「あしたのまち・くらしづくり2012」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞

楽しい農業を展開しよう!―水郷を活かした農の里づくり―
滋賀県近江八幡市 農事組合法人白王町集落営農組合
(1)地域の沿革と概要
 白王町の所在地である近江八幡市は、琵琶湖を有する滋賀県のほぼ中央部に位置しており、平成22年3月21日に隣接する蒲生郡安土町と合併し、東西20.5キロメートル、南北15.4キロメートル、総面積約101平方キロメートル(琵琶湖含まず)の県内7番目の広さを有する市となった。
 市街地には趣あるまちなみや安土城趾など個性ある歴史・文化環境を有しており、安土桃山時代の中心地として、近江商人の発祥の地としても広く全国に知られている。また、同市は京阪神圏および中京圏の中間と国土幹線軸上重要な位置にある。道路では、付近に名神高速八日市ICおよび竜王ICがあるほか、国道8号線や主要県道が2本通っている。鉄道ではJR東海道本線、近江鉄道が通っており、広域交通基盤が整備された交通の要衝としての役割も果たしている。反面、JR沿線にあり京阪神に通勤可能なことから、駅を中心とした地域でベッドタウン化が進んでいる。
 市の北部は琵琶湖に面しており、その約1.5キロメートル沖合に琵琶湖最大の島である「沖島」を有している。市の北部には長命寺山・八幡山、東部には繖山(きぬがさやま)・箕作山(みつくりやま)、南部には瓶割山(かめわりやま)・雪野山と、三方に山を配しており、その中央部から西部の日野川流域および琵琶湖にかけて広大な平野が広がっている。また、北東部には琵琶湖八景「春色安土・八幡の水郷」といわれる西の湖とともに、琵琶湖の内湖を干拓した大中の湖干拓地が広がっている。
 水田面積は4127ヘクタールであり、市域の約40%(琵琶湖含まず)を水田で占めている。市では、昭和40年代から50年代を盛期に、『ほ場整備事業』(水田の区画整理、排水不良の改善、用水の安定供給、干拓など)を行ない、現在までに要ほ場整備面積の99.2%が事業を完了している。
 同市の農業は、これらの平野部および大中の湖干拓地をはじめとした干拓地を基盤に、良質な近江米、麦、大豆、野菜、花き、乳用牛、肉牛など多種多様な農産物が生産され、県下でも有数の農業地帯となっている。農業産出額は約75億円であり、そのうち約45%が米、約35%が畜産(主に肉牛)、約10%が野菜で占められている。

 白王町は近江八幡市の中北部に位置し、西の湖から長命寺川への河口にある集落である。かつては、集落の目前には内湖が、背面には急峻な山が迫った湖岸の集落であった。大中之湖干拓以前は交通不便地で、まさに「陸の孤島」と言われた半農半漁の集落であり、戦前までは買い物や物資の輸送、結婚時の嫁入りなど、日常の主な交通手段として船が利用されていた。
 現在の集落の姿は、昭和40年に行なわれた大中之湖干拓事業により県道伊庭円山線が整備され、それと併せて白王集落近隣の内湖を干拓し、現在の耕地面積を保有したことによりできあがった。地域の耕地面積は64.2ヘクタールで、集落戸数は50戸、内農家戸数は40戸である。1戸あたりの平均耕作面積は2.2ヘクタールであり、全てが第2種兼業農家である。白王集落のある西の湖・長命寺川周辺は、西の湖に展開するヨシ原や「権座(ごんざ)」と呼ばれる内湖に飛び地した湖中水田の風景などが、平成18年に「近江八幡の水郷」として重要文化的景観の全国第1号に選定された。また、平成20年にはラムサール条約湿地として西の湖・長命寺川が琵琶湖の拡大として登録されている。

