「あしたのまち・くらしづくり2012」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞

安心して老いていける地域社会の実現に向けて
兵庫県市川町 NPO法人棚田LOVER’s
①活動目的・概要
 棚田地域での農作業体験・援農活動や、都市地域、大学での棚田の多面的機能に関する普及啓発活動を行ない、学生と地域、都市と農山村の人々が相互に理解し協力し合える関係を作りあげることによって、持続可能な循環型社会の創出に寄与することを目指している。活動概要としては、兵庫県を主として、市川町、姫路市、佐用町、香美町で田植え(6月)・稲刈り(9月)、大学や商店街で試食会の活動等を行なっている。お米のブランド化、空家の情報の収集、移住者の支援、貸し農園の運営も行なっている。過去メディア掲載88回。連携団体数63団体。

②活動背景
 農山村地域では、少子高齢化(兵庫県:合計特殊出生率1.36(注1)、高齢化率23.4%(注2))・過疎化(兵庫県では9の市町村(全市町村面積8395.47平方キロメートルのうち26.1%にあたる2193.76平方キロメートル)が進んでいる。そして、地方部から都市部への人口流出による集落消滅の危機、管理の担い手の減少による人工林の荒廃や耕作放棄田の発生などの問題(注4)が生じ、今後、集落の消滅や耕作田の荒廃がさらに進むと考えられている。
 さらに、地域では、「棚田を守りたいけれど、自分の子どもには引き継がせたくない」というジレンマがあり、地域のニーズとして、担い手育成や棚田を将来につないでほしいということが挙げられる。
 また、兵庫県に棚田は2992箇所(4000ヘクタール)ある。そして、棚田が存在する集落は584あり、そのうち305の集落の棚田は、条例や協定による保全が行なわれているが残りは行なわれていない。(注5)
 そのような中、さらに放棄田が増加しており、生態系保全・持続可能な循環型社会の創出のためには、農地や景観価値・治水機能による地滑り防止作用、生態系保全、食の生産地などの価値を有する棚田を保全することが必要である。特に、棚田は平田に比べ、在来種数が多く、貴重種が存在していることも研究されている。(出口詩乃、鷲谷いづみ2008「畦畔植生の評価」東京大学)。その背景や地域のニーズ、価値がある中、下記の内容を実施し、棚田の保全と活用、地域活性化、都市と農村交流の普及啓発・促進を目指している。

③活動内容
 下記の七つの活動を中心的に行なっている。
1.農作業体験(田植え・草刈り・稲刈り等)による棚田の保全・再生、貸し農園開園の地域活性化活動
 兵庫県神河町や香美町、市川町の多くの生きものが存在する棚田で、農作業体験(今まで計50回)をすることにより、お米を作る過程を知り、生き物と触れ合い、いのちやお米の大切さを伝えることができればと思い実施している。また、農家の方の苦労・収穫の喜び、自然への感謝・棚田のすばらしさを体感し、ふるさとへの愛着心を育む機会となっている。そして、稲刈りに参加した学生は「いただきますの大切さを改めて感じました」などの率直な感想を述べている。活動だけではなく、棚田米に名前を付け、棚田米のブランド化を行ない付加価値を高めている。過去には笹ひめという名前を付けたり、水車で精米も行なっている。
 さらに、2012年4月から市川町と連携し、貸し農園の開園も行ない、地域活性化活動を行なっている。
(注1)平成23年人口動態統計月報年計(概数)の概況
(注2)平成23年度 高齢化の状況及び高齢社会対策の実施状況
http://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2012/gaiyou/pdf/1s1s.pdf
(注3)全国過疎地域自立促進連盟(2007)『過疎市町村の人口・面積』『過疎市町村の数』全国過疎地域自立促進連盟HP
(注4)兵庫県(2006)『全県ビジョン推進方策(第2期)』
(注5)農林水産省(2006)「2005年農林業センサス農山村地域調査結果概要(確定値)」農林水産省HP

