「あしたのまち・くらしづくり2015」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞

若い女性が主体の輪番制役員での自治会活動
神奈川県横浜市都筑区 高山自治会
自治会運営が難しい居住環境の中で、運営が機能するための挑戦の記録
 平成11年4月当時の高山自治会は、都筑区の平均年齢35歳に対し28.3歳と若い人が圧倒的に多いところでした。
 居住形態別の比率は、賃貸マンション・テラスハウスが75%、戸建て住宅が20%弱、人口の流動が激しい約300世帯の自治会でした。
 平成27年4月現在、会員数は520世帯と二つの街にまたがる自治会となっています。
 居住形態別の構成比率は賃貸マンション・テラスハウスが42.4%と下がり、当時ゼロだった分譲マンションの比率37.4%、戸建住宅が20.2%となりました。
 私が会長に就任した時から14年間、役員15~16人中男性が私を含め1~3名と圧倒的に女性が多い役員構成でした。
 理由は現役世代が多い地域であったこと、名前だけでなく実質会合に出られることを優先したことと輪番制の役員選出方法の結果偶然にそうなったのです。

偏見に対する挑戦
 平成7年4月自治会が誕生したきっかけは、その年の1月17日に起こった「阪神淡路大震災」でした。何かあった時、自治会のような組織が必要だ。そのために「皆が役員を経験して自治会というものを理解していこう」という想いが創立した当時の有志の願いでした。
 しかし、周りの自治会からは、「賃貸マンションの住人は非協力的で自治会、町内会にとっては面倒くさい存在だ」。さらに、「1年交代で経験の無い、圧倒的に女性役員が多い所で自治会の運営なんかできるはずがない」という見方が占めていました。
 「そういう実態でしかないのだから、立派に自治会運営ができる仕組みを創ってやろう」ということでの悪戦苦闘の記録が、現在日本がおかれている「少子高齢化の波の中で、若い女性が元気で地域の活動に参加できる環境を作り上げたこと、シニア世代に要求されている役割の答え」があるように感じたからです。

 でも、その仕組みは簡単にできた訳ではありません。失敗の連続の中で見つけ出されたにすぎません。
 最初の頃のこと、総会の翌日会計に選任された若いお母さん一家は転出してしまいました。またある年、輪番制を厳格に守り、家庭の事情を無視したやり方に他の役員から反論が出た彼女は、「それなら自分のブロックの皆に働きかけて自治会を退会する」と波乱を巻き起こしました。
 また、会長が音頭をとって、役員構成を決めると、1年後には必ず「役員の仕事の内容が不公平だった」という不満が少し年配の女性から出ました。

実態に合わせた自治会運営、個人の事情をみんなで思いやる?
 多分、私の頭の中には、それまで何十年と叩き込まれてきた「一般社会での組織論」「他所の自治会の仕組みを参考にする」といった経験則を無意識のうちに優先していたのだと思います。
 実態にあったやり方があっても良いのではないか、こういう発想にたどり着いたのは、「あしたの日本を創る協会が実施した勉強会」に参加したのも大きなあと押しになったような気がします。
 「ご主人が現役のサラリーマンで、小さい子どもさんのいる家庭でも、自治会役員として活動できるやり方はないのか」。試行錯誤の中で約3年、問題が出るたびに修正を加え6年目でほぼ現在の形が定着しました。いくつかの事例だけ紹介します。
①会合は原則として、第一日曜日の午前中に行う。夜間の定例会は行わない。
②3月から総会を挟んで5月までの3ヵ月間、新旧役員合同で会議を行う。
③新年度の役職決めは、前年度の副会長(ほとんど女性)と新年度の役員で相談して全員の役職、担当を決める。
 男性では気付かない「家庭やその人個人の事情」を考慮し、「お互いの都合をみんなで思いやり、納得がいくように役職を決める」ということに行きつきました。
 客観的にみれば、作業量の偏りはあるのですが、相手のことを思いその作業をみんなで分担するというルールが出来上がりました。
 一番多かった年には3人の役員が妊娠・出産ということがありましたが、自治会運営に支障はありませんでした。
 ある年、これは稀有な例ですが、1年間最初から最後までご主人同伴で会議・行事に出席した彼女は、退任直後、元気な女の子を出産しました。
 合理性と非合理性=会社や団体での会合と井戸端会議の違い、特に、男女の特質についてはしっかりした認識を持つ必要があるということを学びました。
④その年のイベントには、役員の家族(特に配偶者)、前年度の役員(必須)、役員経験者に応援してもらう(先輩役員の応援依頼については、事前に候補者を人選し、主として担当者がお願いに伺うがこれも必須)。次期役員予定者にも極力参加してもらう。
⑤区や上部団体の規則慣例を無条件に受け入れない(例えば、「連合の役員は会長・副会長とする」と会則にあっても、夜間の会合に出られる人を「連合担当」役員ということで認めてもらう)。
⑥日常の連絡は、パソコン、携帯のメール等その時の最善の連絡手段を使う。
 それと、「少し時間がかかっても仕方がない」という運営を心がけました。
⑦また、「曖昧な指示はしない」「『それは常識』と決め付けないで、方法をきちっと説明する」。これは鉄則でした。
 若い人は、判るとそのスピードは年配者の数倍の処理能力です。新しい知恵もふんだんに出してくれます。その能力を引き出さないのは自治会にとって大きなマイナスであると思い知らされました。