(2)むらづくりの動機、背景
ア むらづくりを推進するに至った動機、背景
 白王町は琵琶湖の内湖に面した半農半漁の集落であり、立地条件から湖岸の農地はほとんどない一方、湖中水田がいくつか存在していた。昭和40年には大中の湖干拓と同時に集落近隣の内湖を干拓し、各農家は平均2ヘクタールの耕作面積を保有し農作業の機械化も進んだが、一部の湖中水田はヨシ原とともに干拓されず当時のまま残された。
 その後、後継者不足や機械の大型化などにより離農者が出始めたため、平成2年に生産組合を、平成6年には営農組合を設立して、麦収穫作業および水稲作業の受託を開始し、湖中水田を含めて水郷の農業と景観を支えてきた。
 このような中で、平成18年1月に全国初の「重要文化的景観」に、白王を含めた集落や里山の農村風景、および琵琶湖最大の内湖である「西の湖」の風景が「近江八幡の水郷」として選定された。これを機に、景観保全と営農活動について営農組合が中心となり集落で検討を重ね、「景観農業振興地域整備計画」を策定したことが、その後の景観保護の取り組みや、むらづくり活動につながった。

イ むらづくりについての合意形成の過程とその内容
 「重要文化的景観」選定を機に、水郷地区における「景観農業振興地域計画」を策定することとなり、白王集落では『景観を守るのは農業の振興である』との理念から本計画の策定に取り組まれた。計画の検討については、農家だけでなく住民参加型の計画となるよう、平成18年4月から農家を含めた地域住民のワークショップを4回開催して、町内の老若男女が「私の住んでるこのむらのこんなところが一番大好き」などのテーマで話し合いがされた。その結果、全国で第1号となる「景観農業振興地域計画」が同年12月に策定された。
 そして、取り組みのなかから「ふるさと白王町に寄せる思いはみな同じ」「むらづくり活動は無限にある。それを展開していくのが我々の責任」「そのために何をすべきか」などの認識が芽生え、「とにかく何かを始めよう」「楽しく農業に取り組もう」「みんなでやればなんでもできる」等のスローガンが立ち上がり、営農組合を中心としたむらづくり活動がスタートした。

ウ 現在に至るまでの経過
 営農活動の経過としては、平成2年に生産組合設立し集団転作等に取り組むことから始まり、平成6年には営農組合(特定農業団体)を設立して、麦収穫・水稲作業受託等を開始した。その後、平成18年8月に協業化して集落営農組合(特定農業団体)を設立し、現在は法人化を目指して検討を進めている。景観保全については、「景観農業振興地域整備計画」の検討をきっかけに、平成19年に集落営農組合が中心となって「白王町鳰(にお)の会」を発足、同20年には「権座・水郷を守り育てる会」を発足し、湖中水田『権座』を中心に農村・農地・水等の環境保全活動や各種イベントを行なっている。また、平成19年10月には鳰の会主催で国内外(イギリス、カナダ、米国、オーストラリア、ニュージーランド、中国)の大学教授等を招いて国際シンポジウム「文化的景観の動態保全に関する国際ワークショップ」を開催した。
 その他、集落営農組合や鳰の会が中心となり、集落ぐるみで次のような事業に取り組んできた。
○里山再生プロジェクトの実施
○里山リニューアル事業
○高齢者や非農家と連携した、地域を挙げての生産調整の実施
○主婦層や子どもも協力、丹波黒の枝豆出荷共同作業
○コスモス・ひまわり等の景観作物の植え付け
○幻の酒米「滋賀渡船六号」の「権座(ごんざ)」での作付け
○魚のゆりかご水田の設置
○「権座(ごんざ)」の魚道設置
○収穫感謝祭IN GONZAの開催(権座・水郷コンサート)
○「権座(ごんざ)」視察の受け入れ

(3)むらづくりの推進体制
ア 当該集団等の組織体制、構成員の状況
○組合員  38人
○役員体制
 代表理事 1名
 理事   8名
 会計   1名
 会計監査 2名
 (女性部 10名)

イ 当該集団等と連携してむらづくりを行なう他の組織、団体及び行政との関係
○白王町自治会・白王町鳰の会:地区住民の意見を集約するとともに、各種自治活動を実施する組織で、環境保全活動・まちづくり推進の会として「鳰の会」を結成し、交流活動に取り組んでいる。
○集落内各種団体:老人会やPTA・婦人会など。それぞれの立場からまちづくりや各種イベント・取り組みに参加・協力している。
○近江八幡市・JAグリーン近江:地域で行なわれている営農活動に対し、近江八幡市では市の集落営農モデルとして、JAグリーン近江でも近江八幡地域の集落営農先進地域として位置づけ、各種支援を実施している。

