「あしたのまち・くらしづくり2015」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞

「古館神社展望公園」景観整備を通じた地域づくり
岩手県北上市 煤孫1区自治会
動機
 平成元年の早春3月、生まれ故郷にUターンした。実家のすぐ前の高台に、深い杉木立に囲まれた神社があり、引っ越しの整理も落ち着いた頃、帰郷報告を兼ねてお参りした。戦前・戦後を通じて地域の村社(そんしゃ)として季節の例大祭が行われる住民の心の拠り所となっている場所である。戦国時代、この一帯を治めた和賀氏家臣団のひとり煤孫(すすまご)氏の居館があったとされる場所にその神社は建っている。神社のある場所から100メートルほど、雑木林の中を踏み分けて段丘の縁に至ると、木々のわずかな隙間から田園風景が見え隠れした。日頃殆ど俯瞰して見る事のない景色がそこにあり、とても新鮮で愛おしくさえ思えた。いつの日かこの素晴らしい景色を180度パノラマでのんびり眺めたいと思うようになった。

地域づくり助成制度
 平成18年の春ごろ、北上市の「きらめく地域づくり交付金」制度があることを知り、この制度を利用して何か地域活性化に役立てられないか、自治会の仲間数人と話し合った。今では無くなった祭りを復活させてはなどのいくつかの意見のなかから、神社のある高台に地域の公園を造ろうという案に決まり、応募した案が採択された。しかし課題もあって、公園造りを計画している場所は全て私有地で、地権者8人の許可を得る必要があった。早速、地権者のみなさんに集まってもらい趣旨を説明したところ、それまでは原野に等しい雑木林で特に利用しておらず、全員に快く応じていただいた。

1年目 伐採工事
 全戸を対象に説明会を開催し、計画の目的として以下の点を説明した。
①美しい景観をとり戻し憩いの場とする
②奉仕活動を通して地域の連帯感を高める
③歴史と文化の学習の場とする

 事業の最初に取り掛かることは、高台の外縁一帯約1ヘクタールに密生する、大小100本近い樹木を伐採することであった。説明会のなかでは、傾斜面の伐採による土砂崩れを心配する意見も多くあったが、有識者の助言も得て安全には充分配慮することを説明し理解を得た。当局の伐採許可をもらってから地元の林業業者に依頼し、約2週間かけて伐採工事を行った。大木が急斜面にあって危険も伴うため慎重に進めた。業者には伐採した木を無償提供することで予算不足を補った。稲刈りも終えた晩秋、伐採を終えた場所に立つと、眼下には屋敷林に囲まれ散居する田園風景と、遠く市街地の向うに岩手山や早池峰山も望め、まさに180度パノラマの景色がそこにあった。

2年目 道路整備
 眺望は開けたとはいえ、切株だらけでまともな道も無い。まず取り掛かったことは、公園に通じる道路を整備することであった。戦国時代の館跡は周囲に空堀が巡らされ、道幅も狭く曲がりくねって通行し難い。景観を損なわない程度に堀を最小限埋めて道幅を広くし、車両も通行し易くした。次に広報を通じて敷地内の散策路整備に協力を呼びかけた。初夏のころ、スコップや運搬用一輪車などを持って、全世帯の約1/3にあたる男女50人ほどが集まった。あらかじめ地面上にレイアウトしたテープに沿って平らにならしたあと、木材チップを敷き詰めて散策路を造った。傾斜地には、伐採した木で滑り止めの杭を打ち横木を敷設し階段を造った。土地柄、日ごろ道路脇の草刈りや農業用水路の清掃など地域総出の作業は慣れてはいるものの、それらは暮らしの中で必要に迫られいわば義務として行う作業である。その点、公園づくりは奉仕作業にも関わらず、皆さんよく協力してくれた。

3年目 植栽
 北上市「きらめく地域づくり交付金」も同一事業としての最終年度であり、雑草だらけの園内を季節の木々や花々でいっぱいにしようと植栽に取り掛かった。北上市には桜(そめい吉野)の名所「展勝地」がある。同種の桜では新味に欠けるので、私たちはより寿命が長く華麗な枝垂れ桜を植えることにした。それも県内で有名な枝垂れ桜の名所「盛岡市営米内浄水場」にある品種「八重紅枝垂れ桜」に決め、当地もいつか枝垂れ桜の名所にしたいという夢を描いた。幸いにも趣旨に賛同したひとりの方から、10本の八重紅枝垂れ桜の苗木の寄贈を受けた。その後も毎年のように団体や企業から寄贈され、今では30本を超える桜が植えられている。

