「あしたのまち・くらしづくり2014」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞

地域の福祉力向上と活性化
熊本県芦北町 NPO法人みさと
 芦北町の大野地域(旧大野村)は人口1677人、高齢化率約38.0%で、町の中心地から20分ほど離れた山間地域です。少子高齢化と過疎化が進み、独居高齢者や高齢者夫婦世帯の多い地域で、昔からの伝統や文化が今も残り、緑豊かな自然に恵まれたところです。そんな中で私たち「NPO法人みさと」は地域の活性化と地域福祉の向上を目指して活動しています。

1.活動のきっかけ
 当初、「住み慣れた地域で暮らし続けたい」という方たちへの支援を、介護事業という形で始めましたが、活動していく中で「介護サービスは地域で暮らす高齢者の生活を支えるための一部でしかない」と実感しました。さらに、中学校の閉校ということもあり地域を盛り上げていきたいと思い、福祉力向上と地域の活性化を目的に、平成21年に「NPO法人みさと」を立ち上げました。
 地域の方々が利用される介護事業所(会社法人)の売上金を地域還元という形で、NPOの運営費として賄ってもらい、また介護事業所の職員がNPOのスタッフとしても地域活動に取り組んでいます。地域を元気に、盛り上げていきたいという思いを持って、地域に貢献できる喜びを感じながら活動を推進しています。

2.活動内容
《世代間交流活動》
 地域の子どもたちと高齢者の方々との世代を超えた交流の中で、子どもたちの豊かな感性と人間性を育むとともに、住民としてのつながりを図りながら、共に支え合う地域づくりを目指し、様々な世代間交流活動を行っています。
①大野保育園と協働しての、園児たちと地域の高齢者の方々との「七夕飾り付け交流」や「炭焼き体験」「餅つき交流」を実施、特に短冊や飾りものを一緒に飾り付けた笹は芦北町の七夕祭りでも展示しています。
②大野小学校と協働しての、生徒と地域の高齢者の方々との「交流レクリエーション」「炭焼き体験」「里山についての勉強会」を実施。
③大野中学校と協働しての、生徒と地域の高齢者の方々との世代間交流
・「交流運動会」「文化祭合同作品づくり」「炭焼き体験」「里山についての勉強会」「餅つき交流」を実施。中学校の運動会は高齢者も参加できる競技をプログラムに組んでいただいています。文化祭合同作品づくりは中学校の文化祭と町主催の文化祭に出展する作品を一緒に製作します。餅つきは中学生と保育園児、地域の高齢者、消防団、民生委員、派出所、地域住民が参加し、世代間と地域間の交流を図っています。鏡餅を希望された高齢者の方に、中学生が配達しています。

《地域防犯活動・子どもと高齢者の見守り活動》
①「青色回転灯による防犯パトロール」
 当地域においても、不審者による児童への声かけや、高齢者への悪質訪問販売業者による問題があり、また、ライスセンターの米の盗難予防への防犯パトロールを実施しています。
②「大野地域自主防犯パトロール連絡会」
 大野小学校、大野中学校の各PTA、郵便局や駐在所とともに、本法人が事務局となり、地域の企業の協力も得て、お互いに連携しながら防犯活動・見守り活動を推進しています。
③「高齢者見守り活動」
 認知症で困っておられる同居者、あるいは認知症独居の方で周囲の依頼により、居住されている区長、民生児童委員、近隣住民、郵便局、派出所、社会福祉協議会、担当ケアマネジャーを集めて見守りについて話し合い、連携した見守り活動を実施しています。
※防犯、見守り活動を実施する中で、最初は地域住民へ挨拶しても返事が返ってきませんでしたが、今では挨拶は勿論良好なコミュニケーションの中で、防犯活動を実施しています。地域の企業等においても、業務中に徘徊している認知症の方を見かけて事務局へ連絡していただくなど、防犯、見守り活動に協力していただいています。

