「あしたのまち・くらしづくり2012」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 内閣総理大臣賞

支援は「場所」ではなく、「人」にするもの
宮城県石巻市 NPO法人フェアトレード東北
はじめに
 私たちNPO法人フェアトレード東北は、東日本大震災以前からローカル及びグローバルコミュニティにおける社会的排除の解決、市場社会で活動する事業型NPOです。活動指針として、フェアトレード商品の普及活動とともに、障がい者や高齢者、ひきこもり・ニートなどの社会的弱者を対象に雇用支援を行なっております。就労の場を与えるソーシャルファーム事業として、生産された商品を「ウェルフェアトレード商品(社会福祉取引商品)」とし、一般企業との協働という形で販路を開拓。高齢者や障がい者、ニート、ひきこもり、そして地域住民が協働するという、地域が地域を支える取り組みを行なってきました。
 2011年3月11日の東日本大震災に遭い、石巻市では中心市街地を含む沿岸域の約73平方キロメートルが浸水し、被災住家は全住家数の約7割の5万3742棟、うち約4割の2万2357棟が全壊となりました。沿岸域においては、工場や事業所をはじめ、学校・病院・総合支所等の公共施設が壊滅的被害を受け、本市全域でライフラインが停止し、都市としての機能が失われました。震災後の最大避難者数は約5万人、避難箇所は250箇所で、想定の域を大きく上回る甚大な被害を受けました。そこで私たちが見た「在宅被災者」の現実と、現在私たちの主な活動である「巡回型被災高齢者等訪問事業」について説明していきたいと思います。

1.在宅被災者の現実
 私たち地元スタッフは震災直後の3月13日よりセカンドハーベストジャパン(東京で活動している日本初のフードバンク)などの協力のもと月間約60トンの物資配給や炊き出しを週約5000名に対して行なうと同時に、市内全域の避難所をまわり主に支援格差が著しかった旧牡鹿町、北上町、雄勝町などの自宅避難所や、石巻市沿岸部の在宅避災者1件1件に生活実態調査を行ないました。およそ1万5000件の調査を行なっていく上で分かってきたのですが、在宅被災者には情報が一切入らず、どこにも頼るところがなく生活している人が多くいることが分かりました。体が不自由で他人に迷惑をかけたくないなどの理由で避難所や仮設住宅に暮らさない方、被害を受けた家屋での暮らしを余儀なくされた方など、全壊の家屋で1階が壊滅状態であっても2階で寝泊りをしたり、かなり生活困難な状況だったのです。その在宅被災者は行政が実態をほとんど把握できず、置き去りにされていました。特に高齢者や独居の方が多く近所の方や家族との連絡が途絶えた方もいました。それによって今までのコミュニティは崩壊し、ほとんど情報がないまま孤立した状況に陥る在宅被災者が増えてきていました。

2.「見守り巡回訪問」とは
 そこで私たちフェアトレード東北では、「巡回型被災高齢者等訪問事業」という形で石巻市の在宅被災者への支援を始めました。主に高齢者や生活が困難な方に対しての「巡回型被災高齢者等訪問事業」は孤立・孤独を防止するという目的で行なってきました。全国の皆さまから頂いた支援物資を在宅被災者の皆様に配りながら短時間でコミュニケーションを図り、体調や心理状態を確認するという方法で行ないます。同じ震災を経験した地元スタッフによるもので在宅被災者に同じ目線で接することが出来ました。
 また、ボランティアや石巻専修大学の学生の協力のもと、まだ状況が分からない大街道地区1271件、渡波地区1249件の調査(平成24年1月14日時点)を行ないました。調査では体調や生活状況、孤立感の有無などを詳しく聞き取り、それについてスタッフ全員が統一した視点から判断し、高齢でコミュニティがない方に対しては定期的に訪問し、コミュニケーションをとりながら必要な支援に繋げました。調査から判断した結果、1万5000件中およそ1200件(平成24年4月時点)が「巡回型被災高齢者等見守り訪問事業」の対象者となりました。頻度に関しては、月1回・2週間に1回・1週間に1回・1週間に2回以上と、対象者の状況に応じて設定をしています。
 また関連団体の協力を受け、震災による失職や収入の低下による財政困難で、食事もまともに取れていない方には食糧支援、震災に関しての法律トラブルには法律相談、震災から時間が経過した現在でも多く目立ちますが、PTSDなど心理的問題を抱えている方に対しては東北大学臨床心理士による心のケアなど、様々な問題に対応できるようになっています。

