「あしたのまち・くらしづくり2012」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞

“一人の百歩より百人の一歩”を目指して―つなげよう福祉・ふかめよう絆―
静岡県掛川市 掛川市西山口地区福祉協議会
「地域のために自分ができることで参画したい」「自分のできる時間に協力できれば」とボランティアの気持ちを持っている人は必ず地域にいる。
 しかし、こんな意志を持っている地域住民が、地域活動に自発的に参加できる環境ができていなく、その門戸が開かれていない。どこにでも存在する地域活動であるが、福祉組織でさえ意外にこのような環境が整っていないのが実情である。誰かに頼まれてしぶしぶ役員を受けざるを得ない。あるいは輪番だから仕方なく任期を務める。という体制が現実だと思われる。まさに「やらされ感=義務感」で1年から2年の任期で終わってしまうことが多い。
 このような役員選出体制だけでは決してボランティアは育たない。ましてや役員のなり手(人材)だって育つはずはない。とりわけ、地域福祉拡充の視点からみれば、地域住民の福祉ニーズに応えるに十分な実践活動はなかなかできないのが現状ではなかろうか。
 そんな課題を克服、乗り越えたい、ボランティア環境をつくりたいと、当地域で6年前、それまで西山口地域生涯学習センターの専門部の一つであった「福祉部」から独立した福祉組織を設立した。筆者がその設立準備委員会の事務局長を経て企画委員長として携わり、多くの協力者・関係者と共に立ち上げた西山口地区福祉協議会である。
 その構想の中で、まず最重要課題としたのが、地域活動に協力したいという意志ある地域住民が、自発的に参画できる環境をつくることであった。そして小学校との密接な協力関係をつくることや子どもたちを地域組織に取り込んだ活動を展開すること、さらに、大きな社会問題になっている高齢者問題を組織的に取り組むことであった。そのためには、地区内の七つの自治会(区長会)と地域生涯学習センターそして福祉協議会がバラバラの活動展開をするのではなく、3者が緊密に連携・融合した組織体制にする必要もあり、このことも設立構想の重要課題として見定め、設立5年間の実践活動を通して、その具現と定着に務め6年目を迎えている。

 このような構想から設定した特筆すべき最重要事業の順で以下4点に絞って紹介する。
1.あえて立ち上げた「ボランティア委員会」の定着と拡充
(1)西山口に「ボランティア土壌・環境」をつくり、地域の福祉力の醸成
 地域で意志ある人が自発的に参画できる環境をつくり、その門戸を開くために、あえてボランティア委員会を設置、自分にできる活動参画の道を開いた。
 また、任期で終わる地区から選出されてくる役員等へは、年度末の退任の折に、ボランティア委員会へ籍を置いて継続参画する意志を問い(意向調査の実施)、任期を終えて「はいサヨナラ」ではない方策もとっている。何人かは必ず残ってくれている。
(2)ボランティア委員会の活動内容の工夫と拡充及び幼保園・学校との連携
 幼稚園、小学校との連携を深める中で、下校時の声掛け、学校花壇管理や図書室協力、障害児支援、さらに子育て支援活動としての子ども福祉委員会活動、児童支援講座、未就園児親子の子育て支援サークルのサポート等の協力部を設置、この中から自分にできることを選択して参画する運営方法をとった。これらの協力部に重複して参画している委員も多くいる。
(3)長続きする運営の工夫と配慮(本人の意志・思い・自発性を尊重する)
 このボランティア委員会の工夫点は、あまりきつい拘束をしない、柔軟な対応で運営する手立てをとっていることだ。そして、協力部に所属しないでも、『フリー』という選択肢を設けながら、バザーや下校声掛けの全体事業にはできる限り参加してもらうようにしている。この対応により、委員は、気軽に、負担を感じないで参加できるという好評も得ている。
 地区選出委員で構成する専門部委員会(研修・広報の2委員会)事業では、ボランティア委員とのスタッフ協働体制もとり、違和感なく運営できていることも活動の質的充実に奏功している。
 この結果ボランティア委員は、設立当初17人で出発したが、6年目の24年度は60人と増え、その活動展開は大幅に拡充している。

