「あしたのまち・くらしづくり2011」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞

地域の資源を集め各人協力で実現「銭湯で遊ぼう!」
東京都東村山市 NPO法人ソーシャライズ
 2008年に設立されたNPO法人ソーシャライズ。当団体では主に2つの取り組みを行なっています。
 1つは、地域の子育て情報と子育て支援団体を紹介したホームページ「むらっぷ」。
 2つめは、地域の人たちの力を合わせて実現している子育て応援イベント「銭湯で遊ぼう!」です。
 そのどちらにも物語がありますが、今回は2つめの「銭湯で遊ぼう!」についてご紹介します。

■銭湯で遊ぼう!とは
 地域には様々な人・文化・資源・想いがあります。銭湯で遊ぼう!とは、まる一日銭湯を貸し切って、銭湯を舞台に、地域住民・学生・団体・行政・企業などが想いやノウハウ・資産を持ち出し合い、そこへ遊びに来る子育てママ・パパやその子どもたちに向けて「子育て応援」のメッセージと「体験」を届けることを目的にしたイベントです。

■銭湯で遊ぼう!誕生のキッカケ
 私は、日々の仕事の悩みや身体の疲れも、お風呂の湯気と共に解消するために、地元の銭湯「くめがわ湯」へよく行きます。ある日、銭湯のご主人から相談を持ちかけられました。
「利用者の高齢化が進み、若い利用客が少なくなってきている。しかし、ただのお風呂屋ではなく、もっと地域の人たちに活用される銭湯になりたい。何か良い方法はないか」という相談でした。
 確かにそういわれてみれば、銭湯の主な利用者は人生の諸先輩方。私のように子育て中のパパやママ、子どもたちの利用はそれほどまで多くはありません。
 そこで、湯船につかりながら、何か良い方法はないかと考えてみました。

 当時、私は、地域の子育て情報や子育て団体紹介をまとめたホームページ「むらっぷ」を運営していました。地域の子育て施設や子育て団体の「表情や想い」を取材し、ホームページ上で紹介するというものです。
 取材内容は、各団体が「なぜ活動が開始され」「いまはどんな活動をし」「今後どんなことをしていきたいか」という過去・現在・末来にむけた「想い」に焦点を当て、取材を行なっていました。
 この取材は、これからの地域を担う「子育て世代」に向けて、魅力ある地域の表情を伝え、自分たちの住むまちを「寝起きし、生活するだけのまち」としてではなく、「生きた表情のあるまち」であることを知ってもらい、自分たちの住むまちの魅力に触れてもらうことで、このまちをもっと好きになってもらいたいという願いから、仕事の合間を見つけて行なっていた活動でした。

 「むらっぷ」で各施設や団体をまわり、取材する側・される側の繋がりができてくる中で、各施設や団体がどのような強みや思想を持ち、どのようなノウハウ・資源があるかについてある程度の知識を持つようになってきていました。
 その知識と銭湯のご主人の悩み事を重ねたとき、一つの答えが見えてきました。
「そうだ!!」
 湯船の中でニヤニヤ笑いながら、お風呂から出てご主人にお話しました。
「地域の人たちの協力を得て、銭湯を舞台に子育てのイベントを開催しよう!」
 それこそが「銭湯で遊ぼう!」でした。

■銭湯で遊ぼう!を実現させるために
 さっそくコンセプトなどを企画書にまとめ、地域で知り合った団体などへ話をしに行きました。
 イベントを実現させるための方法は、各団体や個人の得意な分野での出演協力や運営協力をお願いし、また必要な機材を各団体からお借りすることで、一つのイベントを作り上げるという方法です。
 私自身、イベントの企画や運営についての知識が全くない中、子育て団体職員の方々がそれぞれ独自にイベントを実施したことがあったため、イベント運営における勘所や安全対策、そのほか具体的な方法などについてたくさんのアドバイスをいただきました。
 さらに、各団体の知り合いなどをたどって地域の学生などもスタッフとして協力してもらい、なんとか第1回目のイベントを開催することが出来ました。

■第1回、銭湯で遊ぼう!の内容
 イベントは、午前と午後に分け、午前中を地域のおじーちゃん・おばーちゃん出演の腹話術や十数名ものオカリナ演奏者が一斉に演奏したり、保育士による紙芝居やエプロンシアターなどを。さらにお昼を挟んで、午後はお風呂湯で片栗粉や米粉を使用したお手製絵の具で子どもの感性の赴くままに好きなように絵を描き、汚れた身体はそのままお風呂へじゃぶーん!という流れでした。
 来場したママ・パパたちは、銭湯という見慣れない非日常の空間で、子どもたちがおうちの中では普段見せないような縦横無尽な遊びっぷりに驚き喜び、携帯電話片手に遊ぶ姿を写真に残すなど、とても楽しんでいただくなか、試験的要素満載であった第1回目のイベントが無事終了しました。
 地域の参加者からは、「引っ越してきた東村山で一人で不安だったけれど、新しい友だちができたし、こんな楽しいイベントを開始してくれるということが分かり、引っ越してきて良かった」という声などをいただきました。

