「あしたのまち・くらしづくり2013」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞

高校生ボランティアによる公園づくり・まちづくり
愛媛県松山市 特定非営利活動法人えひめ子どもチャレンジ支援機構
1.「安全マップ」から公園改善へ
 福音公園を校区内に含む福音小学校がある久米地区では、平成17年より「地域安全マップ」を9年間で6回も継続的につくっている。一般的な「地域安全マップ」が子どもの危機回避能力向上に主眼をおいているのに対し、当地区のマップづくりは、「まちづくりに繋げる事」を当初から大きな目的として継続的に行なっているのが特色である。
 そのため当地区では、まちのいい所と悪い所を見つけて、それらをまちの個性と捉え、経年的にみんなで育てていこうということに主眼をおいている。平成20年度版の安全マップは、手に取った新入学児童にまちを好きになってもらうねらいで、筑波大学芸術系の学生に配布用のイラストマップを作ってもらった。これが当地区とアートの最初の出会いである。
 当地区のマップづくりは、小学生時代に体験した中学生が小学生をまとめるリーダーになるなど、小学生、中学生、大学生、地域の大人(保護者から高齢者まで)と幅広い年代層が事業に関わり、それぞれに出番と役割があるプログラムとなっているのが特徴である。
 マップに挙げられた課題のうち、見通しの悪い公園の植栽の剪定、夜間暗い道路への街灯の増設など、地域住民の力で解決可能なものについては漸進的に改善してきた。一方で地域の力だけでは解決が難しい課題もあり、中でも特に解決すべきものを「地域重点課題」に指定し、集中的に取り組むこととした。この重点課題のひとつが国道高架下に設置された福音公園だった。

2.課題整理のためのワークショップ
 福音公園は平成元年3月31日に開設された「川附公園」が、平成18年よりの国道改修工事に伴い再整備され、平成20年に「福音公園」と名称を変え開設されたものである。面積は2518平方メートル(テニスコート約4.5面分)である。
 安全マップでの課題提案を受けて状況を調べてみると、所有者は国土交通省、占有許可は松山市公園緑地課、管理組合は隣接公民館区の枝松町内会、主な利用者は当公民館区の福音小学校児童、警察管区は松山東署と南署の境などと、利害関係者が複雑に入り組んでいた。しかも、公園内にそびえ立つ12本のコンクリート橋脚が視界を遮り、周辺は工場のため人通りも少なかった。
 そこで、平成21年7月に、防犯まちづくりの専門家の提案・協力を得て福音公園の状況を定量的に把握するための調査を行なった。福音公園の特徴を相対的に把握するために校区内の4か所の公園を対象と比較する形で、利用頻度、不安感等のアンケート調査を保護者に実施した。
 調査の結果、五つの公園で最も利用頻度は高いが、保護者の不安は高いことがわかる。さらに、公園内での犯罪被害を聞いたことがあるとの回答者は13%と最多に及んだことから、公園改善の必要性が再認識された。
 アンケート結果を受け、専門家を交え、福音小学校の児童・保護者の参加による現地調査、対応策を話し合うワークショップを実施する。「周囲から目が注がれにくい」「国道の橋脚が死角になる」「昼間でも暗い」といった課題が指摘される一方で、「雨の日でも遊べる」「地域の方が清掃している」「楽しい遊具が充実している」といった肯定的な意見も出される。これらの調査とワークショップの結果を受けて、問題を解消すると同時に、子どもにとってより楽しい場所にしていくために、「大人の目によって守られた、全天候型の楽しい公園」が公園改善のビジョンとして関係者に共有される。
 
3.高校生ボランティアの登場
 ビジョンは共有されたが、すぐに具体的な活動に結びつけられなかった。そこで、当NPOが協働している愛媛県ヤングボランティアセンターの高校生に問題を投げかけてみた。偶然にも福音小学校を卒業した高校生がおり、「私が卒業する時に変な公園ができたと思いました。今でも通学で通りますが不安感があります。この公園が変わるのなら協力したい」との発言があった。そこで、彼女を中心に高校生のプロジェクトチームが結成され、何度もの会議の後「アートによる公園改造」というコンセプトが決められた。何故なら、言葉よりも全ての人の感性に訴えるアートなら伝えたいことが伝わると思ったからである。高校生たちのスローガンは「柱で遊ぼう☆公園アート」となった。これには、公園のイメージ改善、利用者の増加、児童の愛着心向上の願いが込められていた。
 アートは福音小学校設立時の「たんぽぽ教育」をモチーフに、高校生制作のビデオレターで児童に直接制作の協力を呼びかけ、全校生徒600人のカラフルな手形を作ってもらうこととなった。それを高校生の考えた絵柄と組み合わせ高さ4メートル幅3メートルのアートパネルを完成させた。なお、完成直前に東日本大震災が起こったため、被災者に対する応援メッセージを寄せ書きしたパネルも急遽追加制作し公園内に設置した。

