「あしたのまち・くらしづくり2011」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 主催者賞

地域医療を通じた高齢者の健康づくり・生きがいづくり、地域の活性化ならびに学生教育などへの取り組み
徳島県美馬市 NPO法人山の薬剤師たち
 美馬市木屋平(旧木屋平村)は、同市の他の地区とは地理的に隔離された山間へき地に位置し、人口は929人、世帯数467世帯、高齢化率が52%を超える(平成22年6月1日現在)いわゆる典型的な過疎高齢化が進む山村である。地域の95%は山林や原野で、主な産業は林業と茶栽培などである。
 地域では唯一の医療機関である美馬市国民健康保険木屋平診療所(以下、木屋平診療所)があり、地域住民の医療を一手に担っていた。
 私たちは、徳島県内において薬剤師の在宅医療やチーム医療を推進するための活動を行ないながら、地域医療への取り組みを進めてきた。地域医療において、医師不足は大きな社会問題として取り扱われているが、薬剤師の存在が議論される機会はほとんどなかった。しかし、地域医療の充実を図るために薬剤師の果たす役割は大きいと考えられ、活動拠点としての薬局を開設し新たな取り組みを開始することにした。
 まず、有志7名が発起人となり平成21年にNPO法人山の薬剤師たちを立ち上げ、翌年4月には木屋平診療所の近くにこやだいら薬局を開局した。こやだいら薬局は、地域医療を実践するための拠点となる薬局であり、ただ単に山間へき地に作る薬局とは異なるものである。
 薬局の主な業務は、木屋平診療所から発行される処方箋の調剤、一般用医薬品(大衆薬)の販売および衛生材料・日用雑貨の販売などである。スタッフは常勤薬剤師2名と事務員1名の体制で、月曜日から金曜日までは終日、土曜日は午前中の営業を行なっている。このほか、会員である他の薬剤師などが研修を兼ねて不定期に応援に駆けつけてきている。
 主な活動を次に紹介するが、地域医療を中心としたこれらの活動を通じて、高齢者の健康づくり・生きがいづくり、地域の活性化ならびに学生教育に大きな成果を上げている。
(1)地域医療への貢献としては、木屋平診療所と連携して、在宅医療を支える一員として訪問薬剤管理指導に取り組み、訪問先や薬局内での患者さんへの効果的な療養指導を積極的に行なっている。服薬を拒否していた患者さんや認知症の患者さんが規則正しく服薬するようになったり、薬剤の重複投与が防止された例が認められている。
 また、定期的に医師、看護師、薬剤師、保健師、ヘルパーおよび事務などが集まり、患者さんの効果的な療養について協議するケアカンファレンスを行ない、多職種の連携が深まることで効果的な療養指導に結びついている。
 さらに、木屋平診療所が院外処方箋に切り替えたことで、それまで薬剤調整に関わっていた看護師が本来の業務に専念できるようになり、訪問看護などは約2倍程度に拡充されている。

(2)地域サロン活動への参加として、木屋平地区の15の集会所で行なわれていた木屋平ふれあいサロン(美馬市社会福祉協議会)に参加し、全集会所で健康教室を行なっている。当初、健康教室は薬局内で行なう予定だった。サロンと称して、和室に掘りごたつ、テレビなどを設置し、コーヒーやお茶も自由に飲めるように配慮した。しかし、住民に声かけをしても集まらなかった。高齢者が多く交通の不便なところで、一か所に多くの住民が集まることは、実際には困難だったのだ。
 大きな勘違いをしていたことに気づき、住民の住んでいる場所に出向くようになった。各地区の集会所を訪問することで、住民との親近感が生まれ、また生活環境が的確に把握できるようになり、より効果的な健康指導に結びつけることができるようになった。薬局内での健康相談に比べると、はるかに多くのそして具体的な質問が出てくるようになった。
 また、健康は自分自身が守るという意識が生まれてきて、地域住民の健康に対する意識の向上も認められている。

(3)地域活性化への取り組みとして、地域のイベントであるこやだいら産業祭などに積極的に関わっている。日頃は木屋平に来られない当法人の会員たちも参加し、薬局内の日常の業務の紹介をしたり、住民のお薬の相談を受けたりした。会場では、高齢者や子どもたちとともに入浴剤を作る体験をしてもらい、世代を超えた交流を持つことができた。
 また、春と秋に地域で行なう清掃活動(道つくり)に参加している。高齢者が山間部の傾斜地で、雑草を刈ったり、排水溝の掃除を行なうことには大きな危険を伴うが、その代わりになれる者がいないのが現状だ。当法人の会員や大学生の参加を呼び掛け、地域の住民と一緒に作業を行なっている。
 こうした地道な活動を通して地域住民との交流や地域全体の活性化を図っている。
 さらに、地域福祉活動計画として、住民、行政、保健医療福祉の関係者が一体となって、「こやだいら創作食(主に薬膳料理)」を検討している。会員のみならず地元大学薬学部の専門家なども支援に入り、木屋平の名産作りに取り組んでいる。
 先頃、平成23年度春編の試食会を開催し好評のうちに終了した。すでに秋編の新たな創作食に取り組んでおり、住民の生きがいの1つになっている。