■第2回からそれ以降ヘ
 それからまもなくして、第1回目の経験を活かすべく、第2回目のイベント企画を開始しました。
 第1回目のイベントで要した費用は全て私の持ち出して開催されましたが、第2回目からはイベントの趣旨に賛同してくれた地域企業の協賛などを得、財源の裏付けを持った上でイベントの企画を進めることができました。
 地域企業のみなさんには、銭湯の周囲の通路などを活用してお店を出店していただきました。建築会社は木工教室を、食品会社は自社製品を使った焼きそばコーナーを、生協は練り石けんで遊ぶコーナーを、地元商工会青年部はカキ氷コーナー、銭湯近隣のお豆腐屋さんは湯豆腐や冷や奴を。
 企業にとって、普段なかなか直接の接点を持つことが出来ない子育てパパ・ママの生の声が聞けるなど、出店企業側にとってもメリットがあり、自分たちの商品や活動を出店サービスという形で来場する子育てパパ・ママにPRしました。
 特に、お豆腐屋さんに関しては、スーパーのパック詰めされた豆腐でなく、豆腐屋さんでできたての豆腐を購入することが新鮮であったようでした。どのパパ・ママも新鮮な豆腐を美味しいと口々にし、子どもたちに食べさせていました。

■イベントを通じてどう変化したか
 これまで、各団体が持っていた悩みがありました。地域のママたちは、ママ同士が子どもの成長などについて会話できる場、子どもが自由に楽しめる場を求めていました。子育て団体は、自前のノウハウを生かす場を求める反面、団体相互の繋がりが薄く、ノウハウの共有を行なえていませんでした。学生や地域の若者たちは、学校などの授業の範囲でしか学ぶことが出来ず、新たなチャレンジの場を求めていました。地域のおじーちゃん・おばーちゃんは、子どもと接したいけれど、機会がないと諦めていました。行政は、地域の子育てママ・パパとの接点を増やし、子育ての現場の声を知りたがっていました。企業は、地域に貢献する機会を摸索しつつ、子育てパパ・ママヘむけて商品をPRしつつ、パパ・ママの声を生で聞く場を求めていました。くめがわ湯のご主人は、若い人たちにも銭湯という場を知ってもらい、親しんでもらいたいと願っていました。そして、私は、地域の魅力を発信し、地域住民にもっとこのまちを好きになってもらいたいという想いがありました。

 そして、イベントを作ることで問題解決の第一歩を歩み出すことが出来ました。
 地域のママたちは、お風呂場で縦横無尽に遊び、はしゃぐ子どもの笑顔を見て喜び、そして自分自身も今まで知ることのなかった銭湯という空間、非日常のなかで新しい出会いや、地域の魅力に触れたことを喜んでくださいました。
 運営側に協力してくれた子育て団体の方々は、団体相互の繋がりが出来たこと、子育て支援の新たな仕組みが地域に誕生したことを喜んでくださいました。
 企画や当日の運営に協力してくれた学生や地域の若者たちは、企画をゼロから立ち上げ、実際のイベント実現と当日のイベント運営を行なう新しい経験とそこで出来た仲間の繋がりを得られ、自らが成長できたことを喜んでいました。
 出演者として協力してくれた地域のおじーちゃん・おばーちゃんは、子どもと接して元気になると喜び、音楽演奏などで舞台に立った方々は、次のイベントヘ向けての練習が励みになると言ってくれました。
 保健師さんを派遣してくれた行政側は、市の相談窓口に来るもっと手前のニーズを知ることができ、喜んでくれました。
 出店・協賛してくれた企業は、新しいお客さんと出会えたこと、地域のイベントに役立ちながらも商品などのPRができたことを喜んでくれ、今後は他にももっとこういう機会があれば銭湯で遊ぼうに限らず、地域イベントに参加・協力したいと言ってくれました。
 くめがわ湯のご主人は、銭湯に来たことがない地域の人たちに、銭湯を知ってもらえて良かった。「地域の中の銭湯」を実現できたことが良かった、とお話ししてくださいました。
 私は、みんなの協力で東村山市に新たな彩りを生み出す第一歩を踏み出せたことを嬉しく思いました。