4.活動が行政をも動かす
 平成23年3月、剥き出しのコンクリートに、カラフルな子どもの手形によるアートパネルが設置されると、人目を引くと同時に、公園のイメージも明るくなった。さらに、地元のテレビや新聞でも報道されると、それまでこの公園に無関心であった地域住民からも、この取り組みを評価する声が聞かれるようになった。
 その評価が行政関係者にも届き、当初は4か月に一度の点検時にはパネルを撤去する予定であったが、目視点検なので一時占有許可申請を提出すれば構わないと条件を緩和していただけることになった。また、松山市の公園緑地課では、高校生の提案にあった、ボール遊びができるコーナーの設置に向けて管理組合や国との交渉を始めていただいた。

5.事業の継続と効果検証
 平成24年3月、高校生の提案により、1枚1枚に児童の感謝の気持ちのメッセージが書かれた「ありがとうの樹」が2年目のアートパネルとして設置された。また、初年度の高校生たちの提案である、ボール遊びコーナーの設置も1年後には実を結び、ストラックアウトとミニバスケットコートを松山市が設置することになった。これらのお披露目イベントには、NPO仲間の「ちんどん屋」も参加し、児童200名の黄色い歓声が福音公園に一日中響き渡った。
 平成25年3月、3年目のアートパネルとして、児童の将来の夢を描いた「未来への花束」を増設した。お披露目イベントでは、児童たちの絵を並べた「福音一日美術館」や、高校生の考えた防犯劇を実演するなどして、多くの子どもたちが公園で遊んだ。
 こうした取り組みの効果検証のため、平成24年7月に、平成21年7月と同じ内容、方法で再度保護者アンケート調査を実施してみた。結果、福音公園で子どもを遊ばせてもよいと考える保護者が15%増加し、福音公園を利用していない子どもが6.5%減少したことが分かった。いずれも校区内の5公園では最大値であり、高校生ボランティアの取り組みの効果が一定程度確認できた。

6.おわりに~「共生知」をめざして
 「まち」には、いい所も悪い所も色々あります。かといって悪い所を消していくだけでは、どこか淋しいまちになります。この公園も監視カメラを設置したり、夜間閉鎖したりすれば防犯上の課題は、ひとまず解決したかもわかりませんが、それでは「地域の庭」の公園ではなくなります。当地区のマップづくりでは、同一の場所に対して危険、素敵の両方の指摘がなされることがよくあります。例えば、池の土手は滑り易く危険だけど、そのスリルの先にザリガニがいる素敵な場所です。もしくはスリルがあるから、素敵な所なのかもしれません。
 この、福音公園づくりの事例は、まちを知る「まちあるきワークショップ」で子どもの目線からまちをあるき、地域課題があがってきました。それを大人が真剣にとらえて、専門家に調査を依頼し、地域の課題として共有し、改善のビジョンを設定していきました。さらに、地元住民だけでは利害調整が難しかったビジョンを実現するために高校生が動き、一目で伝わるアートパネル活動へと展開しました。さらにその活動を評価していったことで活動がより継続的なものとなりました。
 やはり、「まちづくり」には、子どもから大人まで「まち」に関わるすべての人の目線を大切にしながら、課題について学びあい話し合う「場」をつくることが最初の一歩だと思います。つぎに、その場で互いの立場や果たすべき役割の相互理解を深めあい、解決策を洗練化していけば、ボランタリーな行動が自発的に生まれ、クリエイティブな行動へと繋がっていきます。その時に今回のように高校生の登場があれば、なお活動の厚みが増していきます。そうなれば「まちづくり」が創発と進化のサイクルで回り出していきます。
 今後も、福音公園では、毎年1脚ずつアートパネルを設置していこうと考えています。参加する高校生たちも毎年変わっていきますが、先輩から後輩へその志を引き継ぎながら、「学びあう力」「関わりあう力」を育み、地域社会をキャンパスにした「共生知」を探っていって欲しいと願っています。