「あしたのまち・くらしづくり2012」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 主催者賞

下和泉住宅のまちづくり 難問を地域の力で解決
神奈川県横浜市泉区 下和泉住宅ボランティアグループ
 私はある講座に参加し「日本の地域コミュニティ」と題して首都大学の玉野和志教授のお話を聞く機会がありました。先生は『地域には2種類の活動団体がある。一つは自治会町内会、もう一つは市民団体・NPO・ボランティア団体、前者は公的な団体で行政に特別視され個人の趣味でなく、地域のために使命感をもって活動されている。後者は気の合った仲間同志が私的な関係で趣味などを通じてまちづくり活動をしている。
 この両者は、相容れない性格をもっていて、共に行動を起こそうとすると自己主張が強く、まとまらなくなってしまう。しかし、性格の違いを理解し強みと弱みをカバーし合えばすばらしい結果が出る』
 この話しを聞いて、私たちの自治会とボランティア団体のことを話しているのだと心底思いました。私の友人の地域で失敗した例も聞きました。その地域の市民団体はコミュニティバスを通そうと企画し、発車寸前にバス停などで自治会に相談したところ猛反対となり中止となった悪例です。最初から共同して企画に参加していれば成功と思います。
 平成9年、順番で役員が回ってきていきなり会長に推薦されました。それから今日までの15年間、2年ごとに改選される新たな役員の皆さんと、山積するたくさんの課題に挑戦してきました。以下その経過をご紹介します。

1.私たちが住んでいるまち
 私たちが住んでいる下和泉住宅は、昭和37年に山林を造成して作られ横浜市の南西部、泉区和泉町で水と緑が多い緑被率の高い田園地帯にあります。造成時は、市営水道はない、道路舗装はされてない、バス停まで歩いて10分〜15分、最寄りの駅まで40〜50分かかる交通不便な場所でした。

2.高齢化と交通不便の激化
 居住者は950世帯3000名、30代40代に住んだ人はそれから45年たっているので70代80代と高齢化が進み、若者は大学や就職で転居、少子化がはじまり人口の減少が徐々にはじまり過疎化の傾向が出てきました。
 平成11年、横浜地下鉄は戸塚駅から湘南台駅まで延長され、便利になると思ったら路線バスは廃止路線あり減本ありで、40年前にタイムスリップしてしまいました。住民からは、まちの活性化について議論がはじまり、平成11年度の自治会総会でまちづくりの提案が行なわれ取り組みが開始されました。

3.まちづくりが次々に展開される
 平成11年、自治会内に特別対策委員会を設置し、委員は役員以外の各層からの代表者によって委員会を構成しました。まず、最初に手がけたことは、住民の意見を聞くため全戸にアンケートを配布し、問題点を抽出しました。その問題点を共有化し、実施が容易なものは何か、早く取り組む必要なものは何かと優先順位を決めて実行に移していきました。
 以下、平成13年から23年までの10年間、取り組んだ課題と実施された内容は次の通りです。
(1)平成13年、災害時の災害弱者に対して物資供給を行なうためCOOPかながわ和泉店と「生活物資協定」を締結し支援体制を整えました。同年、大災害時に自主活動としての「自衛防災隊」が発足し、避難誘導班・救護班等五つの班編成を行ない、24名の体制を確立しました。さらに同年、高齢者・障がい者を自宅から病院までや外出支援として、自家用車による送迎活動「あやめ会」を発足しました。
(2)平成14年、交通不便を解消するため下和泉地区交通対策委員会(Eバス委員会)を設置し、自主運営によるミニバス「Eバス」を運行開始しました。
(3)平成16年、「さんさん倶楽部」が誕生し公園に花いっぱい運動が始まり犬ネコトイレから花壇に、さらに同年、日常生活支援団体「福祉の会」が誕生し、庭の手入れ、家の簡単な修理、買い物の手伝い、介護送迎の活動が始まりました。
(4)平成17年、自治会館が建て替えられ「まちづくり塾」と命名されました。高齢者の利用が盛んになりました。
(5)平成23年、認知症を知り、防ぎ病気になっても安心して暮らせるまちづくり「ひばり会」が誕生しました。

