「あしたのまち・くらしづくり2013」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞

こどもたちの豊かな感性、笑顔に会うために続けてきた15年。そしてこれから…
神奈川県藤沢市 ふじさわこどもまちづくり会議実行委員会
まちづくりは、ひとづくりである。
 「まち」は人がつくり出すものであり、そこに住む人が地域に愛着をもってこそ良い「まち」がうまれてくるのである。こどもの時から自分の暮らすまちを知り、愛着をもってもらうこと、それが強いては、未来のまちをつくり、同時に“人づくり”になる、ということを「ふじさわこどもまちづくり会議」の理念としている。
 では、実際にどのような活動をしているのか。
 過去15年の軌跡は当活動のホームページに掲載されているので、ぜひご覧頂きたい。その中で、活動の基盤となっている、はじまりと転換期について、エピソードを交えてお伝えする。

~はじまり~
 1995年1月17日、阪神淡路大震災発生から約5か月後、湘南地域在住の建築家5名が集まり、いずれ此処湘南エリアにも襲来するであろう大震災に対して、建築家が何を果たすべきかといった議論が起こり、「湘南まちづくりネットワーク」(1995年~2000年)が発足した。
 その活動の延長線として、横浜市泉区で開催されていた同様の事業の藤沢版として「ふじさわこどもまちづくり会議」実行委員会が1997年に発足し、翌年に第1回ふじさわこどもまちづくり会議が、慶應義塾大学湘南キャンパス(SFC)秋祭り実行委員会本部との共催で開催された。
 いずれにしても横浜市泉区で開催されていた事業とは、規模(予算、募集人員、スタッフ人数、会場、後援等)が違う中での手探りであったが、本事業の意義について参加したスタッフ全員が体感した。その必要性は、現在までのこの事業の継続で証明されている。

~転換期(挫折、開催中止の危機)~
 それは第1回に大学1年生で参加した学生スタッフが、慣れてきた第4回目の藤沢地区夏休み開催時に起きた。なんと募集した主役のこどもたちが集まらず、その夏の事業は中止した。
 スタッフ一同途方に暮れたが、決してあきらめなかった。どうしたらこどもが集まるのか、戦略を立て直しリセットした。
【結論1】実は今時のこどもは忙しい。
 こどものスケジュールを優先し、それまでの2週に渡る3日間開催を改め2日間に短縮し、事業のプログラミングを一から組み替え、同年秋開催に繋げた。
【結論2】覚悟
 その時にスタッフ一同で決めた合言葉は、「一人でも参加者がいたら、実行しよう!」という覚悟である。以後この言葉がこの実行委員会のスローガンとなり、その後の「こども目線の教育」に受け継がれていく。

「こども目線の教育」とは、伝える教育ではなく「伝わる教育」である。
そしてこどもの感性から、私たち大人が教えられる教育である。
■「伝わる教育」とは?他のこども向けワークショップとの異なる点に着目したい。
【その1】こどもたちに年齢的に近く、ちょっと憧れる存在である学生スタッフが主体となって毎年違うメニューの企画を立案する。
【その2】実際のまちを見て、歴史にふれ、地域の方の話を聞くというリアルな体験。
【その3】こどもが発言しやすい環境づくり。=「伝わる教育」
 必ずどの子にも「どう思う?どうだった?」など問いかけるようにする。
 こどもが主役であることを忘れない。
 「いつもは手をあげたりしないんだけど、ここは学校とは違うから大丈夫」と思い切って手をあげて、元気に発言してくれた女の子がいました。
【その4】スタッフも同じ目線で考え、ブレインストーミングし、共につくる。
 こどもたちの意見に対し、批判はしないが問題提起をすることで、こどもたちが自ら考えるようなきっかけを話し合いの中でつくる。
【その5】スケールを意識した模型によって、自分たちが思い描くまちが具体化して見える。
【その6】一人ではできないことが、みなでやればできるという達成感がある。
【その7】こどもはもちろん、学生や社会人スタッフも、あらゆる世代の人とかかわりあえる。
【その8】マンネリ化を防ぐ。
 一つ目に新人学生スタッフを入れることと、学生スタッフの提案で+1プラスワンプロジェクトとして毎年何か違った試みをしている。
 二つ目に開催地区は、藤沢市立小中学校のPTA区割り、南部・中部・北部の三つのエリアに分けて順番にまわり、最短6年以内に同じ地区で開催しないという原則に則っている。つまり小学校1年生から皆勤(皆勤賞2人)で参加したこどもでも、同じ開催地を経験しないことを基本としている。

 特徴的なのが、2日間の日程の中で体感(まち散策)→ブレインストーミング(話し合い=会議)→表現(模型制作)という3工程を踏むことにある。他のこども向けワークショップについて調べてくれた学生スタッフからの話によると、こども参加型の同様な活動は、二つの工程を組み合わせて行なっているところが多く、三つの要素を取り入れているところが他にはないことがわかった。