《地域の文化や伝統の継承の活動》
①「炭焼き窯づくり」と「炭焼き体験」
 大野地域は林業と炭焼きが盛んであったという歴史から、地域の財産(伝統・文化)を子どもたちに伝えたいと炭焼き窯づくりと、炭焼き体験を実施しました。炭焼き窯づくりについては、炭焼きで生計を立てていたという地域の高齢者の方々に協力していただき、大野中学生も参加して、昔の手法で作りました。炭焼き体験は、大野小学生と大野中学生、大野保育園児がそれぞれ、地域の高齢者の方々の指導のもと、原木入れや火つけ、炭出し作業等を体験しています。炭の売り上げはPTA活動費にもなっています。
※子どもたちには体験を通じて地域の文化や歴史について触れ、地域の文化や歴史に関心を持ってもらいました。高齢者の方々も、活動の場を得て生き生きとされる共に、世代間の交流も図る良い機会になっています。
②「大野地域の伝統行事、伝統文化を語ろう会」
 過疎化が進む中、当地域においても貴重な伝統文化や行事が簡素化されたり、それ自体が失われていく現状です。そこで地域の伝統文化や歴史の掘り起こしを行い、継承することを目的に、地域住民による「大野地域の伝統行事、伝統文化を語ろう会」を定期的に開催しています。この活動を通じ地域散策等のイベントを計画中です。

《地域福祉の啓蒙啓発活動》
①「大野地域交流グラウンド・ゴルフ大会」
 地域住民同士の交流の輪を広げ、つながりづくりを図ることを目的に、年に2回開催しています。また人の集まる機会を利用して防災訓練を実施するなど、開催の度に参加者も増え、今では140名以上の参加者があり、子どもたちから高齢者の方たちまで参加し、住民間・世代間の交流の場になっています。
②「大野地域福祉勉強会」
 地域住民の方々に対し、地域福祉の意識の向上を図り、安心・安全な地域づくりを目指すことを目的に認知症の正しい理解、地域の見守り活動や地域防災について実施して住民の方の関心も高まっています。
※「地域防災について」の勉強会をきっかけに、行政に頼らない地域住民による地域防災活動を実施し、自主防災組織の立ち上げ支援しています。
③「子育て支援」
 子育てをするお母さんが、母親同士や地域とのつながりがない、祖父母との関係が悪化等の背景の中で引っ越される家庭が多くあります。少子化により子どもが減少している中で、ますます地域の疲弊へとつながっています。そのため、お母さん同士のつながりづくりの場や地域とのつながりづくりの場をつくるためにも、世代間や住民間の交流を図るためにも、子育てサロンを開設し、共に支え合い、育み合える地域づくりを目指して実施しています。

《高齢者・障が者の日常生活の支援活動》
「福祉有償運送」
 当地域は町から離れた山間地で、高齢化率が高く、独居高齢者や高齢者夫婦世帯等、介護が必要な方が多い所です。買い物、通院、銀行等への移動手段として福祉バスが幹線を走っていますが、バスが走っていない地域や、バス停まで歩行できない方にとっては、少ない年金の中から高額なタクシーを利用することしかできません。そういった状況の中で、介護が必要な高齢者の方や障がい者の方を対象に熊本県の認可を得て、福祉有償運送を実施しています。利用料金は営利と認められない範囲の金額で、タクシー料金の半分以下です。住み慣れた地域で暮らしたいという方々のお手伝いができればという思いで活動を行っています。
※介護が必要な高齢者の方や障がい者の方を対象としているため、利用するにあたっては、事前にかかりつけ医や緊急連絡先、担当ケアマネジャー等のアセスメントを行い、関係機関と連携しながら行っています。高齢化の進行に伴い、今後さらに福祉有償運送の需要が高まることから、活動体制の充実化を計画しています。

3.今後の活動について
 私たちは、介護事業所で働く介護のプロです。
 しかし、高齢者が住み慣れた地域で自分らしく不安のない暮らしを続けるには、特に当地域のような山間のへき地では、介護の支援だけではどうしても無埋があります。より暮らしやすい地域になるために、地域で暮らすすべての人が互いに支え合えるよう、些細なことから行動を起こし、一つ一つの活動を充実した活動に育てていこうと思っています。