「あしたのまち・くらしづくり2014」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞

環境教育を軸とした地域コミュニティ形成
静岡県静岡市駿河区 特定非営利活動法人しずおか環境教育研究会「エコエデュ」
活動内容
 当会は静岡県内に広がる豊かな里山を舞台とし、環境教育による“未来につながる人づくり”を目指す市民活動団体である。昭和55年、有志により前身団体「ずしゃ立」が発足した。主に、子どもを対象とした里山生活体験を実施してきたが、京都で開催されたCOP3を機に、平成10年「しずおか環境教育研究会」(通称:エコエデュ)に名称変更。学校への環境学習の出前授業等、活動の幅を拡げた。事業拡大に伴い、平成12年にNPO法人格を取得し、以後、乳幼児から大人までの幅広いニーズに応じた活動(自然体験や指導者育成等)に取り組み、同時に静岡県の森林環境教育の実践拠点「遊木の森」の管理・運営等、環境教育関連業務を数多く受託するようになった。
 平成20年から現在の静岡市駿河区谷田に事務所を構え、その周辺地域の自然環境を主たる活動フィールドとしている。特にここ数年は、小学校低学年以下の低年齢層を対象とした環境教育に重点を置いており、子どもの成長段階と具体的な各子育てシーンを想定した、数多くの環境教育メニューを揃えている。平成25年度の活動実績は、主催事業だけで計470回、参加者は延べ5170名となっている。

現在までの成果
■地域住民ニーズに対し地域住民自身が当事者として取り組む仕組み
 特筆すべきポイントは、これらの環境教育メニューの成立が地域住民のニーズから生まれ、地域住民自身の手で企画運営されていることである。例として、平成26年度に実施される幼児・小学生向け通年プログラム12事業中、9事業はNPOの会員が有償ボランティアで運営していることが挙げられる。プログラムスタッフとして携わる会員は40名ほどである。
 当会会員になると環境教育プログラムの企画立案が可能であり、9事業は全て会員の自由意志によってテーマ・内容が決定されている。質の確保のため、会員と事務局双方から選出された検討委員が主にテーマと安全管理の点で実施可能性を検討し、通過できたプログラムが実施される。事務局側は運営上の情報共有や課題解決の手助け等、コーディネートに徹している。
 当会会員は大きくは30~40代の子育て世代と60代以上のシルバー世代に二分され、企画はその世代のニーズを強く反映している。例えばここ数年の乳幼児~小学校低学年向け事業の充実は、幼児期における自然体験の必要性や可能性を強く感じる保護者の当事者感覚から生まれたものであり、主催者も参加者も子育ての当事者という状況が多くの市民の共感を生んでいる。

■参加者から主催者へ。次世代育成も見据えた人材の循環
 会員はライフスタイルの変化によってNPOへの関わり方が変化する可能性があるため、持続的にプログラムを発信するためには人材の確保や人材育成が常に課題である。
 9事業のうち7事業は事業開始から5年以上経過しており、最長で12年継続しているプログラムも存在する。どのプログラムも地域の住民や参加者・保護者を相手の価値観やライフスタイルに寄り添いながら巻き込み、その人に合った役割や出番を創ることで主体性を引き出し、徐々にスキルを高めより高度な役割を担えるスタッフに育成する工夫をしている。逆に言えばその意識があることで長寿プログラムとなるとも言える。例えば幼児プログラムは保護者が次世代スタッフになる人材循環が確立しており、最も困難な、主担当の交代が達成できたものもある。
 事務局はプログラム運営上必須である安全衛生管理に関する研修に加え、プログラム企画上重要である、テーマを伝えるための企画づくりや伝え手の心構え・ノウハウに関する研修をそれぞれ定期的に開催することで現スタッフのスキルアップを図っている。これらの研修は一般の参加も可能で、新しい人材と出会う機会を創り地域人材の循環を促進する機能をも果たしている。事実、ここ数年の会員スタッフヘの参加の多くはこの研修修了生である。

■行政・地元地域・学校・企業との連携
 当会が主なフィールドとしている静岡市の里山は静岡県の県有林であり、当会含め複数の市民団体と県が協定を結び、環境教育・環境保全活動での利用が許可されている。すでに協定の更新は10年以上に渡り、深い信頼関係が醸成されている。
 農業体験のプログラムなどは、地元農家との連携の元にこちらも10年以上運営されている。前述の通りフィールドを自団体で所有しているわけではなく、田畑は地域の所有者と貸借契約を交わしていることもあり地元地域との関係は非常に重要である。しかしキーパーソンである地元農家との信頼関係もあり、これまで大きな地元とのトラブルはない。これは団体としてだけではなく、プログラムを担当する会員個人個人がキーパーソン含め地元住民との人間的なお付き合いを大切に積み上げてきた結果である。静岡市だけではなく、藤枝市の山林地域や藤枝市岡部地区の農村地域のフィールドでも長期にわたって関係が積み重ねられており、豊かな人的ネットワークが当会の土台を支えている。
 学校との連携は会発足当初からのテーマであり、地域人材と学校の授業を結びつける人材マッチング事業を長年静岡県・静岡市から受託してきた実績がある。また2013年度は静岡県の里山体験施設「遊木の森」事業内で、東豊田小学校3年生の年4回の野外授業(総合学習の時間内)を教員と連携して構成し、教員自身もその高い教育効果を実感する成果を生んでいる。
 また企業のCSRパートナーとしての実績も多数ある。特に静岡県・NPO法人しずおか環境教育研究会・株式会社静岡第一テレビの3者が主催となり、特別協賛として株式会社清水銀行が出資した「だいちゃんあいちゃんの森 里山復活大作戦!」プロジェクトは里山を整備し畑を作って収穫体験をするなど子どもたちに里山という場の特性を活かした豊かな自然と農体験を平成20年~25年の5年間にわたり継続して提供した。
 このような外部団体との協働による事業は、コーディネートや企画については事務局が担うが、会員スタッフの協力なくしては成立せず、多様な主体が複雑に絡みながら新しい社会発信を行っている点で大きな成果を上げている。

■新しい地域コミュニティとしての確立
 当会は前述の通り、地域の自然環境を舞台に、地域の人材が当事者としての強いニーズを動機として、次の世代を担う人にメッセージを伝えるための環境教育プログラムを主体的・自律的に運営している点が大きな特徴である。その強い人的ネットワークが地縁や雇用関係に依らず、志によってゆるやかに結ばれながら新しいコミュニティとして地域社会に大きな存在感を示している。
 また別の側面からは、職場・学校・家庭のどの場とも違う、社会の中の第三の場として新しい市民の活躍の場を創造している。会員スタッフは、ライフスタイルの変化により関わり方を変えることができる。本人の意志によっては非常に能動的に関与することもできるため、ボランティアとはいえ受け身ではなく、自己実現欲求を高度に満たすことができる。社会における人材の発掘と、活躍や成長の場の創造という機能においても、当会の活動は社会的インパクトが大きいと考える。