「あしたのまち・くらしづくり2014」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 主催者賞

地域防犯は「車の両輪」―生命・財産の安全、暮らしの安心ある防犯まちづくり―
愛知県春日井市 岩成台一丁目町内会防犯隊
【まえがき】
 平成14年、町内会に自主防犯組織を立ち上げ、パトロールを始めて10年半になる。活動開始前の8年と以後の8年では、住宅対象侵入盗は累計10件から4件に減った(60%減)。直近の3年間は0を維持している。当町の活動が刺激となり、小学校区6町のうち他の3つの町でも活動を開始、同期間で累計35件から20件に減少(43%減)した。さらにその周辺の町でも活動が始められて広い地域にわたって激減効果を生んだ。当町は160世帯の小さな町である。数字も取るに足りないほどだ。だが周辺に与えた影響は甚大だったと自負している。以下はこの10年半行なってきたあの手この手の取り組みの報告である。

【活動の概容】住民パトロールを中心に、総合対策を実施
(1)経過 町内で空き巣があった。児童が不審者に、「写真を撮らせて」とつきまとわれた。婦人が歩行中、痴漢に遭った。………等の情報から、「犯罪のない安全・安心な町」を目指して町内会員にパトロール参加を募り、防犯活動を立ち上げた。町内会事業としてのこうした活動は当時、近隣住宅地では先行の事例がなく、暗中模索のスタートだった。
(2)基本方針 基本方針を5つすえた。@参加は任意とする。A地域防犯は車の両輪。「町内の結束」と「各戸(各人)の防衛」を両輪として機能させる。B両輪には車軸が必要。防犯だよりを出してその役を担わせる。内容は、町内会の意思伝達、犯罪情報提供、住民啓発、防犯対策の普及。C対策は単一ではなく「総合的」に。D地域のルールを無視する行為は、たとえ小さくても放置すれば将来、犯罪に発展する。「芽」のうちに摘み取る。
(3)どんなことをしたか?……次項「活動の内容(当町の特色)」に詳しく述べる
(4)啓発活動「防犯だより」でBefore & Afterを告知……データ管理で効果を確認
 交番から月々の犯罪情報を入手し、活動実施以前と以後の件数比較を行なっている。データには活動の効果が歴然と表れており、それを「防犯だより」を通じて月々、住民に告知している。それによって取り組みへの理解が深まり、圧倒的な支持が得られるようになった。ちなみにパトロールヘの参加数は年々増加し、最高時は町内会員152世帯のうち99人(参加率65%)に上った。ただし発足後10年目の平成23年度は参加者の高齢化により80名(52%)にさがった。参加人数の維持が今後に残された課題である。