ウ むらづくりに関して、各集落の住民の当該集団等や連携する他の組織、団体との関係及び参加状況
○円山・北之庄集落:「景観農業振興地域整備計画」の近江八幡市水郷地区として、白王町とともに指定されており、計画の推進面で連携している。
○NPO・他まちづくり団体等:環境保全やまち作りのイベント開催等で、情報交換や講演会の開催等で連携している。
○権座・水郷を守り育てる会:白王町の住民および、権座での取り組み(権座プロジェクト)に賛同する地域外の方々で構成された団体。権座における種々の催しを主催している。
○西の湖・伊庭内湖流域みずすまし推進協議会:西の湖・伊庭内湖流域における、農村地域の環境保全活動について、情報提供や研修会・イベント活動などの支援を行なっている。

(4)むらづくりの農林漁業生産面への寄与状況
ア 農林漁業における生産面、流通面の取り組み状況
 現在白王町では総水田面積47ヘクタールにおいて33ヘクタールの水稲、28ヘクタールの生産調整作物(麦14ヘクタール+麦後大豆14ヘクタール)が栽培されており、そのうち7ヘクタールの水稲および28ヘクタールの生産調整作物について集落営農組合が協業経営で担っている。生産調整については麦後の全てのほ場に大豆(白大豆・黒大豆・丹波黒)を作付け、農地の高度利用を図っている。
 流通面では、水稲については県のこだわり農産物認定制度による環境に優しい米づくりによる有利販売に努めるほか、権座において幻の酒米「滋賀渡舟六号」の栽培に取り組み、純米吟醸酒「權座」の生産に携わった。また、種々のイベントにおいて地元産の野菜(玉ねぎ、かぼちゃ、じゃがいも)や加工品(権座団子、漬物、こんにゃく、権座弁当、黒豆茶)を直売して好評を得ており、将来的には直売所を設ける構想もある。

イ 認定農業者や集落営農等担い手の状況
 地区内の農家は全てが兼業農家であり、認定農業者は不在である。かつては、離農者の増加により地域の農業の存続が課題であった白王町であるが、営農組合が地域の担い手として、生産調整作物および離農者の農地を管理し協業化してきたことにより、地域農業を存続することができた。

ウ 新規就農の状況や女性、高齢者、NPO、企業等の参画状況
 営農組合での農作業は、70歳以上の高齢者やサラリーマン、学生等若者など、農家・非農家・男女に関係なく気軽に参加できるようにし、効率よく工夫した生産活動を展開している。特に、丹波黒については、一定量を枝豆として出荷しているが、その作業は主婦層や学生などをも交えた「集落ぐるみで楽しむ作業」となっており好評を得ている。また、種々のイベントにおける地元産の野菜や加工品の直売活動については、営農組合の「営農組合女性部」が主体となって行なっており、将来的には直売所を設ける構想もある。

エ 農地の利用集積、耕作放棄地の解消等の状況
 生産調整については、集落全体がブロックローテーションに取り組み、集落営農組合により協業経営されている。また、水稲についても7ヘクタールについては集落営農組合により協業経営が実施されている。現在、営農組合の法人化が検討されており、集落の農地全てを法人に利用集積し、集落1農場経営に踏み切る計画である
 猪による獣害により、山沿いの水田の一部で耕作放棄地が存在したが、平成18年に里山再生プロジェクトにより、肉用牛放牧による獣害緩衝地帯として耕作放棄地を活用し、肉用牛生産と獣害防止の効果をあげている。

オ 加工・販売等の経営の多角化、環境保全型農業への取り組み、食品産業との連携等の状況
 営農組合単独での取り組みとしては、水稲などについて「滋賀の環境こだわり農産物認証制度」に取り組み、環境に優しい農業生産の実践に取り組むほか、丹波黒の枝豆出荷や、女性部による農産物・加工品の直売を手がけている。また、「白王町鳰の会」では、まちづくり活動の一環として、農村・農地・水等の環境保全活動や景観作物の作付け、魚のゆりかご水田等の取り組みを行なっている。
 平成19年10月には鳰の会主催で「文化的景観の動態保全に関する国際ワークショップ」を開催した。さらに、「権座・水郷を守り育てる会」では、権座を中心に水郷農業と環境について、地域外の市民との交流や環境保全活動を行なうとともに、権座において幻の酒米「滋賀渡舟六号」の栽培に取り組み、老舗の酒蔵と連携して純米吟醸酒「權座」の生産・販売まで手がけられている。
 このように、地域の営農活動や地域内での環境保全の取り組みに限らず、地域外の市民もこぞって参加される取り組みに拡大しており、大きなまちづくりの成果が得られている。これらの取り組みは、全て集落営農組合が中心的な役割を果たして実現してきたものであるが、その根底は『景観を守るのは農業の振興である』の理念から生じたものである。

