「あしたのまち・くらしづくり2012」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞

放置竹林対策・里山再生事業による自然資源の有効活用と山間地域の活力づくり
静岡県伊東市 NPO法人伊東里山クラブ
 人を寄せ付けないくらいに広がってしまったモウソウチクの薮―。小さな「段野山」も食糧難の戦中・戦後は開墾して畑に利用され、薪炭林にも変わり、やがて里山の価値を見出せなくなり山の手入れを放置すると、いつの間にかモウソウチクに占領され、クヌギ、コナラ、ヤマザクラの大きな木が何本も朽ち、野生のシカ、イノシシの格好の隠れ場所になり近所の畑に出没して農家を困らせています。
 放置竹林は厄介者です。環境、崩れた生態系が自然に改善されることは期待できないから、とにかく竹を伐ってその後も手当てしなければなりません。平成21年12月から私たちが始めた静岡県伊豆市姫之湯の「中伊豆の森・夕焼け小径(こみち)」整備事業はひと冬の間集中的に伐採して跡地に小さな自然散策路と緑化スペース、使われなくなった旧公道も散策路に活用することで22年4月開所しました。残った竹林の間引きと枯れ竹処理をして誰でも自由に筍掘りを楽しめる場所に開放しました。
 竹林整備で活躍した自走式樹木粉砕機によりチップ化した竹を園地に堆積しておくと、そこにはカブトムシが好んで産卵(竹などに多く含まれるケイ酸の効果か)。今年6月中旬、竹チップ山の中から何匹ものカブトムシ成虫が這い出て来るのを確認しました。
 私たちNPOの主眼は《森林及び人の暮らしに密接な「里山」を活用する活動により地域に貢献すること》です。竹林との関わりでそのメリットを生むことを描いていました。竹チップは堆積しておくと50℃ほどの発酵熱が出る(発酵熱利用の足湯、施設栽培等の利用)、発酵が止まった後の竹は園芸堆肥の原料にならないか、竹チップそのものも炭化させて優秀な土壌改良材になるだろう。こうしたテーマで22年9月から緑の募金特定公募事業「放任竹林対策を目的とする里山再生モデル(社会貢献)事業」に採択され、竹の取り組みを伊豆市貴僧坊、姫之湯の山間地域振興にも絡めてみたいという思いで現在も進めています。
 活動に賛同してくれた地元の住民が休耕地を提供してくれて「伊東里山クラブ中伊豆・貴僧坊ECOファーム」を作りました。幸いにも助成事業の資金を活用できたので建材などの負担はなく、あとは自分たちの思うとおりの手作りです。インターンシップOJT受入れも組み込み大工仕事や竹林整備などを手伝ってもらいました。今年4月、ファームのオープンには地元住民のほかにも噂を聞きつけ他所から来てくれた人たちも。その中のひとり鉄骨関係自営業の方は、木質燃料のペレットストーブを伊豆で普及させたい、という情熱を持っています。『伊豆の山に放置された木や竹を利用してストーブの燃料にする。山や里はどんどんきれいになる』と言う。
 その通りだと思います。自分たちのライフスタイルからいつの間にか除外されてしまった森林や里地里山。身近な自然環境がおかしくなってきた原因の一つは私たちが自然の中に立ち入らなくなったせいです。
 自分たちのフィールドであるECOファームを通じて中伊豆・貴僧坊の名前をアピールして《田舎ナンバーワン》の里山製品を創っていこうというのが目標です。
 現在行なっている竹チップ燻炭製造は、籾ガラ燻炭をヒントにしています。製品化にこぎつけ、さらに製造能力を上げるためペレットストーブ技術なども応用して自前の製造器づくりを進めています。燻炭入りの培土でECOファームの畑で自然薯栽培も始めました。
 竹チップ発酵熱利用では沢水を温水化して淡水魚養殖に役立てよう。自然薯とナマズ料理、いかにも元気が出そうな名物料理が出来れば、貴僧坊の売り物になる。
