「あしたのまち・くらしづくり2012」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 主催者賞

災害被害を少なくする防災知識と日頃の備え―女性の視点とネットワークを活かした防災対策の普及・啓発活動で災害に強いまちづくり―
神奈川県秦野市 なでしこ防災ネット
1.はじめに
 なでしこ防災ネットは、平成17年に家庭や地域に密着している女性の防災力を高め、女性の視点で災害に強いまちづくりのため、女性防災士に呼び掛け、立ち上げた団体です。東海地震、神奈川県西部地震の切迫性が指摘されている秦野市を拠点に、行政やボランタリー団体など地域の様々な主体との連携した減災・防災に取り組み災害に強いまちづくりを目指し活動を推進してきました。
 定例事業は、防災講演会、体験型防災講習、防災コミュニティサロン、勉強会などです。家庭における災害への備え、災害時の非常食や生活用水、トイレの確保など、家庭の主婦、女性の視点から家庭や地域での防災対策を解り易く提案し、楽しく実践しています。様々な年代、分野の団体と連携し助け合いながら、体験型の普及行事(緊急搬送訓練、避難所設営訓練、炊き出し訓練、サバイバルdayキャンプなど)や、防災教材の作成(点訳による資料づくりや手話、音声DVDの作成など)をしています。
 年々、口コミで参加者も増え、防災や福祉などいろいろな団体と連携した活動が地域に広がっています。近頃は、県内外から依頼された体験型防災講習や、秦野市の井戸や湧水の調査と防災MAP作成、「災害時協力井戸の家」の看板設置運動などを行い、地域の防災意識の醸成と防災活動の活性化に取り組んでいます。

女性の視点から防災を考える
 防災に関する知識や技能を学び、災害への備えが大切なことを実感しました。同時に、防災は男性がリードし、女性の視点が欠けていることに気づきました。災害時の避難所では、女性はトイレや授乳、プライバシー面で苦痛を強いられる弱い立場にあります。一方で、日中に被災した場合、家庭にいる女性が対応しなければならないことが十分想定され、また日頃の備えには女性のきめ細かな配慮や知恵が不可欠です。家庭の母親が学んだ防災知識は家族へ伝えられ、近所づきあいから地域にも広がっていきます。災害弱者でありながら家庭での防災の担い手ともなる女性だからこそ、その意見が防災対策に反映される必要があります。地域防災における女性の影響力は非常に大きいのです。
 そこで、女性たちにもっと防災を身近に感じてもらえれば、地域の防災にもつながるのではと考え、仲間に呼びかけました。そこで、できるところから活動を始めることにしました。
 現在は、秦野市の地域防災相談員や消防審議会委員などを務めるメンバーもおり、地域防災で重要な役割も担っています。

2.女性ならではの防災
(1)防災体験ができるキャンプを実施
 これまでの活動で最も力を入れているのが、サバイバルDayキャンプです。楽しみながら防災体験ができる実践型青空防災教室として、平成17年から実施しています。自分の命、財産を守るすべや、ライフラインが途絶えた環境で生き延びる術を身につけ、災害時に具体的な行動がとれるようにするのが目的です。キャンプでは、以下の限られた材料や道具で参加者自身が作ります。
道具や材料 できるもの
立木、ブルーシート 避難所
スコップ、ブロック3枚 かまど
拾った薪、大釜、米 炊き出し
ブルーシート、竹、板2枚、スコップ 青空トイレ
三角巾、包帯 応急手当
竹、毛布、上衣など 簡易担架
 ロープワーク、ペットボトルを使った浄水器づくりや緊急搬送訓練、青空地震教室なども行ないます。食材は近隣の農家の人たちが提供してくれます。これまで20回開催し、毎回70〜200人の参加があります。参加者は親子、高齢者、障害者、中高生など様々です。

(2)女性の視点からの防災リーフレットを作成
 平成20年度は、内閣府などが行っている「防災教育チャレンジプラン」にも応募し、実践団体に選ばれました。女性の視点で防災・減災・災害に強いまちづくりを目指して活動を展開し、そこから得た知識や情報などを整理して、リーフレット「女性の視点からの防災対策」を作成しました(平成21年1月発行)。災害の被害を受けやすい一方で、防災・災害復興の担い手ともなる女性の立場から、家庭での日頃の備えと工夫、地震発生3秒・3分・3時間・3日の行動などを分かりやすくまとめ、防災教育チャレンジプランの防災教育特別賞を受賞しました。このリーフレットは、現在も防災講習のテキストとして市内だけでなく、県外でも使用されています。平成21年には日本全国からの依頼で16000部配付しました。