カ その他地域農林漁業の持続的発展のための取り組み(経営の改善)
 現在、組合の営農活動としては、集落全体の生産調整作物および7ヘクタールの水稲において協業経営を行なっているが、様々な集落をあげての活動により集落全体での協業化の気運が高まってきており、平成22年度内には法人化するとともに、集落1農場方式による協業経営を開始しようと計画している。

(5)むらづくりの生活・環境整備面への寄与状況
ア 生活・環境整備面の取り組み状況(生活環境施設の整備、安定的な就業機会の確保、生活条件の改善、定住の促進など)
 白王町は水郷・里山を背景にした農村集落で、「滋賀県長命川河川改修事業」(現在も施工中)により、住居等施設移転に伴って平成7年に公共施設(自治会館・老人憩いの家・町民グランド等)が新設されるなど、土地改良事業とあわせて大きく生活環境・営農環境が改善された。
 この事業が実施されるにあたり、当時の白王町土地改良工区の役員や農事改良組合など、営農組合の母体となる組織から役員を選出して開発委員会(のちの「まちづくり委員会」)が設立されて、現在のまちが形成された。このように、単に豊かな自然環境だけでなく、住環境整備においても「農」とともに発展してきたといっても過言ではない。また、白王町は歴史的民族行事等が数多く残る集落で、昔ながらの「しきたり」や「慣習」が守られ伝統を重んじるが、一方で、若い世代を役員等に積極的に登用し、伝統文化を守りつつ若い世代の意見を取り入れ、「時代に合ったもの」へと改善に努めている。
 農業面における後継者不足は当町においても深刻で、「後継者の育成と確保」は喫緊の課題となっている。営農組合においても田植え時期や大豆・かぼちゃなどの収穫期には労働力が不足することから、町内に在住する主婦層や若者(高校・大学生を含む)を中心に事前調査を実施し、就業者リストを作成して農作業に従事してもらっている。これにより、「農作業従事者の確保」と「次世代に農の魅力を肌で感じてもらう機会の提供(後継者の確保)」の両面の効果が得られている。
 当町は、「重要文化的景観の選定」や「景観農業振興地域整備計画の策定」により、『水郷を活かした農の里づくり』を基本理念に、営農組合を核に「農」を中心とした各種イベント等も積極的に展開してきた。これまで若者世代は就職や結婚に伴い町を離れることが多かったが、近年では二世代住宅やUターンする者も増えてきた。また、町内への定住希望者の問い合わせが増加しており、営農組合が窓口となり空き家対策と併せて定住促進に努めている。これらのことは、「農」を中心としたまちづくりが、結果として当町の「魅力」を認識・再認識された現れと言え、営農組合の「自信と誇り」になるとともに、地域全体としても活気を取り戻している。

イ 地産地消及び食育の推進、都市住民との交流等の状況
 これまでは、水稲・麦・大豆の作付けのみであったが、営農組合の活性化のため、かつて近隣地域で生産されていた幻の地域伝統野菜「北之庄菜」を復活させるとともに、生産向上(消費拡大)を図るため、漬物や蕪蒸しなどその調理方法も併せて研究をするなど、地域ブランドの再構築を進めている。また、漬物には、純米吟醸酒「權座」の精米時に発生する米ぬかを利用しているほか、上質米粉は米粉パンやクッキーなどの加工品への利用を研究している。また、全て地元産の野菜や琵琶湖の魚などを材料にした、地産地消の「権座弁当」の試作に取り組み、本格化への開発にチャレンジしている。
 平成19年度から都市間交流事業として、市内のボーイスカウトの団体の親子や權座を守る会等のメンバーに呼びかけ、権座地区での田植え体験、稲刈り体験等のイベントを実施している。また、体験活動後は権座を中心に西の湖内にある漂流物の回収等、環境美化活動を毎回行なっている。
 特に、この体験活動では、「環境こだわり米」として無農薬、完全有機肥料で育て、刈り取りも手刈り、乾燥も天日干しするなど、五感で感じられる一貫した農業体験活動により「食の安心・安全」と「食・命の大切さ」を伝えている。こうして育てられ収穫されたお米は、環境こだわり米として、アトピー性皮膚炎などの疾患者にも重宝されている。品種としては、これまでミルキークイーン、コシヒカリ、滋賀渡船六号を作付けしてきた。

