「あしたのまち・くらしづくり2015」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 主催者賞

住んでみたい、行ってみたいと憧れるまち 猪名寺をめざして
兵庫県尼崎市 猪名寺自治会
 尼崎市最北東部に位置する、人口約3500人、世帯数1750の猪名寺は、比較的村型の地域です。地域住民は、「尼崎の僻地」といい、これまでの開発の遅れなどに不満をいだき、地域への誇り、愛着も薄くなっていました。
 自治会など、地域団体の活動は、内向きで、盆踊り、回覧板、親睦など、従来型の活動に甘んじていました。毎年、確実に少子高齢化は進み、地域の活力は失われつつありました。
 猪名寺自治会は、平成21年の定期総会で、この現状を打破するため「猪名寺まちづくりステップ計画」(平成21〜28年度)を採択しました。
 猪名寺がめざすまちの夢・目標を「住んでみたい、行ってみたいと憧れるまち猪名寺」「誇りをもって、楽しく、生き生きとくらせるまち猪名寺」という挑戦的な理念を掲げました。
 この夢・目標の達成年次は来年度に迫っていますが、これまでの7年間の活動で、地域は大きく変わり、あと1年で、まちづくりの夢・目標が達成できる見通しになっています。自治会は一貫して、この夢・目標の実現に向け、困難はありましたが、様々な地域課題を解決しながら一歩一歩進んできました。
 夢・目標への地域住民の想いを共有し、住民自身の夢・目標とするため、平成21年に地域住民へのアンケート調査を実施しました。

アンケート結果(回収672世帯、回収率88%)。
1位 バリアフリーのまちづくり(232人)
2位 住環境の整備(227人)
3位 地元農産物など地産地消(151人)
4位 佐璞丘公園の整備(135人)
と猪名寺の地域課題が浮き彫りにされました。

まちづくりの夢実現は、バリアフリーから
 この平成21年には、自治会が中心になり、地域ぐるみで猪名寺10年の悲願、JR猪名寺駅EV(エレベータ)設置活動に取り組んでいました。
 駅のEVを含むバリアフリー新法は平成22年までの時限立法で、この新法では猪名寺駅EVの設置は「義務」ではなく「努力義務」と定められていました。それへの「危機感」と「猪名寺10年の悲願」という思いにかられ、各団体に緊急にJR西日本への「EV設置一万人署名」行動を提案しました。それまで自治会、老人会、婦人会、子ども会など地域団体は、ばらばらに活動していましたが、この活動ではじめて地域団体が結束しました。
 署名活動は、企業や地縁団体の協力もあり、約1か月間で、1万1350名の署名を達成しました。このとき切実な地域課題であれば、地域は結束できると確信しました。署名はJR西日本に提出した後、国、県、市などへの要望書の提出、市議会への陳情などを経て、平成23年3月に4基のEVが総額6億円かけて完成しました。
 完成祝賀会にはJR関係、議員、住民など150名が出席し、テープカット後、保育園児、障がい者、妊婦が初乗り、喜びと大きな拍手が沸き、感動の祝賀会となりました。
 その年の猪名寺自治会の総会には、それまでは20人〜30人程度の出席でしたが、120名が出席し、総会は自信と活気あふれるものとなりました。
 EVを設置してくださったJR西日本をはじめ、関係機関の方々に感謝いたします。
 この活動の中で、要請行動だけでなく、私たち自身がもっと協働して地域をよくしようとの意識が多くの住民の中に生まれてきました。
 EV設置後、駅と地域を結ぶ道路・歩道などのバリアフリーを実現しようと、車椅子も含めた道路・歩道の障害物、段差、街路灯、公園など地域一斉点検行動を実施し、地域で話し合って課題を洗い出し、行政と協働して24項目のバリアフリーを実現しました。
 その後も、浸水する道路の改修、道路の速度規制、解体業者への騒音防止策など、様々な住環境の改善に取り組むとともに、普段の維持管理活動や公園の清掃と花壇設置、毎月第2土曜日の地域一斉清掃など、地域で積極的に取り組んでいます。

地域コミュニティ行事の活性化を!
 地域最大の行事は“猪名寺盆踊り”です。しかし、毎年2日間開催していましたが、参加者は減り、盛り上がりのない行事となっていました。
 そこで、平成22年にEV設置活動に協力してくれた、各団体に呼びかけ、企業、保育園、学校も含め16団体による、猪名寺盆踊り実行委員会を立ち上げました。装いもあらたに模擬店や演芸大会も取り入れ、1000人以上が集う画期的な盆踊りになりました。
 平成23年に“猪名寺新春もちつき大会”を地域団体協働で立ち上げ、ぜんざい、野菜市、お寺での接待、落語・漫才など、楽しい大会として、毎年、参加者も増えつづけ、地域コミュニティは活性化してきました。

万葉の森・佐璞丘再生プロジェクト設立へ
 猪名寺佐璞丘には、約2万平方メートルの森があり、兵庫県のレッドデータブックには「都市部に残された樹林環境」と記載され、エノキ・ムクノキが蘇生する貴重な河畔林です。万葉時代には「猪名の笹原」として、百人一首にも詠まれた景勝地で、古代には法隆寺式伽藍の寺院が建立された歴史的な森でもあります。
 しかしその貴重な森は、何年も手入れしていないため、ゴミの不法投棄の場、シュロなどの外来樹が覆い、カラスが群れる暗い森で、地域でも敬遠される場所となっていました。
 そこで平成22年9月に、歴史ある森として、価値を再発見し、地域の子どもたちの環境・歴史教育の場、子どもからお年寄りまでが憩える明るい森に再生しようと、市の「市民提案型協働事業」も活用し、「万葉の森・佐璞丘再生プロジェクト」を設立しました。設立総会には、地域をはじめ22団体の代表が出席し、佐璞丘再生事業が始まりました。
 第1回の活動には、約100名が集まり、森の樹木調査、ゴミ拾いなどを行い、この取り組みへの住民の関心の高さがわかりました。
 以来、シュロ伐採(560本)、散策道の整備、森の管理作業(草刈、枯れ枝の除去など)を継続的に実施しています。作業の後にはピザ、芋煮会などを楽しみ、特に芋煮会は地域特産の「田能の里芋」使い「美味しい!」と大変好評です。
 その他、子ども、大学生なども参加する佐璞丘再生ワークショップや佐璞丘万葉コンサートの開催など、今では明るい森、憩いの森として、世代間の地域コミュニティの場になっています。

