憩いの空間を創出していましたが、道路整備とともにそれらを撤去する計画でした。しかし、現地視察を行い、市民の皆さんからいただいた意見は、道沿いに置かれた植木鉢に対する評価でした。これらを残すことができないか。また過剰に道路修景し、生活者の匂いを消さないでほしい。事業計画者はこれらの意見を受け、従来の電柱を移設し空いた空間に、誰もがプランターや植木鉢を置ける花壇を設置し、管理を地元住民に委ねることになりました。また道路舗装も、石張りから洗い出し平板となり、本来この通りが持っていた個性を引き出し、魅力を高める道路整備をすることができました。


利便性よりも居心地のよさを求める市民

 次いで島根県が事業を行う、通称「駅通り(県道)」の環境整備事業について紹介します。
 この通りは松江市の玄関口JR松江駅前から西に向かって宍道湖へと続きます。区間を東西2つに分け、駅側(東部)では歩道修景工事、宍道湖側(西部)では都市計画街路事業、そして駅前においては横断地下道工事の、3つの大きな事業が島根県によって進められていました。各事業が「駅通り」という一連の区間内にあり、松江の「駅通り」にふさわしい整備が求められます。平成11年1月、島根県より、市民参加型都市デザインによって、統一のコンセプト・整備方針を定め整備を進めたいとの依頼をいただき、県市が協力して、市民参加による計画づくりを行うことになりました。
 2月に市民デザインワーキングを開催し、事業計画をもとに検討を行いました。市民の皆さんからは、経済性や自動車交通の利便性よりも、全ての歩行者が居心地のよい道路整備を求める意見が多数出されました。また街路樹についても当初計画以上の豊かさが求められました。さらにここでの議論を通して、この通りが求める「松江らしさ」の表現を、歴史的に築かれたものを形として持ち込むのではなく、その中にある本質的なものは何かということを考えてデザインすることとなりました。
 市民意見を反映し、通りには連続して街路樹が植えられることになり、歩道照明は、シンプルであまり飾らないものをと信頼できるデザイナーへ依頼することとなりました。
 5月に開催した2回目では、駅前横断地下道の地上との出入り口となるスロープや広場を検討し、利用者への圧迫感を少なくし、できる限りの開放的な空間をつくるよう意見が出されております。現在事業者である島根県により、市民意見に沿うよう計画の修正が行われています。
 計画づくりに参加された市民の皆さんは、自分たちが都市の中で大切に感じていることをここで見出し、具体の計画へと反映されていくことに喜びを感じています。市民が主役として生き生きとまちづくりに参加する、その場所こそ、居心地のよい都市空間ではないかと考えます。市民と行政とが手を携えてまちづくりに取り組むことを通して、ふるさと松江を愛する心が芽生え、快適で活気あふれる営みが育まれていくと確信しております。