「あしたのまち・くらしづくり2014」掲載 |
あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞 |
自立した地域・活力あるむらづくりを目指して |
静岡県静岡市葵区 特定非営利活動法人フロンティア清沢 |
1.清沢地区の概況 清沢地区は、お茶と林業を主産業とする山間農業地域で、静岡市街地からは約20キロ弱、車で40分の距離にある。総世帯数390戸、人口1200人、高齢化率41%で、年々世帯数、人口数共に減少している。地区の面積4455ヘクタールの90%は山林で耕作面積は3.6%(160ヘクタール)内90%以上を茶園で占めている。 2.清沢地区の主な課題 ・人口流失による過疎化、少子高齢化 ・生活基盤、交通機能の低下 ・世代間ギャップの進行、地域内交流の低下 ・林業、茶業の低迷。地域経済の疲弊 ・耕作放棄地の増加による景観、環境の悪化 ・鳥獣被害の増加 3.清沢むらづくりの経緯 ・昭和58年「清沢を考える会」設立 ・昭和59年「清沢地区振興会」名称変更 ・平成15年「NPO法人フロンティア清沢」設立 4.NPO法人フロンティア清沢の取り組み (1)地域資源を活かした販売(収益)事業 販売(収益)事業は、伝統食としての「きよさわよもぎ金つば」の製造販売が、地域の女性たちによって取り組まれたことに始まり、以後の商品開発や物販所の開設(平成16年きよさわ里の駅)運営も地区内女性の活動の場となっている。 収益事業は、交流施設「きよさわ里の駅」での農林産物や加工品販売や静岡市内での路上販売、スーパーマーケット、各地イベントでの出店販売等で行っている。平成24年11月から清沢レモン商品の販売を始めた。 【きよさわ里の駅での販売商品】 ・農林産物加工品:きよさわよもぎ金つば(商標登録済)、猪コロッケ、猪カレー(レトルト)、猪肉まん、猪おでん、味噌、梅干し、まんじゅうその他、レモン商品(清沢式ぶっかけレモン) ・農林産物:お茶、野菜、椎茸、山菜、果物等 ・食事:猪焼き肉定食、田舎カレー、そば、おでん ・その他:野菜の種、飲料水、アイスクリーム類、手作り品等 (2)地域問題解決に関する取り組み 本NPOでは、「地域資源を活かした販売(収益)事業」の収益を運用し、「地域問題解決に関する事業」を展開している。この事業の展開により、地域住民がフロンティア清沢の取り組みに理解を示すとともに、様々な形で協力を得るきっかけとなっている。 これらの活動は主としてNPOの役員が担っているが、地区住民や地区内各種団体の協力は欠かせないものとなっている。 ①過疎地有償運送事業 清沢地区には公共交通機関(バス)の運行がない集落が5か所あり、400人ほどが暮らしている。この地区の高齢化率は50%超で多くの高齢者は不便を強いられていた。平成18年に道路運送法に基づく過疎地有償運送の許可(国土交通省)を得て、自家車両で最終バス停までの運行サービスを開始した。運転手はフロンティアの会員が交代で行っている。通院や買い物といった生活不便解消だけでなく、清沢地区の中心部にある学習交流館での講座や交流会への参加の機会が増え文化的生活を送るためにも必要なサービスとして展開し利用されている。 ②環境保全事業 清沢地区の主産業である茶業は、価格の低迷や高齢化で危機的な状況に陥っている。茶園の耕作放棄地は環境や景観の悪化だけでなく猪等獣のすみかになり鳥獣被害を増大させる要因になっている。フロンティア清沢は他団体と協力して耕作放棄地の保全再生に取り組んでいる。 《具体的事例》 イ レモン栽培(清沢レモンの里づくり事業) ロ 百匁柿(ひゃくめがき)植栽 ハ 花桃植栽(清沢まもり隊) これらの樹木を適地・景観を考慮して植栽している。 なお、レモン栽培は清沢地区全体で取り組み、将来清沢レモンとしてブランド化しお茶と共に清沢の産業として育てる目的で4年前から実行委員会を組織して事業を始めている。 きよさわ里の駅周辺の耕作放棄地は「里の駅農園」としてフロンティア清沢の役員や里の駅のスタッフが管理し、農作業イベントや婚活で活用している。 ③棚田保全活動 平成14年、数年間耕作放棄されていた里の駅近くの棚田を再生し稲作を始めた。昨年と今年清沢小学校児童や企業・市民が参加して田植え作業と昼飯交流会を行った。収穫したモチ米は、きよさわふるさと祭りでの餅つきに活用している。田植祭や収穫祭には80人ほどの参加があり大きな交流イベントになっている。 ④婚活 清沢のフィールドを使い農業体験をしながらの「婚活」を年4回のペースで行っている。