 たくさんの方々の協力と、たくさんの方々のノウハウが結集したからこそ、実現することが出来た「銭湯で遊ぼう!」。
 皆さんの思いや力がなければ、このイベントは存在し得ませんでした。
 また、このイベントがなければ、関係した皆さんの笑顔はなかったでしょう。

■今年8月の第6回目開催を目指し動いています
 気がつけば今年8月開催で6回目。3年目になります。関わってくれたときに2年生だった大学生は、社会人になりました。その先輩学生たちの後輩が続々と口コミで集まり、第1回目の学生が5名だったのが、いまは地域の若者をも含め30名以上になり、先輩から後輩へとノウハウが引き継がれるようになってきています。

 銭湯で遊ぼう!の企画会議で大切にしていることは「他人事」と「無責任」をモットーにアイデアを出し合うこと。「他人事と無責任」だからこそ、奇想天外なアイデアが生まれると私は信じています。そして回を重ねる毎に次第にイベントの趣旨に合わせてアイデアを取捨選択、実行へ持っていくという会議のスタイルを貫いています。初回は私が率先し企画を主導。そして今は若者たちが率先してアイデアを出し合い、企画を練り合っています。

 どんな取り組みであれ、「誰か」がいなければ進まない取り組みは、「誰か」の能力や情熱に依存する傾向があります。この「銭湯で遊ぼう!」では、一人の能力にゆだねることなく、集合知での問題解決を行なうことに力点を置いて継続しています。

■成果
 この取り組みによる成果の判定は明確には計れません。しかし、事実としてあることは、このイベントがある前と、イベントが実現し継続した後とでは、地域の子育てママ・パパたち、そして子どもたちの笑顔、さらに関係したメンバーの笑顔に大きな違いがあるということです。
 私自身、この「銭湯で遊ぼう!」は「なくてはならない」事業ではないと思います。「あったらいいな」に位置づけられる事業であると思います。しかし、「あったらいいな」であるからこその気軽さと、だからこその参加のしやすさがあったのだと思います。
 救急車は「なくてはならない」事業です。遊園地は「あったらいいな」の事業であると思います。
 「銭湯で遊ぼう!」は、あったらいいなの事業として地域の関係者の笑顔を生みだし、来場した子育てママ・パパ・子どもたちは非日常の会場で多世代の交流と地域の交流を楽しんだことは事実であると思います。
 私たちは、このイベントを通じて、地域の中で新たな彩りをつくり、地域の中で団体同士、個人同士がつながるきっかけを小さいながらにも作ったと思っていますし、そのことを誇りに思っています。

■「銭湯で遊ぼう!」が目指し願うところ
 このイベントでは、イベント終了後に当日の様子を写真で紹介し、反省点や来場者数、会計などの情報を資料にまとめ、インターネット上に公開しています。
 この行動を地域のNPO団体などは不思議に思ったそうです。
「なぜ、自分の団体のノウハウを公開するのか。そのノウハウが強みになるのに・・・」と。

 しかし、私は思うのです。
 少しでも広く多くの人にこの取り組みを知ってもらい、東村山市外でも新たな取り組みとして広がることを期待しているのです。
 私が、イベントとはなんたるものかを全く知らない状態で、たくさんの方々の協力でこの取り組みを作り上げることが出来たように、同じように全くノウハウもない状態でイベントを開催し、地域変革のための何かの起爆剤にしたいと思う方がいらっしゃると思うのです。
 であるからこそ、ノウハウを自分の団体のみにとどめるのではなく、積極的に公開することで、市内外で特色ある取り組みが一つでも多く開催され、それによって国内の地域地域、子育て環境が改善・活性化することを願うのです。

「志があっても、手段が分からない。どうしたら実現できるのかわからない」
 そんな想いを持つ人のために、情報を公開し、これを参照することで、まったくのゼロからのスタートではなく、すこしでも「1」に近い状況から事業を開始できるようにできたらと考えるからです。

 自分の地域だけでなく、各地の地域で取り組みがなされ、日本全体における地域連携・子育て環境が底上げされ、日本そのものが活性化しつつ魅力ある国になるために。
 そんな国の形こそが、私が思う、次代を担う子どもたちに引き継ぎたい国の形だからです。

 暗いニュースが多いならば、それ以上に明るいニュースを作ればいい。
 いまの状況に不満ならば、納得のいく姿を自分たちで作ればいい。
 国や行政を頼り改善されるのを待つのではなく、自らが行動し、力を合わせ、新たな流れをつくればいい。
 一人では難しいことも、志通う仲間を集め、仲間たちと作ればいい。

 一人の力は弱くても、仲間たちの力を結集して継続することで新たなうねりは作り出せる。

 次代を担う子どもたちのために、私たちは一つでも、少しでも魅力ある地域を残していきたいと願い、子育てを応援しています。