「ふるさとづくり'01」掲載
<集団の部>ふるさとづくり賞 内閣官房長官賞

湖と森と人を結ぶ霞ケ浦再生事業「アサザプロジェクト」
茨城県牛久市 特定非営利活動法人 アサザ基金
市民型公共事業アサザプロジェクト

 アサザプロジェクトは、水質の汚濁が深刻化している霞ケ浦の再生を地域ぐるみで進める取り組みとして、1995年に市民の提案ではじまった事業です。この取り組みは、当初流域の市民ネットワーク「霞ケ浦・北浦をよくする市民連絡会議」によって進められてきましたが、市民団体の呼びかけに農林水産関係者や企業、行政等が応え、これまでにない広範な分野が参画する広域的な取り組みとなったため、1999年にNPO法人アサザ基金を設立して、プロジェクトを本格的に推進することになりました。
 アサザプロジェクトは1998年版環境白書で「源流から湖まで住民によるトータルできめ細かな流域管理をめざす、農林水産業、学校、行政、市民の協同型事業プロジェクト」と紹介されました、市民の提案による「市民型公共事業」です。
 アサザプロジェクトは、湖と流域全域を視野に入れた環境保全、再生活動で、流域の学校、漁協、森林組合、企業、大学、研究機関、行政、市民団体などが参加した広域のネットワークによって担われています。このプロジェクトは流域の産業活動や教育活動と連携し、それらの社会活動に環境保全システムを組み込む戦略によって、広範で持続的な環境保全の実現を目指しています。1995年以来、このプロジェクトには流域の市民48,000人、160校の小学校が参加しています。


プロジェクトが新しい産業を生んだ

 このプロジェクトでは、誰もが湖の再生に参加できる仕掛けとして、霞ケ浦に自生するアサザ(ミツガシワ科・絶滅危惧2類)を活かすことにしました。アサザの群落が有する波消し作用や堆砂作用を活かしながら、ヨシ原などの水辺の自然環境を湖の全域に再生していくというものです。自然の力を生かした環境再生事業で、誰でも参加できる取り組みです。
 具体的な方法は、アサザを種子から育てる里親を募集し、育ったアサザを湖に植え付ける取り組みを湖各地で実施します。アサザと一緒にヨシやヤナギ等も植え付けますが、これらの根が十分に張り群落を形成するまでの間、アサザ等を波による浸食から保護するために、伝統的な河川工法「粗朶沈床(そだちんしょう)」を採用しました。この粗朶沈床は市民の提案を受けて国土交通省が公共事業として実施しています。材料とする粗朶(雑木の枝)や間伐材は、流域の森林の手入れを行って得られたものを使うことで、水源の森林と湖の再生を一体化します。2001年4月には、流域全体の森林保全を行うために、粗朶の供給組織「有限会社霞ケ浦粗朶組合」が、アサザプロジェクトに参加した企業や自営業者によって結成されました。環境保全プロジェクトが新しい産業を生み出すことで、流域全体を視野に入れた森林保全が可能となりました。この企業組織は、アサザ基金と東京大学鷲谷いづみ教授の指導により保全生態学に基づく森林管理を行いながら粗朶を生産しています。市民が提案した環境保全事業が、地域の雇用の創出、新たな産業の振興を実現することができました。また、現在流域面積の2割にまで減少している森林を、広域的にしかも補助金などに頼らずに自立した形で手入れ(保全)していくことが可能となりました。
 有限会社霞ケ浦粗朶組合では、毎年新たに100ヘクタールの森林の手入れを進めていくことを目標に活動を行っています。
 アサザプロジェクトは他にも、流域の地場産業の振興を行っています。1999年には流域の石材組合や漁協と協同で、廃石材を活用した湖での藻場(沈水植物群落)の再生事業や流入河川山王川での植生復元事業(石岡市と共同)を行っています。これらの取り組みを通して廃棄物として処理に困っていた廃石材を湖や河川の植生復元事業に有効利用する前例をつくることができました。また、藻場の再生は、水産資源の保護育成として漁業振興にもつながります。地元漁協とは、ヨシやマコモの植え付け等も共同で行っています。


