「あしたのまち・くらしづくり2012」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞

地区のオピニオンリーダーとしての自覚を持ち、課題解決とまちづくりの実践を推進
岡山県井原市 倉掛自治連合会
▽高齢化社会と自治会
 特別な取り決めがない限り自治会・町内会への加入は任意で、強制力はありません。しかし、人が社会生活を営むうえにおいて、周囲とよりよい関係を築くことは大切であり、そのためのネットワークづくりに自治会は役立つ組織と考えられます。近年は都会や田舎に関係なく孤独死が増えており、このような現状にどう対応すべきかを話し合う場としても役立つのではないでしょうか。孤立は考え方ひとつで誰もが陥る世界。「閉ざされた扉を開いてみませんか」といった意味合いの声掛けは、高齢化社会の一翼を担う民生児童委員や自治会役員だけでなく、地縁者として意識しておく必要性を感じます。

▽防災への取り組み
 東日本大震災以後、我が国の防災への関心は急速に高まり、災害時における「自助」「共助」「公助」の認識や、具体的取り組みへのきっかけづくりが急がれています。
 防災活動は個人でできることもあれば、地元住民がこぞって協力すべきと思われる分野もあります。ことに地震活動期に入ったとされる今日では超広域災害発生の可能性が高く、情報が集中する自治体に頼るだけの姿勢を改めておく必要性を感じます。前もって状況を見通せる防災エリアを線引きし、人々の住環境を細かく把握しておくのは殊のほか重要。有事に備えて自治会役員は、「自分が助からないと他人を助けることはできない」と理解したうえで消防団などと連携し、地域の弱点を探り、それらを補うための複合的対策を講じておかねばなりません。場合によっては、専門知識をもつ防災士を一定地域内へ置くことも検討する余地がありそうです。
 今日の日本はお互いのプライバシーに干渉しないとか、個人情報に触れないといった社会が形成され、隣近所同士であっても疎遠になりがち。しかし、こうした風潮は、防災活動を実施する際、不都合が生じるケースもあるのではないかと予測されています。つまり、自治会役員らが被災経験のない人々へ避難誘導を呼び掛けた場合、素直に応じてもらえるかといった不安です。杞憂であればよいのですが、強引な手法は住民の反発や協力体制崩壊つながるおそれもあるので、事前の話し合いを重ねておきたいものです。

▽市民活動センターと公民館
 私たちの住む井原町倉掛地区には長年、自治会活動の拠点となる公民館(自治会館)がありませんでした。歴代の自治連合会役員が最重要課題として建設推進を試みたのですが、大きな事業資金集めは容易でなく、計画は空転を繰り返していました。
 倉掛地内の駅前通りにあって親しまれていた某信用組合が平成13年暮れに経営破たん。その後数年間、この土地建物は整理回収機構の管理下にありましたが、平成16年に市が買い取り、井原市市民活動センターとして甦るという情報を得ました。これは千載一遇のチャンスとばかりに市へお願いし、建物の2階の2室を有料で借り受け平成17年4月、倉掛公民館としてオープン。公民館建設基金を気長に積み立てる長期計画から、既存施設を借りるという発想に切りかえ、「井原市内にある約100の自治会のうち、公民館がないのは倉掛だけ」と言われ続けてきた現実に終止符を打つことができました。

▽自治会とNPOとの連携
 平成19年、この施設に指定管理者制度を導入することが決まったのを受け、倉掛自治連合会のОB関係者はNPO法人市民交流ネットワーク井原を設立してこれに応募。3団体によるプレゼンテーションの結果、地元NPO法人が最も相応しいと選定され、翌年度から管理運営に関わることとなりました。3年間の努力の結果、井原市市民活動センター(愛称:つどえ~る)の経費は3分の1に縮小、利用者は3倍に拡大。この実績を評価され、平成23年4月から2期目(5年間)の契約を結び現在に至っております。今年9月には駐車場が今の3~4倍へ広がることから、さらに便利な施設となるのは間違いないところであり、今後の取り組みに期待が高まっています。
 「住民のニーズを捉えた自治会活動」といった文言はよく用いられますが、どのようにすれば具体的な姿を描くことができるのでしょうか。私たちは①自治会・町内会、②NPO法人等の団体や企業、③行政の三つの連携が相乗効果を生むと考えています。例えば防災や福祉への取り組みは、地域の実情に沿った計画が必要でしょう。そのための研究機関的役割を担えるのがNPO法人などで、情報を中心とした公的支援も不可欠です。地元のNPO法人市民交流ネットワーク井原は、倉掛自治会と協力して様々な講演会やまちづくりワークショップを開催。協働のまちづくり態勢は着実に根を下ろしています。
 最初から豊富な人材に恵まれている地域というのは多くありません。あてにならない人材探しを続けるよりも、郷土愛豊かな地元住民のレベルアップを図る方がより現実的です。また、人材が育つ土壌づくりを推進することで、あらたなエネルギーが蓄積され、諸問題の解決能力向上につながるだろうと確信しています。

▽広報活動
 「地域に新風を吹き込もう」と、倉掛自治連合会は平成9年5月、関係団体と協力して倉掛新聞なるミニコミ紙を創刊。平成16年7月には、新聞の郵送料軽減及び読者拡大を図ろうと、ホームページ「倉掛自治会」を開設しました。平成17年5月、岡山県ミニコミ紙コンクールで岡山県知事賞を受賞。年6回発行のペースを維持し今年6月、93号発行に至っています。
 倉掛地区ではこれまで河川の増水により、樋門から逆流した泥水が市街地へ入り込み、家屋の浸水被害が過去に何度も発生しています。樋門管理の徹底だけでは水害を食い止めるには至らないとの結論に至り、市との話し合いの場で強制排水ポンプを設置するように要望。願いは届き、今年4月に排水ポンプ樋門への改良工事が完了しました。自然流水式からポンプ式になったのは、倉掛新聞などでその必要性を訴え続けたことによる効果が大きかったと受け止めています。
 ミニコミ紙やホームページを使った広報活動は、自治会を住民参加型にさせるメリットがあります。例えば何か問題が起きた際、その実態を画像と文字で伝えることにより、まず関心度がアップ。井戸端会議で皆の知恵が沸いてくる。解決の糸口を掴む。住民が動く。そして解決…。そのような流れが自然と出来上がるからに他なりません。以前、自治会費算出方法の根拠が不透明であると自ら問題を提起し、その件を深く掘り下げ協議を重ね、住民との合意に至りました。物事を正直に伝えるという基本さえ守れば、広報担当者の苦労の多くは報われるように思われます。

 ゴミ問題や防災だけが自治会活動ではありません。これからはお互いの悩みや楽しさを共有できるミニサイズのネットワーク作りを進めることが、生きがいのある安心安全社会構築につながるのではないかと考えています。