「あしたのまち・くらしづくり2011」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞

子育てへの思いが人と人をつなぎ、地域を変えた ポレポレ発「住んでよし」のコミュニティづくり
静岡県湖西市 NPO法人ポレポレ
 私たちのまち湖西市新居地区(旧新居町)は、人口1万6000人の小さなまちです。周辺には、自動車のスズキ、船舶のヤマハ発動機などといった有名メーカーの工場が数多くあります。そのため、市外県外からの転入者が多く、かつては海と山に囲まれたのどかな町もいつのまにかアパートが立ち並び、旧来からの住民世帯の高齢化が進む一方で、若い核家族世帯が増加していました。
 地域では、町の財政の悪化に伴い、住民みんなが参加できる町民体育祭などのイベントが廃止となり、住民同士の交流の場は失われ、若い子育て世代が徐々に地域から孤立していくようになりました。
 子育ての情報も乏しく、地域に親子で出掛ける場所もない・・・そんな環境の中で、私たちは「親子の場づくり」という一歩を平成15年に踏み出しました。これが「ポレポレ」(「ゆっくり、ゆっくり」を意味します)の活動の始まりです。

1 親子が一緒に出掛ける場所をつくろう
 私には、当時2歳の子どもがいました。公園に出掛ければ、何組かの親子を見掛けることもあります。しかし、同年齢の子どもを持つ仲間はなかなか見つかりません。車で隣町まで出掛ければ子育てサークルもありましたが、その当時、自分が大きな病気をしたことで体力にひどく自信を失くしていたために、身近な地域での仲間の存在を強く求めるようになりました。
「母親一人でなく、地域の大人や子ども、たくさんの人に関わり見守られながら子育てができたらいいのに」
 この思いが、後にNPOのメンバーとなる、中・高校生の母親の柴田、それまで20年間地元で子育て支援のボランティアをしていた袴田、2人のやる気を動かしました。
 そして、同じ悩みや思いを抱く母と子の20家族が参加して活動をスタートしたのです。それが今では30種類の事業を行ない、会員も270家族になりました。自分も含め、参加者の日頃の不安や希望に一つ一つ対応していったところ、現在のような大きな活動にまで広がったのです。

(1)子育てが楽しくなる親子で楽しむ体験活動
 当初、たった一つのリズム体操から始めた活動は、現在では、①リズム、②ポレポレキッズ(知的障害者更生施設浜名学園との連携事業)、③書っしょ(書道教室の協力による会場と材料の提供)、④体操、⑤かくかくペタペタ(巨大な絵などをみんなで作成し、地元の金融機関が展示協力)、⑥英語、⑦手話(福祉教育に協力)、⑧野菜の収穫、⑨積み木で遊ぼう(70箱の積み木あそび)、以上九つのプログラムを毎週、毎月、季節ごとに展開するまでに拡大し、年間450回、6500人の乳幼児、小学生親子がダイナミックに活動しています。
 特に、大倉戸農村公園前の畑を借りて行なっている野菜収穫体験では、じゃがいも、さつまいも、玉ねぎを季節ごとに収穫しています。大きな野菜を抱えて泥だらけにした服。親子とも笑顔で溢れています。楽しさの中から食の大切さを学び、好き嫌いがなくなったり、他の子との共同作業から助け合いや他人への思いやりの心が育まれる。親が子の成長を実感する瞬間です。

(2)兄弟の少ない子も異年齢で遊ぶ「あそびっこ広場」活動
 毎週金曜日の夕方、異年齢の子どもが親子で遊べるあそびっこ広場を開催しています。(年40回開催、2000人)子どもが減り、また安全性の面で近所で遊ぶことが少なくなった現代、たくさんの親たちが異年齢交流の場を必要としています。子どもたちの協調性、自主性、社会性、規律性などを育みます。

2 子育ては親だけのものじゃない! お年寄りの育児参加と高齢化社会を支える世代との絆をつくる多世代交流活動〔ぽっかぽか広場(介護センターあらい)〕
 ポレポレの活動が活発になり、地域での認知度が高まってきた頃、親世代だけでなく、地元の社会福祉協議会や介護センターと協力し、おじいちゃん、おばあちゃんとの活動も始めました。
 若い世代では作ることの少なくなった太巻き寿司をお年寄りと一緒に作ります。お年寄りから子どもたちへのプレゼントは、「ありがとう」「えらいね」の言葉と優しい笑顔です。子どもたちは自信がつき、笑顔が増えていきます。
 親たちもお年寄りと関わり、話をすることで日本の伝統文化を継承し、さらに介護や高齢者の健康管理について関心を持つようになってきます。