4年目 あずま屋建設
 しかし、ベンチひとつ無く日差しを遮るものさえ無いため、のんびり景色を眺めるという訳にはゆかない。そこで当初の計画にあったあずま屋を建設することにしたが、幾つもの課題があった。ひとつは資金確保をどうするか。ふたつ目は、史跡であるため表土より深く掘削することができないことであった。資金面では、知り合いの設計士に無償で設計してもらい、さらに当初伐採した木を建築用材として使うなど可能な限り切りつめても、建設資金は約100万円必要とした。そこで、半分の50万円を地域共有の特別基金から拠出してもらうことにし、残りは地域内外に個人寄付を募った。地域内においては、多寡はあるもののほぼ全戸に賛同していただき、また地域外からも煤孫ゆかりの方々に協力を得て、どうにか目標額を確保できた。建設予定地は、埋蔵文化財課に依頼し調査を行った結果、鉄製の遺物が発掘されたことによりなおさら掘削はできないため、盛土して基礎をつくることにした。あずま屋は、地元大工さんの協力により2カ月かけて完成し、地域出身者が帰郷した折に、ふる里を眺めた感動を思い出してもらおうと「望郷亭」と命名した。ようやく、ベンチに座りゆっくり景色が堪能できるようになり、その存在が広まるにつれて近くの幼稚園児や老人介護施設の入所者、また俳句グループや家族連れなどの来園者をたびたび見かけるようになった。

5年目 トイレ設置と景観資産認定
 再び市の補助金を活用してそれまで懸案だったトイレを設置した。この場所は住宅地に遠く水や電気がないため、中古の簡易トイレを購入した。この年、北上市ではそれぞれの地域が大切にしている、将来に残したい景色の景観資産認定制度がはじまり、申請したところ私たちの公園も認定された。市のパンフレットに載り、存在をさらに広めることにつながり、次への景観整備活動の励みになった。

6年目 修景作業と県表彰
 この頃になると当初作った崖側の木製柵や傾斜地の木製階段などは腐食が進んで壊れかけていた。市内NPOの紹介で修景実験補助金制度の存在を知り、その制度を活用して木製の柵と階段を腐りにくいプラ擬木を使って補修した。また、これまでの活動が評価され岩手県優良景観賞を受賞することができたことは地域にとって、前年の景観資産認定につづき大きな喜びでありさらなる励みになった。

8年目 子どもたちと一緒に
 「いわて子ども希望基金」という補助金制度を活用し小・中学生を対象に景観整備について学んだ。1回目は同じくNPOの協力を得て地域の景観点検を行い、子ども目線で地域の良い景観、悪い景観を出し合った。2回目は公園内の柵の補修やあずま屋の塗装など、子どもと大人が一緒になって修繕作業を行い景観整備の大切さを学んだ。

10年目草刈りにも賑わい
 節目である今年は、草刈り作業に一工夫凝らした。日ごろ美化活動として行う地味で厄介な草刈り作業を通して、活動を広く内外に知ってもらうことを目的とし、遊び心いっぱいの競技会形式に開催した。いかに美しく草を刈るかを競い合うもので、初めてのことで試行錯誤しながらも、複数のメディアに取り上げられ話題となった。

振り返ると
 行政が管理する公共の公園と比べるべくもないが、与えられたものではなく自ら汗を流して造ってきたものであるため、地域民には愛着が強まっていると感じる。なぜ続けることができたか振り返ると、地域の理解と協力が一番である。そのほかいくつかの理由として、その1「予算がつくと力になる」これまで10年間のうち6年間は各種の補助制度を活用して予算を得てきた。その2「褒めてもらうと力になる」表彰対象になりそうなものは進んで応募してみる。たとえ紙1枚でもいただくと誇らしく思え喜びを共有できる。その3「メディアに取り上げられると力になる」前項に共通する部分もあるが、ニュース映像や活字で紹介されると嬉しい。これまでイベントがあるたびメディアに取材依頼をし、たびたび取り上げられた。その4「大勢集まると力になる」きわめて当たり前だが、参加者が多いほど満足感も大きい。労を惜しまず事前に広報やチラシなどを利用しPRすることが大切だと感じる。その5「特に熱心なS老人の存在」現在育っている花や木の大半は、老人の手によるもので園内にはもう植えるスペースが残り少ないほど、こつこつと植えていただいた。老人の献身的な姿に感謝の声が多く聞こえる。

終わりに
 4年前から自転車レースの「きたかみ夏油高原ヒルクライム」が公園のすぐそばで開催されるようになり、大会関係者が成功祈願で神社を訪れるたびに公園にも立ち寄り、認知度もさらに広がってきた。今では、最初に植えた桜は3倍の4メートルほどまで育ち、少しずつ花芽の数が増えているのも実感でき、地域民はいずれ大木となって満開の花を咲かせる孫の世代に夢をはせ、年3回の草刈り作業に快く応じてくれる。こうした地域の理解と協力に感謝しつつ、今後はもっと若い人たちにも親しんでもらい後継者づくりもしていきたい。