3.「巡回型被災高齢者等訪問事業」による成果
 私たちフェアトレード東北は、2011年7月10日に「巡回型被災高齢者等訪問事業」での成果が認められ石巻市の委託事業として活動するようになりました。私たちがこの活動を続けて行く上で重要になっていくであろう現在の対象者の視点やニーズを知るために、アンケート調査を実施しました。その中にはこんな意見がありました。
「今まで誰も来てくれなかった」
「どこに相談していいのか分からなかった」
「少しでも言葉をかけてくれるだけで気持ちが楽になった」
 フェアトレードの訪問をきっかけに近隣同士の交流も増えたというケースや、私たちの訪問が震災以降初めてのコミュニケーションだったなど、私たちの活動によって一人でも生きがいを取り戻すことが出来たのであれば、本当にこの活動の意味は大きいものだと実感しました。予想だにしなかった震災で急遽始まったこの「巡回型被災高齢者等訪問事業」。これからの復興に様々な課題も多く抱えていますが、人と人との支援の原点は、話し相手がいることによる人とのつながりや安心感にあるのだと思います。

4.「巡回型被災高齢者等訪問事業」から「ソーシャルファーム」への発展
 今までの「巡回型被災高齢者等訪問事業」の主な目的は定期的な見回りとコミュニケーションによる孤独・孤立の防止、また生活困難者などへ専門家と実践的な改善策を提案するということだったのですが、今後の発展に向けて新たに「ソーシャルファーム」の活動と連携することになりました。当団体は震災以前より「ソーシャルファーム」の活動を積極的に行ってきました。「ソーシャルファーム」とは、ソーシャルエンタープライズの一種であり、障害者あるいは労働市場で不利な立場にある人々のために、仕事を生み出し、また支援付き雇用の機会を提供することに焦点をおいたビジネスです。私たちフェアトレード東北では、畑を借りてそこで野菜などを育て、実際に企業に売るというものです。在宅高齢世帯の方々、仮設住宅に住んでいる高齢世帯の方々にこの「ソーシャルファーム」の活動を提案しています。
 震災から1年が過ぎた現在、未だに孤立・孤独による自殺など、主に高齢者の孤立・孤独死は社会問題になっています。内閣府自殺対策推進室のデータでは、平成23年6月から12月までの震災に関連した自殺者数は宮城県内だけで22人。その中のほとんどが高齢者になっています。他にも孤立・孤独死の数を足すと少ない数ではありません。その原因の一つとしては、人間関係がなく閉じこもりがちというケースが挙げられます。その人間関係を築くための手段として、コミュニティを通じたふれあい・交流が必要になってきます。そこで「巡回型被災高齢者等訪問事業」で私たちが訪問して交流をしていた世帯にもこの活動を提案し、定年を迎えても元気で働ける方などは積極的に参加していただいています。働くことを生きがいとしつつ、働いている仲間同士の交流により自然とコミュニティが形成されていきます。今後の大きなコミュニティ形成の発展につながることが予想されます。

5.今後の展望
 今後、私たちフェアトレード東北では生活状況に応じた新たな「巡回型被災高齢者等訪問事業」、「ソーシャルファーム」の拡大を目標としていきます。
 震災から1年以上が経過し、在宅被災者の生活状況は変わってきています。介護施設の復旧や、生活の再建が出来ている方が増え、生活にゆとりが取り戻されつつ傾向がある一方、心理的問題は以前より減少することなく、むしろ増えていく傾向にあります。これらの状況下で私たちの「巡回型被災高齢者等訪問事業」は、介護サービスの利用者、生活が再建されている方への巡回頻度を減らし、心理的問題を抱えている方への巡回頻度を増やす対応をしていこうと考えております。巡回頻度を減らした方についても定期的な見守りは欠かさず、体調、生活環境の悪化など的確な情報を把握し、早急に専門職につなげられる姿勢を保っています。
 また、今後の「見守り巡回訪問」では、震災によって失われたコミュニティの再建を目指し、地域での活動を広げていく手段として活用することを目標としています。在宅被災者のニーズなどをくみ上げ、現在の状況を把握するとともに、体が不自由であまり遠くへ行けない高齢者に対して、小さな範囲での交流の機会、場所を提供します。「地域自らがコミュニティ形成」をする手助けをする、ということが今後の私たちの目標です。
 「ソーシャルファーム」の拡大については、現在取り組んでいるこの活動による結果として、
「コミュニケーションの機会、場所が出来た」
「働くことによって生きがいができた」
「毎回ソーシャルファームに行くことが楽しみになった」
 など、震災で自分の居場所を失った方々にとって良い効果を与えていることが明らかになっています。
 今後は新燃岳噴火により高齢者などが居場所をなくした宮崎県高原町や、雇用の場がなく若年者の失業率が高い沖縄県などへの展開を進め、これからの雇用機会の減少に大きく貢献できるのではないかと考えています。

6.まとめ
 最後に、こういった支援活動は私たちを支えてくれた協力団体の皆さまや、全国の皆さまの支援があったからこそ出来たものです。当団体は皆さまへの感謝の気持ちを忘れません。今後東日本大震災によって被害を受けた土地の復興と、よりよい社会をつくるために私たちフェアトレード東北は支援活動を続けていきます。