 夢は膨らみますが、燻炭を作れば「放射性セシウムの成分検査は済んでいるのか。暫定基準値を下回るものでないと土壌改良資材として販売は奨励できない」(静岡県)。東北地方の稲わら飼料問題などを知ってはいましたが、まさか検査対象地域に福島原発から遠く離れた静岡県が含まれているとは知りませんでした。検査費用は自己負担だというセシウム検査をこの段階で受けるべきか思案中です。
 竹チップ発酵槽は、立派な建屋も手づくりしてみましたが、チップを大量に詰め込み過ぎたことが悪かったのか、堆積してから1ヶ月経過して温度低下。硬くしまった槽の中を掘り出すと中は発酵が進んでいない。これから酸欠状態を解消する槽の改造を考えることにしました。やっていることの大半が初めての試みですから失敗と試行錯誤の連続であることは仕方ないと気持ちを割り切っています。
 ECOファームに関心を寄せてくれる人たちが見学に来てくれるようになり、飼っている3頭の小ヤギを目当てに子どもたちも遊びに来る。姫之湯の里山公園ではこの夏カブトムシがたくさん見られるでしょう。来年は、カブトムシの幼虫を竹チップに入れたセットにして《里親制度》を試みたいです。希望者に分けてあげて成虫になったら里山公園に返しに来てもらう。
 中伊豆は「ワサビの郷」としてよく知られています。ワサビ田がある筏場地区の隣に位置する貴僧坊地区は年々人口が減って100人を切りました。何とかして集落に活気を生みたいと思う人もいるようです。田植えやワサビ漬けづくり体験のイベントで他所から子どもたちを呼ぶこともあり、この夏休みはワサビ体験のお客さんにECOファーム広場をお昼のバーベキューに使ってもらうことになりました。
 NPOの取り組みはいかに地域との連携、協力者の確保にあると考えています。あまりテーマを欲張らずに一つひとつ成果を見せていき地域のひとと自然資源を含めたモノを確保していくことにしています。
 竹林に関連して、姫之湯のフィールドでは「中小形筍生産のためのモデル竹林」整備も進めています。背丈が伸びる竹を若いうちに先を折取り(ウラ止め仕立て)を続けていくと次の世代の筍は小型になっていく。サイズが小さければ掘りやすい、家庭でも茹でやすい。生産林の竹は背が低く頭の枝葉がないから陽の光が余分に差し込み、地温が早く高まればそれだけ出筍が早まる(シーズン初めの筍は高値で売れる)。あと3、4年親竹の仕立てを繰り返せば成果が出せそうです。
 竹林、竹チップの取り組みと並行して進めているのが人工林の間伐材などの利用です。(林内に残された間伐や倒れた木)せっかく枝打ち間伐しても残った木はコストが見合わないから放置される。風倒木もなかなか片付かない。伊豆地方は観光地ということもあるので森林景観を良くすることをもっと考えてほしいものです。でも、そうした材も私たちには資源です。
 放置しておけば、ただ腐るだけの丸太はもったいない。これまでは間伐材をハイキングコース整備の丸太橋や土留め資材などに使ってきましたが、自前の樹木粉砕機を利用して、ヒノキのウッドチップ資材にします。丸太の芯の部分(赤身)こそヒノキのいい香りの素です。「α(アルファ)‐ピネン」という香り成分がガンの増殖を抑える効果(療養環境に応用)があると県立静岡がんセンターが発表しました。森林由来が治療に役立てば素晴らしいことです。
 それを追い風にしているわけではありませんが、この7月から、香りの癒し効果をねらった製品を売り出してみます。
 室内で飼育する小型犬用のヒノキクッションと総ヒノキベッドのセット。ひとが使うものではヒノキ枕、シューズキーパー、パソコン作業にはキーボード用の細長いクッションなど。販路がないのでひとまずフリーマーケットなどで少しずつ販売活動をしていきます。試作品は会員の協力でチップを入れる布を縫っていますが、宮城県南三陸町の縫製業(被災地支援活動を通じて今も交流がある)の方に少量作業をやってもらうことになり、また小物類は貴僧坊地区のお年寄りに手内職をお願いします。自然資源を生かした地域ビジネスが少しずつ形になってきます。