【活動の内容(当町の特色)】
 当町の活動の特色は、@地域防犯は車の両輪。「町内結束」と「各戸(各人)の意識高揚」が大事と考え、A「両輪」をつなぐ車軸として「防犯だより」を継続発行。B毎月、交番情報を入手して独自の分析を加え、直近の地元情報として「防犯だより」で周知している。C防犯対策はあの手この手と、総合的に投入している。以下にそれを詳しく述べる。
1 両輪その1「町内結束」の具体策
 地域の確固とした姿勢を視覚や音声で伝えている。姿勢の鮮明化は犯行企図者への強烈なメッセージとなり、同時に地域住民への意識付けともなる。その両面効果を狙っている。
(1)住民パトロール 全参加者を希望曜日・希望時間帯別に3〜4人ずつの班に編成。週1回、ハイシーズンには週2回の巡回を行なっている(今年度は35班、70回実施)。
児童対策……児童が犠牲になる事件が全国で相次いだことを受けて、当初のパトロール計画に子どもの安全対策を追加した。すなはち、@一部メンバーのパトロール時間を小学校の下校時間2〜4時に合わせる編成にした。A地域住民もその時間帯にできるだけ散歩やお使いに行くなど、おもてに出て児童を見守る。Bパトロール用ラジカセに「子どもの安全みんなで守ろう」の合言葉を吹き込んだ。吹込みには児童も参加した。
演出……巡回中は統一たすきを着用。拍子木を打つ。あらかじめ吹き込んだ合言葉をラジカセで拡声しながら、約40分かけて町内を一巡している。
合言葉……「空き巣の用心 火の用心」「泥棒用心 火の用心」「子どもの安全 みんなで守ろう」の合言葉を小学児童とともにラジカセに吹き込み、巡回中は皆で唱和している。
統一たすき……たすきには「町内結束空き巣追放」「ひと声あいさつ運動」と刷りこんだ。
パトロール日誌……巡回中の感想や気づき事項を記入、さらなる町づくりに活かしている。
(2)警告カード 「不審者見たら110」「不法侵入隣家も見てる」と太く書いたカード(ラミネート加工)を考案して各戸の門扉等に掲示、「町内結束」の姿勢をアピールしている。当町内会が初めて作ったところたちまち近隣町内会、そして市内全域へと広まった。
 犯行には外人の関与もあると考え、4ヵ国語(英語・中国語・ポルトガル語・スペイン語)による大型の警告カードを町内要所々々に掲示した。
(3)ひと声あいさつ運動 「道であったらこんにちは。知らない人こそこんにちは」を申し合わせ、あいさつを励行。犯行企図者への警告と町内の融和に役立てている。
(4)「ちょっとパト」 “ちょっとパトロールする”を略した造語。一人でもできる防犯活動として当町で初めて考案された。朝夕の犬の散歩、日課の散歩、コンビニヘの買い物、夕食の食材買い、近所への用足しなど、町内へちょっと出かける際、統一の腕章を着用。腕章をつけた人が町内を出歩くことで、下見中などの犯人の目に触れる機会が増え、犯行の抑制効果を生む。平成14年に始めた「ちょっとパト」は、その後、地元小学校区の8つの町内会、PTA、老人会からなる独立組織「岩成台小学校区ちょっとパトしよう会」へと発展した。平成23年度、参加者は320余名となり、校区の犯罪抑制に貢献している。
(5)防犯集会の実施 所轄警察や行政からの参加も得て、「自分たちの町は自分たちで守る」意識の啓発と備えの強化をうながすため実施した。
(6)警察官同行パトロール 多数住民の参加のもと、警察にパトカーを出してもらってのイベントとして実施。地域・警察一体の活動はとりわけ効果が大きい。
(7)違法駐車・迷惑駐車対策 違法駐車や迷惑駐車への無関心はより悪質な犯罪の「芽」になると考え、警察に協力を願って一掃した。
(8)ゴミ出しルールの遵守 ゴミの分別違反・曜日違反は犯人の目には住民相互の無関心、規律無視の町と映り、犯罪を呼ぶことになる。ゴミ対策を防犯の一環と考え、ルール遵守を呼びかけている(独自の看板設置、防犯だよりでも啓発)。
(9)空き地の雑草・雑木刈り 町内に十数ヵ所ある空き地に繁茂した雑草・雑木が犯行に利用される恐れがある。冬の立ち枯れに放火される危険もある。通行人にゴミを投入される。……などから行政に依頼して地主へ伐採を促してもらったり、直接交渉をしたりした。働きかけはある程度の効果を得たが、一部には地主の協力が不十分なところもあり、今後の大きな課題である。茂みを利用した犯行がないことを念じながら日を送っている。
(10)「被害体験とわが家の空き巣対策」事例集 町内の侵入盗被害者9人の体験と対策の事例集を制作し、町内会員に配布した。会員はそれを参考に自家の備えの強化を図った。
2 両輪その2 各戸の対策
 防犯だよりの地道な発行によって、住民の意識が向上、各戸の対策も進んでいると思われる。例えばフラッシュライトを設置した、生け垣や庭木が死角を生まないよう枝を刈り込み、すき間をもうけた―などは外見からすぐにそれと判断できる。そうした家が増えた。だが住民全体の対策がどれだけ進んだか掌握することは、個人機密の壁があり極めて困難である。時おり知人から「××を付けました」などの情報が入ることから全体の進行を推測するのが精一杯である。今後も交番情報に独自の分析を加え、「両輪の車軸」として、住民に意識向上と対策の促進を呼びかけたい。
3 活動の効果 活動を始める前の8年と後の8年では、住宅対象の侵入盗が60%減少したことは冒頭で述べたとおりだ。直近の3年半はゼロを継続中である。違法駐車・迷惑、駐車がなくなった。児童への声かけやつきまといが消えた。痴漢も出なくなった。
 当町を含む小学校区の6つの町では、侵入盗が平成14年の13件をピークに一方的に減り、平成22年はわずか1件になった。もう一つ大きな効果がある。それまでお互い知らない関係だった住民が活動を通して知り合いになれたことだ。地域が新たなコミュニケーションで結ばれたことは町づくりにとって最大の効果と言ってよい。

【結び―新たなまちづくりへ】
 暗中模索でスタートした取り組みだったが、この方式ならば成果間違いナシと確信。このうえは他へも防犯まちづくりを勧めないではおかない。機会をとらえてはその立ち上げから運営、効果測定、地域啓発までの事例として発信している。いくつもの町が当町に倣って活動を立ち上げたことはすでに述べた。今はさらに新たな展開をしている。
(1)防犯教室を開講 他の町内会役員および一般市民を対象に防犯教室を開講した。
(2)まちづくり担い手人材養成講座 まちづくりの担い手を養成する人材養成講座で地域防犯の進め方を講義した。模様は、新しいまちづくりとしてテレビでも放映された。
(3)展示PR 行政主催の催しにPRコーナーを出展、市民ヘアピールしている。
 あの手この手の取り組みが他地域での新たな活動を促したことは冒頭でも述べた。
 平成22年、愛知県内の住宅対象侵入盗の認知件数は8672件で全国第1位だった(愛知県警発表)。その中でわが春日井市は358件で県内第3位となっている。こうした実態を少しでも改善し、生命・財産の安全、暮らしの安心ある町づくりに、いっそう努力したい。