■次にどのように“人づくり”になっているのか。
【その1】学生スタッフの成長=新しい学生スタッフの感性が企画の生命線
 ともするとマンネリ化しやすい企画を新しい学生スタッフの考えが加わることで、リピーターのこどもたちにも飽きさせない企画づくりができ、地方からきている学生スタッフのふるさとでの体験談などは、改めて社会人スタッフも学ぶことが多々ある。
 当活動になくてはならない学生スタッフにとって、企画をまかせられることは自発的な責任感とやりがい、そして自信に繋がっている。
(過去の参加スタッフ在籍大学名一覧)
慶応義塾大学、早稲田大学、日本大学、東海大学、関東学院大学、千葉大学、東京理科大学、法政大学、桜美林大学、目白大学、九州大学大学院、東京工業大学、中央大学、湖北短期大学、日本女子大学、産能大学
【その2】学生スタッフOBの応援=一つのネットワークを構築
 OBとして、時には参加し学生スタッフの良きアドバイザーになっている姿は頼もしく、この活動の素晴らしさを感じるときでもある。
【その3】参加したこどもたちが学生、社会人スタッフとして再来=伝わる教育の二つの事例
 一人目は、第1回に参加後、藤沢市から他の都市へ転居し、大学入学後この活動が続いていることをたまたま知り、驚き、今度は学生スタッフとして参加。社会人となった今でも当日参加している。
 二人目は第2回から参加、中学2年生(当時は中学生まで参加可)まで参加し、高校生からスタッフとして活躍、幼稚園教諭となった現在も中心的なスタッフである。
【その4】参加したこどもたちが、中学生になりジュニアボランティアとして参加=まちづくりのプロフェッショナル
 2年前より、参加したこどもたちの中で卒業後も継続して参加したい中学生を対象にジュニアボランティア制度を創設。前回2名の男子生徒が参加、そして今年は新1年生が3名参加予定である。
 彼らは高等教育でいう哲学・倫理学・社会学・地理学・歴史学・都市計画学・建築学・造園学・自然環境学等多岐にわたる学問の集大成(総合学習)として望まないと解決できない領域であるまちづくりについて、小学生時代から、見て聴いて、感じて意見して、参加者全員の合意形成をして、かつそれを言葉だけでなく絵にして、3Dの模型にし、脳裏に記憶している。
 このような参加したこどもたちが小学校を卒業し、今度はスタッフとして参加する。そのシステムの先にあるのは、その経験をした彼らが大人になった時、世界中のどこに暮らしても「まちづくり」について専門的なノウハウを永年にわたって学習した、いわば、まちづくりの本当のプロフェッショナルがうまれることにある。
【その5】メインの活動にとどまらない=他地域や他の活動、行政との連携
 まちは横につながっている。こどもたちにもよく言うのですが、まちづくりはその地域だけで終わらない。当活動も自分たちの活動にとどまらず、時には行政からの依頼でイベントに加わることもある。また他地域からも参考にしたいとの問い合せを頂く。他の地域で同様の活動が行なわれることが、私たちの希望であり、それによって私たちもまた一層成長できると信じている。
【その6】地域、こどもを知る=社員教育として取り入れる
 今年度、小学生向け英会話教室を主催している方より、社員を企画段階からスタッフとして参加させたいとの依頼があった。藤沢で教室を開くにあたり、地域を知ることの重要性と英会話の授業だけではなく、こどもたちとどのように関わっていくのが良いか模索しているようで、社員に当活動で学んでもらいたいとのこと。私たちも彼等からの客観的視点での色々なアドバイスを頂きたいと考え、お互いの相乗効果を期待する。

楽しくなければ人は集まらないし、活動は続かない。
 このように“こどもから始まる未来のまちづくり”=“人づくり”の活動によって、私たちは様々な人と関わり、つながり、今現在も発展している。15年の中で試行錯誤し、活動を続けてこられたのは、冒頭にもあるように、こどもたちの楽しかった!また参加したい!という笑顔によって私たちボランティアスタッフもまた無条件に笑顔になれるからである。どんな活動もそれによって元気がもらえるというのは活動を続ける上での基本だと思う。

■最後にこれから先の活動ビジョンについて思い描いていることをお伝えしたい。
 こどもを集めること、知ってもらうことが課題であった当活動も、おかげさまで昨今では募集開始から3日で満員御礼になる程、地域には認知されてきた。15年のトータルでの参加児童は延べ582人になる。
 次は藤沢市内に限らず他の地域でも同様な活動ができるような仕掛けづくりをしていきたいと考えている。そのひとつとして副読本の作成や講演活動など広く認知してもらう活動を行なうことと、幅広い分野でのスタッフ集めを目標としている。
 この賞への応募も次なるビジョンヘ向けての一つの活動である。