2.大学や商店街での棚田米試食会・販売等による大学・商店街活性化、空家情報収集、都市農村交流活動
 大学や商店街で、棚田米のおいしさや棚田の重要性を伝えることを目的に試食会を行なっている。下記にその詳細を述べる。
 2007年12月6日(木)12時~13時に、兵庫県立大学新在家キャンパス食堂前にて、棚田米試食会を行なった。対象は学生、地域の方で、試食者は54名(男性15名・女性39名)であった。
 その中で、「お米が甘くてそのままでもすごくおいしかった」、「また是非行なってください」、「こんなに味が違うとは思わなかった」、「生産者に感謝します」という参加者の感想もいただいた。現在は兵庫県立大学と連携して、酒米作りも行なっている。
 2008年4月27日(日)12時~13時に、地域の中心である商店街・地滑り防止機能を持つ棚田をきっかけに、農村と都市のつながりを知り、行動につなげてもらうことを目的に、姫路市にある二階町商店街にて、棚田米の試食会を行なった。そのように、農村での活動を都市で紹介することにより、都市と農村交流や商店街活性化につながる。試食会の対象は、地域の方や姫路菓子博参加者で、試食会は、105名(男性24名、女性70名、無回答11名)である。
 アンケート結果から「農業への支援策が認識されている一方で、それらの支援策を少しなら行なうことができるが、実際に垂要視して行なう人が少ない」ということが明らかになった。支援策をいかに負担にならないように、実行していくかが重要である。また、商店街では試食会だけではなく、地元の有機野菜の販売、中学生によるエコ川柳の展示小学校の子どもたちによるふるさとの絵の展示、パネル・資料展示等、過去を振り返も行なっている。さらに、農作業体験に参加していただいた方から募集した棚田米の名前の投票も行ない棚田舞(たなだまい)(棚田から夢と希望が舞い上がる)、段々美味(だんだんうまい)(段々になっている棚田から、段々とおいしい味がうまれていく)というブランド米を販売している。
 現在は商店街でのイベントは毎月3回行なっている(今までで計25回)。また、空家情報も収集し、2012年3月から都市から1名空家に仮住まいして、その方の支援も行なっている。
 これらの活動を通じて、多くの人に都市と農村がつながる重要性を知って活動につなげてもらい、棚田の保全と活用、都市と農村の循環共生社会の創出を目指している。

3.食や農の関心を高めるための農楽カフェ(意見交換交流会)の開催
 農・食そして有機農業から社会と世界をみつめる視点を、参加者同士で意見交換しながら、楽しみ、学ぶ意見交換交流会として、農楽カフェを神戸市の愛農人(オーガニックレストランカフェ&ショップ)やミドリカフェ、他の都会のカフェにて行なっている。実践されているゲストにお話をうかがいながら、ナビゲーターのサポートのもと、多くの方に参加していただいて、出会いを通じ活動をより良くするきっかけとなっている(2009年3月から開始、今まで50回実施、述べ約500名の参加)。そのように都市で農村の活動や食について紹介することで、都市と農村に関心を持ち、活動のきっかけになることを目指している。

4.有機農業講座の開催による有機農業の普及・啓発
 環境問題の進む時代に、農業・食・環境について講師の魅力ある話を聞いて、話し合い、より良い生活や「農的くらし」を考えるため、姫路市にて有機農業講座を行なっている。(2009年5月から開始、今30回実施し、延べ約300名の参加)有機農業の活動を専門家に話していただくことで、有機農業に関心を持ち、将来の担い手育成や消費者の増加を目指している。

5.企業:キタイ設計株式会社西日本支社、天然かさがた温泉せせらぎの湯などとの連携による地域の活性化
 キタイ設計株式会社西日本支社と連携し、企業のノウハウを生かして、企画のアドバイスをいただいたり、活動の紹介冊子や報告書を作ることにより、活動の活性化につなげている。社員の活動への参加を通して、より多くの人に棚田や地域の重要性を伝えている。また、天然かさがた温泉せせらぎの湯から入浴券の提供、有限会社高橋牧場にゅうにゅう工房からアイスクリーム割引券の提供、市川の里千代から割引券の提供、株式会社神崎測量設計から、田んぼアートのデザインの提案、播州農機販売株式会社から農器具の提供、株式会社姫路環境開発からエコ煉瓦の提供、株式会社環境保全センターからは廃材の提供などを通じて、社会に対して企業の社会的貢献の役割を伝えることにもつながっている。

6.棚田に特徴的な植物をキャラクター化することによる生物多様性のPR
 棚田は、安定した水供給源で流水性・排水性にすぐれており、周辺に森林があり、適度な傾斜面であるためワレモコウやマンジュシャゲなどの棚田のような地形的特徴を好む草本種が存在する。これらをキャラクター化し、親しみやすくすることで、子どもたちや多くの人に棚田の保全が植物の保全になること、生物多様性の重要性をPRしている。

