「あしたのまち・くらしづくり2013」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞

町の「母ちゃん」のような場所 「手づくり工房・ワーイワイ」
三重県紀北町 手づくり工房・ワーイワイ
ワーイワイを始めたきっかけ
 私(代表・井谷三枝子)は約15年間を介護ヘルパーとして病院や認知対応型事業所で働き、高齢者の方々や核家族の寂しい環境にある方々、そして社会的弱者と言われる人々方々と接してきました。そのような方々と接している時、私はこの人たちが集まって楽しく交流できる場所が町の中にないことがとても気がかりでした。また、その15年間で約25%もの人口が減った私たちの町は徐々に、しかし確実に賑わいが減っていることも感じていました。自分が生まれ育った町に活気を取り戻すために、そして私が仕事を通して出逢った方々が楽しく交流できる場所を作るために私ができることはないのかと、いつも考えていました。
 幸いにも、私は手芸で物を作ることが大好きで、趣味のつもりで始めた小物作りは、いつしか県内のデパートで個展を開けるまでになっていました。そこで、私が感じる「作る喜び、楽しさ」を高齢者や社会的弱者の方々に教え、みんなでひとつの場所で物づくりをし、制作物を販売することでそういう方々の「生きがい」にならないかと考え、平成18年に町内の空き店舗を借り、誰でも立ち寄れる工房兼販売所を立ち上げました。名前は、いつも活気に溢れてみんなが賑やかにワイワイできる場所ということで「手づくり工房・ワーイワイ」にしました。

メンバーにとってかけがえのない場所ヘ
 はじめはなかなか町民の方もなじめなかったのですが、布ぞうり体験や味噌作り、花の寄せ植え、年2回の研修旅行、フリーマーケットの開催等を重ね交流を深めました。その結果、今では70人の大所帯となりました。メンバーの中の9割は60歳以上の女性(最高齢メンバーは85歳!)で、みなさんパワフルにおしゃべりをしながら商品づくりに励んでいます。
 商品は、古紙や古布を使ったオリジナル商品が主です。中でも、紀伊長島区で専用漁船を多く持ち、町民にとても親しまれている魚「カツオ」をかたどった全長1メートルのカツオの抱きまくらは大好評の品です。三重県の伝統産業である松阪木綿の鮮やかな蒼と中に詰められた尾鷲ヒノキの香りが人気でした。私たちはこういった商品を話し合いの中から考え、作り出していきます。手づくり工房・ワーイワイで販売している商品は私たちが作った小物だけではなく、地元の農家さんが育てたトマト、自家栽培のゴーヤを使った「ゴーヤ酢」や「ゴーヤ茶」など1000点以上になります。立ち寄った方が、見て楽しみ、買って楽しみ、使って楽しむような商品を販売することを心がけています。手づくり工房・ワーイワイは、積極的なボランティア参加団体でもあります。町内の各種のイベントやお祭りなどに運営スタッフとして参加することは、メンバーにとっての楽しみでもあります。普段なかなか交流しないような年代の人とおしゃべりをしたりイベントを共に進めていくことで、メンバーは自信を持ち、積極的に社会参加するようになっています。

あなたの大事な人を守りたい
 2011年3月におこった東日本大震災は、私たちにとって大きな転機になりました。被害に苦しむ方々の姿を見て、いても立ってもいられなくなり、震災以降5回岩手県山田町にてボランティア活動を行なってきましたが、被災他の仮設住宅で手作り小物作りのワークショップを開催する中で多くの方の被災時の話を聞くと、地震や津波はいつ起こるのか本当にわからないものなのだという恐怖を覚えました。私たちの住む町も東南海地震の発生が高い確率で予想されている地域で、いつあのような大地震が起こっても不思議ではないと言われています。多くの住民が海沿いに住んでいるこの地域でもし大地震が起こったら、お年寄りは高いところへ避難するまでに津波に飲み込まれてしまうでしょう。私たちが手づくり工房・ワーイワイの商品制作で培ってきた技術と知恵を使って、そんな方々を少しでも救えるものを作れないかと考えて制作したものが、狭い道でも2人で怪我人や高齢者を搬送できる携帯用ハンモックの「かけモック」と、ポール部分が取り外しできる携帯用担架「かけ担架」です。この「かけモック」と「かけ担架」は制作後から多くの反響をいただき、2013年5月現在で全国より130枚ほどの注文をいただき、また、多くの方のご協力をいただきながら改良を重ね、「かけモック」に関しては現在特許申請をするほどまでになりました。この「かけモック」と「かけ担架]は、1枚1枚手作りで制作されているので、大量生産は今のところ難しいですが、一人でも多くの方の日常の助けに、そして万一の事態への備えとして「かけモック」や「かけ担架」があるということを知ってほしいです。三重県の小さな町のおばちゃんたちが作ったアイデア福祉用品が、全国の困っている方の助けとなることを願っています。

紀北町の「母ちゃん」のような場所
 平成18年の発足から7年が経ちましたが、ワーイワイのパワーと熱意は確実に町に広がっていると信じています。時にはケンカもしますがいつも笑いが絶えない工房には町内外からのお客様が絶えずお越しになり、お茶を飲んでおしゃべりをして帰って行かれます。この工房のメンバー一人一人からは年齢を感じさせない力強さを感じ、私自身とても心強く思っています。これからも多くの人にとって温かく力強い「母ちゃん」のような場所づくりをしたいー。今はそのような想いで毎日楽しく一生懸命に過ごしています。