住民・企業・行政の協働で公園やビオトープを造成


 1998年には市民型公共事業として潮来町にビオトープ「水郷トンボ公園」を地元住民や企業(建設業組合)、国土交通省、潮来町と協同で造りました。水郷観光の地潮来に水郷の原風景を再現した新しい観光名所を市民と行政の協働によって作り上げることができました。水郷トンボ公園は、湖の水質浄化施設であると同時に、魚類やトンボ、野鳥、水草などの保護育成を行う複合施設です。施設の管理は、地元の住民が行っています。
 国土交通省霞ケ浦工事事務所とは、山王川の河口部(霞ケ浦高浜入り)でも、ビオトープの造成を共同で行っています。ここでは、石岡市と地元住民とも連携して、ビオトープの管理運営を行っています。このビオトープの造成を行うにあたっては、霞ケ浦工事事務所と石岡市がそれぞれに行う公共工事間の連携をアサザ基金がつくり、下流のビオトープ造成工事で掘り出したヨシやマコモを山王川上流に運び石岡市が行っていた河川の植生復元工事に活用するということが実現しました。国や地方公共団体が行う公共工事を、NPOが仲立ちして連携させ、新しい効果を生み出すことができました。
 1998年から流域の休耕田を活用した水質浄化事業も展開しています。石岡市の休耕田約1ヘクタールをビオトープに改造して、湖では絶滅状態のオニバスの保護増殖を行うとともに、汚濁が進む山王川から休耕田に水を送り再び山王川に戻すという方法で、水質浄化を行う取り組みです。ここでは窒素・リンを半減することができました。休耕田ビオトープの管理はアサザ基金と石岡市が共同で行っています。休耕田ビオトープで増やしたオニバスは、現在湖(高浜入り)で霞ケ浦工事事務所が工事を進めている植生復元場所に移植する予定です。ここは、かつて国内でも最大規模のオニバス群落があった場所です。オニバスの植え付けは、地元の小学校と共同で行う予定で、現在そのための準備を進めているところです。
 また、2000年からは湖の水源部にあたる谷津田の先端部(谷頭)に、伝統的なため池を復元する事業を石岡市と鉾田町で開始しました。周囲の森からの湧き水を集めた伝統的なため池を復元することで、水源の保全をはかり、同時にホタルの舞うふるさとの風景を取り戻すことを目標としています。谷津田では地酒用の酒米づくりも計画しています。


プロジェクトの推進は小学校が中心に

 アサザプロジェクトは環境保全事業であると同時に流域ぐるみの環境教育事業でもあります。プロジェクトの推進は、各地域の小学校が中心となります。小学校ではアサザ基金による出前授業を行うほか、アサザやオニバスの里親制度への参加、湖へ出向いて行うアサザの植え付け、校庭にビオトープ(トンボ池)を造る取り組み、メダカの学区制を導入し地域単位の生物多様性保全を行う取り組みなどの様々な取り組みが展開されています。
 各小学校を核に流域を被う水辺のネットワークづくりを計画的に行っています。これらの取り組みに参加する流域の小学校は、現在までに160校、校庭に学校ビオトープを設置した小学校は60校に及びます。これらの学校は、アサザ基金が管理するメーリングリストに参加して、インターネットを通しての情報交流を行っています。かつて、そうであったように小学校を地域文化の拠点にしていくことで、地域ぐるみで子どもたちを育てていくことが目標です。


100年後にはトキの棲めるまちに

 これらの流域の産業活動や教育活動と連携した湖と流域の環境再生事業は、100年後にトキの棲める環境を取り戻すことを目標に、多様な主体による協働事業として推進されています。アサザプロジェクトヘの参加を通して多くの人々が、地域の可能性に目を向けるようになり、未来に展望を持ってふるさとづくりに取り組むようになっています。
 小学生の時に植え付けたアサザが、湖に根付き湖面いっぱいに広がって黄色い美しい花を一面に咲かせている光景を、大人になってから目にした若者は、大きな誇りと未来への展望を持つことができると信じています。彼ら彼女らがふるさとの風景の中に見出したこれらの誇りと展望が、アサザプロジェクトの100年計画を実現するための大きな力になるはずです。