「ふるさとづくり2000」掲載
<集団の部>ふるさとづくり振興奨励賞

棚田カルチャー復活で地域起こし
鹿児島県栗野町 栗野町幸田地区
 全国の中山間地で、棚田が次々と姿を消しているが、栗野町「幸田地区」(代表・池田幸夫さん、全住民907人)では江戸中期に整備された見事な景観をもつ棚田を、先人の貴重な遺産として受け継ぎ、おいしい米づくりと都市との交流で希望の持てる地域づくりをと、地区民が心を1つにして励んでいる。平成元年頃から取り組んで、今では幸田米として広く親しまれ、棚田を活かした地域づくりが高く評価されている。


甦る棚田は地域起こしの一里塚

 棚田は、先人たちが山峡の斜面を知恵と汗の所産で拓いた。石垣の畦は一幅の山水画を思わせる景観を持ち、上下どこからみても美的感覚を膨らませ、農村ゆえの満ちたりた自然美の原風景が広がっている。
 この棚田で生産される米は、清らかな水と昼夜の温度差、山緑の中の澄み切った空気などの恵まれた育成環境のもとで、幸田米は「おいしい米」の名を欲しいままにしてきた。しかし、生産は代々受け継がれてはいたが、米をめぐる国内外の諸条件から生産農家も減少し、棚田もいつかは消えるのではないか、という危機に直面していた。
 町当局も、この事態を重く受け止め、地区住民を中心に、町の商工会や観光特産協会、JAなどが一体となって、起死回生を図ることになった。食と農、教育における農業体験、自然とのふれあいによる人間復興などの必要性が叫ばれるようになった時代を背景に棚田を甦らせ、消費者も参加して、汗の結晶でできるおいしい米づくりをしていこうと決めたのである。
 幸田地区住民の生産意欲の高まりを受けて、鹿児島市などの消費者に生産や産直交流への参加家族を募集した。平成10年度は12家族、本年度は15家族が参加。企業で働いている中国人5人にブラジルより来町の3人、山村留学の沖縄児童3人を含む国際色豊かな構成となった。参加費は、1家族15000円。収穫した米は参加者にプレゼントする。6月中旬、こうして親子揃って初体験の田植えを実施、昼食は公民館で住民の用意した郷土食を賞味、国際交流の一助にもなった。また、産直交流田以外で生産した米は、鹿児島市内のデパートと契約して販売しているが、名実ともに美味、良質米の声価が高まっている。


地域に開かれた学校づくりに取り組んで

 幸田小学校(児童数48人)を、地域に開かれた学校にしてきたことも特色ある活動の1つだ。学童の地域美化活動や農業体験、山村留学などを公民館活動の一環に位置づけ、公民館活動で支援してきた。そこでは大人たちが地域の子どもを知ることと、声をかけたり、励ましたりを自然な形で行っている。
 夏休み林間学校では、沖縄や福岡方面から毎年3人ほど、ホームステイで山村留学生を受け入れていて、それぞれのよさを吸収しながら学校生活や地域生活を楽しんでいる。学童のあいさつ運動も定着し、非行や不登校生はゼロ。子どもたちの学力の向上とともに、文化活動や体育活動にも見るべき成果を上げている。このように、棚田を甦らせたことが地域起こしの起爆剤となり、国際交流や開かれた学校づくりへと発展し、地域の活性化をもたらしている。