「あしたのまち・くらしづくり2015」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞

ぐるぐる×ワクワク×コツコツ
広島県江田島市 ぐるぐる海友舎プロジェクト
テーマ①:ぐるぐる
 海友舎(旧江田島海軍下士卒集会所)は1907年に海軍によって倶楽部建築として建設され、100年以上の歴史があります。しかし、地元住民に使われ続けてきた建物ではありませんでした。海軍時代は関係者しか利用できず、戦後払い下げの後も二人の元海軍士官が立ち上げた健康器具を販売する会社が買い取り、主に事務所兼倉庫として2012年9月まで使用されました。そのため、中に入ったことのある地域住民は限られていました。また海友舎が建つ地域は高齢化率が高く、自治会の皆さんからも「悪化する一途で協力したくてもできない」といった状況下にあります。立上げ当初から活動を担っていく人材をどうやって集めるかといった課題がありました。
 そこで、第一のテーマとして「ぐるぐる」を掲げ、活動に共感した人たちをどんどん巻き込んで仲間になってもらい、口コミで広げていくことで協力者を集めています。また、発想を転換して、島内の他の地域や島外からも広く協力者を募り、島内外のメンバーが一緒になって新しいタイプのコミュニティを形成していく仕組みづくりやその強みを活かした活動を模索しています。
 具体的には、メンバーに建築を専門とする大学教員がいたことから、事始めとして建築見学会を開き、建物や活動の存在を広く知ってもらうところから始めました。またオーナーから管理を引き継いだ際は床が見えないほどに物で溢れていました。しかし、この活動当初の状態を見てもらうことが重要と考え、片付け始めた頃から定期的に建築見学会を開催し、公開しました。そうすることで、海友舎に魅力を感じてくれた人々や、現状に憂いた人々をどんどん掃除や片付けの作業に加わってもらいました。世代も地域もバラバラな人たちでしたが、共通体験によって絆が生まれ、徐々にチームが出来上がっていきました。また、メンバーにデザイナーが加わったことから、パンフレットやHP、オリジナルグッズを作成し、広報面を強化していきました。その結果次第に取材を受ける機会が増えていきました。2年半経った現在でも主に口コミや「まずは掃除から!」を合い言葉に多彩なスキルを持った仲間たちが活動に参加・協力してくれています。これからもぐるぐると人を巻き込んで活動を続けていきたいです。

テーマ②:わくわく
 海友舎の建築的魅力をあえて一言で表すと「大らかさ」にあると考えています。その大らかさを生み出している建築的な特徴としては大別すると三つあります。第一に、「折衷様式」な点です。レンガ基礎、トラス架構、上げ下げ窓といった洋館の特徴と畳敷きや床の間といった和館の特徴とが融合したユニークな建物になっています。本来出会わないはずのものが一緒に共存しているところが大らかな雰囲気を生み出す要因になっていると考えています。
 第二に、現行法では「再現不可能」な点です。当時、下士卒集会所は全国の各軍港に建設されましたが、木造建造物としては現存しているものは江田島だけです。近郊の市街地は原爆や空襲の被害も受けていますので明治期の建造物そのものが珍しいエリアでもあります。地域の記憶の継承を担う地域遺産としても大変貴重性の高い建築といえます。また敷地には大きな庭が付属しており、防犯意識や地価が上がりエアコンが整備された現代では珍しく広々とした配置になっています。つまり、現在とは異なった背景や社会的状況で建設された建物であるため、現代社会において多様な価値観を担保してくる貴重な存在でもあると考えています。
 第三に、「親しみやすさ」です。オーナーの理解と協力を得て、市民の手によってメンテナンスも含めて自由に利用できる状況にあります。もとは海軍の施設ですので質実剛健な意匠ではありますが、下士官兵のための施設であったため、華美なところがなくシンプルで好感がもてます。もちろん、老朽化していている箇所もあり、耐震性や消防法の対応などからも改修が必要(現在調査・改修中)です。手のかかる建築ですが、むしろ手がかかればかかるほど愛着が湧くものです。歴史的建造物は、一般的に保存の対象となると、違和感を感じるほど綺麗に改修され、博物館に陳列されている様な存在と同様の扱いを受けて、結果時間が止まったかのような利用実態に陥っている事例が少なくありません。歴史的建造物は使い続けられてこそ、過去と現在をつなぎ未来の礎となるはずです。そういった意味で海友舎が宿している「親しみやすさ」という特徴は、大切にしていきたいと考えています。
 以上を踏まえ、海友舎の魅力である「大らかさ」を最大限活かして、メンバーや参加者を大らかに包み込み、実験的なアクションを許容する雰囲気を大切にしていきたいと考えています。
 今年度はマツダ財団の助成金を得て、子どもたちと江田島との接点を増やそうと「ぐるぐる島ペインティング」プロジェクトを新たに立ち上げました。これからもチャレンジ精神を忘れずにメンバーと一緒にわくわくを生み出していきたいです。