2.地域組織の中で子どもを育てる「子育て支援」の具現と定着
(1)「子ども福祉委員会」設置と常時活動(「地域による福祉教育」の具現)
 「地域で子どもを育てる」ということはよく耳にするが、具体的に地域組織に子どもを取り込んだ、いわゆる「地域による福祉教育」の具体を実践続けている。
 地区内のグループホームを定期的に訪問、入所のお年寄りと交流している。また、地区敬老会へ「子どもスタッフ」として参画、来場者の案内役や進行役を務めながら出し物も披露する。さらに、福祉バザーの売り子スタッフ、保育園との訪問交流等々貴重な、そして多彩な体験の場を企画、希望加入の子どもたちと実践を続けている。
(2)幅広く、確かな子育て支援の体制・環境を地域でつくる
 福祉部が独立以前からあった「子育て支援サークルじゃがいも」へのボランティア委員のサポート体制が組織的に確立した。また設立後、小学校児童を対象にした児童支援講座(物つくり体験教室)も年5回開設、毎回30名前後の児童が参加し、子どもの休日の受け皿に大きな効果をあげている。

3.「高齢者支援」問題の組織的取り組みと人材・リーダー育成、意識啓発
(1)地域の高齢者支援「見守りネットワーク」を組織的に取り組む
 地域の特に高齢者1人世帯への声かけや安否確認を地域組織で実施、それぞれ方法や密度には温度差があるが、現在6地区が地道ではあるが取り組みを続けている。
(2)「見守りネットワーク活動」の学習や意識啓発や行政関係機関との連携
 関係委員による全体研修会を1年に1回設定し、学習の場として意識高揚を図りつつ、年に2~3回「西山口見守りネット会議」を設定している。この会議には、支部長、民生児童委員、当会の企画委員に加え、行政・市社協・包括支援センター等関係機関の職員に同席してもらい、各地区での対応上の問題点等のアドバイスを受け、課題や配慮事項等情報交換しながら問題を共有できる場としている。

4.三者連携の組織体制と役員任期体制のメリットの伸長とデメリットの克服
(1)3団体連携組織づくりと地区選出の委員との協働体制の構築
 ふ福祉協議会・く区長会・し生涯学習センターの連携できる組織を基本に据え、それぞれの分野、立場で活動展開をしながら、究極の目的は「西山口地域づくり」を目指すことを基本に据えている。
(2)任期選出委員の継続参画とボランティア委員との協働体制をとる
 任期選出委員の退任時、ボランティア委員に籍を置いて継続参画したい意志ある人の受け皿をつくることは前述したが、加えてボランティア委員会との協働体制を仕組むことによるメリットの伸長、デメリットの克服を図る試みも講じている。

 このように、我が地域では、地区選出委員と大勢のボランティア委員の協働体制を試みながら、まさに「一人の百歩より百人の一歩」による子育てから高齢者支援まで幅広く、そしてバランスのとれた地域福祉活動が実践されてきている。これは、6年目の合い言葉に加えた「つなげよう福祉・ふかめよう絆」を目指す西山口福祉の、そしてボランティア土壌づくりの確かな土台ともなり、我が地域福祉の未来を明るくしている。
 地域活動でも大事なことは、10年の地域活動から得た私個人の持論だが、つ・スリー:「創る」・「繋げる」・「尽くす」という前向きで、やる気の起こる、創造的な仕掛けを組むことであり、義務感や踏襲の積み重ねでは活性化された地域活動は育たないことをこの5年間の福祉活動の実践で体感した。もちろん、最大の課題は、「人・活動・組織をつなげる」ための後継リーダーや人材をいかに育てるかということである。地域コミュニティの難題のひとつでもある。