事業は、静岡市内の団体「ナチュミー」との協働事業として平成22年から活動を開始した。また、この事業は静岡市の後援を得て行っている。毎年12月に開催するシニアを対象にした婚活は話題性もありTVで全国放送されたことで毎回締め切り前に定員に達する状況が続いている。 ⑤その他の活動 イ 福祉事業:デイサービスヘの弁当支給、地区敬老会への協力 ロ 子育て支援:若い母親交流への支援(料理教室等) ハ 世代間交流事業:清沢合唱団、グランドゴルフ ニ 地区内団体との共催:清沢ふるさと祭り、夏祭り、どんと焼き等 ホ きよさわ里の駅イベント事業:ボタン祭り(2月)、周年イベント(4月)、お茶感謝祭(5月)、ジャガイモ掘り体験(6月)、シイタケ菌打ち体験(3月) へ 着地型観光事業(グリーンツーリズム):将来的事業として位置づけ、モニターツアーを年1回行っている。 ⑥ふじのくに一社一村しずおか運動 静岡県が提唱する一社一村しずおか運動で、静岡市清水区の産業機械メーカー「静甲株式会社」と協働活動に取り組んでいる。特にフロンティア清沢のイベントや清沢ふるさと祭り、環境保全活動において大切な担い手の一部になっている。 一方、地域住民が静甲株式会社のイベントに招かれことがあるとともに、清沢地区での活動が、当該会社の社員教育の一環として正式に位置づけられているなど、一社一村しずおか運動の取り組みを契機に新たな、農村と都市の交流が生み出されている。 ⑦内外の多様な連携による取り組み フロンティア清沢の活動を押し上げているのが、内外の多様な団体との連携である。静甲株式会社や清沢クラブは地域の担い手として専門分野を活かした人材として活動を支えている。 地区内の団体としては、PTAのOB・OGで組織する「清沢天狗の会」(団体名)は次世代担い手として位置づけフロンティア清沢と活動を共有している。 ⑧東日本大震災復興支援事業 フロンティア清沢では、平成23年3月11日に発災した東日本大震災に対する支援金や物資の提供活動を数回にわたり行った。しかし、こうした支援や活動を継続していくことには限界があり、これにかわる支援活動を模索する中で「NPO法人セイブIWATE」と連携して「清沢×岩手ちいきぐるみくるみプロジェクト」を立ち上げることができた。岩手で収穫したクルミを仮設住宅で生活する方々がクルミの殻を割って実を取り出す作業を有償で行い、取り出したクルミをフロンティア清沢が購入し、きよさわ里の駅で商品として加工し販売を行う。商品売り上げの5%を被災地に還元する継続的な支援事業を行っている。 被災地岩手訪問を平成23年11月、平成24年12月に行い、本年6月末には岩手県遠野市と大槌町金沢地区を訪問し地区住民との交流会を行った。 この訪問がきっかけとなり、遠野早池峰「大償神楽」(国指定重要無形民俗文化財、ユネスコ無形文化遺産)と清沢神楽(静岡県無形無形民俗文化財)の神楽共演を平成27年2月7日(土)静岡市内で開催することになった。 ⑨活動の成果 昭和58年に始まった清沢のむらづくりが30年もの間継続された理由の一つは、清沢ふるさと祭りを毎年開催するという目標が地区住民の中にあり、特にフロンティア清沢の前身である清沢地区振興会が中心になって行ってきたことである。清沢ふるさと祭りは清沢のシンボル的な存在であり、世代間交流や世代交代も自然に行われてきた。 平成15年に清沢地区振興会を発展的に解消しNPO法人フロンティア清沢が設立され、翌16年に開設した「きよさわ里の駅」の運営を担うことになった。その結果、きよさわ里の駅を中心にした販売事業と、交流事業の拡大、フロンティア清沢の使命である地域課題の解決に向けた事業が開始された。 設立当初から清沢地区外の団体、個人の支援を得ながら活動が行われ、清沢だけではできない事業への取り組みがなされた。その結果、行政や専門家からの信頼が増し情報提供が増大した。こうした多様な事業展開により持続可能なむらづくり体制が構築された。 □清沢むらづくり年表
【補足:清沢レモンの郷づくり事業】 静岡市の中山間地支援事業「おらんとこのこれ一番事業」に平成22年から3年間取り組んだ。清沢地区では、これ一番の補助金を元手に、主として茶園の耕作放棄地にレモンの木を植栽し果実を商品化・販売することでレモンをお茶に次ぐ産業として地区の活性化をはかることを目的に活動している。 昨年までの3年間でレモンの苗木1700本を植栽し、商品開発では万能調味料「清沢式ぶっかけレモン」を商品化し発売した。 今後は商品開発や販売促進など6次産業化を進めるとともに、地域内経済の活性化と定住人口の維持増加につなげることを目指す。 |