4.事業団体ごとに独立した組織づくり
 事業の企画・検討は自治会段階で行ない、実行するのはそれぞれの団体を設立して自主運営、ボランティアを募って事業を展開しています。自治会と任意団体が任務を分け、協力し合いながら二人三脚となって活動しています。
 主な事業内容は以下の通りです。
(1)あやめ会
 平成13年に事業開始した時は任意団体として、19年にはNPO法人に変更しました。年末年始7日間の休みのほかは毎日8時から18時まで活動しています。現在12名が運転活動し、6名がコーディネーターをしています。利用者は要介護者以上の人たちを対象に100名程が登録しています。1日の利用者は15名から20名です。会の運営は、理事会構成員6名、運営委員13名計19名で、2か月に1回運営委員会を開催して事業報告、検討事項を協議しています。

(2)Eバス
 一般貸切りバスを使用しての運行なので、誰でも乗れるバスではなく、会員制として会費を取り会員証を提示して乗車する制度としました。ボランティアの人が乗車して会員の確認と安全確認を行なっています。
 バス停を設置することや時刻表を掲示することもできないので直接会員に知らせる方法をとりました。
 運行本数は朝夕18便、1日の乗客は150人から200人です。会の運営は、役員は6名、運営委員は20名で年6回の会合をもって、事業報告、検討事項を協議しています。

(3)ひばり会
 平成23年5月に発足しました。高齢者、要支援・介護者、認知症などで体に病気をもっている方々が、安心して暮らせるまちづくりを目指すのが目的です。会の運営は、老人会・民生委員・自治会役員などから委員11名を選び運営しています。講座の会場は身近な自治会館を拠点にして、年6〜7回の講座を開き、専門医や地域ケアプラザから講師を派遣して講義を受けることにしています。昨年度の延べ参加者は700名、1回平均100名の方々が受講されています。

5.議題を知り実行に至るまでのステップ(すべての課題解決に共通)
(1)第1ステップ(知ること)
@ 課題を知るには、聞くこと、見ること、調べること。
A 課題の共有化をはかり、内容分析を行なう。○多数が望む課題か ○少数しか望まない課題か
B 課題に対して住民の意識を調べる。○アンケート調査 ○聞き取り調査 ○事例調査
(2)第2ステップ(考えること)
@ 課題の検討会議はどの場が望ましいか。○役員会(自治会)○検討委員会(特別委員会)
A 検討委員の選出には各層から幅広い方々を選ぶ。
B 課題実行に優先順位を決める。
C 実行にあたって人材が確保できるか。
E 中・長期に維持するための財源確保と補助金制度の調査と申請。
(3)第3ステップ(つなげること)
@ 課題解決に多くの賛同者を得ること。(説明会の開催)
A 討議の内容を広報活動を通じて知らしていきながら、事業参加者を探す。
B 組織的な支援を確立するため、区役所・区社協・自治会連合会の協力要請を行なう。
(4)第4ステップ(動くこと)
@ いよいよ実施、事業の信頼を得るためボランティアについて意志の統一。
A 活動者と利用者の声を紹介し、お互いの助け合い意識と感謝の気持ちを感じ合う。
B 活動者同志の意志疎通をはかり成果と反省を常に行なう。
C 事業経営の明朗化。
(5)第5ステップ(拡げること)
@ 優先順位で次の事業項目に目を向ける。
A 利用者の拡大と活動エリアの拡大を目指す。
B 同じ活動をしている団体と交流をはかり問題点を克服していく。

6.まとめ
 人材の発掘、財源の確保、長期的運営、明朗会計いずれも事業運営にとっては重要なことです。さらに重要なことは、支えるボランティアがやりがいと生きがいを感じて『元気の素』をいただいていることです。
 15年間、地域の努力で難問を解決し「住んでいて良かった」「若者がふるさとに帰って来た」「自宅に閉じこもることなく会館で趣味を楽しむ」「自治会への協力度が増した」「もっと支え合い、もっと住みよいまちづくりにしたい」こうした声を励みに「遠い親戚より近くの自治会」を合言葉にこれからも力を合せて頑張っていきます。