7.他の団体のイベントに出展し、有機野菜の販売や棚田の普及啓発活動等
 過去には、加美町のラベンダーパーク多可のイベント(2008年、2009年6月)、兵庫県立大学のイベント(2008年7月)、板宿商店街のイベント(2009年5月)、2010年12月から豊岡の毎月第4日曜日の軽ヨン市に出展し、棚田のPR、有機野菜の販売をしている。また、会員や役員には兵庫県立大学の教授や農業の専門家に入っていただき学術的な指導をしてもらっている。

④活記録(活動実績・沿革)
2007年
5月3日 兵庫県立大学地域連携サークルとして設立 香美町の棚田の見学
9月 兵庫県神崎郡神河町、美方郡香美町にて稲刈り体験の開始
11月 兵庫県香美町の植樹の活動に参加
12月 兵庫県立大学環境人間学部での棚田米試食会開始
2008年
4月 姫路市において、二階町商店街と連携して棚田米試食会イベント実施「あそび、まなぼう祭2008in二階町商店街~都市と農村を棚田でつなぐ~」朝日新聞、神戸新聞、毎日新聞掲載
5月 兵庫県神崎郡神河町、美方郡香美町にて、棚田での田植え体験実施
6月 神崎郡神河町の棚田をPRする、水車の模擬実験
   ラベンダーパーク多可のイベントに出展し、棚田のPR活動
7月 兵庫県立大学新在家キャンパスで、自転車発電を行ない棚田のPR
8月 神崎郡神河町において、棚田のPRに活用する水車の試験運転
9月 神崎郡神河町、美方郡香美町の棚田で、稲刈り体験・水車の試験実施
11月 姫路市で、二階町商店街と連携して棚田米試食会イベント実施
   「COME BACK(コメ バック)棚田祭」
2009年
2月 兵庫県神崎郡市川町で、兵庫県知事を招いたイベント(中播磨地域ビジョン推進フォーラム)にて棚田LOVER’sの活動を発表
3月 姫路市や神戸市で、メトロ神戸、二階町商店街と連携して棚田米PRイベント「商店街や棚田にさあいこう」実施
3月 農楽カフェ(意見交換交流会)開始
5月 有機農業講座開始
   兵庫県神崎郡神河町、美方郡香美町にて、棚田での田植え体験実施 板宿商店街のイベントに出展
6月 ラベンダーパーク多可のイベントに出展し、棚田のPR活動
7月 兵庫県神河町奥猪篠の棚田にてそば打ち・かかし作り
   兵庫県香美町の棚田にてフォトコンテスト、花火大会、草木染め体験
9月 稲刈り・火祭り
2010年
1月 農村合宿:田舎に住んでみないかい
3月 中播磨県民局と共催でフォーラムの開催:食と生命(いのち)と里山と~私たちの中播磨in2020~
   法人格取得
4月~農楽カフェ毎月2回、有機農業講座毎月1回6月~田植え体験
7月 兵庫県香美町うへ山の棚田にて草刈り体験、写真撮影会、夏祭りへの参加
8月 商店街イベント:にかいまち商店街で食べて話そう!、そば打ち、ミニかかし作り体験
9月 フィールド農楽カフェ、稲刈り、棚田でコンサート、火祭り
12月 豊岡の毎月第4日曜日の軽ヨン市出店開始、もちつき
2011年
1月 農村合宿:田舎を訪ねてみないかい
3月 半農半Xのフォーラム開催
4月~農楽カフェ、貸し農園開園講座開催
5月~有機農業講座
6月 田植え
7月 コンサート
8月 商店街イベント毎月2回に継続して開催
9月 稲刈り
11月 収穫祭
12月 もちつき
2012年
1月 農村合宿:田舎で楽しんでみないかい
2月 シンポジウム開催
3月 佐用町でフォーラム開催
4月 貸し農園開園
5月~有機農業講座
6月~農楽カフェ、田植え

⑤活動の成果
 設立当時は5名であったメンバーも現在は150名(会員含む)と増加しており、多くの人々に棚田や都市と農村がつながる重要性を伝えることができている。また、農楽カフェや有機農業講座などの参加者は総数で約1000名となっている。