「あしたのまち・くらしづくり2015」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 主催者賞

地域再生は地域が主体となって行うもの
広島県三次市 青河自治振興会
地域再生は地域が行うもの
 三次市は19自治組織で構成され青河町は一番小さな町です。町全てを統括する組織として「青河自治振興会」を作っています。この中には町内で活動する個人・企業・団体・集合体など全てが参加しています。組織的には七つの部会を持ち各団体は目的別にどれかの部会に所属しています。各部会から部会長を選出し常任委員会(役員会)を構成しています。青河町民の事業として行っている暮らしサポート事業は常任委員会直属で運営しています。青河自治振興会では合併後、地域の方向性を定める「青河ビジョン」を策定しています。青河町の将来像としてこれまで行ってきたことや、活動の中でそれぞれの地域団体や会社・社会が担ってきたこと、また、これから取り組むべき事項を次の9項目にかかげました。
①恵まれた自然環境の保全
②受け継がれてきた伝統や文化の継承と保存
③農業を中心とした都市部との交流事業
④高齢化社会が進む中より元気なお年寄りの活力増進
⑤様々な諸事情や高齢等による弱者への手助け
⑥次代を担う青少年の健全な育成
⑦地域の拠点である小学校や教育への地域的な支え
⑧全国的に減少している少子化問題への取り組み
⑨今後の時代を見据えた自主自立のできる町づくり
 こうした目標は組織や個々の団体だけで達成できるもでは無く地域全体として支えあって成果が出てくると思っています。

自然環境の保全に取り組む主な活動として
 ホタルの里づくりの会は平成10年に組織された会で主な活動としてホタル祭り・廃食油を利用した石鹸作り・炭焼き・地域と連携した河川清掃活動などを行っています。
 伝統文化の継承では大注連縄作りなどの継承をして近隣地域にも奉納しています。
 都市との交流では都市部の園児親子を招いての芋ほり体験や余剰野菜を持って都市部に出向くなど広範囲な活動をしています。
 青河の住民グループで始めた朝市、「よりんさい屋」は、平成25年5月から開始した任意団体ですが、朝市は、自家消費用に作った野菜の余剰部分が販売でき高齢者の自由な小銭が入手できる場となっています。また、小学生が学習の場として朝市を訪れることも多いです。
 よりんさい屋の特徴は高齢女性が主体的に活動しているが、店舗を運営するスタッフは1万円の出資が必要です。出荷は町民が誰でもできるが手数料として売上の10%を支払い、店番は無償ボランテアでスタッフが担っています。一見出資者には何も利益が無いように見えますが人との交流が利益という考え方です。開設初年度は185万円の売上であったが平成26年度は255万円に増大し高齢者の活力になってきています。
 三次市でも様々な形で弱者への支援策が取られていますが、青河町では地域の実情に即した社会福祉を求めて独自の創意工夫をしています。その中心となっているのが暮らしサポート事業です。この事業の目的は
 青河を住みやすい地域に向上させ老いても安心して暮らせる地域とすることです。
 事業内容は
●お頼み事業者紹介 : 住民が自宅の修繕などで困ったとき事業者を紹介(実費)
●代行サポート : 委任状をもらって金融機関や行政庁への代行(無料)
●知識・情報サポート : 広報誌の作成や各種情報の提供相談(無料)
●輸送サポート : 買い物や通院など移動手段に困っている方を支援(無料)
●その他お楽しみサポート : 地域が関係する様々なイベント企画や支援(無料)
 事業の中で輸送部門は法規制が厳しいため、このように様々な事業を組み合わせ法をクリアしています。
 財源は各戸から利用の有無に関係なく平等に負担してもらうことが必要で、多少の苦労はあったが住民の理解でこの事業に取り組むことができました。
 青河町は永年、小学校の建て替えを行政に要望していました。念願かなって平成8年に建て替えが実現。しかし振り返ってみると最盛期に120人いた児童数も50人を下回るまで減少していました。当時公民館活動をしていた者が、これでは地域が寂れてしまう、大変なことだと実感しました。