テーマ③:コツコツ
 まちづくりに終わりはありません。頑張り過ぎたり、無理をしたりしてしまうと市民活動は行き詰まります。ぐるPでは、逸る気持ちを抑え、楽しみながらできるだけゆっくりと進めていくことをモットーにしています。我々は目先の成果や過大な評価よりも「コツコツ」と持続性のある活動を第一に考えています。そのためにも、より多くの方に海友舎と接点をもって頂きたいと考えています。さらには、「お客さんから→ファンに→ゆくゆく当事者(仲間、企画者)」になっていってほしいと思っています。そして、海友舎に関わる一人一人が海友舎や地域や島や地方や国の将来について自分事として考え、アクションをおこしたくなるパブリックマインドを豊穣していきたいです。

<四つのミッションと活動報告>
1.手入れする
 歴史的建造物である海友舎を、より使いやすく、より長く維持できるように、参加者を募り定期的に掃除や片付けをしています。掃除をすることで、現代建築では再現不可能な当時の技術や魅力に気付いたり、次第に建物に対して愛着がわいてきます。海友舎には広い庭もあります。庭があると落ち葉や虫たちが敷地境界線を越えていくので、定期的に剪定を行い、地域住民との交流のキッカケにもなっています。また、庭の手入れは老若男女が協力して活動する舞台としては大変優れています。
 毎月第1日曜日(2015年4月から毎月第2日曜日に変更)は活動日とし、メンバーを中心に広く参加者を募り、庭の手入れ、建物の掃除をしています。掃除の後には、運営やイベント企画について話し合いを行う定例会をしています。毎月5~20名程が集まっています。参加者は、学生、親子連れ、サイクリスト、アーティストなど、子どもから高齢者まで幅広い年齢層の人がいます。

2.使う
 明治末期に建てられた海友舎には、時間を積み重ねたものがもつ味わいがあります。畳や床の間もあり和洋折衷の趣があります。この魅力的な空間をギャラリーやイベントスペースとして活用しています。
 メンバーの特技を活かして定期的に「ぐるP部活動」の活動をしています。現在、リノベ部と手芸部が活動しています。建築好きに限らず、多様な人が気軽に立ち寄れるきっかけづくりを目指しています。手芸部では、海友舎グッズとして「ぐるぐるエコたわし」の制作と販売をしています。収益は、ぐるぐる海友舎プロジェクトの活動資金になります。
 「瀬戸内しまのわ2014」の活動の一環として、2015年5月24日・25日に、瀬戸内に浮かぶ島で活動する活動家を集めた交流イベント「ぐるぐるしましまあるある」を開催しました。音戸、宮島、下蒲刈島、御手洗、大崎上島、弓削島、因島、大三島、周防大島、小豆島から参加者が集まり、様々なテーマでシンポジウムを開いたり、それぞれの島自慢を持ち寄って島マルシェで盛り上がりました。
 2015年7月には、江田島を拠点に活動する島の絵描きこと峰崎真弥が発起人となって映画上映会や展示会、アクションペイティングイベントを開催しました。
 プロジェクトの趣旨に賛同していただける団体または個人に貸し出しもしています。

3.学ぶ
 海友舎は、明治後期に各地で建てられた日本近代建築を象徴するような西欧風の外観を持つ木造建築です。また木造の下士卒集会所としては唯一現存し使い続けられて来た大変貴重な歴史的建造物です。しかし、海軍の施設ということもあって現存している資料が乏しく、設計者、建てた年代、その経緯やその後の増改築に関する記録が確認できていない状況です。そこで、2014年度はハウジングアンドコミュニティ財団の「住まいとコミュニティづくり活動助成」を受けてヒアリングを中心とした調査とその成果を冊子にまとめる活動を行いました。また、登録有形文化財の登録を目標に、2014年度はNPO法人歴史建築保存再生研究所の「第2回歴史建築保存調査助成」を受けて、実測調査や簡易の耐震調査などのたてもの歴史調査を行いました。
 さらに活動の幅を広げるべく、消防法対策の改修や呉高等専門学校の光井研究室の協力を得て耐震調査も平行して始めています。
 調査の節目節目に関連した勉強会を開催して、建築やまちの歴史について学んでいます。また、定期的にぐるPがプロディースによる、歴史ある小道や民家、お寺などを巡る、周辺散策ツアーも開催しています。江田島は、海軍兵学校があった場所として知られていますが、これまで海軍兵学校が島にやってきたことに影響をうけた“島の暮らし”についてあまり語られることがありませんでした。引き続き、ひとの記憶からまちの記憶を掘り起こし、江田島独自の暮らしや文化を調べ、学び、再評価をして行きたいと考えています。

4.発信する
 海友舎で行われるイベントやワークショップを通じて、ここを訪れる様々な人々と交流し、江田島の魅力を発信しています。またぐるぐる海友舎プロジェクトの活動を紹介するパンフレットや海友舎周辺を案内する散策マップを作成しました。散策マップvol.2については、ぐるPのメンバーを講師役に、広島国際大学の学生、そして一般参加者で構成されたグループにより計3回のワークショップで制作しました。海友舎には多くの海軍縁の書物や雑貨家具があります。第一術科学校の参考館の協力のもと整理し、展覧会も開催しました。
 各地で開催される発表会にも積極的に参加し、海友舎と江田島のアピールをしています。ワークショップ成果品の配布や、海友舎オリジナルグッズの制作販売を行っています。海友舎オリジナルグッズの収益は、海友舎を後世に残すために大切に使われます。また、海友舎オリジナルグッズを通して、ぐるぐる海友舎プロジェクトの魅力や想いが広く発信されることを期待しています。