地産地消を都市と農村交流で実現
 住民要望の多かった、安全な地元農産物の提供は、丹波篠山の雲部地区との都市と農村交流で実現しています。
 尼崎市内での地産地消は難しく、兵庫県民局が主催した都市・農村交流に参加し、尼崎に近い「くもべまちづくり協議会」と出会いました。それを契機に、雲部から来る2ヶ月に一度の軽トラ野菜市や、年に一度の丹波黒豆の特産市を開催しています。特に軽トラ野菜市は、30分程度で軽トラ2台分の野菜が売り切れるほど好評です。
 猪名寺からは、観光バス2台(100名)で雲部もみじまつりへの参加、また子ども日帰りキャンプの実施(鯖寿司など郷土料理体験、川遊びなど)で雲部地区との交流を深めています。
 この交流は6年目となりますが、地産地消はもとより、子どもを含めた世代間交流、双方の地域活性化につながっています。

高齢者支援活動に力を注ぐ
 超高齢化の波が押し寄せ、猪名寺でも一人暮らしの孤独死もあり、特に高齢者の見守りが地域の課題でした。
 平成25年度に高齢者等見守り安心事業をスタートさせ、見守り推進員・協力員が65歳以上の一人暮らしの高齢者を見守っています。入院や介護などの相談も受け、関係機関と協力し、問題の解決にあたっています。
 その活動の一環として、本年、高齢者のひきこもりや孤独感を解消し、楽しく集まれる居場所づくりとして「ほっとサロン猪名寺」を開設しました。昼間3時間程度、歌や昼食をはさんでのサロンですが、軽い認知症の人が、以前同僚の職場の人と偶然出会うなど、感動の場面もありました。
 平成24年度には「ずっと健康プロジェクト」を立ち上げています。このプロジェクトは、生活習慣病予防を目的に市の特定検診を受診した約100名の高齢者を対象に、市の健康推進担当者を講師に招き、3グループに分け学習会を開催しています。血糖、血圧、脂肪をテーマに、食べたり飲んだり笑ったり、感じたことを自由に話し、楽しく学習しています。参加者の多くが、検査数値が改善するなどの効果も現れています。この取り組みは、市の「ヘルスアップ戦略事業フォーラム」で紹介され、NHK・Eテレでも学習会の様子が全国放送されました。

南海トラフ大地震に備え、防災・避難訓練を実施
 防災・避難訓練を平成26年と27年に実施しました。防災訓練は150名が参加しましたが、避難訓練には300人を超える住民が参加し、その関心の高さが示されました。避難所では、止血法、搬送法など、子どもも一緒に実施し、大変役にたつ防災訓練となりました。

万葉の森・佐璞丘で、猪名寺忍者学校を開設
 忍者学校は、子どもたちが忍者になり、猪名寺の自然や歴史を体験・学習し、地域への誇りと愛着をもつことを目的に開設しました。猪名寺は人気アニメ「忍たま乱太郎」の聖地でもあり、主人公「猪名寺乱太郎」の姓はこの地名から来ています。
 忍者学校は、万葉の森・佐璞丘再生プロジェクトの一環として開催され、猪名寺こども会、園田北小学校、園田学園女子大学、尼崎こども劇場などが協働で運営しています。
 本年5月に小学生50名の忍者学校入学式を行い、全員忍者の衣装に身を包み、手裏剣・剣術などの修業をしました。7月の授業では、佐璞丘の森で、木登り、綱渡り、まと当て、樹木を使った犯人捜し、暗号伝達など、子どもらは真剣に修業しました。10月には歴史術、11月は卒業試験などが予定されています。

 以上の他、行政と協働で「猪名寺ぶらり散策マップ」を作成し、マップ片手に猪名寺ぶらり散策を実施しています。この散策には、毎年、30人〜50人ほどのグループ数団体が参加します。猪名寺の歴史(古墳、白壁屋敷、猪名寺廃寺跡、佐璞丘など)を探訪します。地元ガイドが万葉歌を詩吟で詠い、織田信長と荒木村重の合戦を講談で伝えるなど、楽しい歴史探訪となっています。
 猪名寺には、忍たま乱太郎の影響もあり、ここ数年、歴史探訪と合わせ猪名寺を訪れる人が増え、神社のお賽銭が倍増したとのことです。ファミリー層の転入者も増え、自治会にも積極的に加入してくれています。
 猪名寺自洽会がめざす「住んでみたい、行ってみたいと憧れるまち猪名寺」「誇りをもって、楽しく生き生きとくらせるまち猪名寺」の夢は、そこまで来ています。
 来年28年は、尼崎市市制100年に当たります。この節目の年に猪名寺では「万葉の里・石見神楽」の開催など新たな取り組みをはじめます。そしてステップ計画に続く「ステップアップ計画」を地域のみんなでつくっていきます。