「あしたのまち・くらしづくり2011」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞

お母ちゃんたちの子育てネットワーク奮闘記
徳島県徳島市 NPO法人子育て支援ネットワークとくしま
はじめに
 子育て支援ネットワークを創設して20年余り活動を続けきた平成22年、子どもや若者の育成支援に関する取り組みが評価され、内閣府の『チャイルド・ユースサポート章』を受章しました。多くの市民活動と同様、当団体も『当事者の目線』からスタートし、活動の当事者である子育て世代や子どもたちの声をより多くの人々に伝えるべく、行政や企業、大学と連携し・協働による事業を展開してきました。徳島県で子育てをする保護者や徳島県で生まれ育つ子どもたちが、「徳島で子育てをしてよかった」「徳島県で育ってよかった」と思える子育て環境の整備に向け、現在は子育て支援施設の管理運営や移動子育て広場の開催、父親への育児支援など時代のニーズに合わせた育児支援を行なっています。

子育て支援ネットワークとくしま(K-net)設立
 当団体が活動を始めた平成5年ごろは、子育て中の保護者に対する支援や施設が十分になく、特に結婚を機に他府県や海外から徳島にやって来て子育てをしている母親や転勤族一家は頼れる場所も相談できる人もいないまま家に閉じこもりがちになってしまい、とても健全な子育てができる環境とは言い難いものでした。
 現在では女性誌やテレビ番組でも子育ての大変さやそのためのサポートなどが紹介されていますが、「子育ては母親の仕事」「子育ては出来て当たり前」という社会的な風潮も少なからずあり、困ったことがあっても相談できず、助けを求めにくい状況がありました。
 また、当団体が活動を開始する5年ほど前に施行された男女雇用機会均等法に伴い、徳島県でも徐々に女性の社会進出が進む中で、働くことと子どもを育てることの両立が難しい人々も増え始めました。徳島県でも一時期、合計特殊出生率が1.3ポイントを下回り、全国的に見ても下位グループに転落してしまうなど、めまぐるしく変化する社会情勢に子育て環境の整備が追いつかず、子どもを育てにくいから子どもを生む人が減るというマイナスの循環が生まれようとしていましたのもこの頃です。
 そうした状況にいち早く気づいた子育て中の母親たちが、自分たちが乳幼児を抱えていたころに味わった苦労を次世代では少しでも楽にと、また子育て環境を整えるべく、それまでに少しずつ集めてきた県内の子育て情報や知識を共有しようと7名で立ち上げたのが当団体の前身となる地域密着型の子育てサークルでした。

子育て情報誌『Enjoy!ママ』発行
 7名で立ち上げた子育てサークルでまず一番初めに着手したのは、子育て情報誌『Enjoy!ママ』の発行です。
 現在、徳島県は全国でも有数のタウン誌発行数を誇りますが、当時は子どもを連れて出かけられる場所やアトピーの治療で有名な皮膚科、小麦や卵を使わない乳幼児用の菓子販売店などは口コミに頼るほかない状況でした。
 そこで、メンバーの子どもたちが乳幼児だった頃に通った遊び場や実際に試してみて良かった食品やおもちゃなど、実際に子育てをしているからこそ分かるきめ細やかな情報を厳選して織り込み、少しでも多くの母親たちに届けるために冊子にして配布しました。その後、毎年2回ずつ約6年間発行し続けた同誌のエッセンスを凝縮した「子どもとでかける徳島あそび場ガイド(メイツ出版)」を平成15年に出版。あの頃の自分たちと同じような状況にある母親たちに喜んでもらえていることを嬉しく感じています。

