「あしたのまち・くらしづくり2012」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞

子育て支援とネットワークづくり
福島県福島市 NPO法人まごころサービス福島センター内子育て支援部門こども緊急サポートネットワークふくしま
【序】
 当子育て支援事業は、前身は厚生労働省委託事業(平成18年~22年3月)でした。平成18年当時、全国35都道府県で、この事業は始まりましたが、委託終了と共に、次々と事業も終了していく中、当方では自主事業で継続という道を選択しました。
 その理由は、21年度の会員数は1190名、年間活動件数が2177件でしたので、事業を終了させると困る人が多すぎると判断したためです。結果、23年度は、会員数1081名、年間活動件数3717件となり、委託時より伸びています。会員数は、委託時は登録無料で、現在は有料ですから、登録のみをしていた人たちが減ったことになります。

【事業目的】
 では、この事業は何を目的として、何をするのかを、まず説明したいと思います。事業目的は、仕事と子育ての両立できる社会づくりです。
 厚生労働省23年5月20日「平成22年版・働く女性の実情」によれば、「非正規の職員・従業員が1218万人(前年差22万人増、前年比1.8%増)となった。女性労働者が今の会社で働き続ける上で必要なことは、子育てしながらでも働き続けられる制度や職場環境(25~29歳:64.7%、40~44歳:39.2%)、育児や介護のための労働時間での配慮(25~29歳:47.8%、40~44歳:40.3%)。就業を希望しながらも求職活動を行っていない女性の理由は、家事・育児のため仕事が続けられそうにないとする者の割合が、30~34歳で65.3%、25~29歳で56.7%」
 上記のように、子育てしながら働き続けられる制度や職場環境を望む声は、この事業が全国的に始まった平成18年からありました。当時と変わった点は、非正規労働者が増えたこと。育児に加え、介護の負担も加わっている点。社会状況は、ますます深刻になっていると言わざるを得ません。
 一時期、父親の育児参加を呼び掛け、イクメン、カジメンという言葉も生まれましたが、毎日新聞(2012年4月10日)によると、「都産業労働局が実施した11年度の仕事と家庭の両立に関する調査で、男性従業員の52.5%が育児休業の取得を希望しているにもかかわらず、1年以内に妻が出産した男性の実際の取得率は1.8%にとどまることが分かった」と発表されており、イクメンの浸透は厳しいようです。
 この現状の中、地域の子育てを支える仕組みの維持・継続は全国的な課題と言えます。

【事業内容】
 事業内容は、大別すると五つあります。
①病児預かり。多くの保育所等では、病気の子どもは預かりません。集団保育のため、他の子どもに感染の恐れがあるからです。②朝は元気で、保育所等で急に熱を出す子もいます。その際、保育所等から親にお迎えの連絡が入ります。でも、親は仕事を休めません。帰れません。親の親も働いていたり、介護が必要だったり、離れて暮らしていたり、母子家庭、父子家庭もあります。地域コミュニティも崩壊していますから、子どもを頼める人も、身近にいません。
③急な残業・出張時の子どもの預かり。①、②は子どもの都合ですが、③は親の都合です。急な仕事が入り、保育所等のお迎え時間に行けないことは、よくあることです。保育所等では保育時間の延長もしていますが、自分が何時に帰れるか、わからないこともあります。今後を考えると、「子どもが待っています。お先に失礼します」とも言いづらいものです。宿泊を伴う出張時も深刻です。取引先に子どもを連れて行けない。会社でも預かってくれない。数日間、自宅や宿泊先で子どもに留守番をさせることも、乳幼児には厳しいことです。医者、看護師、警察官の利用会員もおりますが、そういう職業の方は、夜勤もあります。
④病院受診代行。これは、①、②に関連し、親からの要望があれば、預かり中の子どもを病院に連れて行きます。下の子が予防接種のため、その時間、上の子の預かりという事例もあります。
⑤その他、子育て支援全般としては、病気ではない子どもの預かり。産後の家事支援。出産付き添い。遠足付き添い。授業参観代行。PTAの通学路の旗振り当番代行。病院・企業等が研修・イベント時の出張託児。入院中の子どもの付き添い等、様々なニーズに応えております。早朝から働きに出る方もいれば、深夜に働いている方もおりますので、依頼される活動時間にも、幅があります。