(4)学生教育への取り組みとして、薬学生や医学生の地域医療研修の場として薬局を提供している。昨年は、徳島県が主催した夏期地域医療研修において、薬学生3名と医学生6名を受け入れた。薬学生が、地域医療の現場で、医学生と合同で同一プログラムによる研修を行なうことは極めて稀であり、また薬局が医学生に研修を提供することも稀である。専門の異なる学生が互いにフィールドワークを行ない、他の専門性を再認識し、保健医療福祉活動に活かしていくことができるようになる。
 木屋平診療所と薬局が協力して2日間のプログラムを提供した。薬局では、薬学生と医学生がディベートを行なったが、互いによい刺激を受け、また地域医療に興味をもったようだ。
 一方、すでに薬局で勤務している薬剤師の研修も受け入れている。平成22年度は7薬局からの研修を受け入れたが、地域医療に取り組んでいるこやだいら薬局の在宅医療や日常業務を見学してもらい、薬剤師の地域医療への関心を高めている。

(5)木屋平地域からの情報発信として、取り組みによって得られた成果を発信している。論文や学会発表を積極的に行ないながら、地域医療とりわけへき地医療の現状や課題を示している。また、地域の機関紙である「木屋平けんこう便り」(発行:木屋平総合支所総務福祉課)に、健康に関わる記事を連載し地域住民のヘルスケアに対する意識を広めている。
【学会発表】平成22年度
・6月25~27日:日本プライマリ・ケア連合学会(東京)、「山間へき地での調剤薬局の開設」発表
・7月10~11日:日本医療薬学フォーラム2010(広島)、「薬局薬剤師のへき地医療への関わり」シンポジスト
・9月19日:日本社会薬学会(徳島)、「地域医療における薬局薬剤師の役割について」シンポジスト
・10月10~11日:日本薬剤師会全国大会(長野)、「山間へき地における保険薬局の地域医療への取り組みについて」発表
・11月6~7日:日本薬剤師会中四国支部学術大会(鳥取)、「薬学生・医学生の地域医療合同研修への参画」発表
・11月13~14日:在宅医療シンポジウム(高知)、「多職種の連携と在宅医療」シンポジスト
【報道】平成22年度
・4月22日:NHK四国TV、四国放送TV、徳島新聞で取材報道
・5月13日:イニシア取材(エーザイ)→ネット上で公開
http://www.eisai.jp/medical/region/phar/nmp/management/mng036.html
・10月14日:徳島新聞取材→11月17日朝刊に掲載
・10月12~16日:NHK四国取材→10月21日「NHKおはよう日本」で放映
・4月13日:朝日新聞掲載

 以上の活動を継続させていきながら、今後はさらに、地元の保健医療福祉スタッフとの連携を強化し、地域医療に貢献できるようにしたいと考えている。
 また、薬学教育は6年制になり臨床薬剤師の育成が求められてきている。地元の大学との交流を深めながら、社会に求められる薬剤師の育成に一役を担いたい。それは、とりもなおさず地域医療に貢献する気持ちを持った薬剤師であることに間違いはないであろう。

③その他(活動実績についての補足)
 平成19年に「徳島県薬剤師会在宅医療およびチーム医療推進検討プロジェクト」を発足させた。7名のメンバーが中心となり、「薬剤師の在宅実践ハンドブック」を発刊(http://www.tokuyaku.or.jp/care/care-all.pdf)し、在宅医療への取り組み例や標準操作手順書を示しその手技手法の解説を行なった。
 作成したハンドブックを参考資料として、県内薬剤師会のすべての支部を巡回し講習会を行ない、在宅医療への取り組みやチーム医療の推進を図った。
 平成20年には、在宅医療に取り組んでいる薬局を掲載した「徳島県在宅医療支援薬局マップ」を作成(http://www.tokuyaku.or.jp/tokuyaku/images/top/map_ph_01.pdf)し、県内の医療機関や関係団体に配布した。
 薬剤師が地域医療に取り組むためには、在宅医療を実践することが重要であり、これらの活動を通して薬剤師が地域医療に取り組むための準備を行なった。
 そして、平成21年にプロジェクトの有志7名が発起人となりNPO法人山の薬剤師たちを設立し、薬局開設に着手した。さらに、翌年の平成22年4月22日に「こやだいら薬局」をオープンさせ、活動の拠点とした。