ウ 地域資源(土地、水、自然環境、景観、歴史・民俗文化)の保全・活用やコミュニティ活動の強化等の状況
 『水郷を活かした農の里づくり』」が白王町集落営農組合の基本理念であり、単に農作物生産の組織ではなく、水郷地帯のシンボル的存在である「権座」周囲の葭原保全や崩れた護岸石積みの復原、遊休農地(水田)の開墾など保全・活用事業にも積極的に展開している。また、白王町の背後にある白王山は、かつての里山から雑木林や孟宗竹の繁茂による荒れ山となっていた。そこで、平成19年度に里山リニューアル事業の認定を受け、山頂までの散策道路や見晴台の整備を行なうとともに、伐採された孟宗竹を骨組みにした「バンブーハウス」を建設した他、持続的な活用策として粉砕して圃場に鋤き込み有機質資材として活用するなど、「環境にやさしい取り組み」の一環として展開している。
 平成18年、「重要文化的景観」選定に伴い開催した「権座・水郷コンサート」を皮切りに、毎年11月に「農の収穫感謝祭in GONZA」を開催している。コンサートを軸に、農産物加工品の販売や懐かしい農機具の展示・実演、さらにはこれまでの活動記録の展示、権座ミニツアーなど、地域住民と都市住民との交流を深めるため、盛りだくさんのメニューでイベントを運営している。この催しには、ほとんど全町民がスタッフとして携わり、「農」を通して住民のコミュニケーションを深める場ともなっている。
 また、当町は多くの歴史文化や民俗行事の宝庫であり、その伝統行事のほとんどは「農」との関わりが深い。これらを継承するため、今年度から滋賀県立大学の協力を得ながら仮称「村の歴史」の編集をすることにした。特に、言い伝えや寺社仏閣に保存されている古文書などの調査に併せて、生存する長老からの聞き取りを行ない、歴史書としての記録をまとめて地域コミュニティの道標として活用していく予定である。

エ 女性の活動、高齢者の生きがい活動その他多様な主体の参画した活動状況
 『水郷を活かした農の里づくり』のキーワードの一つに「もうかる農業」を掲げており、単に農産物を売るだけでは「農業は続かない」、継続するには「付加価値のある農産物の生産」が必要であると考えている。
 このことから、営農組合では女性部が中心となって加工農産物の研究に取り組んでいる。各家庭における収穫野菜の調理方法の出し合いに始まり、斬新的な発想での加工研究などを重ね、地産地消弁当「権座弁当」などを開発してきた。現在では、「権座弁当」の調理手法を生かして、高齢者対象に毎月1回開催している「生きがいサロン」(対象者約20名)の運営と食事サービスにスタッフとして協力している。

オ その他地域の生活安定・向上のための取り組み等について記述
 当町の農地は、土地改良事業により整備され営農条件は改善されたものの、里山の山間部や水郷地帯の葭原の中に多くの圃場があり、耕作困難地となっている。これまで近代化の波に押され、それらの田んぼは耕作されず遊休地として放置されてきたことから、営農組合では、離農者からの農地の受け入れと合わせて、まずはこれらの遊休農地から営農活動を進めてきた。こうした方針により、現在では土地所有者からも営農組合活動に信頼を得ることができ、「農地を営農組合に安心して任せられる」という機運が地域に定着しつつある。また、高齢農業従事者にとっては、大きな負担軽減とともに余暇時間が創出され、新たな「生き甲斐づくり」に寄与される効果も期待できる。
 とりわけ、地域住民との関わりが希薄化するなかで、『水郷を活かした農の里づくり』を通して、それぞれの場面で地域住民一人ひとりが「自分のできること」を見直し、生き生きと活動できる仕組みが定着しつつあり、活気に満ち溢れた地域となっている。