 この小学校を守る活動に賛同した地域住民9人は地域おこし会社を立ち上げることとしました。これが有限会社ブルーリバーです。目的や約束事として
●地域の価値観を高める
●児童数の確保
●人口の減少に歯止め
●出資金は一人100万円
●出資株は相続以外他人への譲渡はダメ
●会社を脱退しても出資金は返さなない
●配当金や給料は出さない
 そして会社の定款には
●住宅の提供
●農産物に関わること
を記載し平成14年6月に登記を完了しました。
 資本金900万円では事業資金は到底足りません。不足分は地元信用金庫とJA三次からの借り入れで賄うことにしました。借り入れは9名の連帯保証が条件です。
 資金の手当ても見通しがたち、いよいよ人口誘致の事業着手です。青河町の位置的条件。中心部へ約10分・広島都市圏へも1時間半程度です。大手企業による団地開発でも人は来るだろうと計画を練ってみましたが、青河町は人口が500人弱の小さな町です。ここへ大勢の人々が入って来て、適正な町としてのコントロールができるだろうか? 疑問がのこりました。やはり時間はかかっても我々で地域に見合った人口誘致をすべきだということになりました。
 住宅の建設場所は地域で一番良いと思える場所を選定し、コスト削減の為、9名でできることは何でもやろうと宅地の整理や造成は自力で行いました。建物は、オール電化で合併処理施設をつけ、我々も住んでみたいと思えるような住宅にしました。入居者の選定にあたっては条件を付けました。
●小学生もしくは以下の子どもがいる家庭。
●学校教育への理解と協力ができること。
●地域行事には積極的に参加すること。
●常会へは必ず加入すること。
●必ず青河小学校へ通学すること。
 平成15年3月には2棟の住宅が完成し即座に入居が決まりました。
 青河町でも新築住宅の他にも空家の発生も見逃せない状態となっていました。これからも空家はどんどんと増大する傾向です。空家ができると美観上の問題や安全面・防犯の問題と課題は山積みです。空家の所有者から意向調査と解決策を探ってみると
●先祖からの財産だから手放せない  対策 財産は持ったままでよい
●荷物置き場になっている  対策 整理と処分はブルーリバーで肩代わり
●墓参りに帰っても休むところが無くなる  対策 コミセンや集会所の利用
●貸すとしても修繕まではしたくない  対策 費用はブルーリバーが掛ける
●見ず知らずの者に貸したくない  対策 ブルーリバーでいったん借り上げます

 こうした方法で所有者にお願いをしている住宅があります。しかし改修工事にかかる費用は1棟当たり400~500万円かかる場合が多く、田舎町での家賃相場はせいぜい2~3万円程度・10年たっても360万円まだ、原価の回収もできない内に次の修理が発生することになります。荒廃した空家は手を加えるほど損となるのが実情です。この事業は民間資本だけでは対処に限界を感じている。この事業を取り入れている住宅はJA共済連のネット番組「廃校の危機を救え」で放映されています。
 青河町で子どものいる家庭を受け入れ始めて10数年が経過しました。現在ブルーリバーで管理している住宅は新築が6棟。空家を改装したもの5棟で10家族42人を受け入れています。その他にもブルーリバー住宅にお試し住宅として入居し自力でマイホームを新築した家族が3家族15人。それに三次市の空家バンクで来られた1家族6人を合わせると14家族63人が新たな青河の住民となりました。また、小学生の推移を見て見ると20人程度の児童数ではあるが今後6年間は安定しています。こうした定住事業を実施するに当たっては地域を巻き込んだ受け入れ態勢がもっとも必要だと実感しました。ブルーリバーでは呼び込みの活動をしているが同時に真逆な提案もしています。青河町を住みやすいと思って定住していただくことはうれしい。しかし、人がほしいのはどの地域でも一緒です。こうした人の取り合いをしても人の絶対数は変わりません。我々は彼らに彼らのふるさとからUターンなどの話がありそれに応じたい気持ちがあれば遠慮はないので帰ってほしいと伝えています。お互いにふるさとを大切にすることが地域を元気づけ守っていくことにつながる。そのためには人の取り合いを進めるのでなく小人数でも運営が可能なまちづくりのシステムが重要だと思っています。