3 正しい体のケアが笑顔の基本
 多くの母親は、病院から処方された薬をいつまで飲ませたらいいのかわからない、とか、自分の子は他の子より体が小さい、食が細い、歩き出すのが遅い、といった発育に関する不安を感じたことがあると思います。行政での健診が減り、対面式で得られる情報が減少する中、ポレポレでは湖西市立病院と連携し、理学療法士の先生の派遣を、また、助産師さん、薬剤師さんは地元の方にお願いし、医学的な学びの場も提供しています。〔リハビリテーション(年40回1000人)〕
 現代の親は食生活が不規則になりがちな上、姿勢が悪く、基礎的な運動を軽視しがちな傾向にあります。妊娠中の母親の姿勢が悪く、狭いお腹に入っていた赤ちゃんは自由に動けないため、発育不十分となるリスクが生じます。そういった知識を教えてくれる場、また、体を整える場として、ポレポレは信頼できる地元の専門家と連携し、体操や薬学講座の開催をし、親たちに安心感を与えています。

4 地域は人でつながる 人材育成の強化
 以上のように、子育て家庭に対応した活動をしている中で、5年後、10年後に地域で活躍していく人材と次世代の育成が必要となりました。

(1)次世代育成と地域の福祉力アップのための福祉プログラムマネージメント
 次世代育成と地域の福祉力アップのために、地域や学校が企画した福祉講座やボランティア学習へ講師派遣とプログラム作成をしています。
 学校での福祉の教育は、関心のない子ややり方がわからない子にも福祉を伝えることができ、やがては地域の自立につながります。新居地区では、福祉学習をきっかけにボランティアに参加する子が増えています。幼い頃の「福祉の心の種まき」が、いつか花開くことを願って、活動しています。

(2)青少年ボランティア育成を通して次世代育成
 夏休みに地元の新居中学校、湖西市内の中学、高校を対象に静岡県教育委員会の青少年指導者初級・中級認定事業を活用して、ボランティアの受け入れと育成を行なっています。これまでに約200人が卒業しました。近い将来、親となる学生に自分自身の歩みや将来についての投げかけをし、ボランティア活動を通して夢を持つこと、人と関わることの大切さを発見できるよう工夫しています。
 活動終了後は、毎日一人一人にメッセージを書き、親子からの手紙と活動中の写真などを添えて活動報告ファイルを作成し、認定証とともに学校に届けます。それを校長先生にも見ていただき、みんなの前で講評を伝えると、子どもたちは自信に満ちた顔になります。福祉の仕事や市民参画活動に関心を持つきっかけとなっています。

5 地域をコーディネート
 母親クラブ、ボランティア団体、ポレポレ、三つの地元組織で構成している、地域教育推進協議会「あらいっこあそび虫協議会」の運営事務局を担当しています。2005年、県教育委員会より地域教育推進協議会のモデルとして表彰されました。幼稚園入園前の乳幼児親子サロンである母親クラブが中心となり、観光や農業団体などと連携を持ち地域資源を活かした交流が行なわれるようサポートします。

6 今後の展開
 このようにポレポレは、一人ひとりの笑顔が家族を明るくし、元気な心と体を持つ家族の存在が、安心して暮らせる地域を創造すると考え、福祉を中心とする様々な視点から、地域の方々に働きかけていきます。地域の人と人、思いと思いを結ぶ一役を担うのがポレポレです。
 若い世代の子育ての不安や高齢者家族の介護の問題など、家族の孤立化が進む中、地域の温かい声掛けで外に目を向け、ここに住んでよかったと感じていただけるような相互に助け合える地域を創造することが重要です。
 今年度、ポレポレはこれまでのネットワーク(行政、学校、幼稚園、子育て団体、社会福祉協議会、社会福祉系の大学、病院、商工会、福祉施設)を活用し、子育て家庭だけでなく地域に住む人々みんなが利用できる「健康づくり」と「福祉・医療・介護・教育についての学習」活動を企画、運営しています。
 これまで、手を貸したくても知識がなくてためらっていた多くの方々にも学ぶ機会を提供し、バリアフリーな温かい地域を目指していきます。
 これらの活動は育児力、介護力、福祉力を高め、住民が主体的に地域の暮らしの向上に関わる自立したコミュニティの形成につながっていくと信じています。