子育て支援施設の運営を開始
 活動を開始してから10年ほど経った頃、徳島市が中心市街地にある商店街の一角を子育て支援施設『子育てほっとスペース すきっぷ』(以下、すきっぷ)として開所することとなり、その委託先として当団体が選出されることとなりました。
 情報誌の発行にはじまり、徳島県内で行なわれる子どもを主体とするイベントや子育てサークルの立ち上げ協力を継続して行なっていたことや、全国の地域密着型子育て支援ネットワークとの連携などが認められたことによる選出でした。
 すきっぷが対象とする子どもの主な年齢は0123歳児で、この時期は母親たちがもっとも外出しづらく、しかしもっとも手のかかる年齢でもあります。すきっぷ開所以前はこれらの年齢層の子どもを対象とする常設施設が県下にはなかったため、多くの家族から喜びの声が上がりました。
①みんなが“お母ちゃん”!
 すきっぷ開所の知らせを聞く頃にはいつしか20名ほどの会員が当団体に集まっており、その会員のほとんどが子育て中の母親か、子育てを経験した母親でした。これは子育て真っ最中の来所した母親たちの大きな味方になると感じ、すきっぷに常駐するスタッフをすべて子育て中か、子育てが一段落した会員で構成しました。
 子育て中にぶつかる壁は今も昔も変わりませんが、一方で子育てを取り巻く環境が時代とともに刻々と変化していることも事実です。すきっぷでは、子育てのベテランとも呼べるスタッフが母親たちの相談相手となり、いままさに子育てをしている会スタッフは保育所の入所状況などを情報交換するなどして母親たちをサポートしています。

②地域と母親を繋ぐ役割
 ただでさえ不安の多い子育てで、さらに地域にもなじみがなく頼れる人もいないとなれば、母親へのストレスははかり知れません。
 そこで「転勤族ママの日」と題し、転勤に伴い他府県からやってきた子育て中の母親たちが集える機会を作りました。ここでは、母親たちが自由に情報交換したり、スタッフから地域に関する情報提供を行なっています。双子や三つ子の子育てサークル発足により多胎児育児の支援、また、外国人の母親や国際結婚された母親の要望からインターナショナル子育てサロンの発足を積極的に行なってきました。
 地縁関係が希薄になったことによる弊害は、子育て環境においても顕著に表れおり、それは徳島県であっても例外ではありません。これまでは近隣であることで自然と出来上がっていた地縁関係を作ることが難しい現代にあっては、自発的に自分たちのコミュニティを形成していく必要があります。そうした関係性を構築していく際にすきっぷや当団体が力になれればと考えています。
 また、商店街の中で行なわれるイベントは来所した母親に必ずアナウンスするようにしたり、ハロウィンには仮装した子どもや母親と商店街を練り歩くなどして、地域に出る機会を多くし、地域にも子どもたちやすきっぷの存在を知ってもらえるように工夫しています。

③時代のニーズを反映させる
 近頃ではよく聞かれるようになった「イクメン」という言葉。言葉自体がある程度浸透しても、では実際に何をすればいいのか戸惑う父親たちの声を受けて「パパ講座」を開講、親子で楽しめるわらべ唄や手遊びの他ベビーマッサージの講習を始めました。
 父親自身も育児の楽しさに目覚めると共に、これまではなんとなく母親任せにしていた育児を分担することが出来、母親も気が楽になるようです。お父さんたちの座談会から父親同士が横につながったことで、読み聞かせなどのパパサークルが立ち上がりました。
 また、近年の「ワークライフバランス」の観点からも、父親が育児に参加することで地域とのつながりを持ち、仕事以外での自分のアイデンティティを見出す機会としても非常に有益であると考えています。

これからのお母ちゃんたち
 活動開始から20年あまり、最初はメンバーの家の台所でメンバーの子どもたちを遊ばせながらミーティングを行なっていた当団体も、拠点を持ち、様々な組織と協働し、いまでは子育てとは直接的に関係のない方も、活動への理解を持って下さるようになりました。
 かつては女性がこういった活動を行なうことに対する否定的な意見や、「母親たちが事業をするなんて無理」などと言われたこともありました。
 しかし、企業や行政がいくら費用をかけても決して得ることのできない当事者意識に根ざした活動が多くの母親たちの力となって少しずつ徳島県の子育て環境が整備されてきています。かつては全国でも下位グループにいた合計特殊出生率は平成21年末で1.35ポイントにまで回復、全国平均である1.37ポイントに近づいたことで全国平均の上位グループに躍り出ました。
 また、徳島県の政策でも「徳島はぐくみプラン」という行動計画が設けられ、子育てをしやすい環境作りに向けたソフト面とハード面、両輪での取り組みが推進されています。
 “お母ちゃん”たちの暖かさと力強さで、徳島県での子育てが誇りになるような仕組み作りを今後も続けていきたいと考えています。