【事業体制】
 上記五つの活動を行なうには、各地域での事業体制作りと、その連携。有志ボランティアの発掘が必要となりました。そこで、次は体制・連携について説明いたします。
 体制としては、経営母体の異なる複数団体(NPO法人、保育所、法人格のない子育て支援団体、個人)等の参加により、福島県内の広範囲(県内に14支部)で、同一事業を展開しています。当事業は会員制組織のため、利用する側、スタッフ(サポートする側)、共に会員登録を必要とします。登録は、事業本部または各支部で随時受け付けています。その個人データや活動報告書は、本部に全て集まります。そして、本部は、会員証を発行します。
 利用する際は、登録後、必要時に本部または支部に連絡頂ければ、依頼条件に合わせたスタッフを手配し、以降、利用側とスタッフの連絡調整を事務局が行ないます。活動前の双方の事前顔合わせも実施しています。ほぼ毎日利用する方もいれば、月数回の方、年数回の方もいます。いつ、子どもが病気になるか、自分が仕事等で帰れなくなるかは予測できることではないため、文字通りの「緊急サポート」事業です。個人登録の他、当事業では団体登録も可能です。総合病院・福島県警察本部・いくつかの企業等が、当事業を福利厚生で利用しています。
 利用料金は、活動終了後、領収書兼報告書と引き換えに、利用者からスタッフヘの直払いとしています。後ほど事務局から利用者に徴収という形にすると、新聞の集金係のような人が必要となりますが、直払いのため、徴収の手間が省けます。利用料金は、支部により異なりますが、直払いの原則は共通です。活動終了後に利用者と本部または各支部に提出する報告書様式と書き方も共通です。
 スタッフは、有償ボランティアとして登録しています。主に、自分の子育てが落ち着いた世代(50代~70代)、元保育士、元看護師等が多く活躍しています。ほぼ9割は女性です。ボランティアといっても、子どもを預かる活動をするため、いい加減では困ります。そこで、責任感を持たせるために有償であり、スタッフ養成研修会を県内各地で、年数回実施しています。その研修を修了した方が登録され、かつ、活動中の補償保険が適用になります。
 スタッフ養成研修会の内容は、補償保険提供元の基準に従い、1研修24時間(4~5日程度)のプログラムで、小児看護、子どもの栄養、発達心理、安全・事故、子どもの遊び等を学んで頂きます。その全課程を修了した方が登録されます。ただし、どのスタッフに頼みたいかは利用者の選択であり、人気のある方もいれば、それなりの方もいます。

【事業連携】
 連携には二つの意味合いがあります。一つは、当事業に関する連合体としての連携と、他子育て支援や町づくり系団体との連携・震災復興関連です。
 連合体としての連携では、福島市在住の会員が白河市に出張になった際、白河支部に属しているスタッフに、子どもの預かりを依頼したいということもあり得ます。福島・白河間は、高速道路を利用しても片道2時間かかります。そのため、福島市のスタッフが白河まで活動に行くのは、不効率です。そこで、同一の体制で同一事業を行なっている拠点が、県内各地にあれば、どこでも同様のサービスを利用できるということが、連合体としての連携の利点です。また、報告書様式・料金表・個人情報保護の考え方・会則・適用される補償保険の内容等の書類は、当事業のサイトからダウンロードが可能にしてあります。
 他団体や震災関連での連携は、イベント・研修・仮設住宅支援という形で行なっています。例えば、福島市内には、仮設住宅エリアが17か所に点在しています。その方々は、出身地も世代も職業も異なります。今後の除染次第で帰れる人、帰れない人、帰りたくない人、働き始めた人、働き先が見つからない人、働きたくない人もいます。各エリア毎の特徴やニーズも出てきました。それらを個別で支援するより、複数の団体がまとまってという考え方から、いくつものプロジェクトや協議体が生まれては消えました。消えた理由は、助成や委託が終わったからであり、また新たなものが生まれるのも、助成や委託のおかげです。ここに、事業継続の難しさがあると感じ、最後に、課題としてまとめたいと思います。

【課題】
 当事業は、委託が終了しても自主事業として継続。さらに、委託時より実績を上げるという珍しいことをしています。当事業では、今も各種助成金を活用していますが、それは子育て支援という本体事業用ではなく、イベント・研修・仮設住宅支援のためです。
 委託が終わっても事業を継続させるには、企業的な考え方、すなわちNPO(特定非営利活動)は、儲けてはいけないという意味ではない。無償ボランティアや低賃金では、自分の生活が成り立たない。自分たちの活動を知ってもらえる機会があれば、積極的に参加したり出向き、支援者を集める、知名度を上げるという意識改革が課題と考えます。