「ふるさとづくり2000」掲載
<集団の部>ふるさとづくり奨励賞 主催者賞

森と海の共生をめざして−水車のある集落づくり−
岩手県室根村 室根村第12区自治会
 昭和57年に発足した同自治会は、総合的な地域づくりを目指そうと6つの専門部を組織し、広報の発刊、産業講演会の開催、小正月行事の伝承、各種スポーツ行事、花いっぱい運動など多面的で活発な活動を展開している。
 社会的にも国際的にも環境保全問題がクローズアップされている中、自らも仕事や生活に密着した解決方法として、クリーンエネルギー「水車」を共同の力で復元し、これをシンボルに豊富な清流づくりによる多種多様な産業振興と手づくりの地域おこしを行っている。


手作り水車小屋「こっとんこ」建設

 この活動は、大川の上流に位置する地域として、森は海の恋人運動に共鳴し平成4年に、独自に策定した「水車ある集落づくり構想」に基づいたものである。この構想は、広葉樹の植樹による水源涵養の森づくり、水車小屋の復元、環境保全型農業の推進の3つを活動の柱として定めている。
 村有林を分林契約して植林地(ひこばえの森)を確保し、森は海の恋人植樹祭を平成5年から毎年6月の第1日曜日に開催している。会場に大漁旗が掲げられ、全国から訪れた参加者によってケヤキ、ブナ、ヤマザクラなどの広葉樹を毎年2千本から3千本が植えられ、水源涵養の森づくりを進めている。
 環境保全活動のシンボルとして、岩手県、室根村の補助と会員の特技を生かした奉仕活動により手づくり水車小屋を建設し、「こっとんこ」と名付けた。
 漁民や都市住民との交流が盛んになってきたことから、毎月第1日曜日の朝「こっとんこ市」や植樹祭に併せた「水車まつり」を開催し、地元の農産物や加工品の販売を行っている。
 環境保全型農業の推進である。アイガモ農法をはじめ有機物質を積極的に活用するなど肥沃な土づくりを推進している。減農薬に向けて、炭焼窯を建設し木炭や木酢液の利用を進めている。
 また、絶滅寸前だった地域固有のカブの品種で、甘みが強く粗放栽培に耐えられる「矢越カブ」を復元させ栽培している。地区内の女性6名で「ふるさとの味伝承の会」を組織して、特産品開発に向けた加工に取り組んでいる。
 この内、全国的に大きな反響を呼んでいる森は海の恋人植樹祭について紹介します。


「ひこばえの森」で植樹祭

 「森は海の恋人」をテーマに宮城県唐桑町のカキ、ホタテの養殖漁民などで組織している「牡蠣の森を慕う会」が、平成元年から毎年室根山に植樹を行っている。
 これは、森‐川‐海とつながる生態系の保全と上流の森への感謝を込めた植樹である。森の豊かな栄養分を気仙沼湾に注ぐ大川を通じて、海の生物を育てようという環境保全の新しい切口を示すものだった。
 村としてこの運動への支援を行う中で、第12区自治会が主体的に協働の森づくりを提案し、平成5年以来、矢越山の「ひこばえの森」で植樹祭を開催し、全国各地から600人を越える参加者を集めている。参加者は、大漁旗がたなびく中、広葉樹の苗木を丁寧に植えている。平成9年からは日本人初の宇宙飛行士で福島県在住の秋山豊寛氏のほか、今年は増田県知事夫婦がプライベートで訪れた。また、全国から訪れる参加者も年々多くなっているほか、この運動に賛同した仲間から広葉樹の苗木が贈られるなど運動の輪が全国に広がっている。
 平成6年に「牡蠣の森を慕う会」が、この運動で朝日森林文化賞を受賞したほか、中学校2年生の国語の教科書「森は海の恋人」という題で掲載されるなど全国的に知られるようになった。さらに、農村漁村地域の環境を語る代名詞ともなって、全国的な運動に波及している。


森と海との関係

 近年、学術的にも森と海の生態系の係わりについて認められてきた。北海道大学水産学部の森永勝彦教授が、20年間にわたり豊穣な海と森、川の関係について研究を進めてきた。その研究成果は、海草や植物プランクトンは、光合成のために微量の鉄を必要とする。だが、それは海水中に粒子状で存在しているため、そのままでは体内に摂取できない。そこで森の役割が重要になる。広葉樹の森に広がる腐葉土は、水を吸いスポンジのようになっており、大気中の酸素を遮断し、土中のフルボ酸を生成する。それが鉄と結合してフルボ酸鉄となって水に溶け、海に流れることによって、海草や植物プランクトンは初めて鉄分を取り込むことができる。
 水の源となる森と川上から下流、そして海までの農民、漁民、市民の交流、さらにはこの運動に賛同した市民の交流も加わり、グローバルなテーマにローカルな行動を起こすことによって、環境への思いやりの心を育て、新しい情報発信と地域活性化への可能性を秘めた運動を展開している。


中学生の実践教育の場として

 また、中学生の環境と森林文化の実践教育の場として現在、仙台市立第二中学校、同鶴谷中学校、盛岡市立下橋中学校などが来村し、室根山や矢越山の「ひこばえの森」に植樹や下刈り作業、さらに森林の公益的機能を学習するほか、宮城県唐桑町の海での養殖作業を通じて上流の森と海の生物の関係を学ぶ場として活用している。農林漁業の基本的な価値や環境保全の重要性について理解を深めている。
 平成9年度の全国農村アメニティコンクールにおいて室根村が全国一となる最優秀賞に輝いたが、この先駆的な植樹祭が、2回に及ぶ現地審査においても大きなインパクトを与えた。
 また、平成12年度から使われる小学校5年生の社会の教科書の中に、大手出版社の東京書籍と教育出版が取り上げて紹介されることになり、さらに全国的に大きな広がりが期待できる。