(3)「もしもの時の非常食」の発行
 平成21年度は、災害時の「食」に注目し、地域性や想定される災害の状況にあわせて「食の備え」について考え、被災時の食事をただの栄養補給としてではなく、疲労やストレスの軽減、被災者間のコミュニケーションのツールとして役立ててもらうための冊子を作成しました(平成22年3月発行)。
 水道、電気、ガスなどのライフラインが麻痺し限られた食材しかない地震発生直後、救援物資が届き出す3日後〜7日後、避難生活が長引く7日後以降に分け、一般の食材に救援物資を取り入れておいしく工夫できる非常食レシピや、停電時のビニール袋炊飯方法などを紹介しました。冊子作成時には、「もしもの時の非常食コンテスト」を開催し、試作、調理を行ない参加者とのコミュニティを深める場づくりを提供しました。また、寄せられた声を生かして新しいレシピの開発・改良もしました。この冊子も、防災講習のテキストとして広く活用されています。

3.地の利を活かした防災対策
(1)市内の井戸・湧水調査と防災地図の作成
 平成22年度は、災害時の生活用水確保に向けて、秦野市内の井戸や湧水の調査を行ないました。市には全国名水百選の“秦野盆地湧水群”があり、豊富で良質な湧水に恵まれています。市の10年に一度の調査時期と重なったことから市の全面的支援のもと、関係団体と連携して取り組みました。
 調査対象の井戸・湧水は119か所に及び、中学生や高校生のボランティア80人や市内の地理に詳しい郵便局OBの協力なども得て、一軒一軒回って調査しました。その結果、108か所から災害時に協力してもらえることになりました。型式や停電でも使用可能かどうか、水圧、使用状況、用途などを細かく調査し、「もしもの時の災害時協力井戸・湧水MAP」を作成しました(平成23年2月発行)。個人情報保護に配慮し、地区限定版、市内版、市外も配布可能なもの、と掲載情報の内容を変えた3種類を作りました。また、ボランティア団体や障害者団体の協力で、点字訳版マップや手話・音声のDVDも作成しました。その取り組みでは、防災教育チャレンジプランで防災教育優秀賞をいただきました。

(2)地域の協力で「災害時井戸・湧水 協力の家」の看板設置
 平成23年度は、災害時協力井戸・湧水の看板を設置しました。間伐材を活用して「秦野市災害時生活用水協力の家」の看板を作成し、112軒に届けました。看板設置運動に取り組むことによって、井戸の場所が一目でわかるようになり、防災意識の向上と地域との連携が更に深まりました。
 また、登録件数が少ない自治会が「水」対策を真剣に協議検討するようになり、災害時の生活用水の確保について地域が本格的に取り組みはじめたことは予想以上の展開でした。

4.成果
20年度・・・内閣府など主催の防災教育チャレンジプランの実践団体に選ばれ、防災教育特別賞を受賞
21年度・・・神奈川県ボランタリー活動奨励賞を受賞
22年度・・・内閣府など主催の防災教育チャレンジプランの実践団体に選ばれ、防災教育優秀賞を受賞
23年度・・・内閣府特命大臣の社会参加活動章を受章
・知識と意欲を高める普及、啓発活動が地域で受け入れられ講演、講習依頼が年々増加。
・「いいことをやっているね」という声が大変多く、口コミで参加者が増え、次回の場所や材料の提供をして下さった=協力者が増えている。
・コミュニティサロンやイベントごとにスタッフが成長している。
・行政や多種多様な団体との交流も深まり、互いに得意分野を活かした連携を図ることができた。
・はじめは無関心であった家族が母親の熱心な働きかけにより、家具の固定や耐震、飛散防止フィルムを張ったり、防災カーテンに替えたり、防災家族会議や非常持ち出し袋の準備など防災対策をとる家庭が増えた。
・サバイバルDayキャンプなどの日ごろの活動を積み重ねた結果、多くの災害対策や課題が発見でき、その成果をリーフレットにまとめることができた。他県市数団体から約1万6000部依頼があった。
・作成した防災教材を行事開催時に活用し、女性の防災意識の啓発、家庭での備えなど家族の防災力の向上から災害に強い社会づくりに結びつけることができた。
 また、点訳による資料や手話・音声DVDなど、4種類の防災教材を作成し、関係者に役立ててもらい防災の普及促進につながった。

5.これからの活動に向けて
 東日本大震災の支援活動も行っています。義援金募金活動を行うとともに、平成23年7月〜8月には救援物資を届けるプロジェクトを実施しました。集まった物資を9月に被災地に届けるとともに、福島県から原発事故で秦野市内に避難している家庭にも提供しました。被災自治体などからは足りていると言われる物資でも、小さな仮設住宅のコミュニティに行くと足りていないケースがあります。ネットワークを活かし、支援を続けていきます。
 なでしこ防災ネットは、ネットワークを広げながら様々なテーマに取り組んできました。毎年、テーマを決めて活動し、それをリーフレットや冊子にまとめてきました。それらは、秦野市役所の窓口で配付され、講習会や勉強会で広く利用されています。
 平成24年度は、災害時のトイレづくりをテーマに活動しています。今後も、女性の視点からの防災対策を進めていきます。