 低価格の賃貸事業は経営の安定が困難で、住宅の空きが出ると即座に経営に響きます。また、古い住宅は修繕箇所も増大するし場合によっては家賃の値下げも必要となる。実際古い住宅の家賃はこれまで2度に渡って下げています。我々はこうしたリスクを回避するため、平成25年5月から太陽光発電を設置し、売電による収益で住宅経営を安定させることとしました。発電能力は49kw・借入金で設備した場合10年での返済が通常だが金融機関の協力で返済期間を20年に伸ばし売電益を経営安定資金に投入しています。
 行政へも様々な要望や意見を出してきました。我々が言ったからできたことでもないと思うが要望はしないと進歩はありません。以下は要望事項と行政の方針的な部分です。
●移住者の就労場所の問題
 行政の努力はあっても成果は見えてこない。ブルーリバーでは独自に地元の養鶏場と手を組みパートではあるが働ける場所の用意をしている。
●現状に即した許認可とスピードアップ
 三次市は農家認定の面積が5反以上であったが昨年から1反以上に緩和策となった。
●地域を守る者が報われる
 Iターン者には様々な手厚い助成があったが、地域の若者がUターンしても助成はなかった。今年からは住宅整備などの助成が使えるようになった。
●行政の長期ビジョンの方向性が見えない
 最近子育て関係の予算編成が充実してきて将来を担う子どもたちへの配慮が見えてきた。
●学校統廃合問題
 依然として国策は厳しい方向へ向いています。しかし地方は多少変化しているようにも思えます。ある地域では一人のために開校した小学校もあると聞きました。学校というものは長い年月をその地域と共に歩んできています。そうしたものを単に人数だけで図ったり行政だけで方向性を決めて議会の承認が取れたから廃校というのは納得できません。その前に、もっと合理的な学校運営や仕組みづくりの協議が必要だと思います。
 ブルーリバーの事業には定住対策の他に農業対策も定款に掲げています。疲弊の進む農業を地域おこしの要の一つにしたいと思っていた時に、住民が都会へ転居し約1ヘクタールの農地が荒廃している土地を見つけました。ブルーリバーはこの土地でワンストップステーション構想を持っており、現在造成をしています。予算面のこともあるのですべての作業を9名の社員が暇を見つけては行っています。この地は芝生を付け果樹を栽培し、古家は修繕して食事処でもつくれればいいなと計画しています。町内の生産農家は高齢化が激しく大根や白菜と云った野菜も作付けはできるが収穫時は労働力不足となっています。ステーションに集客し、ほしい野菜を作っている農家へ案内し、自ら収穫してもらうと、労働力・品質・安心安全・交流体験も全てクリアできて余剰作物も発生しません。また、古家は地産地消だけでなく三次市が今年度取得した「どぶろく特区」を活用した裾野の広い活性化を試みる計画です。この取り組みについては9名だけでなく地域全体が参加できる体制を造りたいと思っています。
 また、こうした取り組みのできる要因は
●9名というメンバーに恵まれた。
 メンバーは電気に強い者・建築に強い者・農業に強い者など幅広い人材で構成。
●仕事の成果が見えてくる
 成果が見えやすい事業から手をつけた。
●楽しみながらできる
 苦しい事は後回しにしてコミュニケーションの取りやすい部分に集中する。
●地域が衰退している現実を感じている
 我々がやらないと誰もしてくれない。やるのは今しかない。今が最後のチャンスだ。
 やり遂げることが地域を救い自らが満足できる。
 我々のメンバー構成にも特徴があります。年齢に約30歳の開きがあり、これにより代々の循環経営が可能となっています。
 我々の思いは裾野が広い、住み続けていた住民も移住してきた人々もまた、これから移り住んでこられるであろう人々も子どもも大人も高齢者も安心して老いていけるそんな地域作りを行っている最中なのです。