運営の理念は、「人間皆平等」 役員経験者も250人に
 自治会創設以来役員経験者約250人。転居された方もいますが、自治会員数の3割を上回ります。ごく小さな組織ならともかく、一つの自治会で、役員経験者が自治会員世帯の3割を超えるということは、自治会の活動にとって、大きなプラスです。スタートの頃、毎年役員が変わるということを「マイナス」と捉えていましたが、そうではない「プラス」だと思うようになり組織は充実していったのです。つまり、自治会の応援団が増えその力が加わるのです。
 そして、輪番制ですから、若い人たちだけでなく、年配者も若い人たちと一緒に活動するという状況が出てきます。異世代の交流の場が出てくるのです。高山自治会の『人間皆平等』という理念に基づく運営の中で、年輩の男性役員からこんな感想が聞かれました。「私は、ずっと日本の30~40代の女はダメだと思って70年過ごしてきた。しかし、1年間高山自治会の若い人たちと活動を一緒にやってきて、頭にきたことも沢山あったが、若い女性もまんざらでないということがわかった。これからの人生、自分の偏見を改め暮らしていきたい。本当に申し訳なかった」と。この話は、今も私の頭の中にこびりついています。この経過を話すと思わず涙が出てきてしまいます。
 若い女性でも活動できるという自治会運営の挑戦は、今日本がおかれている少子高齢化社会という未経験の社会構造の中で、シニア世代の役割である「若い世代への大きなメッセージをこれらの活動が果たしているのではないか」と思えるようになったからです。

若いお母さん役員の反応
 平成18年から5年間、都筑区では「第1期地域福祉保健計画」を策定し、区内の活動100選を紹介する発表会を実施しました。
 22年に高山自治会も「若い世代が中心になって活動している自治会」という表題の発表会で3人の役員が登場しました。その一人の発表です。
 「自治会は 敷居が高い・年配者の活動する場という印象を持っていたので、身近に感じることができず不安でしたが、実際役員を経験してみてイメージは一変しました。
 高山自治会の役員の半数以上が同世代。近所のママにも経験者が多く、お互い様と助け合いできることを、できる範囲でするという良い意味での「程よい加減」に、ストレスも負担もなく楽しく活動ができました。
 幼い子ども2人を安心して連れて行けた役員会。年配の方との交流は、遠く離れた祖父母に会う機会が少ない我が子どもたちにとってとてもありがたいことでした。
 また、地域に参加し活動する親の姿を間近で見て、きっと何かを学んでくれたと信じています。今後は経験者としてお手伝いさせていただき、この町へ恩返ししたいと思っています」

 町の成熟は、自治会にとってプラス、マイナス両面をもたらします。
 今年度の役員構成は15人中男性8人、女性7人。20年の積み重ねの中でたどり着いた結果です。年配者もいます。皆が問題点を共有する形が出来上がりつつあります。
 しかし、また変化をしていくとも思います。それの対応も「みんなで相談して切り開いていきたい」と思っています。